小市民魔導剣士、冒険しつつ異世界を食べ歩く!

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第十五話 魔導剣士ロイ、カレーを振る舞う

公開日時: 2022年7月30日(土) 13:41
文字数:1,667

「おお、久しぶりだねえ、この匂い!」


 師匠が、嬉々として着席される。皆もそれに続いた。


「ロイさん、いい加減種明かししてくださいよ。これなんていう料理なんです?」


「ああ、勿体もったいつけたつもりはないのだけどね。カレーというスープ料理だよ。俺の異界知識にあった料理なんだ」


 クコの問いに答えながら、皆のボウルにスープをよそう。


「では、頂くとしようか」


 俺が着席したのを見て、師匠が音頭を取る。


「カラーイ! ウマーイ!」


 新たな味覚に、義妹いもうとは大騒ぎである。


「これは面白いですねえ。新しい調合に使えるかも知れません」


 クコも、感心することしきり。


「しかし、夏場にこれは汗が止まりませんね」


 手で、ぱたぱたと自分を扇ぐパティ。鎧の上から、効果があるのだろうか。


「それがいいんだよ。夏場には、辛いものがいいんだ」


 我ながら上出来だ。ほっこりしたじゃがいも、とろけるたまねぎと人参の甘み。それに辛味が一体となって口腔を刺激する。


 ナンシアの焼いてくれたパンが、またふかふかでこうばしく、柔らかな触感。ほのかな甘味がカレーの辛さにマッチする。パティじゃないけど汗だくだ。美味い! 辛い! 美味い! 辛い! それがいい、そこがいい。


「相変わらず、いい腕前だね。いや、腕を上げたんじゃないか?」


「師匠にそう仰っていただけますと、頑張って皆と作った甲斐があります」


 太鼓判も頂けて、満悦至極。


 カレーとパンはすっかり皆の腹に収まり、本当は残りを一日寝かせたかったのに、鍋が空になってしまった。


「さあ、明日からビシバシ鍛えるからね。今のロイたちなら、あたしの上級特訓に耐えられるだろうさ。今日はゆっくり休みな」


 皆が別室で湯浴みしている間、調理器具と食器を洗う。俺は最後に湯をいただこう。


 明日から大変だな。みんな音を上げなきゃいいが。



 ◆ ◆ ◆



「みんな、よく一ヶ月頑張ったね。あたしが教えられることは、もうないよ。この先は、自力で切り開きな」


 修行の方はつつがなく終わり、皆で、師匠と兄貴の前に整列する。修行の光景など描写しても、別に面白くないからな。それにしても全員、心なしか精悍な顔つきになった気がする。


「じゃあ、最後に修行の成果を見させておくれ」


「「はい!」」


 師匠の言葉に、皆、勢いよく応える。


「では、一番槍ロイ行きます! 雷王撃砕嘯ライトニング・イーガーァッ!!」


 雷衝撃滅波ライトニング・ウェイブとは比べ物にならない激しい雷光の波が、大岩を粉々に粉砕する。これだけの大魔法を使っても、まだ余力が残っていることに、己のパワーアップを実感する。


「では私も続きます!」


 続くナンシアが、淡く光る気オーラをまとった拳で、大木を真っ二つにへし折る。半獣化していなくても、この威力である。


「フランシスカ、行きますわ! 聖王曙光輪キング・ヘイロー!!」


 輝く巨大な光輪が、地面へと下降していく。ワイト王に放ったものと、そう変わったわけではないが、今度は、力尽きて昏倒するようなことはなかった。


「では、ぼくが攻撃するから、受け止めてみて欲しいのーだ、パティちゃん!」


「はい!」


 全長三メートル、体重三トン弱ある兄貴のチョップを、盾で受け止めきるパティ。


「じゃあ今度はオレ!」


「うむ、撒くぞ」


 師匠が大量の葉っぱをばら撒くと、サンがナイフですべて、目にも留まらぬ速さで斬り刻む。見事なナイフ捌きだ。


「最後は私ですね。超力賦活草エンハンス・パワー!」


 クコの腰のハーブホルダーが光り輝くと、力がみなぎってきた。他者の力を強化するという、単純明快にしてありがたい支援魔法だ。


 ちなみに、カレーの調合をヒントにしたのだとか。これ以外にも、彼女は強力な回復魔法を使えるようになっているが、現在誰も怪我をしていないので、見せ場はなし。


「よし! みんな強くなったね。教えた甲斐があるというもんだよ」


「「ありがとうございます!」」


 皆で、師匠に頭を下げる。


「今日は、ゆっくり休むといい。あとロイ、杖の件だけどね。国王への紹介状をしたためておいたから、彼に預けるといい」


「ありがとうございます……って、国王ですか!?」


 また、とんでもない上の方へ紹介されたもんだ。というか、ずいぶん顔が広いですね師匠……。


 国王への謁見とか、緊張するなあ。

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