小市民魔導剣士、冒険しつつ異世界を食べ歩く!

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第二話 魔導剣士ロイ、パーティを結成する

公開日時: 2022年7月30日(土) 13:04
文字数:3,898

「ふあああぁぁぁ……」


 翌朝大あくびをかましながら、俺たちは女将さんに教えてもらった、街の中央にある大きな商館隣の告知所へ向かい、依頼の内容が書かれた紙 (通称『依頼票』)の貼られた掲示板の前にいる。


 サンの方は、久々にいい食事と寝床にありつけたからか、スッキリ爽やかって感じの、好対象な顔をしていやがる。


 当然ここには、都市中の冒険者が集まってくる。都市中の冒険者といっても、その数は百と少しというところ。まあ、俺らみたいのが千人ぐらいいたら、色んな意味で一大事だわな。俺たち冒険者以外には、見張りの衛兵が二人いるだけだ。


 その昔、冒険者同士でギルドを作ろうなんて動きもあったらしいが、何ぶん自由人の集まりなのでうまくいかず、空中分解してしまったらしい。


「兄貴、どんな依頼取るんスか?」


「いや、まずはパーティーを組むのが先だ。剣と攻撃魔法は俺が使えるから、盾役と治癒魔法の使い手が欲しいところだな」


 そう言って告知所を見回すと、いかにも盾役ですと言わんばかりの、重装戦士ヘビー・アームが目に止まった。


 フルフェイスの兜を被り、体にはガチガチのフルプレートメイル。大盾に長槍、腰には予備武器の手斧、上背も百七十センチをちょっと下回るかぐらいでなかなかと、いかにもこいつは漢! って感じだ。


 しかもしめたことに、パーティーに所属していることを示す、徽章《きしょう》を着けていない。つまりフリーだ!


「なあ、そこのフルプレートと長槍のあんた! 俺たちと、パーティー組まないか!?」


 右親指で自分を指し示し、アピールする。


「ボクですか? よかった、ボクも入れそうなパーティー、探してたんです!」


 返ってきたのは、鈴の音のような可愛い声。異界風に言うと萌え声だった。内股で愛らしいポーズまで取っている。


「……あんた、女?」


「あ、はい。こんな格好だから、よく間違われますけど……」


 なんてこった! 俺の漢パーティーがあああああ!


 じゃあ別の人に改めて声をかけたらいいだろうと思うだろうが、実はそうもいかない事情があるのだ。


 冒険者の間では、よほどのことがなければ声をかけた側が、「やっぱりなし」などと言ってはいけないという、しきたりがある。なぜならば、それは自分の人の見る目のなさを、露呈するようなものだからだ。


 それをやったが最後、この業界では、一生白眼視されることになる。同様に、一度仲間にしたら死に別れでもしない限り、仲間を外すことも許されない。かなりシビアかつ、特殊な世界である。


「ロイ・ホーネットデス……ヨロシクオネガイシマス……」


「パトリシア・サンキストです。気軽に、パティって呼んでください」


「オレ、サン・ホーネット! よろしく、パティねえ!」


 半分魂が抜けながら握手を交わし、新たな仲間を加えることになりましたとさ。


 気を取り直そう。次は治癒術師だ。神官クレリックとか薬師ハーバリストとか、そういう感じのがいないかと再び当たりを見回す。


 やはり治癒術師は競争率が高いのか、これは! と思うやつを見つけても、もれなくパーティー徽章きしょうをつけている。それでも目を皿のようにして見回していると、いた! いかにもって感じの僧衣を着た……女が。


 また女か。俺は、漢パーティーを組めない運命にあるのか。だが、治癒術師抜きでの冒険は、どう考えても自殺行為だ。ここは、選り好みしている場合ではないのかもしれない。


「ねーちゃん、ねーちゃん! オレたちのパーティーに入らねえ?」


 ってオイ、サァァァァァン! 何、勝手に声かけちゃってくれてんのォッ!? ああいけない、ここで俺がNOと言ったら、サンのメンツを潰すことになる。これも運命か……。こんなしょーもないことで、運命を感じるとはなぁ……。


「有り難いお申し出、感謝いたします。わたくしは、フランシスカ・セルティス。フランとお呼びくださいませ」


 おお、お上品なお嬢さんだこと。容姿を改めて見ると、身長は百五十五センチほどで、白基調の僧衣にゆるいウェーブのかかったブロンドのロングヘア。


 鎚鉾メイスと聖印の刻まれた小盾に、ブレストプレートという出で立ち。コテコテの神官姿だ。歳のほどは、俺と同じぐらいだろうか。この世界の女性が皆そうであるように、バストは慎ましやか。


 いや、いかん俺! どこに注目している! 硬派硬派!


「俺はロイ・ホーネット。こいつが義妹いもうとのサンで、こっちがパティ。今後ともよろしく」


 まあ、こうなっては是非もない。フランとも握手を交わし、ここにパーティーが成立した次第である。


「さて、なにか適当な依頼を選んで、余裕がありそうなら徽章きしょうを作って、結成式でもやるか。……ゾンビ退治か。急ぎの依頼ではないようだな。これなんかどうだ……!?」


 バイオでハザードな依頼を選んだところ、一瞬異様な殺気が背筋を貫く。なんだ、この圧は……? 依頼票を取って振り返ると、特に殺気を放っている人物はいない。気のせいか?


「ぜひその依頼にしましょう! 神官としては、不浄の者は放っておけませんので!」


 やたら、にこやかなフラン。まあアンデッド退治は、神官が一番輝く仕事だしな。しかし、さっきの殺気 (駄洒落じゃないぞ)は、何だったのだろうか。むむむ。



 ◆ ◆ ◆



「さて、どんな徽章きしょうにするかだが」


 仕立て屋で、徽章きしょうのデザイン発注のために、皆と相談する。ちなみに、先ほど改めて交わした自己紹介によると、フランは俺と同い年の十五、パティは一つ上の十六とのことだ。


「我が神、オルナウの聖印などいかがでしょう」


 あかんだろ。俺は、その宗教に帰依した覚えはないぞ。


「ネコ……とか可愛いと思いません? にゃーって」


 招き猫ポーズを取るパティ。猫は可愛いかも知らんが、そのごつい格好で真似されてもなあ。


 ちなみに、パティがデザインを起こした猫の絵は、可愛ファンシーすぎるということで、申し訳ないがボツにさせてもらった。


「やっぱ、オレら的にはホーネットじゃね?」


「俺も、それに賛成したい。構わないだろうか」


 パティとフランは少し逡巡しゅんじゅんした末に、承諾してくれた。


 一番絵が上手いパティが描くと、先ほどのように異様にファンシーになってしまうので、不肖俺がデザインを描き起こす。あまり上手ではないが、仕立て屋がブラッシュアップしてくれることだろう。


「次に、リーダーとパーティー名だが」


「オレは、兄貴を推すぜ!」


 おおう、実に義兄あに想いの義妹いもうとよ。


「いいんじゃないでしょうか。ボク、あまり人を引っ張るタイプじゃないですし……」


 ごついアーマー姿で、人差し指同士を突かせ合って、もじもじするパティ。すごい絵面だ。


わたくしも、特に異存はありませんわ。では、リーダーはロイさんということで」


「では、俺がリーダーを務めよう。パーティー名だが、『スティング・ホーネット』というのは、どうだろうか」


 スズメバチの一刺しのイメージだ。ちょっと、かっこいい気がするだろう?


「可愛くていいと思います!」


 いや、可愛くはないだろう。スズメバチだぞ。


「特に、反対する理由もないですわね」


「兄貴、センスかっくいー!」


 おう、こちらもスパッと決まったな。どうでもいいが、全肯定マシーンと化してないか、義妹いもうとよ。あとは注文して、例の宿屋兼酒場で結成式と洒落込もう。


 ◆ ◆ ◆


 翌日早くから仕事に取り掛かるので、どんちゃん騒ぎとは行かなかったが、美味い食事に美味い酒と、なかなかいい結成式となった。


 特に、ティガロア……異界で言うマスのような魚 (以後、異界のものに例えられる存在は、異界の名で呼ぶことにする)のムニエルは、絶品だった。ほどよく乗った脂に、コクのあるバターが合わさり、最強に見えるという感じだ。


 それにしてもパティ、食事中も鎧兜を外さなかったな。器用な食べ方をするもんだと、変な感心をしてしまう。


 部屋は、個室と相部屋が一つずつ空いていたので、俺が一人部屋を取り、サンとパティが相部屋という塩梅。まあ、無難な部屋割りだろう。フランは、教会で寝泊まりするとのことだ。


 そういえばさっき割り勘にした時、うっかりパティに、一枚余分に銅貨を支払わせてしまったんだった、返さんとな。


「サン、パティ、入るぞ」


 二人の部屋を開けると、白いボディスーツを着た、青髪ショートカットのスレンダーな美少女が一人。


 誰!?


「キャアアアアアアッ!」


 ものすごい悲鳴を上げる彼女。


「すいません、部屋間違えましたァ!」


 慌てて外に出るが、何度表札を見ても三号室。二人がいるはずの部屋だ。もしや盗人!?


「貴様、何者だァ!」


 改めて、勢いよく扉を開け放つ。


「見ないでくださああああい!」


 先程の女が、うずくまり縮こまっている。


 いやまて、この声聞き覚えがある……。


「……ひょっとして、パティか?」


「そうですよ! 恥ずかしいので、見ないでくださああい」


 泣き出しそうな声で懇願こんがんされてしまったので、後ろを向く。あれが、パティの素顔だったのか。


「恥ずかしいって……それ下着じゃないだろう?」


「ボク、男の人に顔とか体見られるの、恥ずかしくて全然ダメなんです……。だから、いつもあんな鎧着てるんですよう」


 なんとまあ、そんなシャイな理由で、あんなごつい鎧着てたのか。


「事情はわかった。さっきパティに、一枚余分に銅貨を払わせていたことに気づいてな。返しに来た」


「ありがとうございます」


 後ろ手に銅貨を差し出すと、彼女は受け取ったようだ。


「そういえば、サンの姿が見えないようだが?」


「サンちゃんなら、お腹が空いて寝付けないからと、下の方酒場に行ったみたいですよ」


 あいつ、あれだけ食って、まだ小腹が空いているのか。


「まあ、それだけだ。明日に備えて、休んでおいてくれ」


 手を振りながら、退出する。やれやれ。このパーティーでまともなのは、俺とフランだけか。


 ……そんな風に考えていた時期が、俺にもありました。

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