「呼ばれて、飛び出て、出てきたぜェ~! おれ、シャックスってんだ。ヨロシクなァ~!」
怪鳥が、その見た目にふさわしい大きな、そして逆にふさわしくない、陽気な声でシャウトする。
「なんだよ、契約者のやつ、おっ死んじまったのか。まァいいや。なァ~お前ら、最高のグルメってなんだと思う?」
「……知るか」
好き勝手なことを言っているシャックスに、言葉を返す。何がしたいんだ、こいつは。
「ハラワタだよ、ハラワタ! 人間のハラワタほど、ジューシィでソソるもんはないんだぜェ?」
疑う余地がないな。誘拐殺人事件の教唆犯にして、悪魔教団の守護者はこいつだ。そして、これから俺たちを喰らうという宣告に他ならない!
「あんたは早く逃げろ! 賦術火炎刃! フラン、聖王曙光輪を!!」
拘束から解放された被害者に退避を促し、速攻で全員の飛び道具に、いつものやつをかける。
「聖王曙光輪!!」
聖光の輪がシャックスをすり潰す! しかし、効いていないわけではないようだが、ワイト王のときほどのクリティカルさは感じられない。
「あはァ! 悪くねェなァ! こいつァ楽しめそうだ!! 氷獄滅殺刃ァァァッ!!」
グォォンと重苦しく響き渡る、聞いたこともないような音とともに、シャックスの頭上に、不気味な赤黒い光を放つ、漆黒の不均等な形状の多面結晶体が現れ回転し、虚空に鋭利な氷の刃が無数に出現して、一斉に襲いかかってくる!
氷刃に切り刻まれ、ダメージで膝をつきそうになるが、なんとか持ちこたえる。冷たすぎるゆえか、逆に傷口が灼ける感触に襲われた。
サンやナンシアが、ひどい怪我を負いつつ飛び道具で応戦する中、命活癒術草が飛んでくる。助かる!
「雷王撃砕嘯ァァッ!!」
せっかく賦術火炎刃をかけたところだが、チマチマやってもしょうがない相手と判断し、速攻で必殺魔法を叩き込む。激しい雷光がシャックスを灼く! お前も灼けつくって感覚を体験しやがれ!!
「熱いぜェ! 熱くて死ぬぜェェェェッ! たまんねェなァ、おい!」
くちばしとゴーグルのせいでよくわからないが、やつは恍惚としているのだろう。雷王撃砕嘯を食らわせてこの余裕は、屈辱的だ。
「あァ~ッ! おれの昂りを受け止めてくれよォーッ! 結晶氷乱舞ィィィッ!!」
再びあの不気味な音が響き渡り、シャックスの頭上に、不規則な多面結晶体が現れる。そして、虚空に扁平な六角形に、派手な飾りのついた透ける物体……俺はあれが異界脳で、巨大な氷の結晶と理解できるが、回転するそれを、あらゆる角度から飛ばしてきた!
雪に埋もれた悪路故に、回避が困難を極める。
「ぐぅッ!!」
腕を深く切られた! すかさずクコから回復魔法が飛んで来るが、このままではジリ貧だ。
やはり、向こうが飛んでおり、こちらは深雪に埋もれているという、アドバンテージの差が大きい。飛び道具に賦術火炎刃をかけたものの、俺たちは正直あまり飛び道具は得手ではない。
あいつを地上に引きずり下ろしたい。そうすれば、互角の戦いができるやもしれん。
アレが使えるか? やつの飛行力に勝てなければ体力の無駄遣いだが、試す価値ありと見た!
「フラン! やつを堕とすのを手伝ってくれ! 強重結縛糸!!」
魔導書がバラバラとめくれ、シャックスの真下に黒円が広がっていく。円からさらに、黒い直糸が幾本も無数に伸びていき、巨鳥を捕らえる。
「グ……グムッ!?」
シャックスが、背中のボンベから炎を吹き出し推力を得ようとするが、こちらも負けじと、やつを引きずり下ろしていく。そこに二発目の聖王曙光輪の押し潰す力が加わり、ついに巨鳥は文字通り地に堕ちた!! 賭けに勝ったぞッ!
「うおおおおッ! 接近戦に持ち込めッ!!」
号令を下し、皆の得意武器に再び賦術火炎刃をかけ、突撃する。やつも氷刃を飛ばし応戦するが、俺たちの歩みは止まらない。クコから超力賦活草もかかり、力がみなぎる!!
「やっと、至近距離でこんにちはだな! お前にはロングソードッ!!」
力の限りを込めた斬撃を叩き込むと、やつの土手っ腹から、謎の黒い液体が飛沫のように上がる。これがこいつの血か? こんなやつにも血が通っているのだな。いや、そんなどうでもいい感心をしている場合ではない。
「やぁっ!」
パティが長槍でやつの目を突き刺し、ゴーグルをぶち抜く。激しい悲鳴! 先ほどまでの陽気さは、もうないようだな!
「やるねぇ……やりやがるねェ……ッ! 氷獄殲滅嵐!!」
やつが自爆覚悟で範囲魔法をぶちかましてくる。細かい氷の刃が吹き荒れ、全身を引き裂かれるが、回復はとにかくクコに任せて、シャックスをひたすらに切り刻む。互いに防御などかなぐり捨てた、全てを攻撃につぎ込んだ総力戦だ!
斬る、刻まれる、焼く、殴られる、刺す、裂かれる、殴打する……互いの死力を振り絞った壮絶な攻め合いが、いつ終わるとも知れず続く。
「コキュートス……」
どのぐらい、血で血を洗う攻防、いや攻攻が続いただろうか。シャックスが魔法を行使しようとするが、それは不発に終わった。ついに、やつの体力、いや生命力を削りきったのだ!
「おめーら強えなァ……敗けちまったなァ……おれ、死ぬなァ……だが、タダでは死ねねぇなァァ~ッ!!」
やつが今まで耳にしたことがない、凄まじい轟音で雄叫びを上げ、その巨体を崩した。
「やったのか……?」
剣を突き刺すが、ピクリともしない。シャックスは生命活動を停止、死んだのだ。だが、喜びの声を上げる気力も体力もねえや。
「皆さん、やったん……ですね?」
背後から、クコが確認してくる。彼女も、魔法の連発でへろへろだ。
「そうだよ。こいつは死んだ」
この未知の魔物は、結局どういう存在だったのか。とりえず、今は何も考えたくない。
「待ってください。何か、変な音がしませんか……?」
半獣状態のナンシアが、不穏な事を言う。しかし、確かに何か、地鳴りのような音がこちらに近づいてくる。
視線を音源の方に向けると、白い波のようなものが、こちらに高速で近づいて来ていた。雪崩だ!! あの断末魔のせいか! ふざけた置き土産して逝きやがって!!
「みんな、上流に向かって泳げぇーッ!!」
なにかの本で知った知識の一つだ。雪崩に巻き込まれたら上に向かって泳げと!
一難去って、また一難。必死に泳ぐ! くそッ! 泳いでも泳いでも、キリが……。
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