ビル内では、混戦により最早状況が双方どちらにも分からなくなっていた。
「カルミーネ、敵の居場所は分かるか?」
「いや、全然…………しかし、妙な場所があるな…………」
「あん、なんだ、そりゃあ~~?」
土嚢の裏で、レオは聞き耳を立てるカルミーネに対して、敵が何処に潜むか聞いてみた。
しかし、返ってきた答えに、ソムサックは間抜けな声を出してしまう。
「あの土嚢で補強された、ドラム缶の陰だっ! あそこから敵兵が出てきているっ!」
「よっしゃっ!! そこを潰せば、ここは完全制圧できるんだなっ!」
「早速だが、俺が特攻をブチかましてやるぜーーーー!!」
カルミーネの返事は曖昧な物かと思いきや、見事に敵が出現する場所を特定した。
こうして、続々と現れる敵部隊を潰すべく、レオとソムサック達は走るのだった。
「あっ! 待てっ! 勝手に行きやがった…………」
先に動いた、二人を援護するべく、カルミーネはタンフォリオT95を右手に持ちながら走った。
「行かせるかっ!」
CIS、40、GLグレネードランチャーを、白人民兵が、カルミーネを目標に撃ってきた。
「どわああああっ!? ぎゃっ!?」
その遠くから飛んできた榴弾は、着弾すると、カルミーネをドラム缶まで吹き飛ばした。
しかも、今度は彼の左肩に、硬い何かが勢いよく衝突した。
「な、なんなんだよ、今のは?」
「うらあーー!! 死にやがれっ!!」
カルミーネが右手で、左肩を押さえながら呟くと、今度はエスメラルが現れる。
青銅製の手斧を、両手で握る彼女は、真上から飛びかかってきた。
「殺られるかよっ!」
「ヒューー♪ やるじゃんか?」
ドンッと、床を破壊する衝撃波が、地震のように辺りに伝わったが。
カルミーネは、即座に立ち上がり、バックステップで手斧を避けたのだった。
エスメラルは、面白そうな物を見つけたと言うような目を彼に向ける。
と、同時に再び先手を取って、彼女は石を投げてきた。
「うわ、危ない女性だな? 死んじゃうじゃないかぁ?」
「余裕、ぶっこいてねーーで、死んでくれやっ!」
カルミーネは獣化しながら、右手で鞘からアネラスソードを引き抜いて前傾姿勢になる。
それを見ると、益々エスメラルは目をギラつかせて、彼を獲物として借り取らんと動く。
手斧を片手に走る、彼女は一気に距離を積めてきた。
「くっ! 凄い力だな? なあ、こっち側に来てくれないか? そしたら、ヴァレー・ダオステを一緒き飲もうよっ!」
「ソイツが何だか知らんけど、ナンパなんかしている場合じゃね~~だろ? 雑魚っ!!」
カルミーネは、エスメラルの手斧をアネラスソードで防いではいる。
しかし、完全に力では彼女に押されていた。
「雑魚じゃないよ、カルミーネって言うんだっ! 僕はイタリィーの男だから、できれば、レディーは殺したくは無いんだよっ? それに君は美人だし?」
「しゃべっている暇があるなら戦闘に集中しろっ!! お前はボンドじゃないだろ? ああんっ!?」
カルミーネは、再度バックステップしつつ、今度は急加速しながら前に出る。
エスメラルは、それを舌舐《したなめず》りして、余裕満々で待ち構えていた。
「よっ! こいつで最後だなっ!」
「ぐぅっ! このっ! ダメか?」
手斧を頭より後ろに引いた、エスメラルは打撃を放つかと思われたが。
なんと、彼女は、カルミーネの左膝に回し蹴りを叩き込んだ。
と同時に、手斧が頭を狙って、直ぐそこにまで迫る。
「っと、チッ! 運の良い奴だね、アンタ?」
「うぐあ、ああっ?」
「エスメラル、前に出過ぎだっ!」
エスメラルの手斧が、カルミーネに届く前に、橫から銃撃が飛んできた。
そして、彼女は銃弾を回避するべく、前傾姿勢を取る。
次いで、横っ腹に渾身の一撃を打ち込むと、踵を返しつつ走ってゆく。
それから、土嚢裏から雷撃魔法を放ちまくる、ヨルギオスと合流する。
「前に出るな、殺られるだけだぞっ!」
「めんご、めんご」
ヨルギオスに叱られても、反省する事なく平然と笑う、エスメラル。
その姿を見ている暇なく、カルミーネは近くにあった、防弾板まで走る。
「なんなんだ、あの女は? BF1の塹壕強襲兵か? エリート兵か? それとも、コスプレイヤーか?」
防弾板の裏で、一人ブツクサ言いながら敵が来ないかと、狼鼻と獣耳を動かす、カルミーネ。
「しかし…………美人だったな?」
「美人の顔より、自分の身を心配したら、どうだ?」
聞き耳を立てていた、カルミーネは惚けっとしながらも、背後に素早く振り向いた。
彼は、また敵が来たのかと思ったが、そこには人狼化した、ファルクが立っていた。
「君か…………さっきは済まなかった、どうしても昔を思い出すとね…………」
「良いって、事よっ! それより、あそこから音がするよな? ならっ!」
カルミーネは、気まずそうに、ファルクに喧嘩を吹っ掛けたことに関して、素直に謝った。
その言葉を聞いて、謝罪された彼は、狼顔でニカッと笑いながら、RPGー7を射った。
「ぐわああああっ!?」
「ああーーーーーー!!」
「うわ~~~~~~!?」
「ぎゃああああぁぁーー」
ファルクの射った、弾頭は土嚢とドラム缶を纏めて吹き飛ばした。
「これで、終わりじゃねぇぞ」
今度は、首にぶら下げていた、ダネルMGLをファルクは何発もぶっぱなす。
「不味いっ! クチ・トンネルが塞がれたぞっ!」
「いや、まだ通路や坑道はある、心配ないっ!」
それでも、連合軍兵士による機銃掃射は衰えることなく、土嚢や防弾板から発射され続ける。
「だったら、それが有りそうな場所を潰し…………」
「見つけ次第、破壊してやるっ!」
そう息巻いていた、レオとソムサック達だが、土嚢を越えた途端、空中に何かが飛ぶ。
マンホール型空中炸裂地雷だ。
「不味い、ソムサック、盾になってくれっ?」
「え、おいっ!」
シュッと言う音を立てながら、地雷は回転しながら散弾を振り撒いた。
そして、散弾が二人を襲ったが、レオは重装兵である、ソムサックの裏に隠れた。
カンカンッと散弾が当たる音が響くが、低威力の丸い弾頭は装甲を貫通できない。
それにより、二人とも無事に罠が放った、攻撃を防御できた。
突撃を中断した、彼らは次の攻撃がくる前に直ぐさま土嚢に隠れた。
「かあっ! そう簡単には近寄らせては、くれないか」
「それに、どうする? …………爆弾とか、持っているか?」
敵が出現する場所は、幾つかある遮蔽物やバリケードだろう。
そう考えた、レオは連合軍側の部隊が動く様子を眺めていたが。
ソムサックは、使えそうな物は無いかと、土嚢の周りにある箱を物色しようとする。
その中で、緑色に塗装された、大きな武器ボックスを彼は目にした。
「レオ、この中身は?」
「いや、ソムサックッ! それは開けるなっ!!」
緑色の箱には、爆弾や銃器などが入っているかも知れないと思う、ソムサックは手を伸ばす。
しかし、レオは急いで箱を開くために手を出すのを止めた。
「ソイツは、敵に投げてみろ」
「あ? 分かったよ、オラァッ!!」
レオの指示に従い、ソムサックは緑箱を開けることなく両手で確りと掴んだ。
それから、敵が必死で銃を撃って、守備を固める土嚢へと投げ飛ばす。
「ぐわっ!? な、なんだっ! ぎゃあっ!!」
「うわあっ!? こ、コイツはミミックだっ!」
黒人PMC要員は、開いた箱に生えていた、ギザギザの歯に頭を噛まれた。
次いで、ミミックは高く飛び上がりながら白人民兵の右腕に噛ぶりついた。
「ありゃ、ミミックボックスだったか?」
「じゃなくても、爆発したかもな…………何となく、そんな気がしたんだよ」
ソムサックとレオ達は、暴れまわり、連合軍兵士に手榴弾で破壊されるミミックボックスを眺める。
このように、まだまだ戦局はどちらにも傾いてなく、混迷を極めた。
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