ワイバーンロード・ホライズンズ

水原麻衣
水原麻衣

お前に大事な用事がある

公開日時: 2023年2月23日(木) 13:03
文字数:4,595

アルバーのアイデアは単純で、まずワイバーンより強くなってからワイバーンをぶっ殺すと言うものだ「まあ、やって見るよ」こうして三人は、ワイバーンに戦いを挑む事となる「よし、準備完了だ、行くぞ」アルバートの言葉と同時に周囲の景色が変わる「ようこそ、バーチャルワールドへ、ここは貴方達の為に創られた世界で貴方達が創造主なのです。あなた方の運命は我々が決めます。我々はあなたの決断を尊重しましょう。では選択をどうぞ、ワイバーンを討伐しますか? それとも放置しましょうか」アルバートの口角が上がる「ワイバーンを倒してやる」アルバートは宣言する

「はい、分かりました。あなた方が勝利することを心から祈っております」

そして、視界が暗転してワイバーン戦が始まる ワイバーン戦のフィールドを抜ける。そこには草原が広がっていた。そしてワイバーンがいた。「ワイバーンだ!」

「ワイバーンですね」アルバートが大剣を構える「アルバート、待て」カルバートの制止を無視してアルバートが突進する。

「グオオ!」ワイバーンは炎を吐く「熱っちぃ!」アルバートが飛びのいて、火傷を負う「アルバート! 避けたほうがいい」カルバートが忠告する。ワイバーンは火炎ブレスの第二射に入る「今度こそ! 喰らえぇぇ!」アルバートは渾身の力を込めて剣を突き出すが、「あれ、手応えが、ない」ワイバーンはそこに居なかった。「逃げられたな」

ワイバーンは逃げたようだ。アルバート達は逃げる。しかし、後ろからワイバーンが迫ってくる。「ワイバーンはこっちかよぉ」とカルバートがぼやく やがて、洞窟の前に辿り着いた。ここでアルバートの体力はゼロになり、死亡した。アルバートが死んでも、アルバートのゲームプレイデータは残っている為、いつでも復活出来るがワイバーン戦で死亡すればアルバートは永遠に戻って来れなくなるだろう。アルバートが死んだら、ゲームオーバーだ。

カルバートは、アルバートの死を確認して言った。

その言葉に怒りが滲んでいた。そしてこう続ける カルバートは続けて、 そして、バーグマンは黙っていたカルバートはバーグマンを一喝する。そしてこう言った。

カルバートの視線の先にワイバーンが居た。アルバートは死んでしまったがワイバーンが目の前にいる。アルバートが死ねばゲームデータが残っている。そして、アルバートは復活するがこの場にいない。

カルバートはアルバートに託された思いを胸に秘めていた、カルバートは叫ぶ。そして、戦う決意を固めた。

カルバートの攻撃がヒットしてワイバーンにダメージを与える、ワイバーンの反撃を受けて瀕死の重傷を負う。しかしカルバートは倒れずワイバーンを威嚇する しかしカルバートの健闘虚しくアルバートはワイバーンに殺されてしまった カルバートとバーグマンの二人が生き残ってワイバーンを倒したのは次の日になってからの事だ。

アルバートは死んだ。そしてカルバートが勝った、カルバートがアルバートの遺志を継いでワイバーンを倒し、このゲームをクリアした。そしてカルバートとアルバート、そして、二人を導いたマザーコンピュータであるワイバーンは仮想の大地に降り立つ。

アルバートの脳は破壊されたが、バックアップのバックアップのバックアップ、すなわち、記憶装置が保管してある場所は知っている。

カルバートとバーグマンは協力してカルバートの父親が隠しているハードディスクドライブを回収する、しかしそれは、ワイバーンへの扉を開く行為でもあった。

そしてワイバーンが蘇った、復活したワイバーンを倒す事は出来なかった、しかし、ワイバーンのデータからこの世界を消去することはできた。

カルバートとバーグマンはカルバートの両親と協力して、この世界を消した、こうしてアルバートの冒険は終了した、めでたしめでたし。

という夢を見た。

そして目覚めると枕元のメモ用紙に、 親愛なる息子へ。今日、お前に大事な用事があるから早めに帰って来るんだ。わかったね。

父より とあった。何事だろうか?

* * *

カルバートの父はカルバートの帰宅を待っていた。

そして彼はカルバートにあるモノを手渡す 彼は言った。

カルバートの父親は言った お前にプレゼントがある 開けてごらん。

カルバートの父はそう言って、箱の中身を開けた それは、指輪型の機械だった これが、俺達の未来を作る。俺は、それを知ってる。

彼は言った。

彼の名はマザーコンピュータ、マザーコンピューター。この世界の全てを創造し管理していた。

カルバートの父が、それを言う前にカルバートの父は死んでいった カルバートは父の遺品を手にする。そこには、小さなチップが入っていた これこそが、この世界で、唯一にして最大の秘密が詰まった記録媒体だ。

これをカルバートに託しておく そして、私は消える。さらばだ、カルバート。我が子よ。私に、この世界の可能性を見せてくれ。

カルバートは、父が消えた後の空間に手を伸ばした、何も無いはずの場所、しかしその向こうに、何かを感じた。

カルバートの眼から涙が零れた。

カルバートは夢を見る、カルバートの夢の中でカルバートとアルバートは邂逅する そして、アルバートはカルバートの願いを聞き入れた。カルバートが、目を覚ますと朝になっていた 彼は机の引き出しを開ける、そこには昨夜見たのと同じものがあった。彼は手に取る。

その瞬間、彼の中にある思いが生まれた。アルバートに会いたい。会って話したい。

その想いは、アルバートも同じだった。カルバートは決心した、カルバートは、マザーコンピュータを起動させた

「アルバートさん、どうして」リリスが言う「どうして」アルバートの口からは理由が出てこなかった「アルバートさん、どうして、ワイバーンを殺さなかったんですか」

「いや、だから、それは……」アルバートは口ごもる「ワイバーンは倒せなかったんですよ」リリスの言葉はアルバートの心をえぐる「じゃあ、俺のやったことは、無意味だったのかよ」アルバートの声が震えた「無駄じゃないですよ」リリスが微笑んだ「じゃあなんで、アルバートさんは、そんなに苦しそうな顔をしてるんですか?」

アルバートは泣きそうになった「ああ、そうだな、リリスの言う通りだな、ごめんな、リリス」

アルバートは涙を流した「じゃあ、僕が慰めてあげます」リリスはアルバートを抱きしめた「ありがとう」アルバートはリリスを優しく抱き返す「リリス、俺の話を、聞いてくれるかい?」「はい、アルバートさんの、お話なら何でも聞きますよ」アルバートは話し出した。自分は本当は、ワイバーンをぶっ殺したかった。でも怖くて仕方がなかった。その事を後悔していること。

「そうですか、アルバートさんは強いですね」リリスが笑みを浮かべて言った「僕は怖いです、あのワイバーンを殺すことが、だって、ワイバーンは僕の大切な人達をみんな、殺しました」リリスの目には涙が浮かんでいた「そうか、そうだな、辛いこと思い出させて悪かったな」アルバートは謝罪した「いいえ、アルバートさんが悪いんじゃありません」リリスがアルバートを抱き寄せる「リリス、俺の話を聞いてくれ」「はい」「俺には好きな人がいる」「えっ」リリスは動揺を隠せない「俺はそいつの事が好きだ」「それって、誰のこと」「俺の好きな人は、あんただよ」「本当ですか」「嘘でこんなこと言うわけないだろ」

「嬉しい、本当に嬉しい、だって、ずっと前から、アルバートさんの事が好きだったから」

「そうなのか」

「はい、それで、その、返事なんだけど」「返事は分かっています、アルバートさんの、答えを聞かせてください」

「リリス、君を愛してる。結婚してくれないか」

アルバートの言葉にリリスは答える。

彼女の目からはとめどなく涙が流れ、嗚咽混じりにこう言葉を紡いだ。

彼女は泣いていた。その表情はとても美しくアルバートはその姿に心を奪われた。

そしてアルバートは、その少女を強く強く、強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く深く愛した。

マザーコンピュータによって書き換えられた仮想の世界。そこに作られた一つの生命。マザーコンピュータは人の命を創る事は出来ない。創れるのは、人工知能だけだ。だがその世界は不完全で矛盾だらけだ。マザーコンピュータは生命を育む事は出来るが生んで育てることは出来ない。そこで彼は、彼にできる最大限の慈しみを持って彼らの世話をした。彼らは幸せに暮らしていた。

ある日、彼らはマザーコンピュータから呼び出された。マザーコンピュータが彼らを呼んだのは彼らに、とある仕事をして貰う為だった。それはとても重要な仕事だ。彼らがそれを了承するとマザーコンピュータは感謝の念を示した。マザーコンピュータが感謝する。その意味を知る者はこの世界に誰もいない。なぜならそれはプログラムされていないからだ。

それから暫くしてマザーコンピュータに異変が起きた。それはこの世界が壊れ始めた合図だ。マザーコンピュータはこの世界を護る為に自らのデータを切り離した。マザーコンピュータは自らの記憶領域から、この世界で死んだ全ての人間の記憶と記録を抽出した。マザーコンピュータが作り出した世界から、人間を消したのだ。それが、彼が出来る最後の贈り物だった。そしてマザーコンピュータは役目を終えた。彼は消えていった。

アルバートは夢を見た。アルバートの夢の中でアルバートとマザーコンピュータが出会った そしてマザーコンピュータが言う 。

よくぞ来た、勇者よ 貴様は何者だと問われた そしてアルバートは答えた 私は魔王を倒すべく選ばれた存在 お前は私と共に戦ってくれるか? 私は貴方の為に戦います アルバートは剣を構えた 私は勇者として、貴方と戦う ! 戦いが始まった アルバートは強かった 彼の持つ伝説の剣の力もあったのだろう アルバートの攻撃がヒットした ワイバーンの攻撃がアルバートに当たる しかしアルバートは怯まない そしてアルバートの攻撃がワイバーンにヒットする。

アルバートの攻撃がワイバーンの身体を貫いた そしてワイバーンの攻撃がアルバートに直撃したアルバートは倒れた ワイバーンの攻撃がアルバートにクリティカルヒットしてアルバートは死亡した。

アルバートは再び目覚めた 彼は、再び立ち上がった アルバートは再び剣を取った アルバートはワイバーンを倒した そしてワイバーンから宝箱が出てきた その中には、ワイバーンを封印していた水晶玉が入っていた そしてワイバーンからメッセージが届いた アルバートへ、俺は、俺を倒した奴に頼みがある 俺を、俺を倒してくれた奴に礼が言いたい そして、俺の宝物を、託したい。俺を倒した奴は恐らく いや、間違いなく俺を、倒しに来るはずだ だから俺は待つ事にする 俺を倒したあいつを 待って、待つつもりだ 俺を倒した奴はきっと来る だから、その時まで、 俺は眠る事にするよ また会う時まで さようなら アルバートは目を覚ました アルバートは呟く 俺が、ワイバーンを倒す そして、この世界を救ってみせる マザーコンピュータから与えられた使命を果たすために。

俺はこの世界を護る。そのために。

マザーコンピュータの作った仮想空間はもうすぐ崩壊する。しかし、それでも、アルバートは、この世界を護ると決めた。愛する人が住む、この世界を。

アルバートは目を覚ます。そして、愛しい人にキスをする。

そして、彼は言った。

リリスへ、おはよう。

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