そう言われても納得できないカルバート。「私達のせいで貴方が死んだらどうするんです」アルバートはその言葉を聞き、微笑みを浮かべる「私の事を心配してくれるのは嬉しいけどね。もうすぐ仲間が来るはず。そしたら後はまかせればいい」そして彼は再び戦闘に戻る。しかし攻撃は全て避けられ、徐々にダメージが蓄積していく「ちくしょう!」彼は悔しげに叫んだ「お前なんかに負けてたまるかぁ!」そして彼は渾身の一撃を加える。
だが、その瞬間、アルバートは最後の力を振り絞り、隠し持っていたナイフで自分の胸を突き刺した。「あ、ああ」彼は自分が死んだのを確認する。
しかし、その時、彼の体は光に包まれる。
そして、再び目を開けた時には、彼は、元の世界に戻れたのである。
そして、カルバートは、アルバートが死んだ事実を受け入れられず、その場でうずくまる
「なぜ、こんなことに」
「奴は、ワイバーンロード・ホライズンズの主人公だ」
「え?」
「奴は、このゲームの核となるシステムを作った天才プログラマーだ」
「じゃあ、奴を殺せばゲームが崩壊するのか」
「ああ、だが奴は、ゲームのプログラムに人格を移植している。つまり奴を倒さないと、奴が作ったプログラムは破壊されない」
「どうすればいい」
「奴を倒す方法は二つある」バーグマンは指を二本立てた「まず一つは直接奴を破壊することだ」しかしバーグマンはすぐに否定した。
「奴はワイバーンよりも強い」そして次に人差し指を立ててこう説明する「奴のコアを壊すことだ」これならワイバーンを相手取る時と同様だ。
問題は、どちらにあるかということだ「おそらく、どっちにもあるだろう。
だが弱点がわかったところで、倒すことはできない
「だから、二人で同時に叩く」だが、それも難しい「どうやって?」
「作戦は簡単だ。奴の意識がコアからそれている内に一気に奴に肉薄しコアを攻撃する。
だが、それだけじゃない、もう一つのコアを破壊しないといけない」それはどこなのかわからないが。コアを両方同時に破壊するしかなさそうだ。
「よし、やってみよう」
「奴はワイバーンより数倍厄介だ。覚悟はできているか」
「ああ、もちろん」
「じゃ、始めるぞ!」
こうして二人は戦い始めた。アルバートは、カルバートがワイバーンの討伐に成功したと聞いた。ならば、あとはルルティエだけ、そう思って彼女を探す そして、遂に、彼女は見つかった。
カルバートはワイバーンに止めを刺しアルバートに振り返る。
「やったよ」
「ああ」
そしてカルバートは飛び立ち、そして巣窟に降り立つ。そこは、ドラゴンの巣にふさわしい、広大な地下迷宮。
そこにドラゴン達はいた。「おい」アルバートが声をかけると、ドラゴンが答えた「誰だよ」アルバートは言った「お前の親玉に恨みがある。ここで死んでくれ」
ドラゴンは激昂しアルバートに襲いかかった。アルバートは攻撃をひらりとかわして、そして反撃する「俺を忘れて貰っちゃ困るぜ」そしてカルバートもそれに続く。二人の猛攻を受け続けた結果、魔龍の息は徐々に上がっていき、ついに限界を迎えた
「ここまでか、だが我にも誇りというものがある。人間に負ける事だけは絶対にできん。たとえ我が消え去ろうとも」
するとカルバートが言う「俺はな、あんたが憎いんだ。この世界が、このシステムが」
カルバートはそう言って剣を振り上げた「な、なにを言っている」ドラゴンは焦る「だからな」彼はそのまま、勢いよく突き刺す「俺と一緒に滅んでもらう」
こうして、ワイバーンとドラゴンの戦いは終わったのである。カルバートの一撃でルルティエのコアが砕け散った。「ありがとう、アルバート、これで俺たちも解放される」「よかった、本当によかった」二人は手を取り合って喜んでいた「でも、どうしてワイバーンを倒したんだ? ワイバーンがいなくなったら、君の目的は達成できなかったんじゃないかい?」
カルバートはその問いには、首を振って答えなかった。
そしてアルバートに尋ねた「それで、君はどうなる? このままで良いのか」彼はうなだれていた。その様子に何かただならぬものをバーグマンは感じ取った「カルバート、もしかしてお前……」「それ以上言わなくていい」彼は手を突き出して止めた「もう遅い。だが、これだけは伝えておく。ワイバーンを倒して良かったのは俺だけだ。あいつの犠牲のお陰で俺の復讐は成就するのだからな。それにワイバーンは、ワイバーンロード・ホライズンズで復活するかもしれないしな」
バーグマンは悲しげな顔をして黙っていた。その時「見つけた!」
女の声がした「アルバート!」
そこにはルルティエがいた。カルバートが呟く「やはりワイバーンが倒されていなかったようだな。どうする? 戦うかい? 今度はワイバーンと」「いや、もう十分だろ? ワイバーンは倒されたんだから」
しかしルルティエは叫んだ「違う、ワイバーンなんてどうでもいいの、貴方に謝りたくて来たの」
カルバートが言った
「ほう、では何のために来たのかね、私を殺しに来たのではないのか」
アルバートが言った
「なぜそんなことを言う? 彼女は謝りにきたって」
ルルティエは悲しげに答える「ワイバーンを倒していなかったことは知っています、ですから私は罰を受けるためにここにきました」
カルバートが問う「それは君の贖罪の意思を示すためなのか? それとも、ワイバーンに復讐したいからなのだろうか? あるいは両方かな」カルバートの問いに、アルバートが尋ねる「復讐ってどういうことだ」
「アルバート、聞いて、あの時、あなたを助けようとしたらワイバーンが来て、それでワイバーンを操っているのがカルバート様だと気づいたの、でも、助けるのに精一杯で、ワイバーンを倒すことまで手が回らなかったの、ごめんなさい」
「ワイバーンを操作って」アルバートは驚いた。カルバートはアルバートの質問を制止した「そういうことだ、ワイバーンは倒した。だが奴がまた現れる可能性がある以上は放っておくことはできない」彼はルルティエに尋ねた「どうだ、ワイバーンを蘇らせる事は可能だと思うかい? ただ倒すだけではダメなんだ」ルルティエが答えた
「わかりません……ワイバーンを操れるような相手は初めてなので」
「まあ、無理もない。奴の能力については俺達の方が熟知しているはずだ。なにしろ、奴は俺の開発したプログラムで動いているのだからな」
「ちょっと待ってくれ、ワイバーンはお前が作ったって、どういうことだ」
「そのままの意味だ。ワイバーンは、俺が奴のコアに書き込んだプログラムによって動かされている。つまりは奴のコアを書き換えれば、ワイバーンは消滅するだろう」
「ワイバーンはカルバートが作り出したってのか」
「そうだ、ワイバーンは俺が作り上げたゲームだ」
「ゲームのはずがないだろ、あんなものどうやって作るんだよ」
「作ったさ、実際に。そして俺は奴のコアを書き換える事ができる」
「まさか、コアを書き換えるって」
「そうだ、奴のコアを初期化して書き直す。そしてワイバーンを消去する」
「そんなことできるわけないだろ」
「できる、俺ならな」
「そもそも、なんでワイバーンを作れたんだよ」
「簡単だ、奴のコアをハッキングして、プログラミングを書き変えてやっただけだよ」
「ワイバーンはカルバートが生み出したものだったのか」
カルバートの語り口に、嘘はない。彼は真実を述べているのは明白だった。しかしアルバートには受け入れられなかった。
彼の人生の大半はコンピュータとともにある。その技術の源泉にこんなものがあったとは、到底信じられない。彼はカルバートの言葉を頭から信じ込むことはできなかった。
一方、カルバートの語るワイバーン誕生の秘密は事実に基づいているようでもあった。彼はワイバーンが作り出されていたと明言している。アルバートが知らないだけで、他の人間に聞けば、誰にだって分かる事かもしれない。そう考えるのは自然の流れだ。しかしワイバーンを作ったのはカルバートなのだという現実は、彼の中で、どうしても受け入れることができなかった。彼はワイバーンは作られた存在だと思い込もうとした。そしてワイバーンを作り出した男への恐怖も増した。
カルバートの言葉を鵜呑みにしてよいのかどうか、彼には分からなくなっていた。ただ、ワイバーンが作り物だということを否定すれば、今までの出来事が意味不明のものになってしまう気がした。
そして、彼はワイバーンに勝てるのかと考えた カルバートは奴は倒せたと言っていた。ならば自分が負ける可能性は少ないだろう。だが万が一がある、奴の攻撃パターンも分からないのに無策で飛び込んで行っていいものなのだろうか? しかし、ワイバーンを消滅させることができれば、少なくともカルバートが世界征服を目論む危険はなくなる。そうなれば、奴の計画は潰える事になるのだ。アルバートはカルバートを信じたかった。
一方でワイバーンはカルバートの生み出したものだと認める事もできなかった。彼がカルバートの妄想の産物でないことは、この数ヶ月で理解していたし、何よりワイバーンの存在が証拠としてあった どちらにせよ、アルバートは、これから起こることに対処しなければならなかった
「わかったよ、とにかくワイバーンがどんな奴か確かめるしかないだろ」
バーグマンはワイバーンの話題が出ると急に沈んだ。どうやらあまり触れたくなさそうだ
「ワイバーンを消すことができれば、この世界の危機を救うこともできるんだろう」
カルバートは自信満々に言った「消せるよ。俺が消し去る」
彼はアルバートに向かって右手を差し出した「ワイバーンを渡せ、俺の手でワイバーンを殺すんだ!」
カルバートが手を出す、アルバートは迷っていた。ここでカルバートの申し出を受けるのが正しい選択なのか、判断しかねる。
彼はワイバーンを倒しに来たはずだった。カルバートの言うとおり、奴を消滅させるべきなのか、それともこのまま逃げるべきなのか? いや、今は考えてる暇はなかった。決断を誤ることはできない、彼は差し出された右手を無視してカルバートに向き直った。
その時だった、背後で声がした「アルバート、ワイバーンから離れて、ワイバーンが動き出すわ!」
振り向くと巨大な竜が空中に姿を現していた。それは翼長3メートル以上あり、蛇のように長い身体に鰐の如き顎を持った異形の化け物である
「ワイバーン・ホライズンズ! お前を待っていた!」
「どうしてカルバートはワイバーンを呼び出したりできるんだ」
アルバートが疑問をぶつけた「ワイバーンはカルバートが作り出しプログラムで動かしていると言った」ワイバーンは巨躯にもかかわらず音もなく滑空した バーグマンは後じさって「こいつは奴のコアが制御できていないんだ、ワイバーン・ホライズンズを暴走させている」と言った アルバートの脳裏に最悪のシナリオが浮かんだ カルバートがワイバーンを生み出した、その目的はわからないが、ワイバーンはカルバートにとって危険な存在であるに違いない そして、ワイバーンを消去しようとしているカルバートもワイバーンにとっては邪魔者になる。だからカルバートは抹殺しようとした。それが正しいのだとすると
「ワイバーンを倒すためにワイバーンを呼んだってのか」
カルバートの思惑に戦慄を覚えると同時に怒りが湧いてきた
「違う、カルバートじゃない」
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