「おお、久しぶりだねえ、この匂い!」
師匠が、嬉々として着席される。皆もそれに続いた。
「ロイさん、いい加減種明かししてくださいよ。これなんていう料理なんです?」
「ああ、勿体つけたつもりはないのだけどね。カレーというスープ料理だよ。俺の異界知識にあった料理なんだ」
クコの問いに答えながら、皆のボウルにスープをよそう。
「では、頂くとしようか」
俺が着席したのを見て、師匠が音頭を取る。
「カラーイ! ウマーイ!」
新たな味覚に、義妹は大騒ぎである。
「これは面白いですねえ。新しい調合に使えるかも知れません」
クコも、感心することしきり。
「しかし、夏場にこれは汗が止まりませんね」
手で、ぱたぱたと自分を扇ぐパティ。鎧の上から、効果があるのだろうか。
「それがいいんだよ。夏場には、辛いものがいいんだ」
我ながら上出来だ。ほっこりしたじゃがいも、とろけるたまねぎと人参の甘み。それに辛味が一体となって口腔を刺激する。
ナンシアの焼いてくれたパンが、またふかふかで芳しく、柔らかな触感。ほのかな甘味がカレーの辛さにマッチする。パティじゃないけど汗だくだ。美味い! 辛い! 美味い! 辛い! それがいい、そこがいい。
「相変わらず、いい腕前だね。いや、腕を上げたんじゃないか?」
「師匠にそう仰っていただけますと、頑張って皆と作った甲斐があります」
太鼓判も頂けて、満悦至極。
カレーとパンはすっかり皆の腹に収まり、本当は残りを一日寝かせたかったのに、鍋が空になってしまった。
「さあ、明日からビシバシ鍛えるからね。今のロイたちなら、あたしの上級特訓に耐えられるだろうさ。今日はゆっくり休みな」
皆が別室で湯浴みしている間、調理器具と食器を洗う。俺は最後に湯をいただこう。
明日から大変だな。みんな音を上げなきゃいいが。
◆ ◆ ◆
「みんな、よく一ヶ月頑張ったね。あたしが教えられることは、もうないよ。この先は、自力で切り開きな」
修行の方はつつがなく終わり、皆で、師匠と兄貴の前に整列する。修行の光景など描写しても、別に面白くないからな。それにしても全員、心なしか精悍な顔つきになった気がする。
「じゃあ、最後に修行の成果を見させておくれ」
「「はい!」」
師匠の言葉に、皆、勢いよく応える。
「では、一番槍ロイ行きます! 雷王撃砕嘯ァッ!!」
雷衝撃滅波とは比べ物にならない激しい雷光の波が、大岩を粉々に粉砕する。これだけの大魔法を使っても、まだ余力が残っていることに、己のパワーアップを実感する。
「では私も続きます!」
続くナンシアが、淡く光る気をまとった拳で、大木を真っ二つにへし折る。半獣化していなくても、この威力である。
「フランシスカ、行きますわ! 聖王曙光輪!!」
輝く巨大な光輪が、地面へと下降していく。ワイト王に放ったものと、そう変わったわけではないが、今度は、力尽きて昏倒するようなことはなかった。
「では、ぼくが攻撃するから、受け止めてみて欲しいのーだ、パティちゃん!」
「はい!」
全長三メートル、体重三トン弱ある兄貴のチョップを、盾で受け止めきるパティ。
「じゃあ今度はオレ!」
「うむ、撒くぞ」
師匠が大量の葉っぱをばら撒くと、サンがナイフですべて、目にも留まらぬ速さで斬り刻む。見事なナイフ捌きだ。
「最後は私ですね。超力賦活草!」
クコの腰のハーブホルダーが光り輝くと、力がみなぎってきた。他者の力を強化するという、単純明快にしてありがたい支援魔法だ。
ちなみに、カレーの調合をヒントにしたのだとか。これ以外にも、彼女は強力な回復魔法を使えるようになっているが、現在誰も怪我をしていないので、見せ場はなし。
「よし! みんな強くなったね。教えた甲斐があるというもんだよ」
「「ありがとうございます!」」
皆で、師匠に頭を下げる。
「今日は、ゆっくり休むといい。あとロイ、杖の件だけどね。国王への紹介状をしたためておいたから、彼に預けるといい」
「ありがとうございます……って、国王ですか!?」
また、とんでもない上の方へ紹介されたもんだ。というか、ずいぶん顔が広いですね師匠……。
国王への謁見とか、緊張するなあ。
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