サンドラは、ナタンとメルヴェ達の逃亡を手助けしてくれたかに見えた。
しかし、彼女の親切さに感謝しつつも、突然警察隊員たちの声が響き渡った。
「手を上げたまま、少しも動くなよっ!」
「妙な動きを見せたら、すぐに射殺してやるからな」
「このまま署まで、連行する」
「おバカさん達、帝国側にも協力者やスパイが存在する事を忘れたの?」
制帽を被った、隊長らしき人物が、ザウエル&ゾーン38Hの銃口を、二人に向けてくる。
フリッツ・ヘルメットを被る警察隊員は、ワルサーP38を両手で構えている。
野戦帽の警察隊員は、ワルサーPPを強く握っており、鋭い眼光をしていた。
他にも、ナタンとメルヴェ達を複数人の警察隊員たちが、UMP45を持って包囲していた。
そう、レジスタンスに加担する、サンドラの正体は、帝国警察が市中に紛れ込ませた密告者だった。
「クソッ! この裏切り者めっ!」
「いや、最初から帝国側だったのね…………」
「そうよ、私は帝国警察隊員で、貴方たちを捕まえる潜入捜査員なの? クスクス…………まあ、これで、また私は昇進できるわ」
ナタンは、驚きと絶望の表情を浮かべたが、それを怒りが込もった顔に変化させる。
メルヴェも、キッとした鷹のような目を、周りを囲む警察隊員たちに向ける。
サンドラは、二人を見下すように喋りながら、口角を吊り上げ、不気味な笑みを浮かべていた。
彼女の裏切りによって、彼等が企てた逃亡計画は破綻してしまい、逮捕されてしまった。
「ご苦労、よくやってくれた」
「はっ! このエリーゼ・バーデンッ! 帝国の為なら、身を粉にして働きますっ!」
隊長に対して、サンドラは冷たい笑みを浮かべながら、本名を名乗りつつ報告を行った。
この裏切り行為により、彼女は帝国警察では、さらに地位が高くなるだろう。
だが、それは潜入工作員である彼女に取っては、当然のことだった。
帝国のために働くことが、彼女が抱く信念であり、自身に与えられた使命だった。
「お前ら、装備を下ろせっ!」
「武器をチェックする」
「分かった…………」
「ナタン? まだ、脱出するチャンスはあるから自決しないでね?」
隊長は、ザウエル&ゾーン38Hの銃口を、二人に向けたまま、怒鳴りながら命じる。
フリッツ・ヘルメットの警察隊員は、敵が反撃してこないように警戒する。
野戦帽の警察隊員は、リュックを取り上げつつ、体をタッチして、隠し武器がないか調べた。
その後、ナタンとメルヴェ達には、手錠が嵌められた。
「ああ、メルヴェ…………今は大人しくするよ」
「喋るなっ!!」
「さあ、外にトラックが停まっているわ? そこまで、一緒に行きましょうか」
ナタンは、後頭部から、野戦帽を被る警察隊員によって、ワルサーPPのグリップで叩かれる。
その背後では、エリーゼが上機嫌で、嗤いながら歩きだす。
「いやあ~~? ラッキーだったわ、あと少しで、軍に手柄を取られるところだったからねぇ~~?」
教会の外に出た、彼等を出迎えた車両は、黒いウラルー572060警察仕様型トラックだった。
エリーゼは、二人を帝国軍に渡すよりも、自身が所属する帝国警察に身柄を拘束させようと考えた。
それは、二つの組織が対立しており、彼女は自分が属する側に、渡した方が得だと思ったからだ。
ナタンとメルヴェは、このようにして、裏切り者として、行動する彼女による罠に陥った。
「ナタン? いよいよ、ヤバくなったわね」
「だが、どうしようも無い…………」
ナタンとメルヴェ達は、帝国警察に捕まるという運命をたどった。
「えっと? その人達を解放しろと、大尉から言われました」
「えっ? 何故にっ? せっかく、捕まえたのにっ!」
黒いウラルー572060警察仕様型トラックの側面にあるドアが開いて、中から将校が出てきた。
すると、彼の口からは、ナタンとメルヴェ達を解放しろと言う、信じられない言葉が出た。
予想だにしなかった発言に、二人を捕らえた功労者である、エリーゼは驚く。
しかし、その理由は直ぐに分かった。
「ソイツらは、帝国軍のスパイなんだよ? テロリスト側に潜入しているんだと」
ドアの奥から、将校らしき人物が出てきて、二人が味方組織に属すると、面倒そうに説明した。
「なっ! 何ですってっ!?」
「…………いや、実はテロリスト側に潜入中だから、他の敵や民間人から怪しまれないように、芝居を演じてたんだ」
「そうよっ! それに、下手に暴れたりしたら、アンタ等から撃たれちゃうし」
語られた情報を聞いて、またもや、エリーゼは驚いて叫んでしまう。
ナタンとメルヴェ達は、その言葉が事実だと言って、苦笑いや疲れたような表情を浮かべる。
「…………と言うわけだ? うちの者が済まなかったな?」
「申し訳ないですわ、まさか味方だったなんて、思わなかったものですから?」
「別にいいさ、それより、拘束を解いてくれないかな? もう、これは必要ないだろ」
「組織が違うとは言え、味方同士だし、私達は気にしないわ」
将校とエリーゼ達は、ナタンとメルヴェ達に謝罪は言葉を述べる。
それに対して、二人は気分を害することなく、笑顔で答えた。
「まあ、謝罪の代わりに、ジュビレ通りにある調剤薬局にまで運んでくれないか? あと、適当に顔や体を殴って、怪我をさせてくれ」
「そうして、痣でも作っておかないと、テロリストや民間人からは怪しまれるし? 降りる時は、後部ハッチから私達をゴミのように投げ捨ててね?」
「分かりました…………我々、警察部隊も喜んで協力しましょうっ! さあ、こちらへ」
「本当に申し訳ありませんでしたっ!!」
頭を下げながら、将校は荷台内部へと、ナタンとメルヴェ達を案内する。
エリーゼも、まだ謝罪しながら、二人の手を引っ張って、車内に入るのを手助けする。
こうして、幸運なことに、警察内部にいる協力者の手助けで、彼等は潜入工作員だと勘違いされた。
しかも、それにより、無事に解放されるどころか、目的地まで運んで貰う事となった。
「じゃあ、頼むよ? 出発してくれっ!」
「賠償の代わりに、タクシーになってね~~」
「分かりました、出発しろっ! 目的地は、ジュビレ通りの調剤薬局だ」
「了解しました、今から走らせますね」
車内左右の座席に、警察隊員たちが座ると、ナタンとメルヴェ達も、そこに腰を下ろした。
右側に座った、二人の対面には、将校とエリーゼ達が居て、彼等は黙っていた。
内部協力者の正体も不明なまま、誰を信じれば良いか、今は分からない。
この状況に、彼等は焦っていたが、暫くは荷台で体を揺らされる他ない。
「はあ? これで、秘密基地までは帰還できる」
「戦場で、タクシーが見つかるとはね…………」
ナタンは、何気なく呟きながら、帝国軍スパイの振りを続ける。
メルヴェも、薄暗い車内で、背中を壁に凭れかけながら、体中から力を抜きつつ話す。
こうして、彼等を乗せた、黒いウラルー572060警察仕様型トラックは街中を走っていく。
それから、長い間、二人は警察隊員たちとともに、過ごす他なかった。
「まもなく、目的地の薬局に到着します」
運転手は、二人の目的地に近づきつつある事を、落ち着いた口調で語った。
「ようやく、目的地に着くのか? じゃあ、取り調べを受けた民間人が、ボコボコに殴られたようにしてくれ」
「そうじゃないと、彼方さんから疑われちゃうからね」
「では、行きますよ? お前ら、やれっ!!」
「任務のためですからね…………やりまわすわっ!」
車両が止まると、ナタンとメルヴェ達は立ち上がり、眼を強く瞑った。
そして、将校とエリーゼ達が拳を構えた瞬間、全員に凄まじい衝撃が走った。
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