アルバートがそういう感想を述べるとは思いもしなかった。
「何言ってるの?まだ寝ぼけてるの?」
「俺はどれくらい眠ってたんだい?」
「3日よ。その間はずっと付きっきり。だからあなたが起きてくれないと、私、困っちゃうわ」
「それは悪い事をしたな」
マーサが手を伸ばし、アルバートの頬に触れる。ひんやりして気持ちが良い。アルバートは目を閉じ、甘えるように、もっと撫でろ、と催促する アルバートを撫でながら、彼女は少し意地悪を言う「あらあら、子供みたいな反応しちゃて」「うるさいよ」
二人は笑い合う
「ねぇ……これから先。あなたの力が必要なの。お願い、起きて」
「仕方ないなぁ。それじゃあ起きるとするかな」
アルバートが再び目を開けて周りを見渡すと部屋の中にはアルバートとバーグマンの姿があった。2人とも、怪我らしい傷はなく無事でホッとしたがアルバートの意識はまだ朧気で視界が定まらない。頭の中で何かがチカチカと光り続けているようだ。頭が重く、体がダルい「おはよう。調子はどう?体の具合が悪いところはない?頭痛はしない?」「うん、もう、平気だと思う」
「良かった~」
「おぅっ!」
バーグマンは勢い良く立ち上がった アルバートは突然の大声に飛び上がって驚いた
「どうしたんですか」
「あ、あ、ああああ」言葉にならない「あー!!!!
「落ち着いて下さい」アルバートは落ち着かせる為に肩を掴んで座らせた アルバートは今一度状況を整理した「まずは現状を打破する」
「その件に関しては、私が」バーグマンが口を開いた「君が?!」
アルバートは怪しんだ「あなたはカルバートの側に居たのでは」
「彼はもう居ません。我々はある意味解放されたのです」
「はあ?!」「解放?どういうことだ!」「どうなってんだ!」
アルバートは訳がわからない。だが、事態が好転しているわけでもないことはわかっている バーグマンの言うとおりだとすれば、カルバートがこのゲームに囚われた状態、すなわち、この世界自体がゲームと同じ仕組みならゲームクリアの条件が整えば終わるはずだ。ならば、やる事は一つだ。
「とにかく、ゲームをクリアしよう」
「そうです。しかし、今の私たちにできるでしょうか」
「弱気はいけねえ」「でも、相手はカルバートですよ」
「奴が相手だろうと関係ない。奴を倒せば良いだけだ」
「倒すってどうやって」
「決まってるだろ。俺のワイバーンで奴のワイバーンをぶち殺すんだよ」
「ワイバーン・デストラクション」
「奴のワイバーンを皆殺しにするんだ!」
カルバートが作り上げたのは、広大な世界のどこかに隠されている「竜殺し」を探し出して討伐する事。それがゲームの趣旨。
カルバートはゲームを通じてプレイヤーに自分の正しさをアピールし、正しい者の勝ち、正しくない者は死ぬ、が正しいルールであると信じている。つまり、「死は悪徳で、生きている事が正義」なのだ。
カルバートはこの世界をゲームではなく宗教にしたかった。「神を殺せ!」を旗印に信者を集めてカルト化し、自分が絶対の権力を手に入れるつもりだ。そのためにカルバートは「正義は勝つ」と知らしめ、勝利条件は「竜殺し」を見つける事でなくてはならない、とした。「見つけられなければお前たちは間違ってる」と宣言したのも、その為だ。しかし、これは間違いだ。「正義は負ける」のだから。
アルバートはゲームのルールを逸脱する方法を見つけた。それは、アルバートのワイバーンをワイバーンにぶつけること。つまり、相手のドラゴンを倒す、だ。
しかし、それは無謀と言うよりは馬鹿げている。ドラゴンをワイバーンで倒した場合、勝ったドラゴンは経験値をたくさん得ることができる。
そして、レベルが上がりステータスが上昇し、スキルも覚え強くなる。
逆に、ワイバーンをドラゴンにぶつければ、負けたワイバーンのレベルが上がる、さらにスキルを覚え強くなっていく。
「ドラゴン・イコライザー!!」アルバートが叫んだ カルバートが作ったワイバーン・デストロイヤーに戦いを挑む「さすがに、ドラゴンの群れの中に突っ込むのは無茶よ」「心配するな、ワイバーンどもの弱点は既に分析してある」「ドラゴンの鱗がワイバーンよりも硬い事を知っているのね」「ああ、ワイバーンに効く攻撃は殆ど通じなかったからな」
カルバートは「鱗が柔らかい箇所を攻撃する事」を条件に付けていた「それでもワイバーンは固いのよ」アルバートのワイバーンは翼を広げた。そして、飛び立った「行けえ、アルバート!私のワイバーン!」
「ドラゴン・イコライザー!突撃!」「うおおお!」
「ワイバーンの弱点は目だ!」「了解!」
アルバートのワイバーンはカルバートのワイバーン目がけて急降下、そしてそのまま突進した 激突の寸前に、アルバートのワイバーンの頭部のツノが変形して巨大な槍状になった そして、カルバートのワイバーンは頭頂部から串刺しになって倒れた
『やったあ!』
二人は手を取り合った。しかし、喜びもつかの間、すぐに次の戦闘が始まった カルバートのワイバーンは、たった一撃で死にかけたが死んではいない。それどころかまだ息がある「こいつら強すぎる」アルバートが焦りをにじませた。
そして、再びワイバーンが攻撃に転じた時、アルバートは決断を下した ワイバーンの攻撃をあえて受けてから反撃に出る。これが唯一の活路。「うおら!」アルバートは剣を横薙ぎに振って敵の頭を叩いた。そして「くらぇい!」ワイバーンの横腹を蹴った。
そして、敵は再びワイバーンに襲いかかってきた「やあ!」アルバートはワイバーンに体当たりして押し飛ばした。そして「ワイバーン!今度こそトドメだあ」
ワイバーンは倒れこみながら、アルバートのワイバーンの頭部の先端に噛み付いた「ワイバー・・・ング!?」
カルバートは「なんだ?」と驚いた「おい、どうしたんだ」
アルバートのワイバーンは苦しみ、痙攣を起こしたように体を震わせている「やめろ・・・離れろ・・・離れろぉ!」「どうなってるのアルバート? 大丈夫なの?ねぇ、アルバート」
アルバートのワイバーンは暴れる。ワイバーンに噛み付かれたままのワイバーンは振りほどこうとする。しかし、ワイバーンは離さない。必死の形相でしがみついている「どうすれば良いの?どうしたら助かるの?ねえアルバート!」
「助けてくれ、俺はこんなゲームやりたくないんだ!早く終わらせたいんだ!」
カルバートが駆け寄る「ワイバーンに喰らいついてる方だ!」アルバートはカルバートの方を向いた「ワイバーンを引き剥がしてくれ」
「ワイバーンって言うな! ワイバーン様と呼べ!」
「そんな事言ってる場合か!」カルバートはワイバーンを力づくで引き離した「どうすりゃいい? どうすりゃ治るんだ」
「わからない」
「ワイバーンの鱗に何か見える」
カルバートが言った そこには小さな字で文字が書かれている「竜騎士を探せ、そう書いてあるな」「竜騎士を? じゃあ、ワイバーンを倒せるのはドラゴンしかいないってこと?」「そうなる」アルバートはワイバーンを見た「どうしたんだよ、アルバート」カルバートはワイバーンを指差して叫んだ「見て、こいつの顔!泣いてるみたい!」
「何だよ?その展開はあ?お前ら全員グルなのかよ?俺たちを騙したのかよ!」「ちがうよ、ワイバーンが本当に泣くはずないよ!」「うるせえ、ワイバーンなんて呼ぶな!ワイバーン様に謝れ!ワイバーン様だ!」「もう、意味がわかんねえ!」
アルバートとカルバートが言い争っている間にもワイバーンが暴れだす「アルバート、私にいい考えがある!」バーグマンはアルバートを羽交い締めにした「どうするつもりだ」アルバートのワイバーンはバーグマンの方に向き直った。そして、「ワイバーン、アルバートの首を食い千切れ!」バーグマンは思いきり体重をかけた「どうした?ワイバーン?聞こえないのか、ワイバーン?返事をしろ!」アルバートは声にならない声で叫び続けた「うおおお」
バーグマンは「ワイバーンの弱点は目だ」と言って、アルバートのワイバーンの目に剣を突き刺した「これで動きが止まった」そして「どうだ?痛いか? アルバート?アルバート?ワイバーン、アルバートから離れなさい」アルバートのワイバーンの翼の付け根から出血している「どうだワイバーン。降参しろ、これ以上苦しむ必要はない。さっさと死んでしまえ」
ワイバーンは動かなくなった「終わった・・・なの?ねえワイバーン死んだの? ねえ」アルバートはワイバーンを撫でながら泣き崩れている「どうなったの?ねえ」アルバートは肩を落とした。どう見ても勝負はついたようだ。アルバートの完敗に終わった。「アルバート」と声を掛けられた「はい」と答えるしかなかった「君はもう要らない。帰ってくれ」そして「アルバートはこのゲームを辞めました。アルバート・K・ヒロキはアカウントを削除し、この世界のデータベースから消えました」こうして彼は追放された「ざまあみろ!」と、アルバートの声が虚しく響いた。「じゃあねアルバート。あなたとの冒険楽しかったわ」アルバートとワイバーンの戦いが終わった直後、ワイバーンは光り輝いて消え、代わりに美しい女性が現れた「ワイバーン?女?どうなってるの?これ」
ジャンル:ファンタジー、SF。ジャンル:一人称視点。
アルバートのワイバーンに噛み付いたワイバーンが雌であった事は偶然だったのだろうか? たまたま性別が雄と入れ替わったのかもしれない。
アルバートのワイバーンと死闘を演じたワイバーンは雌で間違いなかった。
「ドラゴンは強い男に惹かれる」と言う伝説がまことしやかに語り継がれていたからだ。
しかし、真相を知る者は居ない。
なぜ、ワイバーンが突然、雌になったのか?それは神のみが知っている。ただ、一つ言える事がある。
アルバートのワイバーンは強かった。そしてワイバーンは実在していた、という事実。それだけだ。
この事実だけが重要だ。ワイバーンは実在する、それだけは真実なのだ。
だからワイバーン・スレイヤーをアルバート・ケラーに贈ろう。
アルバート、君にならそれが出来る。
私はワイバーン・スレイヤーが見たい。君のゲームが見たい。
ワイバーンに喰われたはずのワイバーン・スレイヤーが見たい。
ただそれだけなんだ。
※以下、本文サンプル(改行のみ調整)
(プロローグ1より)
【アルバート、私の愛を受け止めてくれ】
カルバートの右手に握られた剣が禍々しい輝きを放ち始める「なにあれ、ヤバイよ。逃げよう」と呟くアル。
「逃げる?どこへ?無理だ。こいつからはどう考えても逃れられない。そもそも俺が望んだことだ。こうなる事を」と自虐的に笑みを浮かべるカルバート「そうだな、アルバートのせいじゃないな」と言いつつも納得しかねている表情を見せる。「そうか」
カルバートの顔つきが変わる「どうすれば良いんだ?」カルバートは目を瞑って、精神統一を図る「どうもしない。このまま突っ切るしかない」とバーグマンは答え、手にした杖を構えた。「了解」と答え、二人は走り始めた。しかし、足取りは重く、遅い。「クソッ!」カルバートが悔しげに叫ぶ。「仕方ない」
二人は走るのを止め、同時に後ろを振り向く「どうしようもない、これが現実だ」バーグマンはアルバートを見据えて言った。「わかってるよ。そんな事」
【私はどうなろうと構わん。だが、私が死んだらワイバーンの怒りは何処に向かうと思う?ワイバーンを制御できない人間が居ては危険すぎる。アルバート。頼む、奴を倒してくれないか】
そして、ついにワイバーンの口が大きく開かれる。アルバートに狙いを定めた。「やめろ、俺はお前なんか知らない」アルバートは必死に抵抗する。ワイバーンの口に火球が生まれた。
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