「うわわっ! 火炎が…………」
「無事? ナタン?」
火炎瓶により、ナタンの周辺にまで炎が広がってきて、路上に積もる雪を溶かす。
急いで、ティーグルMから離れた彼の元に、メルヴェが寄ってきた。
「ああ、何とか? 敵も殲滅されたらしいし?」
「そうね、あの炎と上からの銃撃じゃあ…………」
帝国兵たちの死体は、道路に出てきた民兵たちに蹴られたり、叩かれたりしていた。
ナタンとメルヴェ達は、それを疲れた表情で眺めつつ立ち尽くす。
「おい? お前たち、ただの民兵じゃないな?」
「なら、さっさと着てくれっ! 一緒にワイン・パレスに向かうんだっ!」
「グリズリーに乗ってくれ、乗り手は死んじまったからな」
「分かった、今行くっ! メルヴェ、機関銃手は任せた」
「OKよ、後ろは任せてねっ!」
グリーン・シュヴァリエから、いきなり二人は声をかけられた。
赤いベレー帽の連合側兵士は、一緒に着いてくるように伝えた。
そして、フリッツ・ヘルメットを被る連合側の兵士は、ヤマハ・グリズリーを指差す。
ナタンとメルヴェ達は、指を指された軽車両に走ってゆく。
「おっと、死体から武器とベストを…………」
走る途中で、帝国兵の死体から、タクティカル・ベストを剥ぎ取る、ナタン。
それと、同時に彼は近くに落ちていた、AK12も拾う。
「メルヴェ、乗ったか?」
「今、乗ったわ……出していいわよっ!」
ヤマハ・グリズリーの運転席に座った、ナタンは後ろに声をかけた。
メルヴェは、牽引トレーラーに付けられた装甲の中に、ドアを左右に開いて入った。
装甲の上には、アルメア製、OPGK防盾《ぼうじゅん》が備えられていた。
これは、本来ハンヴィー上部の機銃マウントに取り付けられる物である。
「出すぜ、いいか?」
「いいわっ!」
ヤマハ・グリズリーの防弾装甲が無い運転席と、装甲板に覆われた牽引トレーラー。
これらは、ややチグハグな印象を与えるが、それでも連合側の貴重な機甲戦力である。
そして、ナタンとメルヴェ達が乗ったと同時に、周辺で停まっていた車両部隊も動き出す。
アルメア製、RGー33トラックが走り出すと、後の車両も続く。
「いったい、どうする気なんだ?」
「退かすのよ」
RGー33トラックだが焼け焦げた、偵察装甲車フェネック&輸送装甲車フクスに向かっていく。
そのうち、損傷が酷く、ほぼ破壊され尽くしていた、偵察装甲車フェネックに衝突する。
そうして、邪魔な障害物を取り除きつつ道を開いた。
ナタンとメルヴェ達は、それを見ながら一番後ろの列に加わり、ヤマハ・グリズリーを移動させる。
その途上、敵味方が死体と化して、雪つもる路上に横たわる姿を二人は目にした。
先ほどの戦闘で、フェネック&フクス装甲車から出てきた敵兵と、応戦していた連合兵だろう。
二人が、ティーグルM部隊に奇襲をかけている内に、反対側でも激闘が行われていたのだ。
「部隊が移動を開始するっ! 急げっ!」
RGー33トラックから、指揮官らしき紅ベレーの黒人兵士が声を上げる。
「気をつけろ、ここは荒野のウェスタンだ…………てか?」
「ふざけてないで、警戒は怠らないでね」
ナタンは、不意に口から有名な戦争ゲームの台詞を出した。
そんな彼に対して、メルヴェは注意しつつ、M60車載機関銃の照準を、屋上や屋根に合わせる。
すると、帝国兵から武器や装備を取った民兵たちは、すでに姿を消していた。
そうして、二人の乗った、ヤマハ・グリズリーは敵装甲車の残骸を通り抜ける。
ここは、T字路となっており、この奥から敵装甲車部隊が出てきたんだろうと、二人は思った。
「この先は気を付けるぞ」
「そうしてね…………」
ナタンは前を走る車両部隊に合わせ、ヤマハ・グリズリーの速度を上げはじめる。
メルヴェは、背後から奇襲を受けないように気を緩めず、防盾の中から呟く
そんな二人は、左側にあるジョンクシオン通りをすぎると、歴史的な建物を見た。
帝国により青灰色に塗装された、ミゾン・アイノン博物館だ。
「この先、右側にまた横道がある」
「…………分かったわ、警戒するわ」
前を走る、ゲッコー、RDLVの後部には、グリーン・シュヴァリエが乗っている。
そして、彼は自らが握る、ミニミ分隊支援火器を広い道路である、オー=ポン通りに向けている。
そこを、ナタンが通りすぎる際、メルヴェも同じ方向に、M60車載機関銃の銃口を動かした。
しかし、運良く敵は現れなかった。
「しっかし、ワイン・パレスってのは何処だ? 刑務所じゃなさそうだが?」
「たぶん、この方角から察するに、ブリュッセル宮殿と、その周辺じゃないからしら」
何事もなく、凍った道路を走行していく、連合軍・車両部隊の車列。
その進行上に、敵影はなく安全に移動を続けている。
しかし、気を抜く事はできない。
そこかしこに、敵味方を問わず、伏兵が潜んでいるからだ。
RPGやドラグノフなどを含む、対戦車用・狙撃用の武器を持った誰かを警戒せねば成らない。
この静寂は、不気味で言いようがない緊張感が漂う。
「交差点だ、敵は居ないよな?」
「BTRよっ! 右っ!」
広々とした交差点を、ナタンが運転するヤマハ・グリズリーが通行している最中、危機が迫った。
右側から猛スピードで走る、BTRー70装甲車を見つけたからだ。
「いや、アレは味方だ…………」
「そうね、緑色だわ?」
近くまで来たのに、攻撃してこないBTRー70を不思議に思った、ナタンは味方車両だと気づく。
メルヴェも間近で見て、緑色の車体だと分かり安堵した。
そうこうしながら、二人を含む部隊は、交差点を通りすぎてゆく。
彼等が敵と勘違いした、装甲車は、そのまま真っ直ぐ走って行った。
「行ったか? は、前を見ないとっ!」
「安全運転、よろしくね」
そう言いながら、味方の車列に着いてゆく、ナタンとメルヴェ達。
彼等の左側に広い横道が見えた。
そこはV字型になっており、手前にだけ道路が両方の道に繋がっている。
奥にある、もう片側はパソコンショップの敷地らしく広い歩道がある。
しかし、そこに突如、装甲車が現れた。
歩道には、25ミリ機関砲の砲塔を備えた、92式装輪装甲車が乗り上げる。
道には、戦車のように見える砲塔を備えた、05式自走迫撃砲が塞ぐように停車した。
そして、周辺には、フリッツ・ヘルメットを被った、連合軍兵士が現れる。
彼等は、鉄条網や土嚢を運び、道路を封鎖するべく作業を始めた。
その中には、グリーン・シュヴァリエ&オーガー達が警戒に当たっている。
「緑色か? 味方だな」
「以外と、機甲戦力が揃っているのね」
ナタンとメルヴェ達は、味方兵器の頼もしさを話しながら進んでゆく。
そうして、左側には灰色の巨大なホームセンターを見た。
反対側には、曲がり角にケーキ屋と、広い横道のアメリケーヌ通りがある。
「ん? なんだ…………」
「アレも味方よっ!」
そこから、車列先頭に味方の機甲部隊である、緑色と茶色い迷彩塗装を施された、装甲車が加わる。
フランシュ、パナール社製、EBR90偵察戦闘車。
フランシュ、パナール社製、ERC90偵察用装甲車。
これらは、先ほどの05式と同じく、戦車みたいに砲塔を備える装甲車両だ。
「帝国軍の戦車を破壊してくれればいいけど?」
「どうかしら? こんだけ重装備なら大丈夫だと思うわ」
強力な兵器が味方に加わったが、ナタンとメルヴェ達は、戦車と鉢合わせしないように願う。
何故なら、これら軍用車両は、戦車と装甲車の中間ほどしか強くないからだ。
つまり、装甲の硬さや砲撃力などが中途半端なのである。
なので、二人は敵戦車が登場しないように神に祈るしかなかった。
そして、心配する彼等を他所に、車列は次の交差点まで近づいていた。
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