小市民魔導剣士、冒険しつつ異世界を食べ歩く!

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第二十三話 魔導剣士ロイ、作戦を立案する

公開日時: 2022年7月30日(土) 13:59
文字数:3,343

 雪山の登山ということもあり、まずは本格的な装備を整えることになった。話を聞くぶんには、それほど険しい山ではないようだが、雪山をなめるのはよくないことだ。これで、いささか時間を食ってしまい、アタックは翌日に回すことに。


 昨日の店でさらに一晩明かし、早朝からアジト目指して登山である。


 山は雪が積もっており、一面の銀世界と化していた。アジトと目されるでかいロッジを発見したが、見張りと思しき、黒尽くめのフードを被ったローブ姿のやつが、四人ほど確認できる。岩陰に隠れて様子を見ているものの、どうしたもんかな。


「構成員すべてがあそこに集結しているとも思えないが、百人とかいたら厄介だな。強行突破は避けたいところだが、何かアイデアはないだろうか?」


 皮手袋を外し、温かい吐息をかけて、再度はめながら皆に問う。


「オレがいっちょ行って、火ィ点けてこよっスか?」


 物騒な発想だな、マイシスター。


「いや、それは誘拐された者がいた場合、問題がある。仮に点け火をするにしても、生存している被害者の有無を確認してからだな。だが、ひとまずスニーキングによる偵察には賛成だ。もっとも、この見開きのいい場所で、どう忍び寄るかという問題はあるが」


「あの格好に変装……とかどうでしょう?」


「服を、どうやって調達するんですの?」


 クコの提案に、フランがダメ出しする。変装か……変装なあ。


「ひとつ、方法がないでもない。俺が幻覚魔法で、信者の姿をみんなに被せる・・・・というものだが」


 腹案を述べると、一同注視してくる。


「声でバレません?」


「どうだろうな。百五十人いる構成員の声の違いに、気づくとも思えないが。まあ、これが幹部会とかだったらまずいが。そのためにも、まずは偵察だな」


 不安視するパティに、安心材料と懸念、そして、さしあたっての方針を告げる。


「あの……偵察なんですけど、私が狼になって、見てきましょうか?」


 声を上げたのはナンシア。一同、彼女を見る。


「私が狼になって見に行った方が、サンちゃんより目立たないと思うんです」


 なるほど、その手があったか。便利だな、人狼。


 そのようなわけで、まずはナンシアの偵察報告を待つ運びとなった。



 ◆ ◆ ◆



 視点は、ロイからナンシアへ移る。


「皆さん、行ってきますね」


 狼に姿を変え、やや遠回り気味にロッジに近づいてみる。見張りがこっちを一旦見たけれど、興味なさげに視界から外す。どうやら、「怪しまれない」という部分はクリアできたみたい。


 ぐるりと裏手に回ってみると、そちらには小さめのドアと、見張りが一人。うーん、いまいち隙がない……。狼状態なら聴力を最大限に発揮できるから、可能な限り近づいて耳を澄ませてみよう。


 何か、大人数による詠唱のようなものが聞こえる。感覚で判断すると、ざっと数十人。これ以上のことは、よくわからないな。風下に行けば、何か匂いと音で、もっとよくわかるかも?


 目立たないように遠回りしようと、結構な距離をてくてく歩いていると、突然足元の感覚が消滅! きゃー! なにごとー!?



 ◆ ◆ ◆



 うう~ん。私は特殊な条件でしかダメージを受けないけど、どうも結構な高さを落ちたみたい。頭上の穴の向こうに、青空が見える。


 暗くてよく見えないけど、周囲を触った感じで、はしごのかかった穴なのだとわかる。そして、はしごの反対側には、横穴が続いているらしい。


 一度人の姿に戻ってここから上がるべきか、奥に進んでみるべきか……。


 奥の方から、かすかに人の匂いと、何かの音を感じる。


 先に進むべきだと、私のカンが告げている。そもそも偵察に来たのだから、このまま戻るという選択肢はないと思うし。


 人の匂いを感じる方に進んでいくと、行き止まりに突き当たった。正確には上に縦穴が伸びていて、はしごがある模様。


 ここは、チャレンジでしょ!


 獣人形態になって、はしごを昇っていく。人形態じゃないから、恥ずかしくないもん! ちなみに、変身シェイプシフトするときの咆哮は、かっこいいからやってるだけで、不要だったりする。


 昇りきると、頭上がふさがっている。でも、ちょっと押してみると、光がうっすら差し込んでくるので、蓋のようなものなのかもしれない。蓋を開けた瞬間、人の匂いと詠唱が流れ込んでくる。これは、ひょっとするとひょっとして!


 隙間から視線が通る程度に蓋を持ち上げて様子を見てみると、木造の部屋の中みたい。明かり取りの窓から光が差し込んでいて、久しぶりの太陽の光がちょっと眩しい。


 人の気配はないようなので、完全に昇りきって室内に入る。八個の大きめのかごが収められた棚と、扉があるだけの簡素な部屋。


 そっとかごの中を見てみると、何やら黒い布が。取り出して広げてみると、それはあの、悪魔教徒が着ていたフード付きローブじゃあないですか! これ、すごく使えるんじゃない!?


 とりあえず六着入手したものの、さらにこの先に進むべきか悩む。聞き耳を立ててみると、特に足音とかは聞こえないけど……。これで見つかったら元も子もないよね。


 よし、変装用アイテムをゲットしたことで、よしとしよう! これがあれば事態が進展するはず。


 見つからないように、来たとき以上に遠回りして帰らないと。



 ◆ ◆ ◆



 視点は、ロイに戻る。


「遅いな、ナンシア……」


 偵察に出てから、小一時間ほど経った気がする。しかし、焦って突入するなどという愚は犯せない。彼女を信じて待とう。


 焦燥を抑えつつ、岩陰からロッジを注視していると、ぎゅっと雪を踏みしめる何かの音が、背後から聞こえた。


 振り返ると、そこには黒い布を口に咥えている、一匹の狼。ナンシア、無事だったか!


「ありましたよ、黒いローブが!」


「でかした!」


 口から離された黒い布を広げてみると、確かに連中の着ているアレだ。


「で、あのロイさん。後ろを向いてもらえると……」


「ああ、着替えるんだな。終わったら声をかけてくれ」


 彼女は着替え終わると、ロッジに通じる隠し通路の情報を我々に告げる。


「ふむ、値千金とはこのことだな。素晴らしいよ、ナンシア!」


 ローブと隠し通路、この追加要素で、新たな策が立ち上がってくるじゃないか。


「みんな、こういう作戦はどうだろうか」


 皆と顔を寄せ合う。内容はこうだ。


 まず隠し通路から潜入し、ローブを着用。人の気配を感じなければそのまま屋内に上がって聞き耳を立てながら奥に進む。幻覚魔法の類は可能な限り使用せず、戦闘に備えて体力を温存する。


「正面から変装で紛れ込むよりは、演技の難易度が低いと思うのだが、どうだろうか」


「その後は、どうするんです?」


「相手の人数と、誘拐された被害者次第だな。四パターンに分かれるが……」


 クコの疑問に、パターン別の作戦を提示していく。


 相手が少なく、被害者がいないパターン。これは、そのまま殲滅で問題ない。


 相手が少なく、被害者がいるパターン。被害者の安全が確保できるようなら、殲滅。無理そうならば、救出を第一に考える。


 相手が多く、被害者がいないパターン。これは外に一度出てから点け火をして、逃げようとする者を出口付近で各個撃破。この場合、当然裏口と、隠し通路は使えないようにしておく。


 相手が多く、被害者がいるパターン。被害者の救出を優先しつつ、点け火。あとは同上。


「ずいぶん、ざっくりした作戦ですね」


 肩をすくめるクコ。


「これでもかなりの収穫だが、さすがに情報が少なすぎてな。かといって、さすがにナンシアに、もう一度行って敵の陣容まで調べてきてくれというのは、要求し過ぎというものだろう」


「あの、横からひとつよろしくて? 拉致被害者がすでに亡くなっていた場合、どうするんですの?」


「その場合は、いないものとして考える。……嫌そうな顔をするなよ。俺だって気が進まないが、厳しいシビアな相手なんだ。かたき討ちをすれば、浮かばれようってものと考えよう」


 いないものとして考える。すなわち、遺体ごと焼き払うという提案である前半部を聞き、眉をひそめる一同に、覚悟を決めてもらう。ドライなようだが、なにしろエーデルガルド一の冒険者が返り討ちに会い、後続も手をこまねくような相手だ。こちらにも余裕がない。


「それ以外に、この作戦に異論は?」


 一同を見回すが、反対意見はない模様。


「では、陽が沈む前に片をつけるぞ!」


 意思伝達用のハンドサインも決めておき、悪魔教団アジト殲滅作戦開始だ!!

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