帝国軍・帝国警察は、多数の重傷者を出しており、野戦病院をアトミウム広場に設置していた。
「病院すら足りなくなるとはね?」
「隊長っ! 市内の病院は、ほぼ半数も敵が占領しているそうですっ!」
「負傷者の治療だけでなく、我々同様ミュータント化しているようですね」
フロスト中尉は、野戦用テントから出て、円形の噴水を眺めながら歩いて呟く。
その後を、レオとミア達が続き、三人は軍用トラックが並ぶ、駐車場左側へと向かっていく。
「君達は優秀だし、頑丈な体で良かったよ? まだ、少し辛いだろうが、もう戦闘に戻って貰うよ」
「まあ、改造を施された、アンデッド兵ですからね」
「それに、戦線復帰できたのは、リッチや移動型治療マシンのおかげです」
後ろに振り向いた、フロスト中尉は、レオとミア達を褒め称える。
そして、彼は銀色に輝く原子力を表現した巨大オブジェ、アトミウムを眺めた。
「まあ、それより他の連中も見に行こうか?」
「何処へ行く、お前の血も吸わせろ?」
フロスト中尉が、何台も並ぶ軍用トラックMAZー537まで行こうとするが。
その後ろから、いきなり、ラヴィーネ大佐が現れた。
「大佐? なんで、こちらに?」
「軍上層部は、方針転換した…………住民を即刻、洗脳するか殺処分しろ? だ、そうだ」
フロスト中尉が、急に後ろから現れた驚きながら、ラヴィーネ大佐に質問する。
それを聞いて、彼女は面倒そうに答えながら車両が走る音を聞いて、そちらに振り返る。
「来たぞ、私のご馳走だ」
「はあ? ご馳走ですか?」
黒い車体に、横に青線を描いた、ウラルー5323ベース暴動鎮圧用放水車が、駐車場に到着した。
それを見て、ニヤリと嗤うラヴィーネ大佐と、怪訝な顔をするフロスト中尉。
「さあ、出ろっ! このやろうっ!」
「さっさと、歩けっ!」
「ぐっ! てめえっ!!」
「私は、民兵じゃないわっ!? ねぇ、助けてっ!!」
車体右側のドアが開くと、中から重装備であるラトニクを装備した防弾兵が、二名登場する。
二人は、中から次々と後ろ手に手錠を掛けられた、民兵や民間人を次々と荷物のように放り出す。
「お前ら、もっと早くしてくれ? 私は腹ペコなんだ」
「はっ! 了解しましたっ! おい、急ぐぞっ!」
「そうだな、高級将校は怒らせられんっ!!」
「貴様ら、絶対に殺してやるっ!」
ラヴィーネ大佐に催促された、二名の防弾兵たちは、捕らえた連合側兵士を放出する作業を急ぐ。
そんな中、一人の白人民兵が生意気な事を言いながら反抗した。
「あん? お前、誰に口を聞いているのか、分かっているのか? ああっ!!」
「ぐぅぅ…………」
怒鳴り散らしながら、ラヴィーネ大佐に、顎《アゴ》を蹴られた、白人民兵は苦しむ。
さらに、彼女は黒いブーツで背中を踏みつけながら後頭部に、ライヒスレボルバーを突きつける。
「ゴフッ! ごがああっ!」
「いやあーーーー!?」
「うるさい、死にたいのかっ!」
「ヤバイな、殺されるぞ」
「黙ってろ、俺達まで殺られちまうぞ」
背中を圧迫された、白人民兵は血反吐を撒き散らしながら苦悶の表情を浮かべる。
それを見て、女性民間人は驚きのあまり泣き叫ぶ。
悲鳴を聞いた、ラヴィーネ大佐は、ブチキレながら彼女に、ライヒスレボルバーの銃口を向けた。
囚人護送車に乗っている二名の防弾兵たちは、彼女が見せる狂暴性に畏れをなす。
「まあ~~? お前たちは殺さん、殺さないが精神だけは殺す…………」
「それは、洗脳するのがっ?」
「いや、それだけはっ!」
ラヴィーネ大佐の言葉に、民兵は口から血を垂らしつつ恐怖する。
女性民間人も、再び大きな声で叫びながら、ジタバタと踠き続ける。
「いったい、何をするんすかね?」
「かなり、ヤバイ雰囲気ですよ?」
「いいから、黙って見てな? 彼女は上級アンデッドだからね…………やり方は派手なんだよ」
レオとミア達は、急に重たい雰囲気が辺りを包んでしまった事に怖じ気づく。
重圧が辺りを支配する中、フロスト中尉も真剣な顔をしながら、ラヴィーネ大佐を見守る。
「さて、それじゃあ~~? 早速、部下を増やそうか?」
「ぐっ? や、や止めろーーーー!?」
「きゃああああああーー!?」
「ぐああああっ!?」
「うぐぅぅぅぅ、うああああっ!」
ラヴィーネ大佐の大きく開かれた口から一気に、真っ青な蝙蝠《コウモリ》と鼠《ネズミ》が噴出する。
それらは、囚人護送車の前に投げ捨てられた捕虜たちに、真っ直ぐ向かっていく。
蝙蝠や鼠たちは、吸血と食人を繰り返しながら、やがては傷口から中に溶け混んで行く。
こうして、体内に吸血ウイルスが侵入した彼等は、少しの間だけは叫んでいた。
しかし、やがて急に大人しくなる。
「アヒャヒャッ! おい、命令だっ! あっちのトラックまで行けっ!」
「うげ、うごっ? ぎぃ?」
「ギャピーー! ぴぎゃぴぎゃ」
嗤いながら、ラヴィーネ大佐は何台もトラックが並ぶ駐車場の奥にある太木を指差した。
そこには、戦車などを運搬する大型軍用トラクター型トラック、MAZー537が停車している。
荷台には、黒い貨物コンテナ状の細長いプレハブ小屋が搭載されている。
そこには、野戦病院を示す、スター・オブ・ライフが描かれていた。
「ククッ! このままでは、低級なヴァンパイアしか作れんからな? あっちで色々な兵種に改造して貰うんだぞ」
ラヴィーネ大佐の嗤い声を聞いた、低級ヴァンパイアと化した顔面蒼白な捕虜たちは立ち上がる。
彼等は、二名の防弾兵たちにより、手錠を外されると列を成して歩きだす。
こうして、洗脳された捕虜たちは全員指定された大型トラックに行った。
「大佐、流石ですっ!」
「だろう? ククッ! これから私は前線である、アストリッド公園に向かう? 後は任せたぞ」
フロスト中尉がゴマを擦ると、ラヴィーネ大佐は上機嫌で踵を返して歩いていく。
「防弾兵、連中は武器を手に取ったら、ヘリコプターに乗るように指示を伝えておけ」
「ハッ! 了解しました」
「必ず、伝えておきます」
ラヴィーネ大佐は、鋭い目付きで、二名の防弾兵たちに命令する。
そして、彼女はMiー17ヘリが降下してくると、登場員により開かれたドアに入って行った。
「ヤバかったな」
「ああ、上級将校は恐ろしいぜ」
ラヴィーネ大佐が居なくなると、二名の防弾兵たちは緊張を解く。
そして、ウラルー5323ベース暴動鎮圧用放水車は、次なる人員輸送のために走り出して行った。
「居なくなったか? 昨日の戦闘で、重傷を負った者も回復した事だし、全員集合させよう…………我々は、軍や警察を問わず、他の部隊が揃ったら全軍で突撃する」
「隊長、それは?」
フロスト中尉が、真剣な表情で語った事に、レオは驚く。
「ああ、決戦だよ? 奴ら、ピレネーを越えたばかりか、パリを避けて進軍してきたらしいね?」
「今のところ、敵の航空機はドローンばかりだと聞いてます」
フロスト中尉は、連合軍の本隊が到着する前に、市内で反帝国運動を続ける部隊を壊滅させる。
それを、上から通達されていたから、発した言葉だった。
ミアは、それを聞いて、飛行ドローンの部隊が到着していると不安げな顔で言う。
「心配ない、こちらもドローンと兵士たちなら揃っている」
「うわああっ! あ? ぁぁ…………」
ウラルー375が、駐車場に続々と到着すると、荷台から兵士達が降りてくる。
そして、テプルシカと言われる鉄道用の牽引貨物車を、改造した青い牽引車から捕虜を連れ出す。
フロスト中尉が空を見ると、スキャット無人航空機が、二機体制で回転しながら旋回飛行していた。
それから、急に聞こえた悲鳴に、三人は振り向いた。
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