小市民魔導剣士、冒険しつつ異世界を食べ歩く!

退会したユーザー ?
退会したユーザー

第三十五話 魔導剣士ロイ、えらいことになる

公開日時: 2022年8月10日(水) 20:01
文字数:1,634

 昨日は、なんだか安眠できなかったので、早く目が覚めてしまった。


 なんとも、暇だ。暇なので、いつぞやの遺跡でアー&ウーン兄貴たちからもらった、巻物スクロールとにらめっこしている。


 そして、魔が差した。読んで・・・みようと。


 とはいえ、爆発魔法なんか仕込まれてたら危ないし、動物に変化などしても困る。


 というわけで、「これから巻物の実験をする。もしも動物などになっていたら、師匠に相談してくれ」と書き残し、巻物一枚を手に、開けた場所に出る。


 とりあえず、この魔法文字自体は読めるんだ。ただ、そこから導き出されるものがわからない。ゆえのジャンクだ。


 文字を、読み上げていく。すると、なにやら俺の体が、柔らかな光に包まれた。


 ……これだけ?


 なんか、大仰な準備をした割に、しょっぱいな。


 さすがジャンク。こんなものか。


 ……と、これで終わればよかったのだが。



 ◆ ◆ ◆



「ないィィィィ!」


 「蒼い三日月亭」の厠の中で、黄色い悲鳴をあげる俺がいた!


 どうしよう? どうしたらいいんだ!?


 いや、どうしようも何も、当初の用事を済ませるほかない。


 要領は、と同じなんだ、うん。



 ◆ ◆ ◆



「ええーっ!」


 朝の食堂。皆が素っ頓狂な声を上げる。


「やー、これはこれは。ロイちゃん爆誕ですか」


 なぜか、ほくそ笑むクコ。こいつ、この状況を楽しんでやがる。


「しかし、外見はあまり変わってませんね。女性体型になってますけど、身長なんかはそのままです」


 パティが、顎に手を添え思案。兜のせいで、どんな表情をしてるのか、伺いしれないが。


「ていうか……イケメンですよね。イケメンガール!」


 大興奮のクコ。だから、なんでそんな嬉しそうなの?


「ロイくんが女の子になっても、お姉ちゃんの気持ちは変わらないからね」


 なんか、ナンシアに慰められた……というより、妙な宣言を受けた。気持ちは変わらないって、何が?


「オレもっす! 姉貴になっても、お慕いするっす!」


「お、おう……」


 変わらず接してくれるのはありがたいが、なんかもにょるな。


「解呪は試されましたの?」


 ごく当たり前の提案をする、フラン。


「やったやった。ダメだった」


 腕組みして、ため息を吐く。


「服もなあ。肩が余り気味だし、尻はきついしで……」


 それを聞き、なんかいい笑顔で顔を見合わせる一同。


「おニューの服をあつらえましょ!」


 女性陣……今じゃ、俺もその一員だが、まあ、そのお揃いの一言で、新しく衣服を買うことになってしまった。


 やれやれ。



 ◆ ◆ ◆



「言っておくが、女装はせんからな」


 店に到着して、開口一番釘を刺す。


「えー?」


 なんで、そんな不満そうな声を上げるんだ、クコ。


「あ、でも男装の麗人ってのも、アリアリのアリですね!」


 しょげたかと思えば、今度はいい笑顔で人差し指を立てる。ほんとにこいつは……。


 とりあえず入店し、上着とズボンを見繕う。冒険用だから、丈夫さと機能性重視だ。


「いまいち、可愛くないですね……」


 ゴツいアーマーで、身を固めてる君に言われてもな、パティ。


「どうしよう……。ロイくんに、可愛い服着せたいわ……」


「絶対に断る」


 ナンシアまで、おかしなことを……。


「ロイさん、ロイさん。さすがにこればかりは、女装が必要ですよねえ?」


 ニンマリして、クコが指差す先は……。


 下 着 売 り 場 。


「ぐ……」


 たしかに、こればかりは。こればかりはなあ……。


「くっ、殺せ……」


 観念して、下着を買い込むのであった。



 ◆ ◆ ◆



「もー、ロイさん、もっと可愛い下着、いっぱいあったじゃないですかー」


 帰り道。あくまでも、シンプルなのを買い込んだので、クコは不服そうだ。


「嫌だ。だいたい、なんでそんな楽しそうなんだお前は」


「わたしの脳内、知りたいです?」


「……遠慮しておく」


 肩を落とし、とぼとぼと歩く。ああ、女物がフィットするあたり、ほんとに女になってしまったんだなあ、などと考えながら。


 その晩、部屋に侵入してきたクコに、「いざという時は、女ならではのやり方・・・教えますからね。なんなら、今、実践も……」と言われ、ゲンコツを入れてお帰りいただいた。


 鍵、きちんと閉めとこう……。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート