連合側と帝国側で、都市上空では壮絶な空中戦が展開されている。
ナタンとメルヴェ達は、大聖堂内の壁際で背中を預けながら休んでいる。
「見つけたぞ」
「は?」
急に誰かが、ナタンの背後から声をかけてきた。
「ギデオン? いや、キーランか? 今度も、また俺を撃つ気か?」
「いや、そんな事はしない、済まなかったな…………あの時は見捨てた上に撃ってしまって」
ナタンが振り返ると、黒い制服と制帽に身を包んだ、キーランが謝罪しに近づいてきた。
「そんな事は、どうでもいい」
だが、帝国の潜入工作員として、自分も同じ状況に陥った場合なら、ああしただろう。
そう考えた、ナタンは怒りもせず、彼に目も合わせなかった。
「工作員なら当然の事をしただけだ」
「ちょっと、待って? 見捨てたって、どう言う事かしら?」
そう呟く、ナタンに対して、メルヴェは聞き捨てならないと前に出てきた。
「あんた、ナタンを見捨てたの? しかも、撃ってたとか? それに、私達に対して散々な目に合わせようとしたわよね」
「それは…………済まなかったとしか、言いようがない」
冷たい殺気を放ちながら詰め寄る、メルヴェを前にして、キーランは引き下がるしかない。
「済まないじゃ、済まないのよっ!」
「うぅ…………」
メルヴェは、怒りの余り、鬼女が如く、鼻からしただけを灰狼化させる。
そして、右手に素早く、サルマスシズK10を握ると、キーランの眉間に銃口を突きつける。
「撃つなら、撃て、それだけだ」
「メルヴェ、俺も立場が同じならば、見捨てるし、キーランを撃っていただろう、分かるな?」
「あ? ふぅ♡…………」
警察署での爆破計画にて、キーランに足手まといとなった、ナタンは見捨てられた。
だが、だからと言って、メルヴェに発砲させまいと、彼は背後から抱きつく。
それで、耳元で囁かれるように説得された彼女は、顔を真っ赤にしながら蕩けて脱力してしまう。
「昔馴染みだし、今は同じ帝国警察の隊員だ、許してやれ」
「はぁ~~! もう、分かったわ♡」
ナタンは、メルヴェの頭を右手で撫でつつ、左手でサルマスシズK10を、そっと下げさせる。
「彼を赦してくれるんだな?」
「そう言ってるでしょ♡」
こうして、ナタンの気転によって、メルヴェから殺気と怒りは消え失せた。
「さあっ! クライマックスだっ!」
規格外貨物輸送機VMーTアトラントは、背中にある葉巻型コンテナ後部が開く。
そうして、射出するように矢継ぎ早に、黒いドラゴンやワイバーン、大蝙蝠を放つ。
双胴機、スケールド・コンポジッツ、ストラトローンチは、降下猟兵団を降下させていく。
戦略輸送機Anーアンテーイからは、空挺軍部隊が地上に降りていく。
その間、空中では、戦闘機や戦闘ヘリが混戦を展開していた。
フロスト中尉は、画面に映る、それらを眺めながら嗤う。
「旧式機まで、飛んでいるとはな?」
「ワイバーンや蝙蝠も、敵機を撃墜してますね」
青い三葉機フォッカー Dr.Iが、白いeVTOLを機銃で撃墜する。
次に、アパッチ・ガーディアンが、黒い二葉機フォッカー D.VIIを空対空ミサイルで撃墜する。
旧式機は、友人機か、それとも無人機かは映像を観る限り、フロスト中尉には判断がつかない。
ネージュ準尉も、大量に空を飛ぶ航空機を、じ~~と見ていた。
「まるで、戦争映画を見ているようです」
「ま、現実なんだけどね」
もちろん、戦闘には両軍ともに、ジェット戦闘機も多数投入されている。
連合側の白灰色に塗装された、Jー20が、黒いサーブ35ドラケンを撃墜する。
帝国側の青いサーブ39グリペンにより、白いJー31が誘導ミサイルに追尾されて爆散した。
Suー57が、フレアを射出しながら急降下していく。
機関砲を放ちながら、F22ラプターが斜め上に上昇してゆく。
「敵味方とも、旧式機からCOIN《コイン》機まで出してるが、数は味方が多い」
「てか、何で旧式機が? ドローン化されているのか?」
白いOVー10ブロンコが、青いフォッカーD.VIIIを執拗に追い回して、撃墜する。
白灰色のAー37ドラゴンフライは、黒いローナーLに正面から襲いかかる。
鼠色のウファク C.Iハンザ・ブランデンブルク CCは、白いムワリを撃破する。
白いピラタスPCー9を、黒いフォッケウルフFw44が背後を取る。
そして、上空から機銃を放ちつつ、滑空してくる。
戦闘状況を、レオとカルミーネ達は、YouTubeのゲーム配信を見ているように眺め続けていた。
「ああ~~見飽きたわ? まるで、下らないゲーム見たいだわぁーー」
「だね? 補給物資…………と言うか、敵の集めていた食糧でも漁りに行く?」
「戦利品なら、さっき、ザミョール部隊が持って行ったわよ」
「連中、早い物勝ちだとか、自分たちの方が活躍していたとか言ってたわ」
ミアは、液晶画面を見続けた事で、目が乾き始めたので、ポケットティッシュを取り出す。
喉が渇き、腹も減ってきた、ベーリットは何処かに飲食物でも無いかと、首を左右に動かす。
レギナは、残念そうな顔をして、既に敵から滷獲した品は、第三小隊に持ち去られたと言った。
ハーミアンも、同じく悪口を言って、悔しそうな表情で呟く。
「あの? 皆様…………それ以上は辞めた方が宜しいかと」
「後ろ見てみ、来てるぜ~~?」
「えっ!」
「はっ!」
オルツィとソムサック達が、後ろから四人に声をかけると、レギナとハーミアン達は驚く。
「よお? 戦利品を分けて、やろうかと思ったが、気が変わったわ、お前ら殺してやろうか?」
「い、いえ? そのっ!」
「ハハッ! 遠慮します」
「遠慮しなくて良いわよ、タップリ弾丸は残っているから?」
獣化した、ザミョール中尉を前にして、レギナとハーミアン達は、気まずそうに後ずさる。
その背後には、GShー18拳銃を片手に握る、カピトリーナが立っていた。
「い、いや、それは~~」
「弾丸も遠慮しときますーー」
その場から、せっせと、レギナとハーミアン達は逃走して行った。
「たくっ! フロストの奴は隊員に対して、いったい、どんな教育をしているんだ」
「放置教育でしょうかね」
「勘弁してやってくれ、うちは放置主義じゃなくて、各隊員に自主判断させているんだ」
逃げ出した、二人の背中を見ながら、ザミョール中尉とカピトリーナ達は愚痴る。
そんな彼らの前に、フロスト中尉が右手に、ラップトップを持ちながら現れた。
「あ? 外の状況を見なくて良いのか?」
「それは、もういい、勝ったからね」
ザミョール中尉の疑問に、フロスト中尉は嗤いながら答える。
「はあ? どう言うこった?」
「外に出れば分かるさ」
ザミョール中尉が怪訝な顔をすると、フロスト中尉は大聖堂の外に向かって歩いていく。
「これは…………カスマナーフト&デーモン達だな?」
「そう、帝国宇宙軍まで到着したんだよ」
漆黒の巨大宇宙戦艦を艦隊旗艦とする、大艦隊が都市上空に現れた。
宇宙重巡洋艦は五隻、宇宙巡洋艦が四隻、宇宙駆逐艦が七隻も、上空を航行する。
その他、宇宙護衛艦や小型艦隊と宇宙戦闘機が大量に空を飛行している。
これらが大聖堂の上から陰を作って、地上を暗くしていた。
ザミョール中尉が驚く中、フロスト中尉は嗤いながら両手を天に向けながら欠伸《アクビ》する。
そんな中、上空をジェットパックを背負った、黒い宇宙飛行兵カスマナーフトが飛び回る。
彼らは、屋根や屋上に着地する度、レーザーガンやビームライフルを射ちまくる。
装備は、黒いオルラーン宇宙服に、青と紫の線が入った物を着ている。
また、背中のジェットパックにも、レーザーガトリング&小型ビームポッドを搭載している。
こうして、レジスタンスや連合軍部隊が殲滅されていく。
「しかし、凄いな~~? まさか、宇宙軍まで到着するなんて」
「それだけじゃない、音楽も聞こえて来たぜ」
フロスト中尉は、ジェットパックで空を飛んでいく、カスマナーフトの飛行編隊を眺める。
一方、ザミョール中尉は遥か上空から聞こえてきた、豪快な音楽に耳を傾けた。
それは、あるベトネミ戦争を描いた映画でも使用された有名な曲だった。
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