歯科医院の駐車場を、トヨタ・テクニカルが走る。
「こっちを追って来たぞっ!」
「分かっているわ、この距離なら……」
残る三台の軍用ATV、AMー1部隊は、未だ執拗に、トヨタ・テクニカルを追ってくる。
ナタンはAAー52を撃ち続け、メルヴェはFADに武器を持ち変えたと同時に連射しはじめた。
その結果、どちらによる攻撃が当たったか分からないが、一台だけAMー1が急に速度を下げた。
おそらく、体に銃弾が命中したらしく、車両自体が停まってから帝国兵は、車上から転げ落ちた。
「空の部隊は居なくなったなっ! だが、連中が……く、撃ってきやがったかっ!」
「だけど、あとは二台…………いや、空に一機っ!」
トヨタ・テクニカルは、建物の間を通り抜けようと一気に速度を上げていく。
もちろん、ATV部隊も追撃は止めず、連中も武器を持ち変えた。
何発ものマカロフPMMによる拳銃弾が、二人を襲う。
そして、ナタンは連中に連射しながら照準を合わせようとする。
だが、車体が激しく揺れるので、うまく狙いが定められない。
メルヴェは、荷台の鉄板に身を隠しながら拳銃による射撃が止まる隙を待つ。
しかし、そうやって隠れていた彼女は、暗い陰が自身を包んだことに気づく。
「よし、弾を込めた……って、なんだ?」
「アレは…………魔法を射ってきたぞっ!!」
「ウィザードが乗っているわっ!」
MP5の弾倉を交換し終えた、アシュア系PMCは、上空を飛ぶ敵に目を配った。
それは、カラシニコフ社製、フライング・カーだ。
暗い機体の真ん中には、尖り帽子を被った、女性ウィザードが見える。
ナタンとメルヴェ達は、空から降ってくる氷柱《つらら》や火球に焦る。
しかし、丁度トヨタ・テクニカルが、左側にある道に曲がったために、魔法攻撃は外れた。
「ここはーー警察署だっ!!」
「ヤバい、署からも撃ってきたっ!」
建物に挟まれた、駐車場を疾走する、トヨタ・テクニカルの運転手は気づく。
何台も、黒いパトカーが停まっていたことで、ここが警察署の敷地であると。
また、警察署内からも、拳銃や自動小銃から弾丸が放たれる。
アシュア系PMC要員は、建物の窓に向かって、MP5で応戦する。
「うわ、後ろにも敵が居るのにっ!」
「後ろは任せてっ! 警察署は任せたわっ!」
「あっ!」
AAー52を、ナタンは警察署の壁に向け、勢いよく機銃弾を乱射しまくる。
メルヴェは、FADによる射撃で、何発かAMー1の運転手を仕留めた。
だが、まだ上空には、フライング・カーが飛んでいる。
しかも、警察署から警察隊員たちが、慌てて飛び出てくる。
「奴らを追えっ! 逃がすなっ!」
「クソ、他で手一杯なのにっ!」
「パトカーを用意しろっ!!」
警察隊員たちは、窓から飛び出てくると同時に、グラッチ拳銃、ベカス散弾銃などを撃ってきた。
それと、同じく残る一台のAMー1からも帝国兵が、マカロフPMM拳銃を撃ちまくる。
また、上空のフライング・カーからも、氷柱と火球が相変わらず降ってくる。
「道に出るぞ、曲がるから気を付けろっ!」
「聞いたか、振り落とされるなよっ!」
「分かっ! ぐわわっ! 当たったっ?」
「車体にだけよっ! 心配しないっ!」
多数の銃撃が、トヨタ・テクニカルに命中するが、運転手は追撃から逃げようとする。
警察署の駐車場から逃げだし、再び道路に出ようと言うわけだ。
そして、荷台後部で戦っている二人を、アシュア系PMCは心配した。
だが、そんな言葉に答える暇なく、ナタンとメルヴェ達には、銃撃が浴びせられる。
しかし、運良く弾丸は、AAー52を支えるポールや車体の鉄板に当たった。
氷柱&火球なども、車体には当たらず、周囲の駐車場を傷つけたり焦がすだけだ。
「これから、また味方部隊と合流する」
「まだ、敵が来てるか?」
「ああ、まだ一台っ! あと上の奴がっ!」
「新手よっ! パトカーが来たわっ!」
そう言って、運転手はドリフトさせながら、トヨタ・テクニカルを左側に走らせる。
こうして、道路に出ると、アシュア系PMCは、空に向けつつMP5短機関銃を乱射する。
ナタンは、しつこいAMー1の運転手と、上空を飛ぶフライング・カーを睨む。
メルヴェは、さっきの警察隊員たちが、パトカーに乗って、追撃に加わったことを視認する。
「しつっこい、連中だ…………」
「全くだわっ!」
ナタンは空に向けて、AAー52を機関掃射し、メルヴェは、ダネルMGLに武器を持ち変える。
彼が放ちまくる機銃弾を恐れたか、フライング・カーは後退しながら魔法を射ってくる。
良くみると、敵機の機体下には、六角棒型クリスタルが、二個搭載されている。
一方、追撃に加わった警察隊員が乗るパトカーは二台で、拳銃や散弾銃を撃ちながら追ってくる。
その車種は、黒と青に塗装された、メルセデス・CLS・ベンツ、ブラバス・ロケットだ。
「はぁっ! おい、お前ら、ヘリが来たぞっ!」
「ヘリだと、何処からっ!」
「また、新手かしらっ!?」
ルージュ通りから三角交差点に出た、トヨタ・テクニカルを狙って、再び新手が来た。
そう、アシュア系PMC要員は叫ぶ。
ナタンとメルヴェ達も、空から聞こえるローター音に思わず上を見てしまう。
そこには、一機の黒い小型無人ヘリが飛んできており、左右に搭載する自動散弾銃を掃射し始めた。
「また来るの…………いや、アレは?」
「味方…………だった? 良かった?」
ナタンとメルヴェ達は、低空を飛行する小型無人ヘリに殺られると思った。
だが、このヘリは自動散弾銃により、フライング・カーを撃墜した。
二人が良くみると、ヘリ自体は黒ではなく、深緑色をしており、味方の兵器であると分かった。
一方、炎上しながら墜落していく、敵機からは、ウィザードが脱出していた。
尖り帽子を被る奴は、強風を操り、木の葉みたいに舞いながら地上へと降りていった。
そして、二人を乗せた、トヨタ・テクニカルは、グリシア料理店の手前から右側に曲がる。
そうして、再度ブルグマン通りを走る。
「今度は前から来るぞっ!」
「何とかしてくれっ!」
「している最中だよっ!?」
「これ以上はっ!!」
運転手は焦りまくり、アシュア系PMC要員は、新手の敵がきたと警告する。
しかし、ナタンはAAー52機関銃を、後ろから追いかけてくる敵に撃っているので精一杯だ。
一方、メルヴェもダネルMGLを撃って、何とか一台のパトカーを爆破させた。
「…………て言うか、前から何が来たんだよっ! よし、ん?」
「うぐぅぅ…………」
ナタンは、機関掃射で残る一台のAMー1を運転していた帝国兵を撃ち殺す。
運転手が死に、コントロールを失った、これは左側の建物手前にある柵に突っ込んでいった。
また、パトカーも同じく、機銃弾を受けて窓ガラスを割られた事で、乗車していた警察隊員が死ぬ。
そして、こちらは、歯科医院の隣にある医療施設へと、フラフラしながら突っ込んでゆく。
「うわわ、アレは装甲列車っ!? いや、市電?」
「きゃっ!? 何が来たのっ!!」
「ブリュッセル市電だよっ! アレを破壊してくれっ!」
ナタンは、背後から何丁もの重機関銃を撃ってきた敵に驚く。
こめかみを掠め、大量の7、62ミリ弾が飛んできたからだ。
メルヴェも訳が分からず、すぐさま頭を下げて、鉄板に身を隠す。
アシュア系PMCは、二人に敵の正体が、ブリュッセル市電、超低床電車T3000形だと教える。
路面には、雪が浅く積もっていて、よく見えないが、市電用の鉄道線が敷いてある。
その上を、大量に帝国兵を載せた、路面電車が走行してきたわけだ。
「喰らえっ! 吹き飛べーー!」
「反撃だっ! この野郎っ!!」
メルヴェは、ダネルMGLから、何発かグレネード榴弾を発射した。
ナタンも、お返しに、AAー52を途切れなく撃ち続けながら叫んだ。
そして、すれ違いった、T3000形の後部は吹き飛び沈黙する。
だが、前方の車両が無事だったため、路面電車は真っ直ぐ走り続けた。
「行ったか…………」
「やったわね?」
ナタンとメルヴェ達は、遠くへと走ってゆく敵の電車を見ながら、疲れた表情をしながら呟く。
そうこうしている内に、右側にあるフース・へーレンズを通り過ぎた。
その角には、城みたいなドーム屋根と大窓が沢山ある円形塔が存在する。
これは、英語だと、ホテル・ハーレンスとも呼ばれる建物である。
元々は、土黄色に近いクリーム色だったが、現在は帝国により鼠色に染められていた。
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