半壊しながらも、カボチャの馬車は走る速度を落とす気配は全くない。
「もう一回、撃ってやるっ!」
「そっちは任せた、俺は上の奴をっ!」
「あのデカイ馬車は、俺がやるっ!」
M79グレネードランチャーを折り、中に榴弾を装填する連合側兵士。
その隣に立つ、兵士も両手で握るM16を、ドラゴンに向かって撃ちまくる。
車内から片腕を出した、兵士はイングラムを、滅茶苦茶に乱射した。
それにより、ドラゴンに騎乗するシュヴァルツ・リッターは対空射撃に焦り、高度を上げ始める。
また、オムニバス馬車の屋上や車内から、弓矢を放っていた兵士達も、身を隠しだした。
「気をつけろっ! カボチャの馬車から、なんか攻撃が来るぞっ!!」
「また、何かやる積もりかしら…………」
ナタンは大声で叫んだが、銃弾を放ちまくり、射撃音を鳴らす、連合側兵士たちには届かなかった。
メルヴェも目を細めつつ、カボチャの馬車が何をしてくるか警戒する。
だが、その時、道路左側から再び何かが飛び出てくる。
「ハンヴィーだっ!! あ、しかも二台も…………」
「うわっ! そんな事より、来るわっ!」
カボチャの馬車は、口から氷結魔法を放ち、分厚く大きな氷壁を作った。
ドンッと辺りに響くほどの音とともに、緑色に塗装された、ハンヴィーが衝突してしまった。
しかし、無事な方のハンヴィーは、上部からM2キャリバー重機関銃を撃ちまくる。
「援軍だっ!! あんな馬車くらい、どうって事はないっ!!」
「死にやがれっ!」
「アホんだらが」
「喰らえっ! 喰らえっ!」
「当たれ…………」
ドドドドと、立て続けに、大口径の12、7ミリ弾を連射する機関銃手。
ハンヴィー上部から放たれた、この射撃により馬車に穴が空いていく。
また、左側の窓からも、M4を連合側兵士が単発射撃で撃ち続けた。
それに合わせて、ダイハツ軽トラの方も、M79グレネードランチャーを撃った。
さらに、荷台からMI6を、側面からはイングラムを連射しまくる。
「凄い火力だっ!」
「あっ! 反撃してくるわっ!」
連合側部隊は、敵を倒すべく銃撃を放ち続けたが、グレネード弾は残念ながら外れた。
そして、近くのビルに当たって、壁面と窓ガラスをを粉々に破壊する。
こう言った、味方部隊の派手な攻撃に、ナタンは感嘆しながら呟くが。
当然ながら、敵も黙っているはずもなく、メルヴェは何らかの動きを察知した。
それは、オムニバス馬車から飛んでくる弓矢による反撃と、カボチャの馬車による強力な雷撃だ。
「ぐわっ!? 雷撃がっ!」
「だあーー! ヤバいっ!」
雷撃は、ダイハツ軽トラに直撃して、大爆発を起こした。
直後、カボチャの馬車も、M2キャリバーによる大口径弾に止めを刺されて、大炎上を起こした。
「ぐああああああっ!」
「ぎゃああああっ!」
爆破四散した、ダイハツ軽トラからは、二名の連合側兵士たちが、悲鳴を上げる声が木霊した。
それと、同時に黒いタイヤが、ナタンの側を頃がっていった。
また、カボチャの馬車も走るだけで、もう何も攻撃はしてこなくなった。
そして、黒いカウボーイハットを被る業者が、四頭のアンデッド・ホース達を馬車から離した。
さらに、奴は隣を並走していた、オムニバス馬車に飛び移っていった。
「カボチャを殺ったが、こっちはトラックを殺られたっ!」
「でも、まだ馬車が残っているわっ! しかも…………上から、またアイツが来るわよっ!」
ナタンは、状況を冷静に見て、落ち着こうとするが、敵は余裕を与えてはくれない。
先ほどから姿を見せなかった、ドラゴンが急降下しながら何かを投下し始めた。
それは、遠目には両脇に抱える、バルカンポッドのように見えたが、全然ちがう物だった。
何故なら、それは音もなく、一気に落下してくるからだ。
彼は目を細めつつ、それを見てドラゴンの両脇にある物が、茶色い樽であることが分かった。
「ヤバい、また減速だっ! メルヴェ、止まれっ!」
「分かっているわ、停止するわよ…………」
ナタンが落下物を避けるべく、バイクを止めて、メルヴェにも同じ事をするように伝える。
その直後、上空から飛来した投箭《フレシット》が、ハンヴィーに命中した。
大量にバラ蒔かれた、コレは第一次世界大戦で使用された兵器だ。
当時は、航空機から投下され、鋼鉄製の矢が重みにより、頭上から敵兵士へと振り注いで攻撃した。
それと同じく、ハンヴィー上部の機関銃手に当たった投箭《フレシット》は左肩から貫通してしまった。
「機関銃が殺られたっ!?」
「俺が変わるっ!!」
ハンヴィーの運転手が怒鳴ると、M4を撃っていた兵士が、M2キャリバー機関銃を握る。
次いで、彼が目の前を走るオムニバス馬車に対して、強烈な機銃掃射を放った。
それにより、今度は何人かの帝国兵たちに命中したらしく、馬車から死体が落ちて頃がってくる。
連中の姿は、よく見ると中世時代を生きた人間みたいな格好をしている。
彼らが着ていた装備は、防弾ベスト、或いはシュヴァルツ・リッターのよう全身防弾鎧ではない。
どちらかと言えば、黒色の動きやすい軽鎧や革鎧を着ていた。
「やったぜ、次は上かぁ?」
「いや、まだ馬車から射ってきやがる」
蜂の巣みたいに穴が空き、ボロボロに成りながらも、オムニバス馬車からは矢が飛んでくる。
また、上空の竜騎士と騎乗されるドラゴン達も、次なる攻撃を放とうとしていた。
ハンヴィーの運転手が呟くと、M2重機関銃を握る兵士は、馬車を睨み付けつつ銃弾を放ちまくる。
「また、上空から何か仕掛けようとしているなっ!」
「対空射撃よっ! 今なら狙い撃ち出きるわっ!」
バイクを止めた、ナタンとメルヴェ達は騎乗したまま両手で、FADを構えた。
そして、二人とも斜め上方に銃を向けると、一緒ドラゴンに対して連射した。
一定速度で、弾丸が連射されるFADは、対空射撃で、牽制するのには向いてない。
だが、その代わりに正確な連続射撃で、航空機などを狙い撃つことが出来る。
彼等による射撃は、段々と撃ち続けられながら、弾がドラゴンに近づいていく。
「チ…………」
竜騎士は、対空射撃が自らに迫るのを感じ、舌打ちしながら危険だと判断した。
こうして、奴が騎乗するドラゴンは、上空へと飛翔していった。
「やったか…………馬車とハンヴィーも行っちまったし」
「きっと、あの様子だと、馬車も何《いず》れは殺られるでしょう?」
バイクを止めたまま、ナタンはFADの弾倉を取り変えつつ、肩から力を抜いて呟いた。
二人で戦っている間に、遠くへと走ってゆく、ハンヴィーを見送る、メルヴェ。
「もう、カボチャは当分みたくないわ」
「そりゃ、そうだね、同感だよ…………」
上空を見上げ、点のように小さくなっていく、ドラゴンに対して愚痴る、メルヴェ。
疲れきってしまい、もう体をどこかで休めたいと思う、ナタン。
しかし、そう考えている時間はない。
帝国軍・帝国警察が、再び襲ってくる可能性があるからだ。
そう思っていた、二人の前に再び騎兵隊らしき、隊列を組んだ部隊が出現した。
「またかよっ! しつこい連中だっ!」
「はあっ! もう一回、戦うのっ!」
ナタンとメルヴェ達は、現れた第一次世界大戦頃の格好をした、騎兵隊を見て驚く。
鶴嘴《ツルハシ》帽子ピッケルハウベを被り、軍服の上に、胸甲を身に付けた、騎兵部隊は突っ込んでくる。
連中は、騎兵槍を片手に、真っ直ぐ突撃を敢行してきた。
「不味い、また突撃されちまう」
「このままだと…………」
窮地に陥ってしまった、ナタンとメルヴェ達は、真っ直ぐ敵に向かっていくしか無かった。
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