「おい、冗談だろ。嘘だと言ってくれよ」と涙を流すアル。だが、無情にもワイバーンの口から炎弾が発射された! だがその時「カルバート!」叫び声とともに、一陣の風が吹き抜けた。そしてワイバーンの動きがピタリと止まった。次の瞬間、カルバートの体が真っ二つに割れた。「うそだ!」呆然と立ち尽くすアルバートの眼前に黒い鎧の戦士が姿を現した。その背中を見た時、何故か安心した。「あんた、何者なんだよ」「カルバート、今のうちに離れろ!」「わかった。アルバート行くぞ!」アルバートはワイバーンから離れて行った。そして二人は無事に逃げ出した。「すまない、また一人救えなかった。でも大丈夫だ、次は必ず勝つさ」
【カルバートはどうなったんだ?教えてくれよ。お願いだよ。もうどうでもいいから……なぁ、なあ!!︎】
(本編に続く)
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「ワイバーンって本当に空を飛ぶの?」素朴な疑問をアンナが漏らすと「飛ぶに決まってるだろ。飛ばなきゃ困る。だから翼竜じゃなくて、あえて『ワイバーン』と名を付けたんだ。いいから乗れ、ほら早く」と半ば無理やりに馬に乗せた「うわあああああああ」乗馬なんて初めてだ。怖いよおお。
鞍の上で暴れようとする僕の腕を押さえつけ、カルバートは馬を走らせた。ぐんぐんとスピードが上がり、やがて周りの景色を置き去りにした「どうだ、速いだろ。これこそワイバーンの力なんだ!」
確かに早いけど、早すぎて、景色が見えないよ!「ああ、見えるよ。だから、手綱をしっかり握っとけ!」言われなくても握っている。握り過ぎで痛い。
ワイバーンに噛まれた右腕の包帯から赤い血が流れ出る「痛っ!」つい叫んでしまう。「うるさいな、我慢しろ」
だって、こんなに激しく動くんだもん。
しかも馬が全力で走っているみたいに振動がすごい。僕だけ?それとも普通の感覚なの?
「なあ?普通なのか、変なのか?どっち?」と尋ねると「そりゃ変だけど」ってやっぱりそうなんだ!「ワイバーンは俺たちプレイヤーにしか見えず、触れる事もできないが、アルバートには認識できていて触れたりできる」つまり幽霊だな「まあ、そんな感じ」とカルバートが適当に答える。「ええ!じゃあ、僕しか、カルバートの事が分からないのか!」ちょっとショック「そうだ」
僕は肩を落とした。カルバートの事が分かると思ったのに。とほほ。
「落ち込むなって。そのうち、俺の偉大さが分かるようになる」自信満々に言うので少しイラついた「カルバート、ワイバーンが見えたぞ」前方を指し示す。ワイバーンはこちらを威嚇している様子で口を開いている「まずいな、アルバート」ワイバーンは上空に向かって火の玉を放った。カルバートが舌打ちをした「あれを撃たれるとヤバかった」
僕らはワイバーンの真下に駆け込んだ「よし。この位置なら当たらないだろう」そしてワイバーンの攻撃を回避しつつ距離を取る事にした。しかし「くそう。なかなか距離を詰められないな」焦れたのか、再びワイバーンが攻撃をしてきた「こっちだ!」今度はバーグマンが誘導してくれた「アルバート、急げ!」カルバートも負けじと急かしてくる「分かったよ」って、うああああ。馬に乗るって結構キツイんだな。足がプルプルしてるよ「もっと速度を上げろ!振り落とされないようにな」バーグマンの言葉に従い、懸命に手網を握る「どうだ、アルバート!」「もう少し!」しかし「ああっ」ワイバーンの攻撃をかわせずにカルバートが落馬した「危ない!」咄嵯の判断で馬を急旋回させる「ぐは」カルバートは無事のようだ「おい、死ぬんじゃねえよ!」
僕、頑張ったのに、死んだらどうすんだよ(泣)
カルバートの安否を確認する暇もなく、バーグマンがワイバーンの気を引いてくれていたおかげで難を逃れた「大丈夫か!」心配して駆け寄る「ああ」とカルバートは答えたものの、「ちくしょう、左腕の腱を痛めちまった」苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
どうしよう。どうしたら良いんだ? カルバートの怪我が気になって、まともに戦える状態じゃない。
でも、ワイバーンは待ってくれなかった。
バーグマンが囮となって時間を稼いでくれる。
その隙に僕はカルバートに応急処置を施した。
カルバートが愛用する「痛み止め」「鎮痛剤」「消炎剤」などの薬は「激烈痛和」という名前で、カルバート曰く「飲むと頭が割れるように、めっちゃ、痛む!」らしい。カルバートは躊躇する事なく口に流し込んで、一気にあおった。口元についた水滴がぽたり、と落ちた。「これでしばらくはもつだろう。だが根本的な解決にはならない」と呟いた。
どうしよう。カルバートの腕の怪我、早く治らないかな。
でも「鎮痛剤」のストックは尽きているし、今更取りに行く訳にもいかない。
うーん、どうすればいいのだろう? と、その時「お待たせしましたわ」
振り返ったら、金髪の美少女がいた。
誰?この娘は一体何者?
「私はリリス」と名乗った。「アルバート様の敵は私の敵です。私に任せてください」
リリス? 聞いた事がある。確かゲーム開始前に説明していたナビゲーター役じゃないか?「お任せいただけるかしら」僕の返事を待たず、一方的に喋り続けるリリス。「ご安心くださいませ。貴方のお好きなようにカスタマイズいたします」
僕は考えた「アルバート。リリスの事は知ってるか?」カルバートが尋ねる「いや」アルバートが首を振る「じゃあ、俺から説明する」とカルバートは続けた「この世界に居てもNPCに会話する事ができるし、自分で判断できる。ただ、決定ボタンを押す必要があるけどな。だから、俺たちはこの世界の神様だと思っていた」「ふーん」よく分からない「じゃあ。神って事か」
それはそれで失礼な言い方だ「じゃあ、リリスは神様なんだね」カルバートは目を細めた「お前がどう思おうと勝手だが。俺は違うと思うぜ」「どうして」
カルバートは首を振った「リリスって名前があるからだ。この世界を管理しているのは運営だ。そして運営ってのが神なのかは分からねえ」
確かにそうだ。
リリスに聞いてみよう。
「じゃあ。君は神って事で、良いんだよね」リリスは「そうですよアルバートさん」と答えてくれた。それから「ここはゲームではないのですか? それとも何かのゲームなんでしょうか? 皆さんはどう思われます?」と逆に質問された。「どうなんだろうなあ」アルバートが腕組みをした「アルバート、さっきはすまねえ」カルバートは頭を掻いて謝罪した「カルバートの気持ちはよくわかるよ、うん」アルバートは肯いていた。そして僕を見た「アルバートは悪くない。悪いのは運営だよ」リリスは微笑んだ。どうしよう、やっぱり笑っていた方が可愛い。
どうも、カルバートとバーグマンの態度が気に入らない「カルバートは謝っているんだから許してあげればどうだい」
バーグマンは渋々と言った感じで「じゃあ、今回は引き分けだ」と決着をつけた。どうもバーグマンはカルバートの肩を持つつもりのようだ。アルバートと二人だけで納得しあっている様子で面白くない。
どうしよう。アルバートとカルバート、どっちに着こう。
どうも、アルバートは僕の意見を聞きたがっている「ねえ。リリスはどっちかに味方してよ。そうしたら二対一で勝負は決まるだろ」と聞くと「分かりました」と答えた。そしてバーグマンを選んだ「どう言うことだ?!」驚くアルバート。
当然だ。アルバートは僕の相棒だぞ「私が勝ったら、カルバートさんの手当をしていただけませんか」と言った「まあいいだろ。どうせ結果は変わらねえんだからよ」とカルバートが言った。どうやら二人は知り合いのようだ「よし! じゃあ始める」
アルバートの合図と同時に、上空から光の矢が雨の様に降り注ぐ。
「なんだよあれ」
光弾は的確にプレイヤーだけをロックしている。
回避が間に合わない「クソッたれ」アルバートの右腕が光り輝く、どうやら「防御魔法」を発動させたらしい。直撃こそ免れたが、HPがゴッソリ減った。どうやら、物理攻撃の威力が減衰する「盾」は魔法に対しては効果がない。「どうすりゃいいんだ」アルバートは困惑した表情でこちらを見る「とりあえず、攻撃魔法の発動を止めないと話にならない」と、カルバートが冷静な意見を述べた。
しかし「私に任せて下さい。私が防いで見せますから」
リリスが自信たっぷりに答える。「え? マジで?ホント大丈夫? リリス」「はい。まかせて、クダサイ!」
アルバートが魔法を放つ「ライトニングボルト」雷属性の魔法攻撃。電撃で動きを封じてダメージを狙う典型的な補助系の攻撃だ。リリスの正面に現れた半透明のバリアは、その攻撃を軽々と跳ね返す。まるでダメージを受けていない「おお。凄いな。流石はリリスだ」思わず、声が出た。
アルバートは舌打ちして、今度は別の呪文を唱えた。今度は、火炎の塊を撃ちだす「フレイムランス」火柱の魔法が放物線を描いてリリスに迫る。しかし、同じ様にリリスの前に張られたバリヤーに阻まれた。どう見てもこっちの攻撃が通らない、どうする?「リリスはMPが少ないみたいです」アルバートを応援してやりたい。が「アルバート。一旦逃げてくれ」と告げた「ああ、わかった」
「何言ってんだよ。今更逃げるなんて卑怯だ」と言いながら、カルバートが剣を抜いた。そして、カルバートは逃げ出した。アルバートも逃げた「おい、お前は戦わないのかよ!」と叫ぶと、カルバートの罵る声が聞こえた。
どうしたら、勝てる? 考えを纏める時間が欲しい。
リリスの背中に黒い影が現れた。「シャドウストーカー」実体化した暗黒騎士が襲いかかる。しかし、アルバートの意識が向いたのは、暗黒よりもむしろ、リリスの方にだった「うお、なんだありゃ」
リリスの周囲に複数のディスプレイが表示され、一斉に文字が躍った「ワイフ・リザード」リザード?竜の亜種か? リザード? ドラゴンの一種?「なあ、ワイフってなんだ? 女? 名前?」「さあ、知りません。アルバートさん、そいつは危険です、近づかないでください」
リザードはアルバートの注意を引きつける。そしてアルバートの視線が一瞬だけ逸れる。
チャンスだ「アルバートさん!」と叫んで僕は、駆け出した。そしてリリスが僕に手をかざした「ダメですよ、アルバートさんの敵討ちはしなくても」そうじゃない。そうじゃないけど。
僕はリザードに体当たりする「キャー」リザードが叫び声を上げた「邪魔をしないで!」アルバートの声で怒鳴られる。でも構わない、リリスを助けなくちゃ。リリス、僕が守ってあげる。
そして、僕の意識は途絶えた「ああああ、もう。アルバートさん、こんなに弱らせていたらワイフを殺せないじゃ無いですか」
僕はワイフに負けた。「ううう、情けないよ」涙が止まらなかった「ごめんなさい」リリスが優しく頭を撫でてくれる「ありがとう、リリスはやっぱり優しいね」僕は甘えることにした。「ところで、リリス。ワイフってなんだ? 教えてくれよ」アルバートの言葉を聞いて思い出した。そうだワイプ。ワイプ・アヘッドの連中の仕業だ。あいつらゲームクリアがどうとかって訳の分からない事をほざいて僕らを殺そうとしたんだっけ?「ワイブとは……。このゲームの運営組織の名前でしょうか?」と、言う事は「カルバート、お前はワイバーン・ロアの一味なのか!?」
カルバートは「ワイバーン・ロワ―」のメンバーだ。カルバートの父親は「ワイバーン・ロワー」の親分だった「なるほど、それで、ワイバーン・ロアの奴らは、俺たちを消す為にこんなことをしているのか」アルバートの推理は正解だった「ああ、多分な」とカルバートが答え、カルバートが「まあ、それはともかく、カルバートも一緒にやろうぜ、ワイバーン」
カルバートが首を横に振る「ワイバーンって何だよ」カルバートの問いにバーグマンが答える「ワイバーンって言うのはな、この世界のボスキャラだ」「じゃあ俺に倒せるわけ無いだろ!」カルバートの反論は尤もだ。ワイバーンはドラゴンの一種でこの世界でも最強の一角を占めている、ワイバーンに勝つにはワイバーン以上の力が不可欠だ「大丈夫だって。俺に良いアイデアがあるんだ」
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