ここは、剣と魔法の世界サーズベルラー。
以上、世界観説明終わり!
世界観説明なんて、誰も興味ないモノはさっさと終わらせて、自己紹介をさせてもらう。
俺はロイ・ホーネット。師匠のもとで厳しい修行を終え冒険者を志す、成人である十五歳になったばかりの魔導剣士だ。魔導剣士というのも少々レアだが、俺にはそれ以上に変わった力がある。
幼少の頃、高所から転落して生死の境を彷徨ってからというもの、時折異界の知識が頭に流れ込んでくるのだ。それでついたあだ名が「異界脳」。どうにもしまらん。
そんなわけで、つい異界の知識が言葉の端々に出たり、数値を異界換算してしまったりするという癖がある。師匠いわく、俺の言動は大層メタいそうだが、実際そうなのだろうか。
ともかくも、まずはパーティーを結成しよう。渋いおっさんシーフに髭の似合う神官、ハゲマッチョの格闘家……そんな漢臭さが炸裂したパーティーがいいな、うむ。この王都ルンドンベアなら、冒険者も多いだろう。
ルンドンベアは、四方に街道が伸びる商業の要所だ。人口も四万を超え、豊かな土壌に大きな川を西に持つ恵まれた立地。中央市場では多数の行商人が各地の特産品をひさいでおり、とても活気に溢れている。
「それ、見せてもらおうか」
武具を売っている行商人に声を掛ける。目をつけたのはロングソードとブレストプレート。本当はもっと重武装をしたいところだが、魔法を使うと体力を大きく消耗するので魔導剣士といえど、そういいとこ取りな装備はできない。妥協点を探すとこのへんだろう。
タング (柄に埋まる部分)の具合や刃の鋭さ、鎧の着心地などを確かめる。名品とまではいかないが、そこそこの品質だ。実用にたえるだろう。
値段交渉の末に、まあまあの価格に手入れ用具のおまけをつけさせて、購入することができた。
「さて、次は告知所か」
告知所というのは、王国やその他依頼人から、冒険者に向けての依頼告知が掲示板に貼られる場所だ。ある程度大きな都市にはどこにでもある。当然、そこには冒険者がたむろしているという次第。
近くの通行人に場所を尋ねようとしたところ、ふいに子供がぶつかってきた。すかさず子供の手をひっつかむと、案の定俺の財布をすっていやがる。
「ベタベタなことしやがって」
「離せ! 離せよ!」
子供は暴れるが、そう言われて離すお人好しではない。身長は異界単位で百五十センチ弱、浅黒い肌に黄色いバンダナを頭に巻いており、腰はダガーを差している。歳のほどは十二といったところの、痩せぎすの少年。
「来い、衛兵に突き出してやる」
財布を取り上げ、暴れる子供を向こうを歩いている衛兵の方へ引っ張っていく。そのとき不意にぐうという大きな腹の音が響いた。
「お前、腹ペコなのか?」
「そうだよ、悪いかよ!」
何とか俺を引き剥がそうとする彼を見ながら思案した末に、
「しょうがねえな。飯、食わせてやる」
と頭をかきながら言うと、目がぱあっと輝き、とたんに抵抗を止めた。
「ほんとか? 本当に食ってもいいのか?」
「異界の諺に、『情けは人のためならず』という言葉があってな」
「何だそれ? 情けをかけると、相手のためにならねーってことだろ?」
「違う。誰かへの情けは回り回って、いずれ自分に帰ってくるって意味だ。ほら、行くぞ」
前言撤回。お人好しだな、俺。
◆ ◆ ◆
「親父、串焼き二本」
屋台で串焼きを注文すると、それを少年と分け合う。
うむ、食欲をそそるスパイスの香ばしい匂い、噛むと肉汁が溢れ出てきてこれが実に美味い。間に挟まった野菜が、また肉のしつこさを中和する役目を果たしていて文字通り良い味を出している。少年は、それはもう勢いよくがつがつと頬張っている。
「いつまでも、互いの名前がわからんのも話しにくいな。俺はロイ・ホーネット。お前は?」
「オレ、サン!」
「名字は?」
「そんなもんねえ!」
ふうむ、名字がないと来たか。まあいい。
「なあ、ロイの兄貴。その出で立ち、冒険者やるんだろ?」
「ああ、俺が装備買うとこ見て、財布に目をつけたってわけだな。まあ、そのつもりだが」
「じゃあさ、オレを仲間にしてくれよ! 絶対役に立つぜ!」
「お前を? うーん……」
盗賊か。渋いおっさんではないが、これも何かの縁かもしれない。なに、一人ぐらい少年が混ざってるのも、オツなものだろう。
「よし、OKだ。今この時より俺たちは兄弟だ! お前もホーネットの姓を名乗るといい!」
「兄貴、かっくいー!」
はっはっはっ。おだてても何も出ないぞ。兄貴というのも悪くない立場だな。
さて、最初の仲間も加わったところで、根城とすべき宿を決めるとしよう。
しばらく物色していると、三日月の看板を下げた宿屋兼酒場から、シチューのいい匂いが漂ってくる。屋号は『青い三日月亭』か。こうした店の客寄せ手段の一つが、食事の匂いだ。よし、ここにするか。
「いらっしゃいませー」
店に入ると、カウンターに座っていたピンクの長髪の、二十代と思しき女性が笑顔で応対してくれる。この世界の女性は全体的に胸が小さいのだが、彼女もその例に漏れず慎ましやかだ。いやいかん、硬派の感想ではないな。うむ。
「宿を二人ぶん。あとシチューとパンを」
「相部屋しか空いてないですが、構いませんか?」
「構わんよな?」
サンもこくこくと頷くので、相部屋を取ってテーブルに通される。
何ぶん、シチューをよそってパンを切り分けるだけなので、料理はすぐに出てきた。
まずシチュー。コクが深く、牛のスネ肉から実に良い出汁が出ている。この奥深い旨味は、骨髄も出汁取りに使っているかも知れない。具の根菜も、ほろりとくずれてほのかな甘味を醸し出している。パンもふっくらとしていて、それでいてもちもちとした食感。うむ、この店は当たりだ! サンも、美味そうにかき込んでいる。
今日は、サンとの出会いで一休みの成り行きになってしまったが、明日は中央の告知所に行こう。そこで、依頼も仲間もゲットできるはずだ。
◆ ◆ ◆
食後、やることも特にないので、荷物を降ろしてベッドに腰掛ける。流石に「このベッドふかふか~」というほどではないが、宿代の割には、良いベッドなのではないだろうか。
「湯浴みをどうぞ」
あの若い女将さんが、二つのたらいに湯を入れて持ってきてくれた。う~ん、サービスもいい。
「オレ、湯浴みとかすげー久々っす!」
ぽいぽいと、衣服を脱ぎ散らかすサン。で、パンツ一丁まで脱いだわけだが……え?
サ ン に は ア レ が つ い て ま せ ん で し た。
「お前、女だったのかよォォッ!?」
慌てて後ろを向き、思わず突っ込む。
「あれ? 言ってなかったっけ。兄貴、オレは気にしないから、こっち向いていいっスよ」
「いや、ダメだろダメだろダメだろ! お前が気にしなくても、俺が気にするわ!」
気を紛らわすために、壁を見ながら濡れタオルで体をこする。
なんてこった。俺の漢パーティーは、早くも頓挫しかけてしまった。次の仲間こそは、渋い男にしようと心に誓うのであった。
その夜、俺はパンツが脳裏に焼き付いてしまい、悶々としてろくに眠れませんでしたとさ。とほほ。
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