ガントラックは転倒したまま、右側のビルに突っ込んだ状態だ。
幸い炎上はしていないが、中に入っていた、レジスタンス達は、すでに逃走を開始しているだろう。
「私の射程範囲に入れば、こうなるのさ…………」
平然と呟く、フォイルスニェーク大尉。
「第一分隊はさっさと、ビルの中に行けッ! 連中は中で体制を整えて待ち伏せする気だろう…………その前に殲滅しろ」
部下達に命令を下した、フォイルスニェーク大尉は、ナタンに目を向け直す。
そして、彼を氷柱《つらら》のように冷たく突き刺さるような眼差しで睨んだ。
「さて、では貴様の処刑…………いや連行と移ろ…………? チッ! また敵襲か」
『…………結局、逃げ出す前にトラックは倒されたか? ん? …………』
フォイルスニェーク大尉は、捕まえた、ナタンを前にして、ニヤリと嗤う。
両手を前に出した、彼には最早逃走する手段も自決する隙もない。
今度こそ、彼は自由と人間としての尊厳を、本当に失くなってしまった。
これから、彼の首筋には麻酔注射が射たれ、両手には手錠が填められるだろう。
と、二人とも考えていたが、そこに、突如車輪が地面を擦る音が響き渡った。
「敵襲っ! テロリストの別動隊が来やがったっ!」
「またか、急いで反撃しろっ!」
近くの十字路を見ると、左右から四台も、レジスタンス側が用意した車両が現れる。
帝国軍兵士たちは、慌てて武器を構えて迎え撃たんとする。
右からは、トマトのように真っ赤な色をした、丸みを帯びた、ジューポン製である軽トラ。
ではなく、ヒンディーのタタ・モータースで開発された、エース・ジップが走って来る。
しかも、コイツは荷台から、キャリバーM50重機関銃を撃ちまくりながら突撃してくるのだ。
その後ろから来る軽車両は、赤茶色をした荷台付き、三輪バイクだ。
通称トライシクルと呼ばれる、これはチィーナ製のアプソニックだ。
その荷台には、同じくチィーナ製、88式車載重機関銃を撃ちまくる機関銃手が居る。
左側からは、二人乗りの黄緑色に塗装された、CFMOTO製バギーが現れた。
後ろに立つ機関銃手は、真ん中の棒に載せられた、チィーナ製80式汎用機関銃を撃つ。
その後ろを走る茶色い70系ランドクルーザーは、荷台からRPD機関銃で、銃弾を大量に放つ。
「こっちに突っ込んでくるっ! 逃げろっ!」
「ビルに入れ、急ぐんだっ! 早くしろっ!」
四台もの、レジスタンス達が乗り回す車両による奇襲攻撃。
それによる、銃撃から逃れようと、大慌てで逃げ惑う帝国軍兵士たち。
「この程度で慌てるなと、さっきも言っ? チッ! クソが…………」
『…………今のでも動じないのか? なんて奴だよ? この女指揮官は…………』
車両から飛んできた銃弾が、フォイルスニェーク大尉の右頬を掠める。
ダラリと青い血を流しながらも、涼しげな表情を崩さない彼女を、ナタンは手強い敵だと思う。
「隊長っ! 今度こそ、ヤバいですってぇ~~!?」
「俺たち、やっぱ死んじまいますよっ!!」
「フン、黙れ…………小癪《こしゃく》な」
イラクリとスーラーン達は、先程と同じく騒ぎだし、フォイルスニェーク大尉に指示を求める。
しかし、またも彼女は退避命令を出さず、迫り来る四台の敵車両を睨む。
「また、仕留めるのか?」
「あ? 黙ってろ」
ナタンの質問に答えず、フォイルスニェーク大尉は、冷ややかな目線を剃らす。
そして、彼女は指揮棒《タクト》を下から勢いよく振るい、氷結魔法を放った。
杖先から飛び出た突風は、回転しながら吹雪を宙に撒き散らし、透き通る氷の壁を作り出す。
「はっ! この程度、私の氷結魔法でっ?」
フォイルスニェーク大尉は、敵の攻撃を前にしても堂々と勝ち誇る。
何故なら、彼女の放った氷結魔法によるガラスのように透明な氷壁は、弾丸を受け止めたからだ。
しかし、透き通った氷の向こうには、真っ赤な系トラ、エース・ジップが走ってくる姿が見える。
「…………不味い、逃げろっ!?」
「これは死んじゃうわよっ!!」
「流石に、アレは…………無理か、なら攻撃に?」
スーラーンとイラクリ達は、直ぐに飛んで回避しようとした。
しかし、フォイルスニェーク大尉は、さらなる氷結魔法による氷の追加で、何とかしようとする。
「危ないっ!! 伏せろっ!!」
『…………このままでは、二人とも跳ねられるっ!! …………』
だが、それが間に合うより早く、エース・ジップが衝突するのが先だろう。
そう判断した、ナタンも咄嗟に動き、物凄い勢いで走り出した。
「なっ! 貴様、何の積もりだっ!!」
「うわあっ! もうダメだっ!」
何故か、フォイルスニェーク大尉を掴んだ、ナタンは路面に倒れた。
その後、直ぐに氷壁を突き破って、エース・ジップが二人に迫る。
「クソッ! 前が見えねぇぞっ!」
「降りろ、戦闘だ」
だが、運良く衝突した際に、窓ガラスがヒビ割れた事により、エース・ジップは止まってしまった。
そこから、ゾロゾロと運転手や荷台に乗っていた、レジスタンス員が降りてくる。
「くっ! 撃つしか無いかっ! 仕方ない」
「良いから、早く反撃しろ」
ナタンは、フォイルスニェーク大尉から即座に離れると、腰からMASー1935を抜き取る。
次いで、エース・ジップの荷台に乗った、機関銃手を撃つ。
フォイルスニェーク大尉も、指揮棒《タクト》を構える。
そして、運転手や他のレジスタンス員に対して、何発も氷柱《つらら》を発射した。
「ぐわっ!!」
「がっ!」
「撃たれ…………た?」
二人の銃撃と魔法攻撃で、レジスタンス達は次々と撃たれた。
連中が、何人居たのか、正確な数は分からないが、取り敢えず危機は去った。
「他は? あっ? 何だ、アレは…………」
「味方のヘリだ…………どうやら、こっちに来てくれるらしいな」
ナタンは、直ぐに周囲で戦闘を続ける、帝国側とレジスタンス達を、確認しようと首を振る。
が、激しく回転するプロペラ音を聞いて、不意に上を見る。
すると、何らかの漆黒に塗装された、ヘリが遠くから飛んで向かってくる様子が伺えた。
その姿を見た、フォイルスニェーク大尉は笑みを浮かべて呟く。
「アクーラが来たか」
フォイルスニェーク大尉は、急に立ち上がり、指揮棒《タクト》を振って、再び氷壁を張る。
Kaー50チョールナヤ・アクーラ。
ロシャ連邦軍が使用する鮫《サメ》の名を冠する戦闘攻撃ヘリだ。
「さあ、始まるぞ」
フォイルスニェーク大尉が、口を大きく開いて、空を見上げながら嗤う。
その口からは、鋭い犬歯が覗き、まるで悪魔みたいに見える。
彼女が確りと見据える先では、空中で、ホバリングした、Kaー50が空爆を開始する。
Sー8ロケット弾用Bー8V20A20連装ポッド、二基。
23ミリ機関砲ポッド、二基。
両翼下部に備えられた、これ等の兵器を、一斉に発射した事により、地上は地獄と化す。
「ぎゃあっ? 熱いっ! 熱い、熱いぃぃ」
「ぐわああーーーー」
「ロケット弾だ、急…………が、ああ」
「撃たれ…………な? ああ、あ…………」
巻き上がる爆炎で、四台のテクニカル化された、車両諸とも、レジスタンス達は焼死してゆく。
真っ赤な炎は、路上で戦っていた全ての敵歩兵たちを包み込んでしまう。
さらに、降り注ぐスコールのような機関砲弾が容赦なく体を貫いていった。
これにより、辺り一面の敵部隊は、一掃された。
「ふぅ~~? これで終わったようだな? では、次なる問題を解決するとしようか…………」
フォイルスニェーク大尉は、焼け焦げた路上で、深く息を吸い込みながら呟いた。
それから、彼女はナタンの方へと、ゆらりと静かに振り向き、冷たい視線を見せた。
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