メルヴェは、すらりと右手に着けた、ナザールボンジュウの指輪を見せる。
「そ、それは………………」
「まさかっ!?」
「そ、そのまさかよ…………私はコードネーム、アセナッ! もちろん、こっちはガルムッ!!」
「え…………!?」
コンバットナイフを持っていた帝国兵は、得物を腰の鞘にしまう。
そして、もう一人の兵士も緊張を解いて、AK109を下げた。
メルヴェは、咄嗟に嘘を吐くことにより、帝国側のスパイに成り済ましたわけである。
しかし、ナタンは本当に工作員だったのかと思ってしまい、動揺するあまり動かなくなってしまう。
「合言葉は、コードブルー」
メルヴェは、帝国兵たちの前で、サビナが言った言葉を話した。
「あ~~? そう言うワケだから、分かったかな? 諸君っ!!」
「はっ! 了解しましたっ!」
「はいっ! 了解ですっ!!」
まるで、帝国側部隊の上官みたいに、偉そうに振る舞う、メルヴェだったが。
帝国兵たちは、二人とも彼女を、潜入工作員だと思い、完全に信用しきっている。
「…………あの? メルヴェ?」
「しーー! ちょっと秘密任務の事を話すから待っててね」
「分かりました」
「背後の警戒は、お任せを」
ナタンは訳も分からず、メルヴェが本当に工作員なのか聞こうと話しかける。
それに対して、彼女は二人だけで話さねば成らないと言って、帝国兵たちを上手く遠ざけた。
「…………連中を騙せば、帝国側からは攻撃を受けないわ? 連合側に出会った場合は背後から殺す…………それだけよ」
「分かった、それなら理解したよ」
密かに小さな声で話す、メルヴェの説明に、ナタンも納得する。
「あ~~? 悪いんだけどさ、入口付近まで私たちの護衛を頼めるかしら?」
「はい、司令部まで護衛します」
「我々が先導します」
メルヴェに護衛を頼まれた、帝国兵はコンバットナイフを逆手に構えつつ、入口へと向かっていく。
もう一人も、先の暗闇に包まれた通路を警戒しながら慎重に進んでいく。
その後ろを、メルヴェは悠々と歩き、二人を盾にするように移動していく。
ナタンは、一番後ろを歩き、背後から帝国・連合と、どちらが来ても言いように警戒しつつ歩いた。
「しかし、あと一人スパイが居たようだが…………?」
「それが誰かは、どうでもいいわ…………今は目の前のは二人から離れる事を考えましょう」
もう一人のスパイが誰か話す、ナタンに対して、メルヴェは先に帝国兵たちから離れる事を考える。
いずれ、出口に到達したら、二人を背後から暗殺して始末した後、どこかへと逃げ出す。
それを、彼女は思案するのだっだ。
「く、帝国兵っ!!」
「死、ね…………」
「不味い、工作員をガードしろっ!」
「手榴弾だっ!?」
しかし、メルヴェが思案している隙に、十字路にまで着いたが、そこで連合側から奇襲を受けた。
死体の中で、まだ息があるレジスタンス員が手榴弾を転がす。
さらに、連合軍兵士が片手でAK47Sを乱射しまくったのだ。
帝国兵たちは、背後に控える二人を守るために、手榴弾やライフル弾の前に立った。
「くぅ…………はあ?」
「大丈夫ですか?」
「問題ない」
「心配は要りません」
爆風が止み、銃弾も尽きたのか、ライフル弾が跳んでこなくなった。
そこで、咄嗟に身構えていた、ナタンとメルヴェ達は、帝国兵らに声をかけた。
二人は、爆風や弾丸で身体全体が、ボロボロではあったが、平気そうな顔で答えた。
腹部や胸部を撃たれた、彼等が通常の人間だったならば既に死んでいる。
だが、アンデッドに改造されている彼等は、この程度では倒れない。
「あっちは息絶えたようだな…………」
「ふん、雑魚めっ!」
味方と敵の死体が転がる通路を通りながら、帝国兵たちは死体を蹴ったり、蹴り転がす。
死臭が漂う十字路を通りすぎると、通路の先から声が聞こえてきた。
しかも、耳を澄まして聴けば、爆発音や機銃弾が飛び交う音が絶えず、鳴り響いているようだ。
「行って見ましょうっ!!」
「あ、もう…………仕方ないな」
メルヴェが、そう言うと彼女は帝国兵たちの間をすり抜け走ってゆく。
勝手に走って行ってしまった彼女を追って、ナタンも直ぐに後を追う。
帝国兵たちも、後に続き、二人の向かっていく先に進んだ。
「ぐわっ! 対戦車ライフル並みの威力だ…………」
「頭を下げろっ!! 向こうは俺たちを逃がさない気だっ!!」
「さっさと、援軍を呼べっ! 司令部に連絡しろっ!」
「それが…………他のテロリストたちの襲撃で、どこの基地も警察署も出撃中だそうで」
ナタンとメルヴェたちが見たのは、広い車庫で土嚢に隠れながら銃を撃ち続ける帝国側部隊だった。
しかし、連合側もウィザードが氷結魔法で氷柱《つらら》を放っているらしい。
その威力は、土嚢を吹き飛ばすほどだ。
レジスタンス&連合軍兵士からなる部隊は、緑色の分厚い装甲板を並べ立てている。
これにより、帝国側の銃撃や魔法は無効化され、連合側が有利に戦闘を進めていた。
また、地下駐車場でもある、ここには多数の柱があるが、そこからも連合側が攻撃してくる。
「くっ! また、破れたぞっ! 何とか、ならんのかっ!」
「このまま、帝国軍部隊を殲滅するっ!!」
帝国側が身を隠している土嚢は、銃撃を受ける度に破れている事から、どうやら罠らしい。
弱い土嚢袋に集まった、彼等を連合側は殲滅する気なのだ。
「魔法だけじゃないっ!! これを喰らえっ!!」
「ぐわああああ~~~~!?」
「ぎゃああああああああぁぁっ!!」
手榴弾や火炎瓶が、遮蔽物に隠れる帝国側部隊へと投げ込まれる。
魔法や投げ込まれた手榴弾などで、完全に連中は殲滅されてしまった。
奴等が隠れていた土嚢は、死体の肉片とともに吹き飛び、辺りに散乱していた。
「これじゃ、先には進めないわね? いや、こうすれば…………手を上げなさい」
「メルヴェッ!」
「なにっ! スパイと言うのは嘘だったかっ!」
「騙したな? この野郎っ!!」
突然、帝国兵たちに銃を向けた、メルヴェに対して、ナタンも叫びながら彼等に銃を向ける。
いきなり、自動小銃を向けられた帝国兵たちは慌てて、二人に対して身構える。
一人は、コンバットナイフを投げようとして右手を頭より後ろに向ける。
もう一人は、AK109を腰の辺りで構えて、二人を睨みながら立つ。
「野郎じゃないし? こうしていれば、捕虜を捕らえたように見えるでしょう? ホラ、はやく手を上げてって」
「なるほど、捕虜に見せれば、この場を切り抜けられると…………?」
「そう言うことか」
「なら、やるしかないな」
しかし、メルヴェは帝国兵たちに脱出計画を話して、ナタンもそれに納得する。
そうして、武器を向けた理由をきちんと説明したために、帝国兵たちは武器を下ろした。
「…………とは言え、正面から逃げるのは無理ね…………ナタンが疑われているから、このままレジスタンスには合流できないし?」
「連合兵も見逃してはくれないだろうし? どうす………………」
正面の奥に見える赤錆びたドアは、地上へとつづく、エレベーターである。
しかし、メルヴェが考える通り、連合側部隊が布陣しているので普通に進む事はできない。
こうして、二人は外への出口を前に、悩むほか無かった。
「ふぅ? 詰んだわね…………? いや、一度きた道を戻りましょう」
「そうだね、出入口は一つだけじゃないし」
悩むより、今は別の出口を探そうと言って、メルヴェは踵《きびす》を返した。
ナタンも、彼女に続いて、さっき通っきた道を戻って行った。
また、帝国兵たちも同じく、二人の後を追って歩きだした。
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