警察署と化した、グロート・ハイベールデン城では、警察隊員たちが話し合う。
そうして、デリバリー注文した、ピザを食べていた。
「てかさ? ここは、我ら第二小隊に与えらた新しい基地なんだよな?」
「けど、噂じゃあ、直ぐ別の場所に再び拠点を移設するとか?」
「そんなに急いで、帝国は何がしたいんだろうか? 休暇くらいは欲しいよ? なあ、ベーリット」
「ちょっと、ベタベタしないでっ!」
ピザをトマトとともに食いながら、レオが話し出すと、ミアが答える。
カルミーネは、ベーリットの腰に手を回しながら愚痴るが、彼女は真顔で睨みつける。
「あたっ!」
しかも、カルミーネは頬を思いっきり、ぶたれた。
「んーー? てかさ、何で、ナタンはミアと付き合わなかったの? それっぽい噂があったのに?」
「あ~~それね? 実は、私がレオに寝取られた…………んじゃなくて、再開した時は既に、ナタンが、メルヴェに略奪されたのよ」
首を傾げて悩むレギナの疑問に、ピザに手を伸ばした、ミアが答える。
「は? 何それ? え、ちょっ! 何なの?」
「いったい、どう言う事だ」
レギナとキーラン達は、おもいっきり頭上に、?マークが浮かぶ。
「ああ、ナタンと私は帝国侵攻時、一緒に逃げてたんだけど、彼は瓦礫の下敷きで、しかも重傷だったの? まあ、ハッキリ言って、生きるか死ぬかだったわ」
メルヴェは、過去を思い出しながら、皆に語り始める。
「そこに、丁度よく、フロスト中尉が現れたわ? そして、彼を警察隊員に洗脳する代わりに、生かしてくれると持ちかけてきたわ」
フロスト中尉は、悪魔のように迫ったが、メルヴェは彼と契約する他なかった。
「もちろん、その話しに私は乗ったわ」
「後は、偽の記憶を植え付けられて、フロスト中尉に助けられた事を忘れてた訳だ」
メルヴェが静かに語る中、ナタンも自身が全てを忘れていたと真顔で話す。
「当時、ナタン君に私は惚れてたけど、帝国に捕まえられてから再開した時、もう二人は彼氏彼女の間柄になってたのよ…………そこから、私はレオと行動するようになって今に至るわけ」
「その後、ミアはオレと自然にくっついたっ! そう言う流れだな」
「ベーリットと、僕も同じ間柄だよねーー?」
「ええいっ! 離れなさいっ!! このっ!」
ミアとレオ達の説明を聞いていた、カルミーネは、いきなりベーリットに抱きついた。
しかし、彼女は顔を真っ赤にしながら彼の頭を叩いたが、まんざらでも無さそうだ。
その顔は、少しだけニヤけているからだ。
「ぐはっ?」
だが、カルミーネは真実を伏せたまま、彼女を洗脳した本当の理由を語る事はない。
それは墓場まで、持って行く気だからだ。
「まあ、以降はナタンとメルヴェ達は、連合側に幼年工作員として、戻されたのよ?」
「ナタン、レギナ? 帝国兵に変装していた事を覚えてる? 実は、あの時もデータチップを敵に手渡していたのよ」
ミアは、二人がレジスタンス側に所属していた経緯を語り、メルヴェは潜入していた時の事を話す。
「分かっているさ…………メルヴェは、虫型ドローンで情報収集しながら、時おりフロスト中尉にデータチップを届けてたもんな」
ナタンは、メルヴェともに行動する事が多かったので、彼女が潜入中に何をしていたか知っている。
「そう、あの日…………貴方が死にかけてから、幼年スパイになった私達は活動し続けたわっ! ある時はレジスタンス、また、ある時は帝国警察としてね」
「そうだ、大聖堂で全てを思い出した」
「要は、二重スパイだった訳か?」
メルヴェは真実を全て語り、ナタンも真顔で話すと、キーランは不意に呟いた。
「ま、そう言う事だな」
ナタンは、フロスト中尉とメルヴェ達に、絶対の忠誠を誓うように調整された。
「キーランの組織も、内部から腐っていたのよ? フロスト中尉や他の工作局と繋がりがあった見たいね?」
「帝国、連合とどちらも、工作局や諜報部は多数存在する? 足の引っ張り会い&裏切りは日常茶飯事だ」
メルヴェは、キーランの所属していた連合軍組織について語る。
どちらの組織も腐敗しており、昼夜を問わず権力闘争に開け繰れていた。
「それより、こっちに戻った今なら二人の言葉の意味が分かる…………」
ナタンは警察署に潜入していた時、レオとミア達が言っていた言葉を思い出す。
「ナタン…………また一緒に楽しくやろうぜ? 二人で子供の頃のように戦争ごっこの続きをしよう、それに今度はメルヴェも連れて来いよ」
「そうよ? ナタン…………私達は何時でも貴方達を歓迎するわ、だって仲間なんですもの」
レオとミア達は、あの時もナタンが工作員だと知っていた。
だから、彼の変装が気づかれた訳ではなく、単純に懐かしい顔を見たと思っていた訳だ。
「まあ、みんな再び一緒になった、これからは帝国の猟犬として、また頑張ろう」
ナタンは、そう呟きながら、グラスに注がれた安物ワインを飲み干すのだった。
それから時間が立ち、ナタンは地下射撃場に来ていた。
「ん? 誰か熱心な奴が居るな…………」
ナタンは、防弾ガラスに仕切られた、射撃台に小さな人影を見つける。
「ルカ? 熱心だな」
「隊長、ご苦労様ですっ!」
ナタンは、ルカの射撃技術を見ようとして、ゆっくりと近づいてきた。
「全弾、円内には命中しているな? 射撃の腕が上がったな」
「隊長が、僕を改造してくれた、お陰ですっ!」
ナタンは、白い板に描かれた、黒い人影と円形の的を見た。
そこには、ルカが開けたであろう、胸に描かれた円に何発もの風穴が空いていた。
これは、彼自身が言うように、改造手術により、身体能力と筋力が向上したからである。
元の体なら、ナタンを撃っても、殆ど当たらなかった時と同じ結果が出ていただろう。
「まあ、そうだな?」
ナタンは、ルカが笑顔を浮かべるさまを見て、複雑な気持ちになる。
今朝、出会った軍用犬化された、ワーウルフとハンドラーを、彼は思い出すのだ。
帝国警察隊員として、味方を増やす事は当然の義務だが、それでも彼は抵抗感を感じる。
殲滅任務では、二人を殺害しないため、警察隊員に改造する事を選んだ。
しかし、その選択は正しかっただろうか。
彼を、自分と同じ怪物にしてしまった事は、正義なのだろうか。
まだ、レジスタンス員としての記憶と感情が染み付いている彼は、そう悩む。
「俺は人間じゃなくて、アンデッド? レジスタンスじゃなくて、警察隊員…………」
不意に、ナタンは呟いていた。
「隊長?」
マニューリンM73の凛胴を、ずらしながら、ルカは不思議そうに、ナタンを見つめる。
「何でもない、ルカ? 射撃を続けろっ! あと、遠距離射撃時は真っ直ぐ腕を伸ばせ」
「はい、ナタン隊長っ! こうですかっ?」
ナタンは、ルカの射撃訓練を指導しようと、右腕や左肩を掴む。
そして、フロスト中尉と射撃場で、ともに発砲訓練をした事を思い出す。
「ナタン、真っ直ぐ腕を伸ばせ、こうやって、遠距離の敵は狙うんだ? あと、君は優秀だから僕の予備拳銃を進呈しよう」
ナタンは、フロスト中尉が的の頭を正確に撃ち抜いた事が頭に浮かぶ。
そして、彼からMASー1935を貰った時の様子が脳内に過《よぎ》る。
「ナタン隊長、命中率が上がりましたっ!」
「そうか、なら、そのまま訓練を続けろ」
ルカが喜ぶと、ナタンも少しだけ微笑み返す。
「俺は、外で煙草を吸ってくる」
「了解ですっ!」
ナタンが射撃訓練場を後にすると、それをルカは見送った後も発砲を続けた。
「さて? ん、なんだ? サミーラとターリクじゃないか?」
ナタンは、黒い制服と水色シャツを着ている二人の姿を見て呟く。
「分隊長は、今何処に居るかは分かりません?」
「申し訳ないですが、暫くは、お待ちを…………」
「あら、そこに居るじゃない?」
二人とも、黒い制帽には、楕円形の白枠内には、青と黒い模様がある白鷲が紋章と描かれている。
そして、制服には右側から白く光るモッブを垂らしている。
彼等の間には、護衛を連れた、イルメラ大尉が訪ねて来ている姿があった。
「貴女は…………イルメラ大尉?」
「ああ、やっぱりっ! 貴方は、警察隊員だったのねっ!」
ナタンは、鮮やかな長い金髪の美女であり、ニッコリと笑顔を向ける、イルメラ大尉を前に戸惑う。
相変わらず、彼女は右から垂らす、アシンメトリーと青い眼帯で、右目を隠していた。
「あの? なんで、こちらに?」
「なんで、って、貴方に会いに来たのよ?」
頭に、?マークを浮かべ続けるナタンに対して、イルメラ大尉は何気なく笑みを浮かべて答える。
「それだけのために、こちらへ…………」
「貴方は平隊員、私は大尉? よって、上級将校の命令は絶対よね?」
ナタンは、急に押し掛けてきた、イルメラ大尉に驚くが、彼女は将校と言う立場を利用してきた。
「悪いけど、彼は借りていくわね?」
「は?」
イルメラ大尉は、ナタンの腕を掴むと無理矢理ひっぱりながら連れていく。
「あの? 僕には既に、パートナーが…………」
「あら、そうなの? でも、私は大尉よね?」
ナタンの左側から、イルメラ大尉は腹部に硬い物を押し付ける。
「あ、そうでしたね? 済みません」
「分かれば、いいのよ」
ナタンは、それが銃口だと気がつき、イルメラ大尉に逆らわない様に大人しくする。
「さて、中に入りましょう」
「了解です?」
城の敷地内には、真っ青なランボルギーニ・ガヤルド・ポリツァイが駐車してあった。
本来は、パトカーとして使用される車両だが、ガラスは黒いスモーク使用となっている。
後部座席を開いた、イルメラ大尉は、ナタンの黒ネクタイを強引に引っ張り込んだ。
「全てを思い出したでしょう? 公営住宅で、私を救ったヒーロー」
「ええ、今は警察隊員に戻りましたので」
暖かみのある肌と、深海を思わせる、ウルトラマリンに光る瞳。
コーンフラワー・ブルーのぷっくりとした唇。
イルメラ大尉の美しさに、ナタンは顔を剃らさず、真っ直ぐ見つめる。
彼は、ドアを閉めると車内で、二人だけの時間を長く過ごした。
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