激しく回転する、Miー8ヒップCのローター。
この多目的輸送ヘリだが、現在、ラヴィーネ大佐とフロスト中尉たちを乗せて、市内を飛んでいる。
「フフッ! …………昨日は楽しかったな?」
「ええ、お陰さまで寝不足ですよ」
ヘリの機内で向かい合って話す、帝国軍と警察部隊に所属する士官たち。
右側には、ラヴィーネ大佐が座席に腰掛け、左側には、フロスト中尉が腰掛ける。
「アハハッ! 寝不足なのは私も一緒だよっ!」
「アハハ…………はあ? 体力では大佐に勝てませんな…………」
足を組み、柔和な笑みを浮かべ、女神のような優しい眼差しを向ける、ラヴィーネ大佐。
しかし、眼差しを向けられた、フロスト中尉の方はと言うと。
目の下に隈をつくり、疲れきった寝不足気味の表情を浮かべていた。
「何だと…………不満でも有るのか?」
先程の優しい表情を変え、鋭い狼みたいに眼光を向ける、ラヴィーネ大佐。
彼女から、氷柱の如き瞳と、狼が睨むような眼力に気圧される、フロスト中尉。
「いえ、貴女との逢瀬は夢の中に居るようなとても良い心地でした…………しかし、自分は貴女ほどの体力が無くて、少々寝不足でして…………」
「何だ、それくらいっ! 、根性で何とかして見せろっ! 戦場では眠る暇なく、戦わねば成らない時も有るんだぞっ!」
急いで、言い訳を頭に思い浮かべて、直ぐにそれを述べる、フロスト中尉。
そんな彼に対して、説教しながら厳しく叱る、ラヴィーネ大佐。
「全くだらしないなっ?」
「済みません…………」
両腕を組んで溜め息を吐く、ラヴィーネ大佐と、そんな彼女に謝る、フロスト中尉。
「しかし、私に付き合ってくれた褒美は確りと与えてやるぞっ! そうだな? クリスマス・プレゼントにはまだ早いが、多目的攻撃ヘリと、この機と同型の輸送型ヘリを一機ずつ貴様の隊へ配備させる」
「はっ!! 有り難き幸せですっ! このフロスト中尉、ラヴィーネ大佐の期待に答えられる様に精進致します」
ラヴィーネ大佐からの豪華なプレゼントである強力な航空兵器。
それが配備される事に、フロスト中尉は感謝の言葉を述べる。
「ククッ! 答えられるように? ではなく、答えろ…………テロリストの殲滅と言う形でなっ!」
「はいっ! 必ずや」
「御二人とも、そろそろ目的地に到着します」
口角を吊り上げて、悪魔のように被虐的な笑みを浮かべた、ラヴィーネ大佐。
その顔を見て、再び気圧されてしまう、フロスト中尉。
二人の耳に、操縦席からパイロットが目的地だと告げた。
「分かった、さて貴様との楽しい、やり取りも終わりだな」
「そうですね、名残惜しいですが」
ラヴィーネ大佐は、操縦席の方に顔を向け、パイロットに返事する。
フロスト中尉に対しては、再びニヤけた笑顔を向ける。
『…………助かった…………いよいよ地獄の悪魔から解放される…………』
その笑顔に、フロスト中尉は、言葉とは裏腹に、ようやく悪魔から解放されると内心では思った。
「フッ! また補給や人員の補充が欲しければ分かっているな」
「は…………はいっ!」
当然だが、悪魔のようなラヴィーネ大佐が、そう簡単に解放してくれるはずは無い。
フロスト中尉は、補給する度に夜伽に来いと、暗に命令されたのであった。
「投機は間もなく着陸致します」
パイロットが着陸を告げると、Miー8ヒップCは、三階建ての警察署・駐車場上空まで飛行する。
それから、着陸の為に機体を徐々に降下させる。
無事に、Miー8ヒップCが着陸すると左側のドアを開かれる。
そして、中からフロスト中尉が出てくると、それを、ネージュ準尉が歓迎する。
「フロスト中尉、ご苦労さまです」
「ああ? 準尉、出迎えを有りがとう」
「…………」
開いたドアから、地上へ出てきたばかりのフロスト中尉。
彼を出迎えたのは、笑顔でローマ式敬礼をする、ネージュ準尉であった。
その様子を、じっと見ていた、ラヴィーネ大佐は、ニヤリと悪魔的な笑みを浮かべる。
次いで、フロスト中尉に、背後から死神の如く、音もなく近づく。
「フロスト…………チュッ♡ …………」
「はっ!? …………大佐、いきなり何をっ!!!!」
「…………!?」
背後から、突如フロスト中尉を抱き締めた、ラヴィーネ大佐は、彼の頬にキスをした。
「フロスト、嬉しいだろっ♡」
突然の出来事に、フロスト中尉とネージュ準尉たちは驚いた。
そして、顔を少し離すと、ラヴィーネ大佐は満面の笑みで呟いた。
「…………嬉しくは無いのか?」
「いえっ、嬉しいです…………」
「…………」
今にも泣きそうで、悲しげな表情をしつつ、視線を剃らす、ラヴィーネ大佐。
それを見た、フロスト中尉は慌てて嬉しいですと答える。
『…………このクソビッチがっ!! …………』
その様子を、横から見ていた、ネージュ準尉は顔色を全く変えない。
しかし、鷹のように鋭い視線だけは、わざとらしい演技をしている、ラヴィーネ大佐に向けた。
「中尉、お時間が有りませんので…………失礼ですが大佐、我々はもう行かせて頂きます」
「あっ? ああ…………そうだね僕等は任務に行かせて頂くとするか? では大佐、これにて失礼させて頂きます」
フロスト中尉とラヴィーネ大佐たちに、顔色を変える事なく平然と告げる、ネージュ準尉。
『…………ふぅ? これで、やっと逃げられる…………』
その言葉を聞いた、フロスト中尉も、時間が無いなら仕方無い。
と言って、ローマ式敬礼をして、ラヴィーネ大佐に別れの挨拶を告げる。
「それは仕方無いな? 困った時は御互い様だから、何か有ったら直ぐに連絡してくれ」
「はっ! では私は任務遂行の為に出勤致します」
ラヴィーネ大佐が、ネージュ準尉に見せつけるように優しい言葉を、フロスト中尉ける。
すると、彼は返事をして、踵を返しつつ足早に去っていく。
「では、私も失礼させて頂きます」
「ああ、彼の補佐を頼んだぞ」
そんな彼を追う前に、ネージュ準尉は、ラヴィーネ大佐と、女同士の睨み合いになった。
『…………くぅっ!! 私の男を良くも好き放題に…………』
『…………ククッ! 貴様も悔しかったら、出世しろ…………』
平然とした顔を繕いつつも、内心では激昂している、ネージュ準尉。
口角を吊り上げ、冷たい微笑を浮かべる、ラヴィーネ大佐。
『…………女同士の戦いは恐いな…………』
その様子を見ること無く、背後から漂う殺気を読んで、フロスト中尉は恐れる。
無言で、二人による静かな戦いを無視した、彼は警察署の玄関へと立ち去る。
「はやく逃げないと?」
警衛に立つ、警察官たちの間を進み、玄関である自動ドアを通った、フロスト中尉。
その背中を、ネージュ準尉は走って追い掛けて来た。
「準尉、余り大佐を怒らせないでね、彼女のお陰で隊の装備を融通して貰えるんだからさ」
「はい…………申し訳御座いません」
後ろに振り替える事なく、背後を歩いている、ネージュ準尉に優しく語りかける、フロスト中尉。
そんな彼に、非常に申し訳なさそうに、一歩後ろを歩く、ネージュ準尉は素直に謝罪を述べる。
「分かってくれたなら良いさ? それより、も大佐が補充人員と新たな兵器を回してくれるって」
「それは良い話ですね、隊の皆も喜びますよっ!」
フロスト中尉とネージュ準尉たちが話している内に目的地に着いた。
自分達のオフィスである、第三小隊・待機室と、壁上にあるプレートに書かれた部屋だ。
「ああ…………寝ずに朝まで、野獣の相手をしてたし…………ヘリの中では、昔のネージュを夢で思い出してたな? お陰で頭ん中が、ごっちゃだよ…………」
ドアの前で、深い溜め息をはいた、フロスト中尉は、愚痴を呟きながら中に入ろうとした。
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