小市民魔導剣士、冒険しつつ異世界を食べ歩く!

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第二十九話 魔導剣士ロイ、奇妙な依頼を受ける

公開日時: 2022年8月3日(水) 20:01
文字数:2,214

 シャックスの情報が売れたおかげで、今回の北征の収支はプラスとなった。災い転じて福となるとは、このことだな。


 しばし、依頼票にも美味い募集がなく、また、あんな大惨事の後だし、しばらくのんびりしたいということもあり、のんべんだらりと過ごしていると、珍しい客が、我々を訪れた。


 メイドさん。


 それも、際どい格好の。


 こんな格好をメイドにさせる人物は、一人しかいない。そして、彼女に見覚えがある。


「ええと、メイさんでしたか。モロオ卿のお住まいでお勤めの」


「はい。その節は、主人ともどもお世話になりました。主人より、『茶話でもひとつどうかな?』との言伝を預かり、こちらに参りました」


 ふむ。暇っちゃあ暇だし。「俺は賛成だが、どうだろうか」と皆に問うと、皆も同意したので、ぞろぞろとおなじみモロオ邸にお邪魔することになった。



 ◆ ◆ ◆



「やあやあ。しばらくここルンドンべアを離れてたそうじゃない。で、最近はくつろぎモードだとか」


 本日の茶菓子はチョコレートケーキ。チョコレートというのは、なんでこうも絶妙に甘旨いのか。脂肪分がとろけるのよなあ。


「はい。これが、予想外に厳しい冒険行となりまして……」


 茶話がしたいというのが彼の希望なので、波乱万丈の北征を劇的に伝える。卿は、大いに愉しんでくださった。


「いやー、そりゃ大変だったねえ。シャックスのことは、直接ベイシック卿から伺ったよ」


 かの凶鳥王の存在は、すでに学者や冒険者の口の端に上るようになり、ベイシック卿は発表者として、その名声を大いに高めている。


「ベイシック卿と、お知り合いなのですか?」


「まあね。商売、ネットワーク大事だから。でさ、君たち今、暇なわけだよね」


 身を乗り出してくる卿。


「はあ。幸いなことに余裕があり、こうして伺っている次第ですが」


「うんうん。そこでさ、ちょーっと頼まれごとを、引き受けてくれないかな?」


 やや。急に、茶話がしたいなどとおっしゃるから伺ってみれば、そういうことですか。


「お話次第になりますが」


「そうだね。僕を贔屓にしてくださっている貴族に、ハイプライド卿という方がいらっしゃるんだけど、知ってるかな?」


「知ってるも何も、騎士団長ですね。有名人ではないですか」


 高潔にして勇ましい人物と、話に聞いている。


「彼の一人娘さんがねー。騎士を目指しているんだけど、それ、諦めさせてくれないかなぁ」


 こりゃ、なんとも変わった依頼だな。


「やはり、一人娘に危険な道は歩ませたくないと?」


「もちろん、それもあると思うんだけどね。その……僕の口からは言いづらいな。とりあえず、引き受けてくれるなら、紹介状と彼の私邸までの地図を用意するけど、どう?」


「報酬はいかほどでしょう?」


 まあ、ここ一番大事よね。簡単そうな依頼だけど、どうも変なニオイがするんだ。


「それは、直接ハイプライド卿と交渉してもらいたい。今、ご在宅じゃないかな」


「断る余地はあるわけですよね?」


「もちろん。ということは、降り・・かな?」


 ちょっと、残念そうだ。


「いえ。まずはお話を詳しく伺いませんと。というわけで、ハイプライド卿への紹介状、お願いします」


「やー! ありがたい! 恩に着るよ! じゃあ、書斎に行ってくるから、ゆっくりお茶とケーキでも愉しんでて」


 そう言うと、今度は上機嫌で応接室を出ていく。ふーむ、これ、意外と大きな話に発展しないだろうな?


 まあ、騎士を諦めさせるというのが、それほど大事おおごとになるとは思えないが。



 ◆ ◆ ◆



 ここが、騎士団長殿の私邸か。さすがにご立派ですなぁ。


 門衛に止められるので、紹介状を取り出すと、得物を預け、応接室へ通される。


 立って並んでいると、精悍という言葉を絵に描いたような中年男性が、入室してきた。


「お初にお目にかかります。『スィング・ホーネット』のロイ・ホーネットと申します」


 一同、ご挨拶。


「ダディーノ・ハイプライドだ。かけてくれたまえ」


 卿に促され、着席。お茶菓子が出されるが、まだ手を付けないでおこう。


「モロオ君から、話は聞いているね?」


「ざっくりと、ですが。騎士を目指すお嬢様を、諦めさせたいとか」


「うむ……。親の私が言うのも何だが、あれは戦いの才能というものが欠片もなくてなあ。騎士になどなったら、間違いなく命を落とす。なので、なんとか断念させようと、数々の説得を試みたが、意思が固くて、まったく折れてくれん」


 眉間をつまみ、唸る卿。いやはや、雲行きが怪しくなってきた気がするな。


「そこで、天魔の杖を回収し、シャックスを倒すなど、名声高い君らの言うことなら、娘も聞く耳を持つだろう、と考えた次第だ」


「や、それは褒め過ぎというものです。とはいえ、大変失礼ですが、お嬢様は少々難しい人物とお見受けます。報酬は、いかほどいただけるのでしょうか」


「成功報酬になるが、金貨でこれだけ払おう」


 紙とペンを取り、スラスラと金額を書き込む彼。……って。


「こんなにいただけるのですか!?」


「大事な一人娘だからな。頼む」


 頭を下げる卿。


「そんな! 頭をお上げください! そうまでおっしゃられては、自分としては引き受けたいですが……」


 仲間を見回すと、みんな異存はないようだ。


「一同、賛成のようです。では、この額で引き受けさせていただきます」


 互いに、契約書にサインする。


「では、契約成立ということで。ときに、お嬢様はどちらに?」


「今頃、懲りもせず中庭で打ち込みをしているはずだ。案内させよう」


 というわけで、若い下男に案内される。


 いやはや。お嬢様、いかほどの難物であろうか。

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