帝国警察は、たった一人だけで戦っていた、ナタンを再洗脳した。
これで、ほぼブリュッセル公園西側は制圧されたと言ってもいいだろう。
他でも、市内に残る連合軍部隊の残党も、帝国軍が掃討戦により、蹴散らし始めていた。
「さあ、ナタン? 帝国警察の制服は懐かしいだろう?」
「いいえっ? さきほど、バイク運転時に変装する際、着用しましたから…………」
大聖堂内を歩き、入口から出てきた、フロスト中尉は後ろに振り返り、嗤いながら話す。
それに、制服姿に制帽を被る、ナタンは無表情で、淡々と返答するばかりだった。
「メルヴェ、ようやく戻って、来られたわね?」
「ええ、本当に潜入任務は大変だったわ、はぁ~~」
「しかし、帝国を勝利に導いたんだから、昇進は確実ね?」
二人の後ろを歩く、ミアは制服姿に着替えた、メルヴェに話かけると、溜め息を吐かれた。
その労を労うため、ベーリットは階級が高くなるだろうと推察して呟く。
「なあ、ナタンも戻って来たし、また全員で遊べるな?」
「いや、まだ、キーランが戻ってないよ?」
女性陣から少し離れた場所を、レオとカルミーネ達は話ながら歩いていく。
「レギナ、ハーミアン…………貴女達も、こちら側に来ていたのね?」
「ええ、警察に捕まっちゃったわ…………それより、まさか、本当に貴方たちが、スパイだったとわね?」
「全然、気がつかなかったわよ? 特に、熱い男のナタンが潜入工作員だとわね」
大聖堂前の左側に立っていた、二人に対して、メルヴェは声をかける。
レギナとハーミアン達も、変わり果てた、ナタンの姿に驚く。
「気にするな…………」
それだけ言うと、ナタンは黙ってしまい、顔色一つ変えなくなってしまう。
メルヴェは、元から冷静沈着《クール》なイメージがあったので、黒い制服を着ていても違和感がない。
対する彼は、正義感と人間味が溢れるレジスタンスの一員だった。
それが、今では感情を無くしたような冷淡かつ冷血な帝国警察の隊員である。
「本当、私より感情が希薄になっているわね」
「殆ど、別人じゃないかい?」
余りの変貌ぶりに、レジスタンス時代にともに戦った、レギナとハーミアン達は呟く。
「隊長、哨兵の配置完了しました………アトラスは現在巡回中です」
「その声はっ!」
大聖堂前の階段を下る、フロスト中尉に背後から声がかけられた。
それを聞いて、メルヴェが振り向くと、一体のシュヴァルツ・リッターが目に入った。
彼の背後には、護衛として、二体のロボット兵アトラス達が居る。
この二体は、防弾盾とグロック17を装備して立っていた。
「そうか、じゃあ護衛として続いてくれ」
「了解しました」
フロスト中尉の命令を聞いて、シュヴァルツ・リッターは、アトラス達を連れて後に続いてくる。
彼は、ベクターSSー77汎用機関銃を両手に持っている。
そして、背部の右側には67式機関銃を、左側には87式自动榴弹发射器などを装備していた。
「貴方は…………」
「武器と声で分かる、ジハード…………久しぶりだな?」
メルヴェは、唖然としながら呟き、ナタンは後ろに振り向きながら話す。
「ああ、お前も元気そうで何よりだ」
それに、ジハードも抑揚のない声と顔で答える。
「あの後、捕まえられたか」
「そうだ、そして、これからも仲間だ」
ナタンが前を歩くと、後ろから、ジハードも彼に続きながら答える。
彼は、警察部隊に捕まった後、すぐに洗脳改造されてしまった。
それから、シュヴァルツ・リッターの残骸や武器兵器を装着されて、護衛兵として就役していた。
「フロスト中尉、レジスタンス員の処刑を開始しますが? どうします? 殺害しますか、それとも我が部隊に加えましょうか」
「ネージュ…………現在、我が隊は四十人以上の大所帯だが、連合軍との戦闘を考えれば、まだまだ戦力は必要だ、我々帝国は増え続けねば成らん」
階段を下りきった、フロスト中尉に現状報告を行うため、ネージュ準尉が近づいてきた。
「クク…………神は言った、産めよ増やせよとっ! ネージュ、では早速だが敵の顔ぶれを見ようじゃないか?」
「はい、こちらに」
フロスト中尉は、嗤いながら滷獲された連合軍の各組織に属する兵士たちを見にいく。
ネージュは、彼を案内しようと警察部隊が周囲を包囲している公園の方へと歩いていく。
「ナタンッ! メルヴェッ! 貴様ら、やっぱり帝国のスパイだったかっ!」
「…………アンタら、本当に最低な連中ねっ!!」
公園には、四列で何十人もの連合側兵士たちが、後ろ手錠と首輪かけられて座らされている。
彼らが、暴徒化せぬように見張るのは、警察隊員とアトラス達だ。
その中には、かつて同じ、レジスタンス組織に属していた、ハルドルとティエン達が存在した。
二人は、黒い制服に身を包んだ、ナタンとメルヴェ達を見るや否や、怒鳴り散らしてきた。
「ふぅ? 黙れ、それ以上喋ると」
「ぐっ! ううっ!?」
「がっ! ぐふ…………アンタって、奴は? がはっ!」
「暴れるなっ! 射殺するぞっ!」
ナタンは、ハルドルとティエン達の腹に、それぞれ鋭い蹴りを放つ。
そして、二人の首輪を、後ろから警察隊員が思いっきり引っ張る。
「喋るなと言ったろう?」
「ぎゃっ! ぐっ! ぅぅ」
「ティエンッ! ナタンッ!!」
ナタンは、素早く右手に、MASー1935を握ると、ティエンの脇腹や腕に何発か弾を撃ち込む。
ハルドルは、それを見ながら叫ぶが、拘束されているため、彼女を助ける事すらできない。
「ハルドル…………どうせ、お前も帝国警察か軍関係の工作員だろう?」
「違う、俺はレジスタンスだっ!」
ナタンは、今度はハルドルの額に銃口を向ける。
「まあ、いい…………どっちにしろ、こっち側に来るんだ? その前に、俺に楯突いた彼女には死んで貰うっ!」
「待て、ナタン…………勝手な行動は慎みたまえ、僕の兵士になる連中を減らさないでくれないか?」
MASー1935の照準を素早く、ティエンに合わせた、ナタン。
だが、その手から銃弾は放たれる事はなく、拳銃はホルスターに仕舞われる。
フロスト中尉が、背後から静止しに入ったからだ。
「はい…………中尉、命令に従います」
「うぅぅ?」
「ティエン、確りしろっ!」
ナタンは大人しく引き下がり、ティエンは腹部から出血してしまう。
ハルドルは、彼女を助けようとするが、やはり何もできず、アタフタするしかない。
「君たち、少し黙りたまえ? でないと、彼や警備兵が撃ち殺してしまうかも知れないぞっ!」
「貴方たちも、もう少し賢く立ち回る事ね」
フロスト中尉とメルヴェ達が、二人に警告すると、背後から警備兵が現れる。
ACR小銃を持つ兵士と、電磁警棒を手にした、アトラスが来たのだ。
「はぁ、はぁ、くたばれっ! お前たち、帝国はっ!」
「ティエン、よせっ!」
「安心しろ…………警備隊員、衛生兵の場所に連れてけ、コイツは活きが良いから戦力になる」
「了解しました」
「了解ですっ!」
ティエンの苦しみながら吐いた罵倒を、ハルドルは止めようとする。
品定めするかのように、ニヤ気ながら、フロスト中尉は、警察隊員と防弾兵たちを呼ぶ。
「全く、勝手な事をしないで貰えないかな~~? ナタン」
「はい、申し訳ありません」
フロスト中尉から苦言を呈された、ナタンは頭を下げて素直に謝罪する。
「ここから、ここまでが、うちの隊で貰う連中だ? 向こう側はザミョール中尉に上げるんだからね」
「分かりました、以後は気をつけます」
四列に並べられた、連合側兵士たちの左側二列を自分たちが引き取る分だと、フロスト中尉は話す。
それを聞いた、ナタンは顔を上げて、捕らえられた様々な人種たちを見回した。
「君も、勇敢な青年だな? その顔で、帝国兵じゃないと言うのは本当か?」
「く…………」
フロスト中尉は、見た目が帝国の人間にしか見えない、ハルドルに話しかける。
「まあ、良い、それはナタンの言う通り、後で調べれば分かる事だ? もし、レジスタンスだったら彼の部下にしてやろう…………警備隊員、コイツも連れてけ」
「ぐっ! クソがっ! お前らを絶対に、ぶっ殺してやるっ!」
「暴れるなっ!」
「このっ! 黙れっ!!」
フロスト中尉に対して、反抗するハルドルは、警察隊員と防弾兵に、電磁警防で叩かれる。
「ぐああああっ!?」
「こいっ!」
「お前は、洗脳改造車行きだっ!」
電気ショックで苦しむ、ハルドルは首輪により警察隊員に引き摺られながら連行されていく。
その背後から、防弾兵はSR16マークスマンライフルを構えながら、罵声を浴びせてついていく。
彼らが向かう先には、コレジアル通りに停まっている黒いウニモグ製トラックがあった。
荷台にある鋼鉄製幌には、二つ窓の間に、白枠に、青いスター・オブ・ライフが描かれていた。
この車両は、負傷者を助ける救急車と洗脳改造を行うバイオ改造車両を兼ねた物だ。
さらに、もう二台ウニモグ武装トラックが停まっている。
上部には、キャリバーM50が、後部両側にはFN、FMGが車載機関銃として搭載されていた。
さらに、上部にPSW化された自動擲弾銃を搭載した、マンティコア装甲車もあった。
こちらも、二台ほど停まっており、後ろの青い幌が目立っていた。
こうして、ほぼ戦いに勝利した事で、帝国側は次々と連合側の兵士達を洗脳改造していった。
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