「ぐあっ!?」
帝国軍下士官が、注射を刺すと同時に、女性レジスタンス員の口から拳を抜き取る。
彼女は、一瞬だけ目を見開いて叫んだが、直ぐにグッタリと項垂れて、大人しく眠ってしまった。
「連行しろ、BTRの中に押し込んで置けっ!」
「了解」
「了解」
帝国軍下士官が命令を下すと、帝国軍兵士たちは彼女を後方に連行していく。
その光景を見ながら、ナタンは強く唇を噛んで、ひたすら耐える。
帝国軍・帝国警察に捕まったレジスタンスの行く先は、101号室送りだ。
つまりは、洗脳されて、帝国の侵略の尖兵とされてしまう。
だが、彼女を助ける事は出来ない。
今、彼が飛び込んだ所で、蜂の巣にされるだけだ。
「んん…………貴様は誰だ、我が隊の者ではないな?」
「私は帝国警察部隊の者で、地下道の奥から銃撃音を聞いて、駆け付けて来ました…………」
部屋の隅に立っていた、ナタンに気がついた、帝国軍下士官は声をかけると、彼は適当に答えた。
「そうか、なら掃討に付き合え? 付近には、まだテロリスト達が隠れているかも知れないからな」
「了解しましたっ!」
帝国軍下士官の命令に従い、ナタンも、レジスタンス残党を捜索する任務に加わる。
『…………何とかして然り気無く逃げ出さねば…………』
レジスタンス達の捜索を、手伝う振りをしようと、ナタンは動く。
こうして、隙を伺いつつ、この場を離れようと、彼は考えたわけである。
それから、部屋に幾つか存在するドアが、帝国軍部隊の兵士達に開かれていく。
脱出を目指す、ナタンも同じように開けて、中を確認しようとした。
「なっ!? どうやら当たりっ!?」
「撃てぇっ!!」
「撃ち殺せっ!」
ドアを開いた、ナタンを目掛けて、廊下の端からレジスタンス達は、手持ち武器で一斉射撃を行う。
「うわあっ!」
ナタンを貫かんと、放たれた大量の銃弾だが、それ等は、全てが四角い氷壁に弾かれた。
「何が?」
ナタンが目を開くと、彼の前にはウィッチカが立っていた。
両手を前に突きだして、氷結魔法による防御魔術を展開していたのだ。
そして、二人の背後から、素早い矢による射撃が二回も放たれる。
「ぐあっ!」
「あっ!!」
廊下の曲がり角から、何度も銃撃を加えてくる、レジスタンス達。
黄色いベレー帽を被るレジスタンス員と赤いベレー帽のレジスタンス員たちは、後ろに倒れた。
それは、二急所である胸を二人は矢に貫かれたからだ。
さらに、廊下奥の木箱裏に隠れて、銃撃してくる生き残りが存在した。
だが、緑色ニット帽を被った、レジスタンス員の顔面に、ナイフが投げつけられた。
「うわ!?」
「ウィッチカ、援護してっ!」
「了解、任せなペクレン」
緑色ニット帽のレジスタンス員が倒れると同時に、ペクレンは駆け出していく。
彼女は、死体と化した、レジスタンス員の顔から、ナイフを素早く抜き取る。
と同時に、自らの腰から、もう一本ナイフを引き抜いた。
その突撃に呼応した、ウィッチカは彼女を援護しようと、黒い魔導杖を振るう。
吹雪とともに、鋭く尖ったガラス片みたいな氷柱《つらら》の弾丸を、無数レジスタンス達へと連続で放つ。
「敵が突っ込んで来るぞっ!?」
「うぎゃっ!!」
「撃てっ撃てっ!?」
廊下を真っ直ぐ走る、ペクレンを狙う数人のレジスタンス達だが。
彼女を撃ち殺そうとした彼等だが、機関銃が放った散弾の如き、氷柱に体を貫かれてしまう。
ウィッチカが放った、強烈な魔法攻撃に連中は怯んでしまう。
その隙を突いて、一気に距離を詰めた、ペクレンは両手に構えた、二刀流ナイフを素早く振るう。
「奴を近づけるなっ!!」
「ヤバイ! 接近してきたぞっ!?」
「このっ!」
「ごあぁっ!」
踊るように、鋭利な刃を振るいながら移動する、ペクレンの舞い。
その素早さに、レジスタンス達は、ただ翻弄されるだけだ。
こうして、銃撃をすり抜けつつ、接近してくる彼女を、連中は仕留めることは出来なかった。
「アハハッ! 弱すぎるわねっ!」
「ぎゃっ!」
「ぐわっ!」
右腕を振るい、ペクレンは、ナイフでレジスタンス員の首を切り裂く。
二撃目を近くに立っていた、レジスタンス員の額に突き刺した。
次いで、左腕を突きだして、三人目である、レジスタンス員の心臓を貫く。
「クソ!! 撤退だっ!」
残る一人のレジスタンス員は慌てて、スモークグレネードを投げつける。
これにより、姿を隠すべく、周囲に煙幕を炊こうとするのだが。
それよりも早く、ウィッチカが放った氷柱が、奴の顔上面を貫いた。
「これで全て、殲滅完了っと」
「あっという間に片付いたわ」
ウィッチカとペクレン達は、冷たい侮蔑の視線を向けながら呟く。
周囲に転がる、レジスタンス達の無惨な遺体を見て、戦闘が終わったと彼女達は思った。
「あ、有り難う…………助かったよ」
そんな二人を前に、ナタンは自分を助けてくれた礼を言った。
すると、彼女たちは、先程みせた冷たい視線が嘘かのように、笑顔を彼に向ける。
「べっ! 別に良いのよ、礼なんて?」
「そうよ、私達は仕事をしただけよ」
「いや、そうとは言え、助かったのは事実さ」
ウィッチカとペクレン達は、二人とも頬を紅く染めて話すのだが。
ナタンは、彼女達の様子を、不思議がると同時に思案する。
『…………不味いな? 後を付けられていたか? きっと、道路に開いた穴から入って来たんだな…………』
早くレジスタンス側の秘密基地へと帰還せねば成らない、ナタン。
彼は、二人をどうやって、煙に巻くか考えつつ、顔には出さないようにしながら自然に構える。
「あの? 君たちは帝国軍の所属みたいだけど、今の僕は残敵の争闘に協力しているんだ、それで君たちにも一緒に敵を捜索して欲しいんだ…………」
まだ、レジスタンス達が居るやも知れぬので、捜索を手伝って欲しいと、ナタンは語る。
すると、二人とも嫌な顔をせず、それどころか、直ぐに笑顔で答える。
「良いわよっ! 私達も残敵の掃討は、どの道命じられるだろうし」
「そう、だから私達は貴方に協力するわ」
「良かった、じゃあ僕は奥に向かうから援護を頼むよ」
ウィッチカとペクレン達は、文句を言わず残敵の捜索と掃討任務を快諾してくれた。
そんな二人を前にして、ナタンは廊下の奥に存在するドアに行く。
『…………奥に行けば彼女達からどうにかして姿を眩ませるだろう…………』
その向こう側にある部屋が複雑な作りなら、二人から逃れられるかも知れないと、ナタンは思った。
「じゃあ、奥の扉を開くよ…………」
「ええ、良いわ」
「準備は出来てるわよ」
そう考えた、ナタンがドアの近くにまで来て、左側の壁に張り付く。
彼の背後から援護しようと、ウィッチカは魔導杖を両手で構えた。
ペクレンは、膝だちになり、丸木弓を両手で確りと構えた。
「突入するっ!」
それから直ぐに、ナタンは奥のドアを少しずつ開いていく。
すると、そこは倉庫らしい場所で、部屋の真ん中と隅には、大きな棚が置かれていた。
そこには、段ボール箱が沢山あり、それらが乱雑に積まれていた。
部屋の向こう側には、ドアが二つあり、左には上階へと続く階段が存在する。
「階段は僕が調べるよ? 扉は君達が頼むよ」
「分かったわ、アイスシールド」
「左のは、私が担当するね」
ナタンは、MASー1935を両手で構えながら、階段を目指す。
ウィッチカは魔法で作った氷の盾を左手に構え、突発的な遭遇戦に備える。
ペクレンは、敵が白兵戦を挑んでくると考え、二刀のナイフを構えて、ドアに進む。
「…………上には敵は無し…………か?」
階段を上った、ナタンはフロア全体を見渡すと、静かな空間で呟いた。
そこは、広くはなかったが、辺りには段ボール箱が散らばる。
その中でも、大きな薄茶色をした、プラスチック箱が目立つ。
「…………ふぅ」
その空間には、左右に廊下があり、ナタンは慎重に歩いていく。。
そうやって、彼は廊下と大きなプラスチック箱に近づいていった。
MASー1935を構えたまま、彼は進む。
そして、目標へと静かに近付いてから、それを彼は蹴り上げる。
また、彼は中に誰かが潜んで居ないかと、銃口を突きつける。
「…………撃たないでくれ、頼む…………」
すると、大きなプラスチック箱の下から黒人レジスタンス員が出てきた。
その事に驚いた、ナタンは黙ったまま、固まるしか無かった。
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