「ナタンッ! ナタンッ!?」
『…………誰かな? う…………』
あれから、何れくらい時間が立ったのか分からない、ナタン。
彼は、不意に頭の中に響いてきた、うるさい声に耳を傾けた。
「ナタン、起きてっ! 起きて、ちょうだいよっ!」
『…………メルヴェ? メルヴェなのか? …………』
意識が徐々に戻ってきた、ナタンは頭に響いてくる、メルヴェの声に反応して、目を覚ました。
そこに居たのは、メルヴェと大柄な黒人男性たちだった。
そして、難民と避難してきた、市民達と数人のベルギュー州軍兵士たちも周りに見えた。
「メル…………ヴェ?」
「ナタンッ! 良かった目を覚ましたのねっ!」
「お前、無事か? 負傷しているが自分で動けるか?」
目を覚ました、ナタンは自らの体を抱き付く、メルヴェに目を向ける。
そして、かれの隣へと駆け寄ってきた、黒人男性が話かけてきた。
「お前は、ナタンと言うのか? 傷は軽傷だ、そしてここは安全な場所だ、落ち着いて良い…………」
床に寝かされた、ナタンが上半身を起こすと、正面で、大柄なスキンヘッドの黒人男性が喋る。
『…………彼はどうやら難民では無いようだ? それに周りにはベルギュー州軍兵士や避難してきた様々な人々が居る…………』
辺りを見回して、此処が何処かの地下室らしき場所であることを、ナタンは察する。
そして、彼は、この場所へと避難してきた人々を眺める。
アラビ人・東洋人・黒人・白人などと言った、多様な人々が混在している。
彼等は、ただただ怯えたり、ペットボトルの水を飲んだりして過ごしている。
こうして、難民たちが、たむろしているのが目に入った。
『…………ニュースで見たことがある…………この光景は? イタリィーの地震に巻き込まれてしまった人々と…………アラビの難民キャンプの光景だ…………』
ナタンは、地下室に避難してきた人々の姿が、前に見た、光景に似ていると思う。
テレビに良くでる、震災で被災したり、戦争から逃げ延びてきた人々の姿と重なるからだ。
そして、彼は体を起こすと立ち上がり腰に手を当てる。
「痛たたっ!」
「痛いのっ!」
ナタンが立ち上がり、腰を痛がると、それを、メルヴェは心配する。
それから、すぐに遠くで避難民を診察している、衛生兵を呼びに行こうとするが。
「いや、これは単に寝過ぎていたから腰が痛く成っただけだよ」
「何よっ! …………心配して損したじゃないっ!」
「ははっ! そん位の元気が有るなら大丈夫だな?」
たんに、寝過ぎていたからだと言う、ナタンの気が抜けた言葉に対して、メルヴェは怒って呆れる。
隣に立つ、黒人男性は、二人のやり取りを見て笑ってしまった。
彼等は、大柄な彼の方に視線を向ける。
「おっとっ! 坊主、済まない、紹介が遅れたなっ? 俺の名はウェスト・イドゥルフィンだっ! アルメア合衆国・陸軍所属の軍人で階級は曹長だ」
自らの名前を、ウェストと名乗った、アルメア合衆国軍人は、ナタンに握手を求めた。
「僕は、ナタンッ! ナタン・ル・ロワイエですっ! アルメア軍人って事は、援軍に来てくれたんですかっ!」
ウェストの右手を喜んで握る、ナタンは経済大国アルメア合衆国軍の軍人だと聞いて喜んだ。
彼は、アルメア軍が、救援に来てくれたと思ったからだ。
「アルメア合衆国軍の軍人っ! アルメア軍は救援に来てくれたんだっ!」
「いいえ、彼はその…………違うのよ」
「そうだ? 俺は休暇中に旅行で、ハンザまで来たに過ぎない? それに、アルメア本国でも内戦に突入したようだし、当分はハンザに援軍は来ないだろうな…………」
ナタンが喜んだのも一瞬であり、期待は見事に外れてしまう。
言い難そうに、メルヴェが彼に違うと告げると、その横から、ウェストも真実を告げる。
「そんな…………それじゃあ他の皆は」
「レギナは無事よ、彼女はベルギュー州軍に救助されたわ、今は別の場所で休んでいるわよ」
ナタンは、遊び仲間達の身を案ずるが、メルヴェは取り合えず、レギナが無事であることを教える。
「そうか、他の皆も無事だと良いな」
「あんたの言う通り、そうだと良いわね」
「ああーー? お取り込み中に悪いが、お二人さんに話が有るんだ? 生き残りの避難民を、アフレアまで連れて行く、脱出計画が立てられていてな?」
ナタンとメルヴェ達が、何処に居るのやも知れぬ、遊び仲間達の事を話し合っていたが。
そこに現れた、ウェストが、二人にハンザからの脱出計画を持ちかけた。
「ここに居る連中を第一陣、第二陣に分けて、地下道を通り、アフレアへの脱出ルートのために用意された船に乗り込もうって計画なんだ」
「それで、僕等はアフレアへ行ける訳だね」
「そう上手く行くかしら?」
真剣な顔で話す、ウェストの説明に対して、ナタンとメルヴェ達は、耳を傾けるが。
「軍用の無線通信からの情報だ、危険だがここに留まるよりはましだ、そしてお前達と俺は第二陣だ」
「なら僕達も行ってみようか」
「危ないのは、この場所に居ても一緒だしね? それなら南のアフレアに行きましょうか」
ウェストに、第二陣だと告げられた、ナタンとメルヴェ達。
二人は、南方にあるアフレア大陸までの脱出船に向かう、計画を知って興奮する。
そして、何時出発するのかとも、思っていた。
「出発は、二時間後だ? その時ハンザ連邦空軍が一斉に反撃に移る、そして混乱に乗じて我々は脱出と言う訳だ」
脱出計画の詳細を話す、ウェストは、ハンザ連邦空軍による反撃を語る。
その混乱に乗じて、難民たちとともに脱出すると言う内容であった。
この脱出計画に、ナタンとメルヴェ達は期待していた。
そして、二時間と言う長い時間が立つのを、根気よく我慢して待った。
「あの後、私達は暫くの間、空爆が始まるのを待った…………」
「だけど、空軍の反撃は始まらなかった」
地下秘密基地内の一室で、ナタンとメルヴェ達は過去を語る。
それは、希望が絶望に変わった時の事であった。
「理由は、二時間の間に空軍が全滅していたのと…………」
「ハンザ連邦軍と各州軍の壊滅」
ハンザ空軍全滅を語るメルヴェと、ハンザ軍・各地の州軍が、壊滅状態に陥った事を話す、ナタン。
二人は、当時戦場である、このハンザに取り残されてしまった。
それから後は、レジスタンスの一員として、長らく活動することと成ったのだ。
二人以外の難民たちは、レジスタンス活動には参加せず、アフレアへと逃げた者達も存在する。
時折、レジスタンスへの補給として、南方から送られて来る密輸品を受け取りにいく部隊がある。
彼等は、その補給部隊に同行して、密輸品と交換で、輸送部隊に潜水艦で護送されて行った。
彼等が、果たして無事に安全な、アフレア大陸へと脱出できたのか。
それは、ナタンとメルヴェ達も知らなかった。
「はあーー? 過去を思い出しても、録《ろく》な思い出しか無いわね」
「だね、遊び仲間達との楽しい思い出だけが、唯一の良い思い出だったね」
長い溜め息を吐いた、メルヴェの意見に賛同する、ナタン。
彼は、仲間達との思い出を大切に、脳裏に焼き付けていた。
「今日は、私達は待機していたけど、明日は密輸品の受け取りに行くわよ」
「分かった、それまでは待機だな」
明日の任務内容を教える、メルヴェと懐かしい思い出から、過酷な現実に引き戻された、ナタン。
その話を聞いた、彼は分かったと短く答えた。
二人は、翌日には連合軍部隊と合流して、補給物資を入手しなければ成らない。
だが、それには帝国軍・帝国警察などの巡回を掻い潜る隠密行動をする必要があった。
ゆえに、危険な任務となるが、二人に拒否する権利はなかった。
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