昨日は、なんだか安眠できなかったので、早く目が覚めてしまった。
なんとも、暇だ。暇なので、いつぞやの遺跡でアー&ウーン兄貴たちからもらった、巻物とにらめっこしている。
そして、魔が差した。読んでみようと。
とはいえ、爆発魔法なんか仕込まれてたら危ないし、動物に変化などしても困る。
というわけで、「これから巻物の実験をする。もしも動物などになっていたら、師匠に相談してくれ」と書き残し、巻物一枚を手に、開けた場所に出る。
とりあえず、この魔法文字自体は読めるんだ。ただ、そこから導き出されるものがわからない。ゆえのジャンクだ。
文字を、読み上げていく。すると、なにやら俺の体が、柔らかな光に包まれた。
……これだけ?
なんか、大仰な準備をした割に、しょっぱいな。
さすがジャンク。こんなものか。
……と、これで終わればよかったのだが。
◆ ◆ ◆
「ないィィィィ!」
「蒼い三日月亭」の厠の中で、黄色い悲鳴をあげる俺がいた!
どうしよう? どうしたらいいんだ!?
いや、どうしようも何も、当初の用事を済ませるほかない。
要領は、大と同じなんだ、うん。
◆ ◆ ◆
「ええーっ!」
朝の食堂。皆が素っ頓狂な声を上げる。
「やー、これはこれは。ロイちゃん爆誕ですか」
なぜか、ほくそ笑むクコ。こいつ、この状況を楽しんでやがる。
「しかし、外見はあまり変わってませんね。女性体型になってますけど、身長なんかはそのままです」
パティが、顎に手を添え思案。兜のせいで、どんな表情をしてるのか、伺いしれないが。
「ていうか……イケメンですよね。イケメンガール!」
大興奮のクコ。だから、なんでそんな嬉しそうなの?
「ロイくんが女の子になっても、お姉ちゃんの気持ちは変わらないからね」
なんか、ナンシアに慰められた……というより、妙な宣言を受けた。気持ちは変わらないって、何が?
「オレもっす! 姉貴になっても、お慕いするっす!」
「お、おう……」
変わらず接してくれるのはありがたいが、なんかもにょるな。
「解呪は試されましたの?」
ごく当たり前の提案をする、フラン。
「やったやった。ダメだった」
腕組みして、ため息を吐く。
「服もなあ。肩が余り気味だし、尻はきついしで……」
それを聞き、なんかいい笑顔で顔を見合わせる一同。
「おニューの服を誂えましょ!」
女性陣……今じゃ、俺もその一員だが、まあ、そのお揃いの一言で、新しく衣服を買うことになってしまった。
やれやれ。
◆ ◆ ◆
「言っておくが、女装はせんからな」
店に到着して、開口一番釘を刺す。
「えー?」
なんで、そんな不満そうな声を上げるんだ、クコ。
「あ、でも男装の麗人ってのも、アリアリのアリですね!」
しょげたかと思えば、今度はいい笑顔で人差し指を立てる。ほんとにこいつは……。
とりあえず入店し、上着とズボンを見繕う。冒険用だから、丈夫さと機能性重視だ。
「いまいち、可愛くないですね……」
ゴツいアーマーで、身を固めてる君に言われてもな、パティ。
「どうしよう……。ロイくんに、可愛い服着せたいわ……」
「絶対に断る」
ナンシアまで、おかしなことを……。
「ロイさん、ロイさん。さすがにこればかりは、女装が必要ですよねえ?」
ニンマリして、クコが指差す先は……。
下 着 売 り 場 。
「ぐ……」
たしかに、こればかりは。こればかりはなあ……。
「くっ、殺せ……」
観念して、下着を買い込むのであった。
◆ ◆ ◆
「もー、ロイさん、もっと可愛い下着、いっぱいあったじゃないですかー」
帰り道。あくまでも、シンプルなのを買い込んだので、クコは不服そうだ。
「嫌だ。だいたい、なんでそんな楽しそうなんだお前は」
「わたしの脳内、知りたいです?」
「……遠慮しておく」
肩を落とし、とぼとぼと歩く。ああ、女物がフィットするあたり、ほんとに女になってしまったんだなあ、などと考えながら。
その晩、部屋に侵入してきたクコに、「いざという時は、女ならではのやり方教えますからね。なんなら、今、実践も……」と言われ、ゲンコツを入れてお帰りいただいた。
鍵、きちんと閉めとこう……。
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