「あっちだっ! 急げっ!」
「向こうの部屋から聞こえたぞ」
「署内に侵入者が出たっ!」
「怪しい奴を捕まえろっ!?」
二名の警察署員らに、レギナを含む、レジスタンス達も続いて走る。
その途上、長い廊下を進んでいると、曲がり角や部屋からも警察署員たちが続々と現れる。
「ヤバイわね、このままじゃあ? 逃げらんなくなるわよ?」
「ああ…………さっきの二人組も、先に走って行ってしまったしな」
ティエンの言葉に隣を走る、ハキムも額から汗を垂らして、焦りつつ答える。
誰か分からないが、潜入任務に失敗して、早く爆弾を爆弾させたのだろう。
そのため、彼等五人はドサクサに紛れて、警察署から密かに逃走せねば成らない。
「じゃあ? ここらで私達は逆方向にっ!」
「もちろんだっ! レギナ、リュファス、サビナッ! あっちに行くぞっ!」
踵を返し、今来た道に戻る、ティエンとハキム達。
「分かったわ、しっかし? いったい誰が、しくじったのよっ!」
「それは、分からん」
「誰だっていい、計画変更して爆弾をアチコチに投げておこう」
「逃走しながら、爆破くらいはしないとね」
悪態を吐きながら走る、レギナは怒鳴り、リュファスも分からないと困ったように答える。
ハキムは走りながらも、懐から手榴弾やC4を投げ転がしてゆく。
ティエンも、爆弾を幾つか走りながら廊下に落としていく。
こうして、混乱の渦中に包まれた署内を彼等は駆けて行った。
その後、幸運にも彼等は、無事に駐車場まで、戻ってこられた。
「あっ! あのジープは……コマンドの連中、先に逃げたか?」
旧ソ連製のGAZー67が、警察署内にある屋内駐車場を走る姿を、ハキムは見た。
「ZILー157も無いわ」
自分たちが乗って来た、トラックの姿もなく、ティエンも焦り始める。
「いや、待てっ! アレを奪おう?」
「サイドカーが何台か有るわっ!!」
黒と青に塗装された、ウラル製サイドカーを、リュファスとサビナ達が見つけて走る。
「よしっ! アレで脱出するっ! はっ?」
「居たぞっ!! おい、お前ら、署内が混乱に包まれる中、逃げようとするとは……」
ハキム達も、二人に続いて、ウラル・サイドカーを目指しつつ走っていた。
駐車場の脇にある、それ等に乗ろうとした瞬間、後ろから声をかけられた。
「動くなっ!! サイドカーに乗ろうとする理由、それから所属と階級を言えっ!!」
「…………それは」
帝国警察部隊の下士官らしき、制帽を被る男が怒鳴るように、ハキム達へと告げる。
それに対して、当の彼は何も答えられず、言葉が口から出ない。
「言えないのかっら?!」
「…………ふぅ」
一方、奴は複数人の部下を引き連れており、連中は全員が、ハキム達にAK200を向ける。
なので、仕方がないと思った彼は、ある行動に出た。
「プランBだっ!!」
今まで、ハキム達は署内の彼方此方《あちらこちら》に、手榴弾と爆弾を捨てて走ってきた。
本来なら、他のチームも無事に脱出できたであろう時に使う予定だった。
だが、この場を凌ぐには、今使う他ないと、彼は判断した。
「うわっ! ぐっ!」
「揺れがっ!!」
「何が起きたっ!?」
警察隊員たちは、慌てふためき、爆発による揺れによろける。
「今だっ! お前ら、先に行けっ!! 俺が援護するっ!」
ムーディーAKMSを乱射する、ハキムは仲間達を逃がすべく怒鳴る。
「分かった、だが直ぐに来てくれよ、ハキムッ!」
「逃げながら撃つわねっ!!」
ウラル・サイドカーを運転するリュファスは、スターリングMK5.パラ使用を片手で撃つ。
一方、側車に乗ったサビナは両手でMP5を構えて、敵を撃ちまくる。
「ハキム、レギナッ! 早く乗ってちょうだいっ!」
ティエンは、ウラル・サイドカーに跨がりながら二人が来るのを待ち、Vz58ライフルを構える。
そして、敵に狙いを定めると連射しながら仲間達を呼びつつ援護する。
「今いくっ! レギナ、走れっ!」
「言われなくてもっ!?」
『ドンッ!』
ティエンが援護してくれている間に、ハキムとレギナ達は逃走しようと踵を返した。
しかし、運悪くレギナの右足を銃弾が、一発命中して、見事に貫いてしまった。
「…………」
レギナを撃った女性隊員は、黒い野戦帽を被り、野戦服に身を包んでいる。
「レギナッ!? 早く助けないと!」
「今行くからな、待っていろっ!!」
「痛たた、くっ! 援護するわっ! 二人とも、私は大丈夫よっ!」
ティエンとハキム達は、窮地に陥った、レギナを助けようと試みる。
「レギナ、諦めないでっ!」
「今助けるからな」
「ハキム、ティエン、私を置いて先に行って、ちょうだいっ!!」
焦る、ティエンはウラル・サイドカーを、レギナの方へと走らせようとする。
ハキムも、援護射撃をしながら走って、彼女に近づこうとした。
しかし、彼女は二人の救助を拒んだ。
「そんな事、出きるわけないでしょっ!!」
「そうだ、仲間を見捨てる真似はしないっ!!」
威勢よく叫びながら、ティエンはウラル・サイドカーを走らせ、ハキムも乱射を続けつつ近寄る。
「あっちだっ!!」
「見つけたぞっ!?」
負傷したレギナより、ティエンとハキム達の方が目立ってしまい、敵から銃撃を受けてしまう。
さきほどの女性隊員だけではなく、何処からか、続々と警察隊員が集まって来ていた。
彼等は、二人を狙って十字砲火を浴びせるべく引き金に指をかけ続ける。
「二人とも…………ゴフッ!? もう、私はダメなの? ね? だから行って…………」
「…………ぐっ!」
「がっ!?」
そう言うと、ティエンとハキム達を援護するべく、レギナはコンパウンド・ボウから矢を放つ。
それらは、警察隊員たちに当たるが、肩や足を射ち貫いただけに終わった。
彼女の左脇腹からは、真っ赤な血が大量に流れ出ていた。
「くぅっ! 分かったわっ! 先を急ぐわっ!」
「レギナ、最後の手向けだ…………」
『ドンッ!』
敵の攻撃が激しくなってきた事から、ウラル・サイドカーを急発進させようとする、ティエン。
その側車に乗り込み、ハキムは帝国兵にレギナが洗脳されないようにと、一発銃弾を放つ。
「ぐ…………」
「ハキムッ!? 行くわよっ!!」
しかし、ハキムが撃とうとした瞬間、警察隊員が彼の腕を狙撃した。
それにより、彼は残念だが、レギナの射殺を断念した。
また、グズグズしている暇はないと、ティエンはウラル・サイドカーを猛烈に疾走させた。
「く、ケホッ! ケホッ! かは…………ぅ?」
口からも血を流す、レギナは最後の力を振り絞り、敵に対して、コンパウンド・ボウを向ける。
彼女は、あと一人、敵を射ち殺したら自分も自害する積もりだ。
レジスタンス員等やコマンドー隊員たちは、潜入などの任務では、全員に毒物が配られている。
もちろん、自害する時に使うためであり、奥歯などに青酸カリを仕込んであるのだ。
「…………あ、と、一人?」
「そうは、させないわよっ!」
レギナは、自身に近づいてくる野戦帽を被った、グールの女性隊員を、目に捉える。
そして、倒れた体を、そちらに向けると、コンパウンド・ボウから矢を射った。
しかし、背中に銃を背負った女性隊員は、ブラックサーベルを鞘から途中まで抜き、矢を弾いた。
「…………レギナ、久しぶりね?」
「べ、ベー!? ぐ、もう…………」
近づいてきていたのは、幼馴染みである、ベーリットだった事に驚く、レギナだったが。
すぐに、彼女は奥歯を噛んで、青酸カリを飲もうとする。
「ハァ~~~~~~!! 青酸カリみたいに甘い桃の香りがするでしょう? 大丈夫、貴女は死なせない」
「うっ!? うぅ…………」
口からガスを吐いたベーリットだが、とうぜん彼女が喉から出したのは猛毒ではない。
それは、微毒ガスであり、手足のマヒと睡眠効果が高い物だった。
「誰か、誰か担架を持ってきてっ!!」
「誰かって聞いて、やってきたよ?」
ベーリットは、衛生兵であるリッチを探すも、残念ながら何処にも見当たらない。
それで、仕方なく味方部隊員に担架を持ってくるように頼みつつ叫ぶ。
そこに、カルミーネが現れた。
「カルミーネッ!? テロ……じゃなくて、私達の大切な仲間が死にそうなのっ!! 彼女を背負って、医務室まで運んでっ!!」
「分かった、って、レギナ…………そうか? 君はテロリストに加わっていたと言う話よりっ! 先に運ばないとね」
ベーリットの頼みに、カルミーネは答えて、レギナを背負って走り出す。
彼の兵種は、突撃兵であるワーウルフだ。
よって、人間一人くらい背中に軽々と背負って走るくらい朝飯前だ。
こうして、負傷者である彼女は医務室&洗脳教育室である、101号室まで運ばれて行った。
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