「おおーーーー!」
「うおおおおっ!」
道路を埋め尽くすほど、人数が多い民兵と連合軍兵士たちは突撃していく。
「撤退っ! 我々は、この区域を放棄するっ! 市立公園まで下がれっ!」
「うわっ! 側面から攻撃してきたぞっ!」
隊長が、大きな声で撤退命令を出したことで、敵は慌て始めた。
複合装備《ラトニク》を身に付けていた、帝国兵の生き残りたちは、逃走を開始した。
その背中を狙って、RPGー7やPK機関銃が何発も放たれる。
しかも、地上を走る連合軍兵士と民兵たちも、AKMや散弾銃を撃ちまくりながら走ってくる。
さらには、交差点の右側から、プラサン・ワイルダーが走って来ながら、上部にある機銃を放つ。
「終わったな、ほとんど活躍する場がなかった…………」
「……にしても、大した戦力だわ」
ナタンとメルヴェ達は、二人とも肩から力を抜いて床に座る。
「チュー、アイリー? 無事なようだな、そっちは先導してくれた、レジスタンス員だな」
「戦いには勝ったが、連中は戦列を立て直して、また攻めてくるかも知れん」
「ナタンです、こっちはメルヴェ」
「メルヴェ・ペケル……隊長さんの指摘通りレジスタンス員よ」
チィーナ特殊部隊の隊長と機関銃手たちが、二人に近づいてきた。
ナタンとメルヴェ達は、彼等に名前を名乗った。
「ああ……私は、温《ウェン》・首震《ショウジュン》軍曹だ」
「王《ワン》・継凌《チーリン》伍長っ! 見ての通りの機関銃手だっ!」
日焼けした肌に、野戦帽を被るウェンの目は鋭く好戦的な顔をしている。
彼は、カーキ色の防弾ベストに弾帯を四個も下げた、平均的な装備を身に付けている。
しかし、彼は雰囲気から察するに、歴戦を潜り抜けた猛者だと言う険しい感じがする。
武器は、95式自動歩槍を両手で抱えている。
腰には、双刀をベルト両側に下げた鞘に入れておる。
また、右側には赤茶色の拳銃用ホルスターがある。
ワンだが、彼の顔は火傷跡が左側にあり、ウェンと同じく、激戦を経験したことが伺える。
また、被っているフリッツ・ヘルメットには、サーマル・ゴーグルを取り付けている。
彼は体格がよく、素手でもオーガー渡り合えそうなほど、体が大きい。
そんな彼は、背中に軽々と、リュックと88式汎用機関銃を背負っている。
それから、三本の棒らしき物をリュック左側に下げている。
防弾ベストには、二個も弾薬箱を容れる大きな弾帯を着けている。
「おっ? 何か来たな? 味方のバスか…………」
大型の黄色い観光バスである、バンホール・アストロメガが、三台も走ってくる。
このバスは、交差点の向こう側へと走行していくことから、恐らく車体で道を封鎖すると思われた。
「銃声がしなくなった…………戦いに決着が着いたな?」
「そうだと嬉しいよ」
ウェン隊長が呟くと、ナタンも同じように小さな声で愚痴を溢した。
こうして、キャナダ大使館と周辺を巡る戦いは、連合軍側の勝利で終わった。
夜間、ブリュッセル公園の側にある、BNP社オフィス。
「偵察機からの情報によると、敵はスクワッ・デ・ミユーズ公園に迫撃砲部隊を展開していたらしい」
オフィス内は、外に灯りが漏れぬように窓は二重三重の黒いカーテンが掛けられていた。
そんな重たい空気が漂う中、ウェンはブリュッセル市内の地図を円形テーブルに広げる。
彼は、昼間の戦果を皆に伝え、情報確認を行おうとした。
「この部隊には、多数のウィザード兵とパトリア社製NEMO砲塔式自動迫撃砲が布陣していた…………現在、これらの兵器を二台も我々は滷獲した」
彼は、スクワッ・デ・ミユーズ公園を指差しながら仲間たちに朗報を伝える。
その回りには、人民開放軍・特殊部隊員たちが取り囲むように立っていた。
「敵が撤退する際…………一台は逃げ遅れて、ビルに衝突したので、乗員が放棄したらしい? もう一台は速度を出し過ぎて横転してしまった物だ」
ウェンは、鋭い眼光で地図を指差し続けながら事の詳細を語る。
「また、近くにある、ピアッザ・デ・メユース政府庁舎にも司令部を設けていたらしい」
「しかし、現在は政府庁舎を含め、エギリー・ザ・ジョセフ教会からRTD政府機関ビルに至るまで、我々連合軍が完全制圧したと?」
ウェン隊長の背後から、ワンが現れるとともに声をかけた。
「そうだ……で、現在の我々はアパート見たいなBNPビルを拠点としている? その後方のBNP社が所有するビルもだ」
「残った戦力は、我ら緊急展開部隊の数十名と、05式、08式が一台ずつ……これらは対戦車戦を考慮し、ビル正面のロワイヤル通りに停車しています」
「それから、我々、IDF部隊もアテムを公園に多数配置している」
「PMCは、IDFとともに公園に塹壕線を構築中、ここに戦力の大半を配置した……残りは背後のBNPビルに立て籠っている? まぁ~~籠城戦って、ヤツだ」
ウェンの話す隣に、アイリーが来て、機甲戦力と人員数について説明する。
IDF=イズラエル国防軍の略だが、隊長らしき人物は部隊配置を教えた。
彼は、OD・グリーンの戦闘服を上下に着ており、アラビ人みたいな髭を顔をに生やしていた。
PMCの黒人隊長は、上下にウッドランド迷彩服を着ており、丸々と太っていた。
しかし、太い手足を見るに、かなり体を鍛えている事が分かる。
恐らく、格闘技術は高いだろうと周りの者は考えるほどだ。
「これから、夜戦になるが朝まで嫌がらせの狙撃や奇襲、砲撃や爆撃は続けられるだろう…………まあ、それまでは各自休憩していてくれ、解散っ!!」
その場に集まっていた面々は、ウェンから解散と言われると同時に部屋から出ていく。
ここは、人民開放軍の緊急展開部隊に所属する兵士が多い。
「はあ、ようやく一息つけます…………」
「お? メットを脱いだわね?」
アイリーが溜め息を吐きながら、カーキ色のモジュラー統合通信ヘルメットを頭から取る。
そして、マスクを下げたのだった。
メルヴェは、謎に包まれていた彼女の容姿を確認しようとする。
ヘルメット&マスクの下から現となった、白肌色な顔は細い卵型で、唇は小さく薄桜色だった。
頭髪は、キッチリ分けた、7、3の黒髪を短いピクシーヘアにしている。
「わおっ! スッゴい美人さんじゃん」
「あの…………照れるので」
メルヴェの言葉を聞いて、頬を真っ赤に染めて顔を剃らす、アイリー。
「おい、退いてくれ……弾薬を運び込まなきゃならんのだ」
「ドローンや、俺たちが運搬しているんだからな」
PMC要員や連合軍兵士たちが、武器弾薬を運搬してくる。
段ボール箱、プラスチック・ケースなどを彼等は運び込んだ。
さらに、二機のドローンも袋や網を抱えつつ弾薬類を素早く移動させる。
「あら、何で他の部隊員が?」
「メルヴェ、彼らの邪魔しちゃ悪いよ」
「連絡係りだよ、あとは支援だな」
「狙撃手とか、特技兵が必要だろっ?」
いきなり現れた、味方部隊の兵士たちに、メルヴェは何故ここにと思う。
ナタンは、それより運搬作業の妨害になるからと、作業員に気を使う。
東南アシュア系PMC要員は、バズーカ砲の見た目をした、カールグスタフ無反動砲を窓際に置く。
中南米系の連合軍兵士は、ダネルNTWー20対物ライフルを壁に立て掛けた。
「それで、解放軍兵士だけじゃなくて、色んな兵隊が居るワケね?」
「見てるくらいなら、済まないが手伝ってくれ」
「アンタ等が使う武器でも、あるんだしな」
「分かった、メルヴェ…………手伝うとしよう?」
メルヴェは一人納得したようだが、それを見ている作業員は人手が欲しかった。
黒人PMC要員や白人レジスタンス員たちは、彼女に運搬作業を手伝うように頼んだ。
ナタンも、彼等を少しでも助けるべく、下の階を目指して歩いていった。
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