六方向に道が繋がっている、特殊な交差点まで、連合軍機甲部隊は、何事もなく走行した。
しかし、ここで、いきなりEBR90偵察戦闘車が破壊された。
その後に続く、ERC90偵察用装甲車も砲撃を受けて、砲塔が宙を舞う。
「な、なんだっ!? 何処から撃って来たんだっ!!」
「待ち伏せよっ!! あっちこっちに居るわっ!?」
ナタンは焦りまくり、メルヴェは辺りを囲む敵部隊に気づく。
南西にある、モリ通りには、鼠色のポローランド製PLー01ステルス軽戦車が潜伏していた。
北西のヴィクトワール通りには、チュコ製、Tー72CZ、M4主力戦車が待ち構えていた。
東のアクデュック通りには、アリエテMk《マーク》2小型主力戦車が、二台も並んで隠れていた。
「前に行くしかないっ!!」
「RPGよっ! 気を付けてっ!」
交差点から北にある、ブルグマン通りを、このまま突っ込んで行くか。
それとも、北東に向かう、ドゥワファック通りに進むしか、この二つに一つしか道はない。
だが、待ち構えていたのは戦車隊だけではない。
彼方此方《あちらこちら》から、大量のRPG弾や機銃掃射が飛んでくる。
「ぐわああっ!?」
「ああああっ!!」
「ぎゃああーーーー!」
「ごばぁっ!」
ゲッコー、RDLVはRPG弾が直撃して、大爆発を起こし、空にオレンジ色の炎を吹き上げた。
バジャジ製、三輪タクシーは、機銃掃射の中に混じっていた機関砲にやられて、穴だらけになる。
そして、コントロールを失った車体は、やがて横転してしまった。
「不味い、残るは俺たちと、あのトラックだけだっ!」
「分かっているわ、でも前に行くしか…………はっ!?」
RGー33トラックだけは、真っ直ぐに、ブルグマン通りを突き進んでゆく。
しかし、直後に発煙弾や青色の毒ガス弾が、路上にバラ撒かれた。
「前はダメだ、東に向かうっ!」
「そっちしか道は無いわっ!」
充満する、白煙と青色の毒ガスを避けるべく、ナタンは進路を東に向けた。
メルヴェも狙いを定めず、M60から途切れなく滅茶苦茶に乱射しまくる。
そうして、二人の乗った、ヤマハ・グリズリーは、ドゥワファック通りに突っ込んで行った。
直後、二人が通りすぎた路上に発煙弾や毒ガス弾が投げ込まれた。
「後少しだったな…………」
「もう少しで、お陀仏だったわね」
ほんの僅かな時間、あと一歩だけ、進むスピードが遅かったら、ガスに巻き込まれていただろう。
そう思い、ナタンとメルヴェ達は身震いしながら、ヤマハ・グリズリーの速度を上げた。
一方、ドゥファック通り、マツダ販売店前。
「あん? ここで見張ってろって言われたが、本当に来んのか?」
「来るって、連絡が来ただろう? 早く路上に仕掛けろよっ!」
スパイク・ストリップを設置する作業をしながら、レオは愚痴る。
そんな彼を叱りながら、カルミーネは確りと仕事をこなそうとする。
すでに、周りの歩道には、障害物が多数設置されている。
L字鋼・H形鋼などを組み合わせて作られた、チュコの針鼠がある。
さらに、手前には竜の歯と呼ばれる小さなコンクリート製ピラミッドが、幾つも並べられている。
また、手前右側にあるアマゾーヌ通りに向かう横道は、鉄条網が何重にも敷設されている。
その他、通れそうな場所にも、同様に障害物が置かれている。
こうして、後は二人が罠を設置すれば、封鎖は完了するはずだった。
「ほらっ! ボサッとしてないで早くっ!」
「ちゃんと、やんないなら給料でないよ?」
ミアとベーリット達は、歩道・左側にある三脚にMG3の機関部を載っけていた。
「新入りたち? 木管楽器は、そこに置いといてね」
「了解です」
「分かりました」
弓矢を右肩に掛ける、レギナが言う木管楽器とは、9M111ファゴットだ。
旧ソ連製の対戦車ミサイルである、コレを彼女は新米隊員に運ばせていた。
黒いツナギに、銀色の神風特攻隊と卍が描かれた特服を着ている、無表情な男性兵士。
中世風の鎧に身を包み、茶髪ロングヘアーを靡《なび》なびかせる冷酷な表情をした、女性兵士。
二人は、ファゴットを雪積もる地面に設置した。
「シェラ、貴方はチュコの針鼠の裏に隠れて? サナダ、貴方は予備のミサイルを用意して? えっ?」
レギナは、アレコレと指揮官のように、二人に次々と指示を下す。
女性兵士は、シェラと言うらしく、命令された通り、チュコの針鼠に隠れる。
男性兵士であるサナダは、ミサイルを運び終えると黙って、ファゴットの側に控える。
だが、そんな彼等の目に、かなり遠くから何かが向かってくる姿が伺えた。
「帝国警察の検問だわっ!?」
「こうなったら、強行突破だっ!」
「うわああっ!!」
「なな、なあっ!?」
M60をド派手に乱射しながら、一代のヤマハ・グリズリーが、猛スピードで疾走してくる。
それに驚いた、レオとカルミーネ達は、スパイク・ストリップを展開する前に、左右に飛んだ。
こうして、できた隙を狙い、ナタンとメルヴェ達は容易に突撃してしまう。
「はっ? 追わなきゃならんっ! カルミーネ、ミア、ベーリット、レギナッ! 行くぞっ!」
「シェラ、サナダ、他の連中は残っててくれっ!!」
封鎖を突破してしまった敵を追うべく、サイドカー、AWOー700にレオは乗った。
カルミーネも急いで、ドゥカティ・スーパースポーツ950Sに跨がると急発進させる。
「止まれっ! と言って、止まる連中じゃないわね…………」
「急いで、奴らを追わなきゃ成らないわっ!!」
「二人とも、ファゴットとミサイルは任せたからねっ!」
AWOー700の側車に飛び乗った、ミアはMG3車載機関銃を握った。
ベーリットは壁面に立て掛けていた、ノルウィー製、電動四輪バイクに走る。
ガラス窓は、壁際を向いており、彼女がキーを操作すると、垂直に立っていた車体だけを下ろした。
そして、彼女が座席に座ると、ポッドバイクと言われるコレは、ガラス窓を車体カバーごと下げた。
レギナは、青と銀色に塗装された、BMW、R1250RTーPに向かった。
検問を突破した、二人はドファック通りを進み、交差点をすぎた。
「メルヴェ、追っては来てるか?」
「来てるわっ! あぁ…………しかも、最悪な連中が来てるわよ…………」
ナタンは前だけを見て、必死でヤマハ・グリズリーを走らせまくる。
背後を警戒する、メルヴェはM60の引き金へ静かに指をかけた。
次いで、強烈な反動を起こしながら、ベルトリンク式の機銃弾を撃ち放った。
「うわっ! 撃って来やがったぜっ! ヤバい、こっちも反撃しないとっ!」
「分かってる、今コレを撃つから黙っててっ!」
ナタンとメルヴェ達を追跡する、帝国警察部隊は、猛烈な射撃に晒された。
レオは、AWOー700の走る速度を少しだけ落とすと、ワルサー5PLを何回か発砲する。
ミアも、応戦しようとMG3を撃ちまくり、機銃弾を飛ばし続けた。
しかし、前を走る牽引トレーラーの装甲板を貫くことは出来なかった。
十何発か当たった機銃弾は、カンカンと装甲に弾《はじ》かれながら音を立てる。
「メルヴェ、無事かっ? 連中は何人だっ!」
「五人だわ、レオ達よ? しかも、レギナの姿が見えるわっ!」
背後からくる敵の人数を、ナタンは聞いたが、メルヴェは驚くべき事実を伝えた。
それは、レギナが敵の戦列に加わっており、自分たちを追跡してくると。
すなわち、彼女は帝国に捕まって、洗脳されていたと言う事だ。
「はあっ!? マジか…………」
「マジもんのマジ、本当のマジ話しよ」
そう話しながら、ナタンとメルヴェ達は、次の交差点にまで迫っていた。
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