【暗黒騎士団VS反逆のレジスタンス】 吸血鬼アンデッド軍団と最後の人類は、たった一人でも戦う

レジスタンスは今日も戦う
デブにゃーちゃん
デブにゃーちゃん

第127話 魔女からは逃げられないのかよ…………

公開日時: 2024年7月10日(水) 20:33
更新日時: 2024年7月13日(土) 11:38
文字数:3,044


 ガントラックは転倒したまま、右側のビルに突っ込んだ状態だ。


 幸い炎上はしていないが、中に入っていた、レジスタンス達は、すでに逃走を開始しているだろう。



「私の射程範囲に入れば、こうなるのさ…………」


 平然と呟く、フォイルスニェーク大尉。



「第一分隊はさっさと、ビルの中に行けッ!  連中は中で体制を整えて待ち伏せする気だろう…………その前に殲滅しろ」


 部下達に命令を下した、フォイルスニェーク大尉は、ナタンに目を向け直す。


 そして、彼を氷柱《つらら》のように冷たく突き刺さるような眼差しで睨んだ。



「さて、では貴様の処刑…………いや連行と移ろ…………? チッ! また敵襲か」


『…………結局、逃げ出す前にトラックは倒されたか? ん? …………』


 フォイルスニェーク大尉は、捕まえた、ナタンを前にして、ニヤリと嗤う。


 両手を前に出した、彼には最早逃走する手段も自決する隙もない。



 今度こそ、彼は自由と人間としての尊厳を、本当に失くなってしまった。


 これから、彼の首筋には麻酔注射が射たれ、両手には手錠が填められるだろう。



 と、二人とも考えていたが、そこに、突如車輪が地面を擦る音が響き渡った。



「敵襲っ! テロリストの別動隊が来やがったっ!」


「またか、急いで反撃しろっ!」


 近くの十字路を見ると、左右から四台も、レジスタンス側が用意した車両が現れる。


 帝国軍兵士たちは、慌てて武器を構えて迎え撃たんとする。



 右からは、トマトのように真っ赤な色をした、丸みを帯びた、ジューポン製である軽トラ。


 ではなく、ヒンディーのタタ・モータースで開発された、エース・ジップが走って来る。


 しかも、コイツは荷台から、キャリバーM50重機関銃を撃ちまくりながら突撃してくるのだ。



 その後ろから来る軽車両は、赤茶色をした荷台付き、三輪バイクだ。


 通称トライシクルと呼ばれる、これはチィーナ製のアプソニックだ。


 その荷台には、同じくチィーナ製、88式車載重機関銃を撃ちまくる機関銃手が居る。



 左側からは、二人乗りの黄緑色に塗装された、CFMOTO製バギーが現れた。


 後ろに立つ機関銃手は、真ん中の棒に載せられた、チィーナ製80式汎用機関銃を撃つ。


 その後ろを走る茶色い70系ランドクルーザーは、荷台からRPD機関銃で、銃弾を大量に放つ。



「こっちに突っ込んでくるっ! 逃げろっ!」


「ビルに入れ、急ぐんだっ! 早くしろっ!」


 四台もの、レジスタンス達が乗り回す車両による奇襲攻撃。


 それによる、銃撃から逃れようと、大慌てで逃げ惑う帝国軍兵士たち。



「この程度で慌てるなと、さっきも言っ? チッ! クソが…………」


『…………今のでも動じないのか? なんて奴だよ? この女指揮官は…………』


 車両から飛んできた銃弾が、フォイルスニェーク大尉の右頬を掠める。


 ダラリと青い血を流しながらも、涼しげな表情を崩さない彼女を、ナタンは手強い敵だと思う。



「隊長っ! 今度こそ、ヤバいですってぇ~~!?」


「俺たち、やっぱ死んじまいますよっ!!」


「フン、黙れ…………小癪《こしゃく》な」


 イラクリとスーラーン達は、先程と同じく騒ぎだし、フォイルスニェーク大尉に指示を求める。


 しかし、またも彼女は退避命令を出さず、迫り来る四台の敵車両を睨む。



「また、仕留めるのか?」


「あ? 黙ってろ」


 ナタンの質問に答えず、フォイルスニェーク大尉は、冷ややかな目線を剃らす。


 そして、彼女は指揮棒《タクト》を下から勢いよく振るい、氷結魔法を放った。



 杖先から飛び出た突風は、回転しながら吹雪を宙に撒き散らし、透き通る氷の壁を作り出す。



「はっ! この程度、私の氷結魔法でっ?」


 フォイルスニェーク大尉は、敵の攻撃を前にしても堂々と勝ち誇る。


 何故なら、彼女の放った氷結魔法によるガラスのように透明な氷壁は、弾丸を受け止めたからだ。


 しかし、透き通った氷の向こうには、真っ赤な系トラ、エース・ジップが走ってくる姿が見える。



「…………不味い、逃げろっ!?」


「これは死んじゃうわよっ!!」


「流石に、アレは…………無理か、なら攻撃に?」


 スーラーンとイラクリ達は、直ぐに飛んで回避しようとした。


 しかし、フォイルスニェーク大尉は、さらなる氷結魔法による氷の追加で、何とかしようとする。



「危ないっ!! 伏せろっ!!」


『…………このままでは、二人とも跳ねられるっ!! …………』


 だが、それが間に合うより早く、エース・ジップが衝突するのが先だろう。


 そう判断した、ナタンも咄嗟に動き、物凄い勢いで走り出した。



「なっ! 貴様、何の積もりだっ!!」


「うわあっ! もうダメだっ!」


 何故か、フォイルスニェーク大尉を掴んだ、ナタンは路面に倒れた。


 その後、直ぐに氷壁を突き破って、エース・ジップが二人に迫る。



「クソッ! 前が見えねぇぞっ!」


「降りろ、戦闘だ」


 だが、運良く衝突した際に、窓ガラスがヒビ割れた事により、エース・ジップは止まってしまった。


 そこから、ゾロゾロと運転手や荷台に乗っていた、レジスタンス員が降りてくる。



「くっ! 撃つしか無いかっ! 仕方ない」


「良いから、早く反撃しろ」


 ナタンは、フォイルスニェーク大尉から即座に離れると、腰からMASー1935を抜き取る。


 次いで、エース・ジップの荷台に乗った、機関銃手を撃つ。



 フォイルスニェーク大尉も、指揮棒《タクト》を構える。


 そして、運転手や他のレジスタンス員に対して、何発も氷柱《つらら》を発射した。



「ぐわっ!!」


「がっ!」


「撃たれ…………た?」


 二人の銃撃と魔法攻撃で、レジスタンス達は次々と撃たれた。


 連中が、何人居たのか、正確な数は分からないが、取り敢えず危機は去った。



「他は? あっ? 何だ、アレは…………」


「味方のヘリだ…………どうやら、こっちに来てくれるらしいな」


 ナタンは、直ぐに周囲で戦闘を続ける、帝国側とレジスタンス達を、確認しようと首を振る。


 が、激しく回転するプロペラ音を聞いて、不意に上を見る。



 すると、何らかの漆黒に塗装された、ヘリが遠くから飛んで向かってくる様子が伺えた。


 その姿を見た、フォイルスニェーク大尉は笑みを浮かべて呟く。



「アクーラが来たか」

 

 フォイルスニェーク大尉は、急に立ち上がり、指揮棒《タクト》を振って、再び氷壁を張る。



 Kaー50チョールナヤ・アクーラ。



 ロシャ連邦軍が使用する鮫《サメ》の名を冠する戦闘攻撃ヘリだ。



「さあ、始まるぞ」


 フォイルスニェーク大尉が、口を大きく開いて、空を見上げながら嗤う。


 その口からは、鋭い犬歯が覗き、まるで悪魔みたいに見える。



 彼女が確りと見据える先では、空中で、ホバリングした、Kaー50が空爆を開始する。



 Sー8ロケット弾用Bー8V20A20連装ポッド、二基。


 23ミリ機関砲ポッド、二基。



 両翼下部に備えられた、これ等の兵器を、一斉に発射した事により、地上は地獄と化す。



「ぎゃあっ? 熱いっ! 熱い、熱いぃぃ」


「ぐわああーーーー」


「ロケット弾だ、急…………が、ああ」


「撃たれ…………な? ああ、あ…………」


 巻き上がる爆炎で、四台のテクニカル化された、車両諸とも、レジスタンス達は焼死してゆく。


 真っ赤な炎は、路上で戦っていた全ての敵歩兵たちを包み込んでしまう。



 さらに、降り注ぐスコールのような機関砲弾が容赦なく体を貫いていった。



 これにより、辺り一面の敵部隊は、一掃された。



「ふぅ~~? これで終わったようだな? では、次なる問題を解決するとしようか…………」


 フォイルスニェーク大尉は、焼け焦げた路上で、深く息を吸い込みながら呟いた。



 それから、彼女はナタンの方へと、ゆらりと静かに振り向き、冷たい視線を見せた。

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