「行ってしまったわね…………」
「ああ…………そいじゃ俺は医務室に向かう」
フロスト中尉とフィーン準尉たちが去っていくのを見送った、ミア。
彼女は一言呟き、その隣に立つ、レオは医務室に向かおうと歩いて通路を目指す。
「じゃ、私は報告書を書いといて上げる」
「済まない、ミア…………」
背後から声を掛けてきた、ミアに対して、レオは振り向いて礼を言って、感謝を伝えようとする。
「遠慮しないで、負傷者何だからっ! チュッ♡」
「…………!?」
振り向いた、レオの頬に、いきなりミアは、キスをした。
驚いた彼は、雪のような真っ白い顔面を紅潮させる。
さらに、ほんのりとした、ピンク色を顔全体に浮かび上がらせる。
「赤くなって無いで、早く医務室に行かなきゃ駄目だぞっ!」
「ああっ! たく、お前はイタズラ好き何だから…………」
唇を素早く離した、ミアは目を細めつつ、可愛らしい笑顔で微笑んだ。
そんな彼女の後頭部に、レオは右手をそっと添えて、頭を優しく撫でる。
「心配してくれて有り難うな、じゃあ俺は医務室に行くよ」
「そう…………じゃあ後でまた第三小隊待機室で会いましょうね」
別れを告げ医務室に向かう、レオの背中を見つめる、ミア。
彼女の表情は、凄く寂しそうな顔を浮かべていた。
一方、その頃。
フロスト中尉を、後部座席に乗せた、フィーン準尉の運転する乗用車が、街中を優雅に走る。
ドライエ、ティープ178シャプロン。
それは、夕闇に包まれた薄暗い市内を、観光でもするかのように低速で走るが。
両脇を、護衛である、漆黒のLAPVエノク軽装甲車に前後を挟まれて走る。
「中尉…………質問をしても宜しいでしょうか?」
「何だいフィーン? 君が気になった事は遠慮しないで、どんどん聞いて貰っても僕は構わないよ?」
運転手として、ハンドルを握るフィーン準尉は、バックミラーをチラリと見る。
後部座席で両腕を広げ、足を組んで寛《くつろ》いだ姿勢のフロスト中尉を確認する。
「では中尉? 何故、こんな時間に帰宅するのですか? 最近はレジスタンスの襲撃の頻度も上がり…………緊急事態に備え、我々警察部隊も常に出動の可能性を考慮し、待機していなければ成らない筈では…………」
「あれっ? 言って無かったけ…………そうか言い忘れていたか? いや実は帝国地上軍のラヴィーネ大佐から直々にホテルで、会食しないかと御呼ばれしてね…………」
フィーン準尉の疑問に対して、忘れていたかと言って理由を話す、フロスト中尉。
「全く、会食なんて面倒な任務だよ」
「しかし、絶対に行かなくては成りませんよ?」
フロスト中尉は、ラヴィーネ大佐から会食に呼ばれたのだと答えるが。
もちろん、会食の後に、夜伽任務が待っている事は、フィーン準尉も分かっている。
「上の命令には絶対服従だし、従わない訳には行かないからねえ、それに装備も人員も融通してくれるって言うしさ」
「それで会食ですか? でしたら、ラヴィーネ大佐と今夜一晩はホテルの一室で御一緒に…………」
フロスト中尉は、自分より上位の存在である、ラヴィーネ大佐には逆らえないと答える。
それを聞いた、フィーン準尉は声が小さくなる。
「うーーん…………まあ? そうなるかな」
「そうですよね、上の命令には私達下士官は逆らえませんもの…………」
フロスト中尉は、上手く誤魔化そうと、なんとか適当に答えるが。
彼に、好意を抱くように、フィーン準尉は完璧に洗脳されている。
『…………そうは言っても、私の中尉が誰かに取られるのは嫌だわ…………』
その後ろからでも分かる、フィーン準尉が放つ悲しげな雰囲気。
そんな彼女の様子に、フロスト中尉は、何と言って良いか分からず黙ってしまう。
こうして、暫くは気不味で静かな沈黙が続いた。
『…………困ったな? 彼女は嫉妬するタイプじゃ無いからな? だが僕が自分以外の女性と親しくするのが悲しいんだ…………頭の中では上官であるラヴィーネ大佐と仕方無くと言うのは理解出来ても…………』
フロスト中尉は、曇る車窓の外に見える市内に目を向ける。
こうして、彼は通り過ぎて行く。町の景色を眺めながら物思いに耽る。
『…………やはり一途な乙女としては上官との会食だから我慢しなければ? 何て言われても理解出来無いよな? そりゃ…………』
フロスト中尉は、着任早々に学校教師として、潜入任務が決定した際にだが。
ちょうど、女性教師ネースケンスが結婚して、育児出産の為産休を取った。
それにより、彼女に代わり、臨時教諭に身分を偽造して、学校に潜入したのだ。
『…………人目見た時から惚れたんだよな? だって大切な…………大切な人に瓜二つだったんだからっ! フィーン、君と出会った時もビックリしたくらいだよ…………』
その時に、フロスト中尉は、フィーン先生が持つ美しい容姿と声、また優しい性格に惚れた。
その理由は、彼がまだ若い頃に好意を抱いていた、大切な女性と非常に似ていたからだ。
彼女を一目みた時、一瞬好意を抱いていた、女性本人かと思ったくらいソックリだった。
『…………待って下さいっ! 待って下さいってばぁーー! …………』
『…………うふふっ! フロストッ! フロストったら? 早く来なさい…………置いてきますわよ…………フロストっ!』
『フロスト中尉っ! フロスト中尉っ!』 …………』
そして、フロスト中尉は揺れる車内で、全ての記憶を思い出す。
すでに過ぎ去った過去の想い出を、幼い頃好きだった、彼女との色褪せない綺麗な記憶を。
だが、彼は突如現実に引き戻された。
「んっ!? ああっ家に着いたのか? さあフィーン準尉…………上がってくれ」
「中尉っ! ドアは私が…………」
美しい幻想にも似た、物思いに耽る、フロスト中尉だったが。
突如、聞こえてきた、フィーン準尉の声に驚いてしまう。
「いや、ここは紳士の役割だよ」
「中尉っ?」
フロスト中慰、自らの自宅に車が着いた事を確認する。
先に車から降りると、彼は執事のように、フィーン準尉が動くよりも早くドアを開ける。
「姫様、レディーファーストですよ、女性に優しくするのは紳士として当然の義務に御座います」
「中尉ったら、何を言ってるんですか?」
ふざけて、護衛騎士の如く頭を深々と下げる、フロスト中尉。
彼の仕草に対して、フィーン準尉は顔を真っ赤にして照れる。
「姫様、私は真剣ですよ?」
フロスト中尉が、過去を回想している間、車列は何時の間にか、高級住宅街に辿り着いていた。
こうして、帝国に反逆する一般市民彼から接収した、彼の自宅前に停車した。
遥か海の向こうにある、アルメア合衆国が存在する。
あの国とは違って、ハンザ連邦では、各都市・都心部に位置する高級住宅街だが。
ここには、家屋同士の間に、隙間が全く存在しない。
その一角に、フロストが所有する自宅は存在した。
彼が住む家は、趣のある古い住宅で、築年数も長いで有ろう建物であった。
その住宅周囲を、警察部隊が有する漆黒のLAPVエノク軽装甲車が、二両で停車している。
また、警察隊員たちが警備に当たり、レジスタンス部隊による奇襲を警戒する。
「ふふっ? フィーン、上がってくれ」
「御命令と有らば…………」
顔を真っ赤に紅潮させる、フィーン準尉の表情を見た、フロスト中尉。
彼は、彼女の照れる姿に、微笑みながら自宅へと招く。
「仕方ないですね…………」
その招待を受けた、フィーン準尉は、紅潮させていた顔を引き締め、命令ならと招待に応じる。
「さぁ姫様、我が城内へ私フロストが御案内致します」
「もうっ! 中尉ったら良い加減にして下さいっ!」
自宅のドアを開いて、屋内へと、フィーン準尉を招く、フロスト中尉。
彼等は、二人揃って、邸宅の中に入る。
「ふざけてませんよ、我が姫様? さて、もう少し暗くしましょうか?」
「いや、たく、中尉…………♡」
フロストはドアを閉めると、電気のスイッチを押して、室内に明かりを灯す。
そして、フィーンは彼の黒いコートを脱がして、玄関から奥へと向かう。
次いで、ハンガーラックに吊るしてある、ハンガーに黒いコートを掛けた。
「有り難う、フィーン」
「中尉…………」
面倒な事を、自らの代わりに行ってくれた、フィーン。
彼女に対して、フロストは感謝の意を示そうと背後から優しく抱きつく。
それから、耳元で、そっと感謝の言葉を呟く。
「うぅ…………♡」
「ふふ」
抱きつかれた、フィーンは再び顔を赤く染めて、自らを後ろで抱く、フロストの両腕に手を添える。
「中尉、いえ、フロスト…………」
「何だい、フィーン?」
頬を真っ赤に染めた、フィーンは顔を逸らして、恥じらい始める。
そして、上司であり、恋人である、フロストの名前を呼び何かを頼もうとする。
それを察した、彼は何を頼もうとしたのかと、優しく微笑みがら問う。
「その…………ベッドに参りましょうか」
「良いよ、君が望むの成ら…………」
フロストとは、目を合わせず、恥ずかしそうに視線を剃らしながら呟く、フィーン。
そんな彼女を可愛らしく思い、背後から抱きついていた、フロストは彼女の体を一旦放した。
面白かったら、ブックマークとポイントを、お願いします。
あと、生活費に直結するので、頼みます。
(^∧^)
読み終わったら、ポイントを付けましょう!