「くたばったか…………」
乗用車に乗り込もうとした、リーカー市長だったが、もう彼女は喋れない。
そのボロボロに成り果てた、死骸を見て、冷たい眼差しを向ける、イルメラ。
その瞳に映る物は、かつては市長だった遺体だが、それを見て彼女は何を思うったんだろうか。
憎しみか怒りか、それとも悲しみか、それは、彼女にしか分からない。
「後は私は大聖堂に向かうわ? 貴方達は別の場所に行くんでしょ」
「そうだな、そっちは任せたぞ」
事を済ませた、イルメラは、仲間である警察官たちと別れて、一人別の場所へと向かう。
そこから、離れた場所では、大勢の黒い軍服を着た、女性達が無言で市中を歩く。
それは、帝国警察隊員の服装をした女性達だ。
彼女達は、皆無表情で行進する。
最前列の女性達は、白い文字で我々は勝利するまで復讐を止めない。
と、書かれた青い横断幕を持ち、それから二列目の女性達は、両手に白いプラカードを掲げる。
白・黒・灰・茶などと、様々な髪色の女性からなる行進する、復讐者達。
彼女達は、ケレン大聖堂を目指して、町中を誰に邪魔される事なく行進する。
「そこのデモ隊っ! 止まりなさいっ!」
その前方からは、警官隊が拳銃を構えて、デモ隊が、大聖堂に近づかぬように警戒していた。
「貴方達…………コレでもまだ私達を撃つ事が出来るのかしら?」
「なっ? お前は警官だろっ!? なんで極右側に着いたんだっ!」
「我々はデモを抑制しなければ成らないのにっ!?」
デモ隊から列を掻き分けて、真ん中から出てきた、イルメラの姿に、警官隊は驚く。
そして、彼女はアシンメトリーで隠した顔の化粧をハンカチで拭いて落とした。
次いで、彼女はプラカードを、堂々と頭上に掲げる。
祖国よ、私達は一度目は難民達に傷付けられた。
深く心を抉られた私達を、次は祖国が傷付けようと言うのか。
そう言う言葉が、白いプラカードの板に、黒い字で書かれていた。
それは、彼女達の怨嗟と強い憎しみが混じった気持ちを込めた物だった。
「くっ! 下がれ」
黒い死神天使と化した、復讐の乙女達に威圧された、警官隊は下がるしかなかった。
やがて、彼女達は行進する速度を上げ、街中を悠々と進む。
そして、大聖堂に近づくと、一斉に歌を歌い始めた。
「我等はガイエルの黒軍なりっ! ハイアーーホホッ! そして圧政を妥当する、ハイアーーホホッ!」
彼女達は歌う、かつて存在した黒い死神軍団の歌を。
最早、誰も彼女達を止める事は出来ない。
警官隊や軍もだ。
凌辱され侮辱され侮蔑され、悲しみの底に沈んだ女性達。
彼女達は産声を上げた。
死神天使として、行進する悪魔と化して、生まれ変わったのだ。
「修道院の屋根を赤く染め上げよっ! 槍を構え、前進だっ! 修道院の屋根を赤く染め上げよっ! 槍を構え、前進だっ!」
先程の無表情から一変して、怒り狂った表情となった復讐鬼達。
誰も、彼女達の行進は止められない。
「アダムが耕し、イブが護る、主よ憐れみをっ! 圧政者は何処に居る?」
彼女達が探す圧政者、それは、きっと社会の上に立つ貴族のごとき振る舞いをする者達。
ハンザ連邦・ドイツェル州の左派議員、また彼等に連なる役人だ。
悪徳商売に励む企業経営者、難民事業で不正な利益を得ている左翼団体構成員であろう。
「我等は、フロリアン・ガイエルとともに前進するっ! 反逆の為にっ! 彼は先陣を切って、前進するっ! 鎧兜を身に付けて…………」
反逆者として立ち上がった、イルメラを含む、復讐者の軍団。
彼女達は、誰にも邪魔されず、大聖堂を目指した。
彼女達による怒りの表情と鋭い眼光。
その眼力は、道端に隠れた男達を震え上がらせるほど、凄まじい殺気を帯びていた。
酷い暴行を受け、その復讐を望む事により、心を病んだ女性達。
彼女達は、死神と化して街中を悠々と進む。
その恐ろしき姿を、堂々と晒しながら。
「死の天使達は敵地を進みっ! そして悪魔の唄を歌う、復讐鬼はオーデル湖畔の畔に立ち、微かに口遊むのだ」
イルメラは、黒い死神の軍団に混じり、自身もまた歌う。
ゆっくりと重々しい足取りで真っ直ぐ前進し続ける黒い軍隊。
その悪魔たちによる足音は、もちろん世界各地でも鳴り響いていた。
彼女たちは、灰色の道路を、黒い軍隊蟻が如く染め上げる。
ハンザ連邦合衆国、ドイツェル州、州都ベリルン。
フリードリヒスハイン=クロイツベルク区。
「我等は何処でも口笛を吹くっ! 我等は何処へでも進むのだっ! 全世界が我等を呪う、また称えようと、一抹の慰みに過ぎないのだ」
ここでも、悪魔の唄を歌う、狂気を撒き散らす魔女が存在した。
漆黒の軍服コートを、マントみたいに、彼女は前から吹く風に揺らす。
同時に、長いシルバーホワイトの髪も、はためかせる。
その正体は、ラヴィーネ大佐だ。
彼女は一人、黒衣を纏う軍団の先頭に立ち、気味が悪い半笑いを浮かべて、力強く歌う。
その後ろには、HK416ライフルを右肩に担ぎ、左手を揺らす女性達が続く。
彼女と同じく、黒衣の軍服姿をした、女性軍団は列を成して、ガチョウ足行進で歩く。
その姿は、かつて、第二次世界大戦で、戦争犯罪を多々おこした武装親衛隊を彷彿とさせた。
「我等は何処へでも常に進むっ! そして悪魔が嘲笑うのだ、ハハハハハッ! 我等はドイツェルと仲間の為に戦うっ! ゴミ共は休まずにやってくるっ!
狂喜に彩られた、ラヴィーネ大佐が嗤うさまを見た者は、おぞましさの余り、背筋が凍るであろう。
彼女の瞳は、獲物が潜む巣を前にして、笑みを浮かべる獰猛な黒い魔狼を思わせるからだ。
後ろに連なる女性、いや死の天使達も、皆目を輝かせてともに歌い、街中を歩いた。
「我等は四方で、既に幾多の戦いを終えて来たっ! そして黒い肌を討つ、戦いの準備をしているっ! 親衛隊は休まず戦う、ドイツェルの幸福を妨げるゴミ共が消えるまでっ! 例え部隊が消耗するも、我等が退くことはないのだっ!」
ここは、フリードリヒスハイン=クロイツベルク区、左翼政党の牙城だ。
そして、ラヴィーネ大佐が率いる、彼女達が向かう先は、極左政党の事務所が複数存在するビルだ。
「ああーーーー!?」
「ぎゃああああ!!」
『ついに来たぞ…………我々の侵略の日だっ!! Xデーは成功だっ!! ハハハハハハハハハハ…………』
この日、フリードリヒスハイン=クロイツベルク区では、悲鳴が木霊して止むことは無かった。
緑の党を始めとする、左翼政党に所属する議員と支持者たちだが。
彼等は、一部を除き、ほぼ全ての者が、慈悲なき死神たちの群れに命を刈り取られた。
ハンザ連邦合衆国、ドイツェル州、ミュンヒェン市、南ドイツェル新聞社前。
「我等は何処へでも常に進むっ! そして悪魔が嘲笑うのだ、ハハハハハッ! 我等はドイツェルと仲間の為に戦うっ! ゴミ共は休まずにやってくるっ!」
「うわぁーーーー!?」
同日、同時刻、それは、ミュンヒェンでも起きていた。
地の底から響いて来るような、不気味な歌い声。
その歌声を響かせる軍団は、南ドイツェル新聞社の事務所に押し寄せた。
こうして、社内で冷酷無悲な殺戮を楽しむ。
「うわぁぁーー!!」
「きゃああああっ!」
「ぎゃ~~~~!?」
事務机の裏に素早く隠れた、灰色スーツ姿を着た、男性社員だが。
その体を、MG3から放たれた銃弾が机ごと貫き、男性を襤褸切れに変えてしまった。
黒い軍団を侵入させまいと、ドアの後ろに隠れた、女性事務員だが。
その頭部を、黒い死神が構えるHK416が射出した、弾丸が意図も簡単に貫く。
そして、廊下を走る、男性編集者は必死で、奥に逃走しようと速度を上げる。
その背中に向かって、死神三人が構えた、HK416から銃弾が多数発射された。
これにより、無数の風穴が開いた奴は、前のめりに倒れてしまった。
死神の軍団は止められない。
それは誰にもだ。
ハンザ連邦合衆国、ドイツェル州、ハンブルグ市、左翼党事務所前の路上。
「我等は何処へでも常に進むっ! そして悪魔が嘲笑うのだ、ハハハハハハッ! 我等はドイツェルと仲間の為に戦うっ! ゴミどもは休まずにやってくるっ!」
「あああーーーー!?」
「うああぁぁぁ~~!」
嘆きの亡霊を思わせる歌声が、街中に響きわたり、何処からでも聞こえてくる。
その歌声は大きく、殺害される者達が上げる、悲鳴は掻き消されてしまう。
行軍の途上に居た、アラビ人やアフレア人などは全て、彼女達が処理していく。
黒い軍団は、今しがた左翼党事務所の人間を全員処理した帰りだった。
その次いでに、邪魔な難民や移民は排除されている、真っ最中と言うわけだ。
だが、そこに一人の民族衣装ブルカを纏った、アラビ人少女が居た。
彼女は親とはぐれたのか、泣き止むことなく喚いている。
やがて、一人の死神が、そっと少女に近づいた。
「いやっ!?」
このままでは、自分は黒い死神によって、殺されてしまう。
そう思い、逃げ去ろうとした、アラビ人の少女。
「えっ?」
だが、その心配は、理由は分からないが必要なかった。
死神は、天使のような笑顔で彼女を抱いたからだ。
黒い死神は、微笑むだけで何も語らない。
しかし、死神は何故彼女を助けたのだろうか。
「あ?」
それは、死神が見た、少女の姿にある。
「うぅ?」
ブルカの下に見えた、少女の薄浅黒い怯える顔には、両親に殴られたであろう、傷が沢山あった。
その後、列を成した、死神の軍団は街中を狂った哀しい唄を歌いながら、さ迷い続ける。
また、邪魔者から命を刈り取らんと、大鎌の代わりに銃を担いで進む。
少女からブルカを剥ぎ取り、黒い制帽を被せた死神は、彼女の手を握り、二人一緒に街中を歩く。
悪魔の唄を歌いながら。
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