「まだまだ、火炎瓶が足りないようだな?」
「ぐああああああっ!?」
「ぎゃーーーーーーーー!!」
そう言って、ウェストは火炎瓶を周囲に投げまくり、火の海を作りまくる。
ガシャンガシャンと割れる瓶の音が広い空間内に木霊する度、帝国側部隊員も叫び声を上げる。
手術により痛覚を遮断された帝国兵も、流石に脳ミソまでは改造されてはいない。
炎と油が全身を包み、脳まで黒焦げにされた彼等も痛みを感じるワケだ。
「ぐっ! 撤退だっ!!」
野戦帽を被った下士官らしき、帝国兵が撤退命令を下すと、他の帝国軍兵士たちは後退し始める。
「殿は任せてっ! みんな、先に逃げてっ!」
「ぎゃああぁぁぁぁっ!?」
「うわ、うわあーーーー」
「先に行けっ! 」
「ぐ、ぅ…………」
帝国側部隊の中でも、ウシャンカ帽を被ったウィザードは手から炎を噴射し続ける。
オーガーは、装甲がズタボロに成りながらも、PKP機関銃を撃ちまくった。
火炎放射のように噴射された、ウィザードが発した火炎は塹壕に籠る、レジスタンス員たちを焼く。
オーガーのPKPによる銃弾は、誰にも当たりはしないが、注意を惹くには充分だった。
「RPGはないが、これを喰らえっ! パイナップルだっ!」
火炎魔法や7、62ミリ弾が自分たちに来ない内に、ウェストは手榴弾を何個も投げた。
それは、コロンコロンと音を鳴らしながら転がり、ウィザードとオーガー達の足元まで向かった。
「しまっ!」
「う…………」
そう言った瞬間、二人は爆風に身を包まれ、跡形もなく吹き飛んだ。
しかし、彼等が時間を稼いだことで、他の帝国側兵士たちは無事に撤退して行った。
そうして、広い空間内で戦闘が終わると、ギデオン達とウェスト達は合流する。
「そっちは無事だったか? 戦闘は激しかったようだが」
「いや、一人負傷した……だが、一人だけスパイを炙《あぶ》り出した」
ウェストが、ギデオン達に近づいて話しつつ、倒れた、クラークを見ると彼は察する。
軍隊においては、味方兵士の士気が下がらぬように戦死も負傷と呼ぶ。
ウェストも、元はアルメア合衆国の特殊部隊員だ。
だから、それを直ぐに理解した。
「はっ! スパイだとっ!」
ウェストは、ギデオンの口から発せられた言葉に驚愕する。
「ウェスト、スパイはサビナだよ…………」
「コイツも洗脳されていた、ワケね?」
サビナの死体を蹴った後、ハキムは懐に何かないかと探る。
また、額のど真ん中に穴が開いているとは言え、油断せずに、ハーミアンは銃を構える。
「ん…………これはっ!? ナザールボンジュウッ!!」
「これが見つかったって事は、メルヴェは無実って、事になるわねっ?」
「いや、まだそうとは言えん…………確かに、コイツは工作員だった? だが、メルヴェがスパイではないと言う確証もない」
ハキムは、サビナの死体を探り続けていると、ふと、平たく丸い物を見つけた。
それを取り出すと、青い瞳の御守りである、ナザールボンジュウだった。
これにより、ハーミアンは、メルヴェが無実だと思ったのだが。
ギデオンは、まだ彼女が工作員であるかも知れぬと非情な事を言う。
「それより、データーは良いのか?」
「アレは偽物だ、工作員を炙り出すための罠だよ」
持ち去られた最重要機密の入っている、USBメモリだが、それをウェストは心配する。
しかし、ギデオンは不適な笑みを浮かべながら罠であると告げる。
「さあ…………もう、そろそろ入口付近で、奇襲部隊が待機しているはずだ、我々もそちらに行こう」
「そうだったのか…………SASやMI6には敵わんな」
ギデオンは、L85A3のマガジンを取り換えると、直ぐに走り出す。
それに続いて、ウェストも同じく駆け出し、急いで帝国側部隊を追う。
二人を含む、連合側部隊が向かう先は、帝国兵たちが逃げて行った洞窟だ。
その最中、会話に登場した部隊名だが。
片方は、ヴリティン軍・空挺特殊部隊であり、歴戦の猛者で構成されている。
もう片方は、ヴリティン内務省の対外情報局であり、いわゆるスパイ組織である。
こうして、彼等が行ってしまうと、他の兵士やレジスタンス員たちも後を追って洞窟に行く。
または、アチコチに掘られた小さなトンネルを通って、敵の不意を突こうと向かっていった。
「どうやら、全員が行ってしまったようだ……」
「ええ、そうね、それより私達も出口に向かうわよっ!!」
誰も居なくなった広い空間で、ナタンとメルヴェ達は静かに動き出す。
「しかし、サビナが敵のスパイだったなんて」
「彼女は、アジールヴァジャン出身、つまり私と同じ民族なワケ…………」
ナタンは信じられないと言った様子で、サビナの死体右脇を通りすぎる。
メルヴェも左側から通過しながら、彼女の事を語りだす。
「アジールヴァジャンは、国こそ違えど、テュルク系民族の国だわ……」
メルヴェが語る通り、サビナの故郷である、カフカース地域にある国アジールヴァジャンだが。
ここに住む人々は、テュルク系の民族であり、故に彼女も、ナザールボンジュウを所持していた。
それ故、同じ御守りを持つ、メルヴェが疑われたのだ。
「…………そうだったのか、やはり君はレジスタンスの一員だね」
「そうよ、ナタン…………貴方も絶対に、スパイじゃないわ」
そう言いつつ、ナタンとメルヴェ達は洞窟の中に入ってゆく。
ここは、さっきの広い空間よりも薄暗く、湿気でジメジメしている。
そして、二人は洞窟内の先に、鉄製で赤いドアがあることを視認する。
しかし、ドアは開かれており、その先には、コンクリートでできた通路が見えた。
「相変わらず死体だらけだな…………」
「敵味方のね?」
ここでも、激しい戦闘が繰り広げられたのであろう、双方に属する兵士が骸と化して転がる。
中には、壁から出てきた鎌や長い槍によって、刺し殺された帝国側兵士の死体もある。
レジスタンス員や連合軍兵士も、雷撃魔法か火炎魔法に殺られたのか。
上半身が、黒焦げになって転がっている遺体もチラホラと見える。
焦げ臭さと血の臭いを嗅ぎつつも、ナタンとメルヴェは通路を走り抜ける。
「T字路ね…………出入口は右よっ!!」
「分かっているよ、先に行こう」
メルヴェの言葉に、ナタンも答えつつ、二人で右側へと素早く曲がる。
だが、そこに帝国軍の別動隊が襲来した。
「死ねっ!!」
「うわあっ!?」
「動くな」
「ぐぅ? 背後を取られたのね?」
コンバットナイフを片手に、帝国兵はナタンへと斬りかかって来た。
背後からは、帝国兵がメルヴェの後頭部に、AK109を突きつける。
「この刃に斬られたくなければ、動くなよ?」
「お前も撃たれたくないなら、大人しくしろ」
コンバットナイフの切っ先は、ナタンが動けぬよう首筋に当てられる。
AK109の銃口も、メルヴェに両手を上げさせて降伏させる。
「く…………」
「レジスタンスか、それとも連合軍か?」
「どっちでも良い、人質になればな…………」
「人質には成るけど、どうするの?」
ナタンが苦渋の表情を浮かべる中、帝国兵たちは二人をどう使うかと話す。
そんな中で、メルヴェだけは呆気らかんとした表情で、帝国兵たちに話しかけた。
「勝手に喋るな、死にたいのか?」
「黙らないと撃つぞっ!!」
「はぁ~~はいはい、これでも、まだそう言えるのかしら?」
ナタンに切っ先を向ける帝国兵は、メルヴェに怒声を浴びせる。
彼女の背後で、銃を握る帝国兵もまた同じく怒鳴りだす。
しかし、彼女は落ち着いた表情である物を彼等に見せた。
「これ、分かるわよね?」
それは、青き瞳である、ナザールボンジュウが付いた指輪であった。
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