帝国側は、大聖堂内に突入したが、連合軍部隊の反撃に合い、一時撤退した。
「敵が居ないぞっ!」
「退散したな?」
左右両側に、並べられた椅子の裏から、ラテン系PMC要員は、ドアを眺める。
中央アシュア系レジスタンス員は、カルカノ小銃を構えながら、敵を警戒する。
「おい、撤退命令が出ているんだぞっ!!」
「まだだ、工兵隊が爆弾を仕掛けるまで、撤退はできないっ!」
「はあ? そんな暇はないっ? うぐぅ…………」
ナタンが柱に隠れている、黒人民兵に命令を伝達したが、まだ無理だと言われた。
メルヴェは、呆れながら溜め息を吐こうとした途端、突如天上から降ってきた瓦礫に襲われる。
「メルヴェ、メルヴェッ! メルヴェ、大丈夫か?」
「大丈夫、左肩を痛めただけよ、それより? 大丈夫かしら?」
ナタンは怪我を追った、メルヴェへと直ぐさま駆け寄る。
「ヘリコプターが飛んでいるな?」
「それも、二機ね? 機種は別ねっ! また、撃って来るわよっ!」
ナタンとメルヴェ達は、上空をヘリコプター部隊が飛んでいることに気がつく。
その内、一機がAGSー30自動擲弾銃から榴弾を連射してきた。
この攻撃により、再び大聖堂内に、瓦礫が降り注ぐ。
「うわ、逃げろっ!」
「不味い、椅子の下に伏せろっ!」
崩れてきた瓦礫から、身を守るため、連合軍兵士と南太平洋系民兵は、赤椅子の下に逃げ込む。
「おい、お前ら、大聖堂に援軍を呼んで来てくれっ!」
「はあっ!? 撤退命令が出ているんだぞ、正気か?」
「私達も、逃げないと殺られちゃうわよっ!」
東アシュア系レジスタンス員から言われた言葉に、ナタンとメルヴェ達は驚く。
「そんなの俺は知らないっ! グダグダ言うなら、上に言ってくれ」
それだけ言うと、東アシュア系レジスタンス員は、柱の陰へと走って行った。
「最早、指揮系統が無いんだな…………」
「ナタン、裏から私達だけで逃げましょう?」
そう言って、立ち去ろうとした、ナタンとメルヴェ達だったが、いきなり機銃弾を浴びせられた。
「また、帝国軍が撃って来たぞ、連中はジリジリと攻めて来る気だっ!」
「誰か、ダネルMGLを持ってこいっ!」
「俺達も撃ち返さないとなっ!」
「当然ね、殺られっぱなしは性に合わないわ」
連合軍兵士は、赤椅子からM16A3を乱射し始め、黒人民兵はステンガンを撃ちまくる。
ナタンも、レミントンM870を発射する度に、ポンプを引く。
メルヴェは、床に伏せながら、マウザーC96カービンを撃ちまくる。
「ぐぅぅ…………ナタン、撃たれたわ、ヤバいかも?」
「メルヴェ、不味いっ! ここから離れよう?」
機銃弾が飛び交う中、ナタンは脇腹を撃たれた、メルヴェを連れて、大聖堂奥にある裏口を目指す。
「ナタン、衛生兵を呼んで来て…………動かすと痛いから、あそこの瓦礫に私を隠して…………ゲフッ!」
「分かった、必ず衛生兵を連れて来るっ! それまで、ここに居ろよっ!」
メルヴェを、爆撃で崩れた瓦礫に隠した、ナタンは右側の方へと向かって、裏口から外に出る。
彼は、吊り橋を通ろうかと思ったが、負傷した彼女を連れて行くのは危険だと考えた。
付近に、多数の歩兵戦闘車も迫っていたから、良い的になると思った訳である。
「衛生兵と言うか? マミーを連れて来ないと? ん、このっ!」
「うわ、ぎゃあっ!」
ナタンは、レミントンM870から散弾を放ち、左側から走ってきた、バイカー兵を射殺する。
「よし、行くぞ」
ナタンは、敵から奪い取った、青いヤマハXT250に乗ると、直ぐに発進させた。
彼は、ボワ・ソバージュ通りから、バンク通りへと進む。
「敵発見っ!」
「追跡しろっ!」
そこに、交差点の右側からシュコダオクタビア製パトカーが登場して追跡され始めた。
「こんな時にっ!」
後ろに振り向いた、ナタンが見たのは、フロント・バンパーが水色に塗装された車体だ。
青いパトランプを照らしつつ、警報を鳴らす、コイツは厄介だ。
前輪付近には、前から後ろへと、斜め下に続く三本の青線と、一本だけ水色線が描かれている。
「チッ! しつこい奴らだ」
「止まれっ! 撃つぞっ!」
ナタンを追跡するパトカーから、マカロフ拳銃で何発か弾丸が発射される。
しかし、そんな攻撃が彼に当たるはずもなく、バイクは走る速度を上げ続ける。
「ヤバいっ!」
砲撃跡地に出来た、雪融けした泥水を跳ねながら、ナタンの跨がるバイクは高く飛び上がった。
パトカーも、そこを通って飛びはねながら、ひたすら彼を追う。
「ん、何だ、敵か?」
バンク通りを通過した、ナタンは左右両側のビルに何かが動いている姿を目視した。
しかし、真後ろを追跡していた、パトカーは複数のRPGー7を撃たれて、大爆発する。
「味方だったか?」
その隙に先へと進んだ、ナタンは交差点を曲がり、モンターニュ・ド・ロラトワール通りに行く。
しかし、ここで、敵のバイカー部隊が現れた。
「また、追撃か?」
ヤマハ製、XTZ660テネレに乗った、二名のバイカー兵たちは、ナタンを追跡する。
二人は、フランシュ軍で使用される、青いバイカー・ヘルメットを被り、黒い野戦服を着ている。
「くそっ! これじゃあ…………はっ!」
ナタンは、交差点を右側に曲がり、リーニュ通りに入ると、ビルの隙間にバイクを停めた。
「奴は、何処へ行った?」
「居なくなった?」
「おい、どうしたんだ?」
二名のフランシュ軍装備バイカー達は、追跡していて、姿が見えなくなった敵に困り果てる。
そこに、灰黒いレザーコート&レザーパンツを身につけて、バイクに跨がった兵士が現れた。
もちろん、その正体は、黒いIHPSヘルメットを被るナタンである。
「敵を見失ったんだが…………?」
「奴は、何処に消えたんだ?」
「分かった、俺は前に進む、君達は反対側を捜索しに向かってくれ」
二名のフランシュ軍装備バイカー達を、ナタンは上手く騙す。
「じゃあ、任せたぞ、そっちは頼むっ!」
「仕方ない、分かったぞ」
「行くしかないか?」
ナタンが、リーニュ通りを進み出すと、二名のフランシュ軍装備バイカー達も後ろに戻っていく。
そして、再びビルの隙間を見つけた彼は、そこで軍服を脱ぎ捨てる。
「は? なんだ?」
こうして、再びレジスタンス員の格好に戻った彼は、いきなり乗り物が走っていく姿を見た。
連合軍兵士が乗っている、ホバークラフト、住友エクセMTが、大聖堂へと向かっていく。
それを、帝国軍兵士の乗った、アエロサンRFー8は、機銃掃射しながら追撃を仕掛けていた。
これを見た後、自身も戦闘に巻き込まれる前に移動しようと、ヤマハXT250に乗った。
「ん、またかよっ!?」
ナタンを、ビルから出てきた、大勢の帝国軍兵士たちが走りながら追ってきた。
「前からもかよっ!」
リーニュ通りから交差点に出た、ナタンの前方には、警察隊員が検問所を設置していた。
しかも、こちらも大人数で、彼を待ち構えており、走りながら発砲してくる。
「戻るしかないかっ!」
結局、ナタンは、元のボワ・ソヴァージュ通りに戻り、バイクを大聖堂裏で停止させた。
「援軍は無理、衛生兵は無しか? 吊り橋から戻れば良かったか? う………撃たれたか? 俺も、ダメかな」
ナタンは、大聖堂から伸びる吊り橋が無事な姿を見て、後悔する。
しかし、いつまでも悔やんでいる暇はなく、彼は大聖堂内に戻っていく。
だが、さっき敵に撃たれていたらしく、彼の腹部からは真っ赤な血液が垂れていた。
「メルヴェ、メルヴェ? 居ない…………」
「逃げろっ! 撤退だっ! 工兵隊も死んだっ!」
「爆薬も足りないっ!!」
ナタンは、瓦礫を掘り起こして、ここに隠れているはずのメルヴェを探すが、なぜか彼女が居ない。
そうしている内に、白人民兵と黒人レジスタンス員が、大聖堂の奥に逃げてきた。
「おい、ここに負傷者が居たんだが知らないか?」
「知らないっ! 他の兵士とともに脱出したんだろう」
「そんな事より、撤退だっ!」
ナタンの質問に、白人民兵は答え、黒人レジスタンス員は急いで逃げようとする。
「分かった、安全かどうかは分からないが、上から行けっ! 吊り橋は、まだ残っているっ!」
「アンタは、どうするんだ?」
「もう、良い、放置しておけっ!」
ナタンは、白人民兵に礼を言うと、反対に自身はと聞かれた。
黒人レジスタンス員は、さっさと走っていき、退散してしまう。
「俺は残る…………殿は任せろ?」
「分かった、なら任せたぞ…………」
ナタンは、祭壇の手前に座りながら、白人民兵に残る事を伝える。
すると、向こうも背中に見える赤い血液が垂れているのを察したらしい。
「残り、俺だけ」
そうして、連合軍部隊は全員撤退していき、ナタンだけが残された。
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