【暗黒騎士団VS反逆のレジスタンス】 吸血鬼アンデッド軍団と最後の人類は、たった一人でも戦う

レジスタンスは今日も戦う
デブにゃーちゃん
デブにゃーちゃん

第124話 暗闇に包まれた地下防空壕を抜けて

公開日時: 2024年7月10日(水) 10:55
更新日時: 2024年7月13日(土) 11:36
文字数:3,547


「また、外を目指さなければな」


 地下防空壕内から抜けようと、次の区画を目指す、ナタン。



 ガタガタッと、そんな彼の耳に、不穏な物音が聞こえてきた。



『…………またレジスタンス員の生き残りか? すぐ近くからだな? この距離で不意を突かれたら不味い…………かと言って倒す訳には? …………』


 ナタンが音が聞こえた右側の部屋を睨むと、そこから、ガサガサと言う妙な物音がした。


 自身を狙った罠か、それとも誰かが隠れて居るやも知れない。



 そう考えた、ナタンは直ぐに部屋へと近寄ると、MASー1935の銃口を向けた。


 照準に目を合わせた、彼が目にしたは、三名の死体だった。



 床に倒れた、無数の風穴が開いて、血だまりに頃がっている死体。


 コンクリート壁に凭れかかるように、座るような体勢で死んだ、爆傷を負った死体。


 体中、鋭利な刃物により、切り傷が刻まれた、かなり痛ましい死体。


 他には、部屋の右片隅にドラム缶が、二つ置いてあるだけだ。



「チュッ! チュチュッ!」


「は? ネズミ達だったのかよ、脅かすなっての」


 いきなり聞こえた、鳴き声に、ナタンは驚いてしまったが。


 だが、直ぐに声の主が、そこら中を走り回るネズミだったと分かると安堵した。



 そうして、彼は銃口を下げて部屋から出ようとする。



「あっ! ひっ!」


「ダメッ!」


 ナタンは、後ろで聞こえた物音に反応して、一気に振り替える。



 その奥に見えた者は、凭れていた死体を隠れ蓑にしていた、少女だった。


 さらに、ドラム缶の陰から飛び出してきた、少年であった。



「あ、あう、ん?」


「妹には手を出さないでっ!!」


『…………容姿が似ている? この子たちは双子か? …………』


 薄茶髪の兄と、同じ髪色をした、ロングヘアを揺らす妹。


 茶色い瞳の双子は、ナタンを前に体を振るわせる。



 そして、兄は妹を庇うようにして、彼の前に立ちはだかる。



「動くな? チッ! 来たか…………絶対に喋るなよ」


 ナタンは、二人を落ち着かせようとしたが、彼は遠くから何かが来るのを感じた。


 それは彼を含めた、三人に近づく、無数の軍靴《ぐんか》が立てる足音が響いてきたからだ。



「こっちから、ネズミどもが走って来たが?」


「だからって、誰か居るわけ無いだろが」


 野戦帽を被った、グールとバクテリエラー・ゾルダート達が調査しにきた。


 この二人組が喋りながら、ナタン達が隠れている部屋に近づいてくる。



「むぐっ! ング、むぐ」


「ふぐぅ~~」


「静かにしろ、俺はレジスタンスの一員だ」


 暴れようとする、少年と少女を即座に捕まえた、ナタンは、急ぎドラム缶の陰に隠れた。


 身を潜ませた、彼は二人の口を塞いで抱き寄せる。



 そうこうしている内に、帝国軍兵士たちは通り過ぎて行った。



「ふぅーーもう大じょっ!? また来たな?」



 ナタンの耳に、何か重たい物を引き摺るような物音が届いた。


 それは、段々と近づいて来ており、彼は再び身を潜めて耳を済ませた。



「あ、ああーー匂う、匂うぜ?」


『…………しまったっ! コイツはっ! …………』


 部屋の手前で、立ち止まった何者かが呟く声を聞いた、ナタンは焦る。



「よっと、やっぱり居やがったか」


「…………見つけられたか」


 ドラム缶を蹴り倒して現れた者は、さっき、すれ違ったばかりの黒髪ワーウルフだった。


 見つかってしまった、ナタンは二人を置いて立ち上がった。



「テロリストを捕まえたんだな?」


「あ? ああ、そうだ」


『…………まだ味方だと思っているのか? これはチャンスだっ! …………』


 まだ、ワーウルフは目の前に居る、ナタンの正体には気がついていない。


 今なら、コイツを倒すべく隙を突いて、攻撃が出きると、彼は思った。



「おいっ! 今の音はなんだっ!!」


「こっちから聞こえたわよっ!」


『…………チッ! 一人だけなら何とか出来たが? これだけの数を相手にするのは…………済まんっ! 二人ともっ! 君達を助けてはやれん…………』


 しかし、ナタンの耳に、廊下・左右両側から帝国兵たちが、慌てて走ってくる声と音が轟いた。


 それと同時に、連中が段々と走って近づいてくるのが足音で分かる。



 流石の彼も、囲まれては多勢に無勢だ。



 ここは、残念だが、二人の身柄を大人しく手渡してしまう他ないと、彼も考えた。



「済まない、コイツ等を捕まえるのに手間取ってな」


 ナタンは、捕まえたと言って、二人をワーウルフ達に差し出す。


 この状況では、彼と彼女たちを救う手だては無いからだ。



『…………ぐぅっ! 本当に済まない…………』


「やあ~~」


「離せ、離ぁせっ!」


 ナタンは、仕方なしに、二人を生け贄にして、この場を誤魔化す他なかった。



「黙ってないと、私のカーマ・ダガーが首を搔っ斬る事になるよ?」


 ニタァ~~と嗤う女性帝国兵を、ナタンは見覚えがある彼女を見て、さっきの奴だと思う。



「ひっぐ?」


「止めろっ! 妹に手を出すなっ!」


「あん? あんたも斬るよってか、また会ったわね?」


「ああ、そうだな」


 ワーウルフの方へと、ナタンから突き放された兄妹たちだが。


 二人は、帝国兵達に拘束されてしまい、後ろ手に手錠を嵌められた。



 それで、泣きそうになる妹と、抵抗するのを諦めず体を揺らして、暴れまくる兄。


 うるさく騒ぎ立てる彼の顎には、両刃ダガーの切っ先が、下から突き当てられる。



 彼に、面白そうだと言った表情を向ける帝国軍女性兵はイラクリだ。


 ナタンは、再び出会った彼女に平静を装い、目を向ける。



「はぁん? 大したものね~~? 捕虜を、それも子供を捕まえる何てさーー? んじゃ、コイツ等も上に連れてくから一緒に行きましょ」


「ぐっ?」


 イラクリは、右手で少年の頭を押さえながら、ナタンを地上へと誘う。



「あんたは黙ってな? って、さっき言ったわよね…………今度、あと一回でも喋ったら私の短剣《カーマ》で本当に首を搔き斬るん?」


「黙れ、面倒だっ!」


「う…………?」


 イラクリが、男の子に対して、再びダガーを使って、脅しをかけた。


 だが、その幼く細い首筋に、右から黒髪ワーウルフが、注射器を打ち込む。




「お兄ちっ!? うぐっ!」


「お前も眠れ」


 騒ごうとする少女にも、即座に黒髪ワーウルフは首筋に注射器を打ち込む。



「いや~~? せっかく、ギャン泣きするガキどもの悲鳴を楽しもうと思ったのぃーー」


「この…………お前も打ち込まれたいのか、あんっ?」


 子供のように駄々を捏ねた、イラクリを前にして、黒髪ワーウルフは顔を凄ませる。

 


「アハハッ! 冗談っ! 冗談だってばさっ?」


「はあ、まぁ良い…………遊んでないで行くぞ」


 ふざけた態度のイラクリに、面倒だと思い呆れる黒髪ワーウルフ。


 彼は、眠ったまま昏睡状態にある、金髪ショートヘアの女性レジスタンス員を背負って歩き出した。



 そうして、ナタンを含む帝国軍部隊の兵士達は、廊下を歩いていく。



「お前は、見ない顔だな? ここに潜入でもしていたのか?」


「あ、まあ…………その」


「そうみたいだね、さっき地下で、私とラハーラが助けたんだよ」


 黒髪ワーウルフは、右側を歩く、ナタンに声をかけてきた。


 彼が答えようとすると、イラクリが代わりに答えてくれた。



「ふん? そうだろうな、その赤い血は返り血には見えないしな」


「これは、もちろん潜入のために入れ換えたんだよ」


 黒髪ワーウルフは、ナタンの左横に並んで前を見ながら歩く。



『…………ヤバイ? 正体が、バレちまう…………』


 ナタンは、黒髪ワーウルフが自らを怪しんでいるのだろうと察した。


 なので、できるだけ口からボロが出ないように気を付ける。



 これは、奴が仕掛けた心理戦だ。



 何か、一言でも余計な事を言ってしまえば、彼の命は無いであろう。


 もしくは、捕まって今度は本物の帝国兵にされてしまう恐れもある。



「フンフン…………匂いも完璧に、テロリスト側の匂いが染み付いている」


「それだけ、潜入捜査が長かったって事は理解できるだろ?」


 真っ黒い犬鼻を、ヒクヒクと動かして、黒髪ワーウルフは、ナタンの香りを嗅いだ。


 その体や衣類から滲み出る匂いは、レジスタンスが発する物だ。


 帝国側の制服を着ているとは言え、体臭は完全に敵対勢力である。



 この違和感を感じている、奴は左隣を歩く、彼に対して気を張る。


 名前も知らず、他部隊、それも所属組織すら違う彼の正体が、敵か味方か分からないからだ。



「大変だったよ、連中のレベルに合わせるのは…………」


「そう…………か」


 ナタンが疲れた顔を、黒髪ワーウルフに向け、ニヤリと嗤うと、奴の方は短く答えた。



「ふぅ?」


『…………まだ、気にしているようだ…………』


 黒髪ワーウルフは、まだ正体不明のナタンを怪しんでいたが。


 取り敢えず、今は上階を目指して、ともに歩いていく事にしたようだ。



 その後、彼等は地下防空壕を抜けて、次の部屋に来た。



 そこには、赤錆た鉄製の階段があり、全員が上階を目指して、上がって行く。



「上がるのは、面倒だな」


 鉄製の階段は、ナタンが一歩ずつ登る度に金属音を鳴らした。

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