ナタンとイルメラ達は、白いベッドの上で向かい合っていた。
「どう、醜いでしょう? 前に難民から暴行されてね…………治そうと思えば治せるし、一度治療したけど違和感がしてね?」
己の顔を醜いと言って、顔を暗くさせながら隠すように俯く、イルメラ。
彼女に対して、ナタンは何と声を掛ければ良いのか分からず、黙ったまま話を聞く。
「…………だから、私はグールとして、帝国の警察官になったの…………」
イルメラは、ナタンの方に向き直ると、悲しげな表情で、自身が経験した過去を語りだす。
「ケレンの大晦日事件の事は知っているかしら?」
「知っているよ…………」
イルメラからの問いに、小さな声で静かに答える、ナタン。
そして、さらに悲しげな顔で、彼女は淡々と語る。
「あの後もずっと、難民の男達はハンザの女性を襲っていたのよ…………私は彼等から酷い扱いを受けてね? この傷はその時の物よ」
イルメラは、自らの傷ができた理由を、すごく嫌そうな顔をしながら語った。
2015年、ハンザ連邦合衆国、ドイツェル州、ケレン市。
ケレン大聖堂にて、発生した難民達による大暴動。
これは、後にケレンの大晦日事件と呼ばれた。
その後も、連日ハンザ連邦では、難民による女性に対する暴力事件が多発していた。
「きゃああっ!?」
イルメラもまた当時は警察官として、ケレン市内の巡回に当たっていた。
その時、彼女は運悪く、複数人からなる難民に捕まってしまい、酷い暴行を受けてしまった。
「大人しくしろっ!? このアバズレ」
「早く黙らせろっての?」
路地裏の地面へと、アラビ人と黒人たちから押し倒された、イルメラ。
泣き叫び、必死の思いで抵抗する彼女を動けなくするため、両手両足を掴んだ、難民たち。
それから、浅黒い肌の男が彼女に覆い被さり、凄まじい暴行を加える。
彼等は、交代しながら暴力を振るい続け、彼女を乱雑に扱う。
「へへっ! ようやく、大人しくなったか」
「これだけ、やったら後は…………」
イルメラは地面に倒れたまま動けないでいると、アラビ人と黒人たちは、やっと満足したようだ。
そして、ぐったりとする、彼女に対して、さらに惨《むご》い行為が行われる。
「アバズレには…………これが、お似合いだぜっ!?」
「ハハッ! 違いねぇ~~」
「いやっ! これ以上はやめてっ!! 酷い事はしないでっ! …………ギャアアアアーー!!」
アラビ人が、ライター火に火を着けると、イルメラの顔面を炙る。
また、他にも、黒人が彼女の頭を後ろから、ガッチリと押さえつける。
段々と燃え広がる、顔面の熱さと痛みに彼女は泣き叫ぶ。
しかし、誰も助けには来なかった。
「へへ…………これで嫁の貰い手は来ねぇな?」
「良かったら、俺が貰ってやろうか?」
「ぎゃははははっ!!」
散々暴行を加えた難民達は、彼女を路地裏に置き去りにして、何処かへと去って行った。
あの後、すぐに彼女は、ふらつきながら近くに存在した病院にまで歩いていき、診察を受けた。
しかし、怪我や顔の傷よりも、彼女は精神がズタボロにされていた。
こうして、PTSDだと、後に精神病院で診断される結果となった。
「アバズレには…………これが、お似合いだぜっ!?」
「ハハッ! 違いねぇ~~」
「ぎゃあああっ!?」
自宅にあるベッドの上で、悪夢に魘《うな》されて、飛び起きた、イルメラ。
その顔には汗が滲み、火傷を負った額は、左側から髪を伸ばして、アシンメトリーで隠されていた。
毎夜、悪魔がごとく夢に現れる、下卑た笑いを浮かべる難民達。
こうして、夢の中でも難民達に襲われた悪夢を、毎晩何度も彼女は見ていた。
「何故ですっ! 私は難民達に暴行を受けましたっ!!」
「そうは言っても、上層部の命令なんだよ…………」
それから数日後、イルメラは暴行を受けた警察に訴え、難民達を捕まえようと努力した。
しかし、難民達を捕らえても、弁護士や警察の上層部が、犯罪者である難民を庇ってしまう。
警察署長に直訴した、イルメラだったが、それも空しく終わった。
こうして、彼女は絶望の底に叩き落とされてしまった。
「だから、私は…………」
あれから彼女は、復讐に身を捧げるべく、一人で、難民達に対する報復の機会を待った。
何人かの仲間と行動をともにしたり、下手に動けば、ネオナチとして、捕まるかも知れないからだ。
だから、ひたすら孤独と恐怖に耐えながら、彼女は事を成就する密かに機会を伺っていた。
「誰かしら?」
それから、復讐を果たす時を、一人淡々と待つ、イルメラだったが。
彼女が帰宅して、アパートの玄関ポストに目を向けると、一通の手紙が入っていた。
「私に? 何の悪戯《イタズラ》よ…………」
イルメラに届いた一通の手紙、それは差出人は不明で、中身は怪文書みたいだった。
そこには、行動を起こすのは止めろ、その時を待つんだ。
反旗を翻す時期がきたら、大勢の傷付けられた女性たちとともに立ち上がるんだ。
とだけ、書かれていた。
「何コレ? ネオナチかしら…………」
文書の内容を読んだ、彼女は気持ち悪いと思い、ただ紙を破り捨てるだけだった。
それから、また年月は流れた。
ハンザ連邦合衆国、ドイツェル州、ケレン市、ケレン市庁舎前。
「リーカー市長、反乱軍が目前まで迫って居ます、どうか脱出を」
「分かっているわよ、クズどもの分際で私に楯突くとはっ!?」
ケレン市に勤務する、スーツ姿の役人は、上司である、リーカー市長を避難させようと提言する。
その言葉を受けた、彼女は部下に怒鳴り散らしながら返事する。
彼女は、傲岸不遜な女性政治家、メッケル大統領の友人にして、悪徳政治家として有名だ。
「ったく、面倒な事態になったわね?」
さらに、リーカー市長は、メッケル大統領の部下である高級ホテル経営者ホリッキー氏とも友人だ
彼女は、彼が所有するホテルに対して、大量のアラビ・アフレア難民たちを収容させた。
それにより、多額の難民補助金を、ケレン市から受給して、私腹を肥やしたと言うわけだ。
さらに、彼女はケレン大聖堂事件の時も、難民達に暴行された、女性達に対しても態度が酷かった。
暴行された理由は、ドイツェル女性達の方に、問題があったからだと言ったからだ。
そして、自らが市長であるにも関わらず、余りにも市民の生活を考えては、いなかった。
彼女は、難民支援にばかり、市が徴税した税金を湯水の如く、注ぎ込んだりしていた。
それだけに飽きたらず、彼女が難民に仕事を提供すると、集会で失業者の事を試みない発言もした。
その時には怒り狂った、ドイツェル人に腹を刺されたりするなど。
こう言った、様々な人々から、顰蹙《ひんしゅく》と侮蔑の視線を浴びる、人物なわけだ。
「リーカー市長、こちらです」
「言われなくても、分かっているわよっ!!」
警察官たちに誘導され、護送用の乗用車に乗り込もうとする、リーカー市長。
「な、何を? 何故…………はっ!?」
「裏切り者めっ! お前のせいで、私達は…………私はっ!!」
しかし、その場に居た数人の警察官たちが、いきなり、リーカー市長に向けて襲いかかった。
彼等は、彼女に向けて、H&K、USPから銃弾を何発も放つ。
当然だが、そこには怒り狂う、イルメラの姿もあった。
「うぎゃああああっ!!」
警察官たちから何回も銃撃を受けた、リーカー市長は、凄まじい悲鳴を上げる。
こうして、彼女は目を見開いたまま、真っ赤な血液を撒き散らして呆気なく死んだ。
「はぁ…………」
かなり強く、H&K、USPを両手で握っていた、イルメラは肩から力を抜いて、両腕を下げた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!