小市民魔導剣士、冒険しつつ異世界を食べ歩く!

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第十話 魔導剣士ロイ、ニンジャと戦う

公開日時: 2022年7月30日(土) 13:30
文字数:3,745

 六時の鐘を受けて、待ち合わせ場所に向かうと、朝霧の中に馬車十数台からなる、大規模な隊商キャラバンが待ち受けていた。俺たちのような、いかにも「冒険者です」という出で立ちの連中もたむろしており、なかなか壮観。


「おはようございます」


 まずは、皆で依頼人に挨拶。彼が挨拶を返そうとしたとき、横からドサドサドサと、何かが落ちる音が。


 そちらを見れば、深くお辞儀したナンシアの背嚢バックパックかぶせがベロンとめくれ、冒険用具が大量に地面に落ちている。


「はうぁ! すみません! すみません! 今しまいます!」


 慌てて道具を拾い集める彼女。俺たちも回収を手伝う。モロオ卿も手伝ってくださった。すると、いきなり横っ腹にナンシアの頭突きを食らってしまう。


「おぐぅ!?」


「あああ! すいませんロイさん、大丈夫ですか!?」


「うぅ……いや、大丈夫だ。でも、気を付けてくれ」


 腹部をさすりつつ、ペコペコとお辞儀しながら荷物を集める彼女に、荷物を渡す。やれやれだな。


「これで全部かな? 改めておはよう。じゃあ、みんなはあの馬車に乗ってもらえる?」


 モロオ卿の指差す先には、大きな幌馬車が一台。ただこの馬車、幌の部分にメイドの萌え絵が描かれた、「痛馬車」であった。


 ええ……まじっすか? あれに乗らなきゃダメっすか!?


 ちらりと依頼人を見ると、それはもう上機嫌。とても嫌ですとか、幌を張り替えてくださいとか言い出せない空気。


(まあ、中はきっと普通の馬車と同じだし……)


 と自分に言い聞かせ馬車に乗り込むと、荷台の床に描かれたメイドさんとご対面。マジ勘弁してください。


 ため息を吐きながら馬車に乗り込もうとすると、「これをどうぞ」と、例の際どい格好のメイドさんからバスケットを渡された。


 蓋を開けてみると、中にはトマトとレタス、きゅうりにチーズが挟まったサンドイッチが詰まっている。おお、こりゃありがたい。朝食というわけか。


 みんなが乗り込んだので、バスケットを回していく。サンドイッチを食みながら会話をしていると、「出発」と声が上がり、馬車が動き出す。


 さあ、旅の始まりだ。



 ◆ ◆ ◆



 馬車は街道を行き、野宿を挟みつつ進む。初日の昼以降は保存性が重視され、堅いパンと燻製肉が食料となった。取り立てて美味いものではないが、致し方ない。


 二日目の夕刻、突如「敵襲」の声が響き、馬車が急停止する。敵襲だと!? 情報が正しければ遭遇は三日目から四日目のはずだ。情報が間違っていたのか? 何にせよ、お仕事開始だ!


 馬車を飛び降り、地面に降り立つと、矢が足元に一本突き刺さる。あっぶね! 視線を高くすると、丘の上から弓を持った馬賊が、多数走ってくるではないか。馬上射撃は相当訓練を積んでないとできない芸当で、ただの山賊にしては異様に練度が高い。これは予想に反して強敵だぞ。


 たちまち始まる射撃戦。山賊との戦いに備えて、事前に買っておいた弓矢を連射する。モロオ卿は、先頭車両にいたはずだ。あっちに近い冒険者の手で、守られていることを祈ろう。


 あっという間に、針鼠のようになる痛馬車。やれやれ、かわいそうに。ともかくも、我が弓で賊を一人仕留めた。パティは文字通り、みんなの盾となって、低い姿勢で盾を抱えて下半身への射撃を防いでくれている。


 連中と矢の応酬をしていると、馬賊サイドから奇怪な出で立ちの男が、人ならざるスピードでこちらに向かってくるのが目に映った。その姿は、異界でいう「ニンジャ」。この世界サーズベルラーにも、あんな出で立ちの戦士がいる国があると聞いたが、そいつが矢を叩き落としながら、一直線にこちらに向かってくるではないか。


 そして、やつが不意に跳躍した。高い、でたらめに高い! これまた人間離れした跳躍力で、バッタもびっくりの跳ねっぷりを見せる。


「我が名はフーマ! お屋形様の命により、『黒魔こくま宝玉オーブ』を頂戴致す! ニン!」


 上空から名乗りを上げ、フーマが十字型の刃物をいくつも投擲してきた。しかしこちらも、それらを次々に叩き落とす! あまり威力がないのと、一度に多く撃ったせいか精度が甘いので助かった。


 やつは背負った刀を振り下ろし、俺に切りかかりながら着地。その刃を長剣で受けたが、思ったより威力が弱い。あれだけの跳躍をした割に、まるで体重が乗っていない・・・・・・・・・感じだ。


 しかし何より驚いたのは、覆面から覗く眼が暗黒の中に光る「点」であったこと。こいつ、ひょっとして霊的存在か!?


「フラン! 死霊浄化術ピュリファイ・アンデッドだ!」


「うひょおおおおッ!! 死霊浄化術ピュリファイ・アンデッドォ!!」


 神官サマの奇声と共に、掲げた盾から聖なる光が溢れる。やったか!?


 しかし、フーマは平気な顔 (?)をして、再び斬りかかってくる。


「拙者は死霊アンデッドではないわァッ!! 誇り高き幽魔族ファントムのニンジャよ!!」


 相手の二撃目をかわすが、袖をパックリと斬られてしまった。こいつの攻撃は威力がないのではない、重さ・・はまるでないが、切れ味が異様に鋭いのだ。それはそうと、ニンジャという呼称で合ってたんだな。


「くきーっ! 何でアンデッドじゃないんですの!? 許せませんわ! オラオラオラオラァッ!!」


 逆切れフランが金切り声を上げつつ、鎚鉾メイスから買い替えた鎖付き棘鉄球モーニングスターでフーマを殴打しようとするが、これがいずれも軽くかわされてしまう。彼女の大雑把な攻撃と、モーニングスターの扱いづらさ、そして何より、やつの身の軽さの悪条件が、三つ重なってしまっている。


 そこにナンシア、パティ、サンが攻撃を重ねていくが、それもすべて綺麗にかわされてしまう。こいつどんだけ素早いんだよ。こういう相手は魔法で焼けと、タクラム戦で学習した。さっそく、学習成果を試させてもらおう。


雷衝撃滅波ライトニング・ウェイブ!」


 腰のバインダーから取り出した魔導書がばらばらとめくれ、電撃がほとばしり、フーマに一撃食らわせる!


「おのれ小癪な真似を! ならばこれを喰らえ! ニン!」


 やつは懐から巻物スクロールを取り出すと、投げつけてきた。そいつがほどけけて電撃がほとばしり、我々に命中する! 痛ってえ! ビリッときたぁ! いやはや、電撃返しをされるとは思わなんだ。自分で食らうと、こんなに痛いんだな。


命活癒術草ヒーリング・ハーブ!」


 前衛に、治癒魔法がかけられる。シャキッと回復! そういえば、こいつフーマで一つ気になったことがある。ひょっとして、目が閉じられないんじゃないか? 一つ試してみよう。


「みんな目を閉じろ! 瞬閃輝眩光シャイニー・スタン!!」


 魔法名を叫ぶと、まばゆい光が、一瞬場を激しく照らす。まぶたの上からでも、かなり強いと感じる光だ。


「目が! 目があああああ!!」


 まぶたを上げると、目を押さえて悶絶しているフーマの姿が目に入る。


「貰った!」


 もんどり打つやつ・・を、長剣でぶった切る! 悲鳴とともに、服の切り口から黒い霞のようなものが、ぶわっと巻き上がった。


 そのとき、「ポーゥ」という奇妙な音が幾重も戦場に鳴り響く。記憶が確かなら、あれは鏑矢かぶらやという特殊な音信用の矢の音だ。


「くう、撤退か! この勝負、お預けだ!」


 フーマがベタなセリフを吐きながら、懐から取り出した玉を地面に投げつけると、小さな爆発と共に、煙が激しくたちこめる。視界が戻る頃には、やつはすでにおらず、馬賊たちも遠くに逃げ去っていた。


「げほっげほっ、なんつうコテコテな……」


 汚いな、さすがニンジャきたない。まあ、目潰し攻撃を叩き込んだ俺が、とやかく言えた義理ではないか。ともかくも、我々は勝利したようだ。依頼人が気になる。先頭車両に行こう。



 ◆ ◆ ◆



 針鼠のようになっている車両や、負傷して唸っている者など、どこもかしこも激しい戦闘のあとが見て取れた。治癒術師ヒーラーのいない、あるいは倒れたパーティーの負傷者は、クコや他パーティーの治癒術師ヒーラーが、順次手当をしている。


「モロオ卿、ご無事ですか!?」


 先頭にたどり着くと、すでに数人の冒険者が、メイドの萌え絵が描かれた箱型馬車キャリッジを囲んでいるので、搭乗部に声を掛け、依頼人の安否を確かめる。


「無事だよ~」


 卿がひょっこり窓から顔を出し、依頼人の無事に、思わず安堵の溜息を漏らす。


「メイたんも御者氏も、無事で良かったよ。他のみんなも無事かな? 被害の確認をしないと」


 彼と同乗者のメイドが下車する。初日にサンドイッチを渡してくれた人だ。彼女がメイだろうか。


 報告をまとめると、積み荷は無事なものの馬が一頭負傷、冒険者が十一名負傷と死者こそ出なかったが、結構な被害規模のようだ。


「ところでモロオ卿、賊のひとりが『黒魔こくま宝玉オーブ』という名を口にしていたのですが、お心当たりは?」


 状況が一段落したので、疑問点を尋ねる。


「ああ、それ積み荷だよ。何でも、魔王の魂が封印されているとかいうやつだねえ」


「はァ!? 何で、そんな物騒なもん運んでるんですか!?」


 思わず手をわきわきさせて、驚愕する。


「へーきへーき。その手の話って、だいたいガセだから」


「いやいやいや! 卿の地元ではそうなのかも知れないですが、この世界では、そういうのはだいたい大マジです!」


 彼はどうにも実感が湧かないのか、「へー」などと他人事のように感心している。ううむ、こんなに俺たちサーズベルラー人と異界人で、意識の差があるとは思わなかった……! 悪い人ではないのだがなあ。


「こういうのは慎重に扱ってください。お願いします」


 やれやれだな。


 ともかくも旅は再開され、我々はバーブル王国へと辿り着いた。三日目に予測通り、山賊とゴブリンから襲われたが、あの馬賊たちに比べたら、どうということのない敵であった。

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