黒いスカルドラゴンが空中から上昇していき、段々と遠ざかる。
ナタンとメルヴェ達は、再び骨竜が降下してきて、毒ガスを吐かない内に逃げようとする。
「ま、まさか? あんな物まで、帝国は持ち出してくるとは…………」
「急ぎましょう、アレの毒を喰らえば、一撃死になっちゃうわっ!」
ナタンとメルヴェ達は、バイクのハンドルを強く握り締めると、一気に加速させた。
こうして、二人は敵部隊の執拗な追撃を、何とか逃れたかと思った。
「また、戦闘かよっ! メルヴェッ! 右に曲がって、逃げるぞっ!」
「分かったわっ! このまま、そこまでバイクを走らせましょうっ!」
だが、しばらくバイクを走らせていた、二人の正面では、激しい炎と飛び散る粉塵が見えた。
そこでは、十字路を中心に、レジスタンス部隊と警察部隊が、交戦している。
ナタンとメルヴェ達は、戦火を避けるべく、ここからも離れようと画策した。
しかし、正面左側から急に、黒いルクス装甲車が登場した。
「うわっ! 避けられないっ!」
「避けるしかないわっ!」
ナタンとメルヴェ達は、右側の隙間を通って、バイクを突っ込ませる。
それと同時、通り過ぎた、ルクス装甲車が派手な爆発音を響かせる。
しかし、前方にも道を塞ぐようにして、青いVAB装甲車の残骸が燃え盛りながら並んでいる。
「うわあ、これじゃ前に進めないっ!」
「何処か? 別な道は…………」
「こっちだ、こっちっ!」
ナタンとメルヴェ達を、緑色の覆面を被った、レジスタンス員は、右側から手招きをしながら呼ぶ。
また、RPGー7を構えた、アラビ人レジスタンス員が、弾頭を発射する。
そこは、駐車場となっている場所で、レジスタンス側の部隊が立て籠っていた。
「済まない…………助かった」
「助けてくれて、有りがとうっ! 危うく、死ぬところだったわ」
ナタンとメルヴェ達は、駐車場内に入ると、反対側が瓦礫で塞がれている様を見た。
なので、二人はバイクを止めて、覆面レジスタンス員に礼を言った。
「今、瓦礫を爆薬で吹き飛ばすっ! それまでは、敵を牽制する連中に加わってくれっ!」
「分かったよ、敵を食い止めれば良いんだなっ!!」
「その敵は…………正面からね、やってやるわっ!」
駐車場の入口から両脇には、✕型に鉄骨が組み合わされた、大きな窓がある。
そこから、何人かのレジスタンス員たちが、警察部隊が来ないように、銃を撃ちまくっている。
「敵がRPGを射ってきたぞっ!」
「伏せろっ!?」
「ぐああああっ!」
「ぎゃああああーー!」
レジスタンス部隊は、AKやRPGー7などで、警察部隊を食い止めていた。
だが、そこへ敵が放った、RPGーの対戦車用タンデム弾頭が飛んできた。
そして、入口付近のレジスタンス員達を、コンクリート片とともに、爆風で包み込んでしまった。
さらに、警察隊員たちが、向かい側の建物から制圧射撃を浴びせてくる。
「敵を撃ち返せっ!!」
「連中を止めるんだっ!」
「ナタン、ヤバいわっ! 敵が突撃してきたわっ!」
「メルヴェ、援護射撃し続けるしかないっ!」
黒人レジスタンス員が、AKMを単発連射で、向かい側の建物を狙う。
白人レジスタンス員も、RPKを連射させ続けて、突撃してくる敵を寄せ付けないようにする。
ナタンとメルヴェ達も、それぞれFADで、迫る警察部隊を撃ちまくる。
しかし、一人だけ、向こうにRPGー7を恐れずに、突っ走ってくる兵士が見えた。
「オーガーだっ!」
「RPGーを射つっ!」
「ぐわあっ!」
オーガーを狙って、レジスタンス部隊はRPGー7を放った。
それにより、簡単に敵を撃破することが出来たが、何故だか逆に人数が増えた。
「幻影だっ! ソーサラーが居るっ!」
「オーガーは偽物だっ! 他の兵士に気をつけろあと!」
幻影により増えた、重装兵オーガーを無視して、レジスタンス部隊は、敵の包囲を警戒する。
だが、周囲の建物から銃撃してくる警察隊員たちに、レジスタンス員たちは気を取られてしまう。
白人レジスタンス員と南アシュア系レジスタンス員たちは、AK47を乱射しまくる。
「グレープ、ガプロフッ! 今だ、突入しろっ!」
「よっしゃ、殲滅は任せなっ!!」
「やってやるぜ、噛み砕いてやる」
しかし、そこに本物のカパーゼ曹長が、PKを抱えながら連射しつつ、真っ直ぐ向かってくる。
その射撃は、滅茶苦茶だが、後続部隊を敵から攻撃させないためには、かなり効果的だ。
また、彼が名前を呼んだ、兵士達も集まってきた。
灰色の人狼である少年兵である、グレープ一等兵も、鋭い爪で、顔を覆いながら突撃していく。
灰黒い人狼のガプロフ一等兵は、KSー23散弾銃から、弾丸を放ちながら走ってくる。
「うわああああああっ!」
「ぐああああーー!」
「ぐ、下がれっ! 援護するっ!」
「奥に逃げるのよっ! 援護するわっ!」
黒人レジスタンス員は、肩や腹を機銃弾に撃ち抜かれて、後方に倒れながら絶命する。
ラテン系レジスタンス員も、散弾銃を真っ向から浴びて、真後ろに転んでしまった。
この事態に、ナタンとメルヴェ達は、二人ともFADを乱射しながら下がり始める。
それに合わせて、他のレジスタンス達も、AK47を撃ちながら、徐々に後退していく。
「おいっ! アンタ、上や下には行けないのか?」
「ダメだ、階段は敵のRPGーで破壊されているし、下に行くには外のマンホールに逃げ込むしかないっ!」
「チッ! なら、まだまだ、戦うしかないわね…………」
駐車場内を逃げる、ナタンは同じく、奥へと走る白人レジスタンス員に声をかける。
その話を聞いて、メルヴェは舌打ちしながらも、後ろに振り返り、FADを撃つ。
「ようやく、ダイナマイトの準備ができたっ!」
「瓦礫を爆破して、撤退できるぞ」
レジスタンス側の工兵たちも、爆破準備できたらしく、後退する味方を呼びながら援護射撃をする。
彼等は、瓦礫から離れながら走ったあと、床に伏せて、瓦礫を破壊した。
こうして、奥から灰煙が駐車場内を覆う中、ワーウルフ達は、白兵戦を仕掛けてきた。
「この程度の銃撃、喰らったところでっ!!」
「ぐああああっ!?」
「懐に入ってしまえばっ!!」
「ぶふぁっ!?」
「さて…………また、ちょっとした悪戯をしますか?」
「私達も、悪戯を…………やりますかっ!」
グレープ一等兵は、鋭い鈎爪で、RPDを腰だめで乱射していた、白人レジスタンス員を斬り倒す。
ガプロフ一等兵も、KSー23散弾銃の銃床で、AKMを持つ、黒人レジスタンス員を殴った。
そうこうしている内に、さらなる警察隊員たちが、駐車場内に侵入してきた。
サラサラ金髪ロングヘアー、碧色の瞳、水色に光る唇をニヤケさせて、ソーサラーは嗤う。
明るい金髪ロングヘアを揺らす、ミミックマスターも口角を吊り上げながら走り出す。
「私の分身を見抜けるかな~~?」
「マジックショーを見せて上げるわ」
ニヤゾヴァ軍曹は、右手に握るPP2000で、上部にダットサイトを覗きながら呟く。
彼女は、銃を乱発しながら、自身の分身を大量に出現させていく。
テレザ二等兵も、トランプカードや金ピカのコインを投げ飛ばす。
「ぎゃあっ! ぐえっ?」
「ぐわあっ! ぐげっ!」
PP2000から放たれた、アラビ人レジスタンス員の頭に、いくつも風穴を開けていく。
トランプカードは、斜め右に回転しながら飛んでいき、白人レジスタンス員の首を切り裂く。
金色に光るコインも、バウンドしながら、天井と床に当たって飛んでいく。
そして、最終的には、アラビ人レジスタンスの真上から頭に、めり込むように突き刺さった。
「うわっ! ラージ、カリーマ、先に行けっ!」
ドラムマガジン付き、五六式歩槍を乱射しまくる、ラテン系レジスタンス員は叫ぶ。
こうして、血塗れになった、彼は殿を行うらしく、地面に倒れながらも銃を撃ち続ける。
「…………分かったっ! だが、俺達も味方が逃げるまで援護するっ!」
「行くしかないかっ! しかし、行くのは少し速いなっ!」
ブルガリヤ製、ARーM4SF小銃を、ラージーは単発連射していた。
彼は、アラビ語で文字が書かれた、緑色の鉢巻きを、トラッカーハットに巻いている。
緑色のマスクで顔を隠し、アルメア製ウッドランド迷彩を着て、弾帯付きベストを装着している。
カリーマも、PKを腰だめで撃ちまくって、敵を迎え撃っていた。
彼も、アラビ語で文字が書かれた、緑色の鉢巻きを、プーニハットに巻いている。
ODグリーンの戦闘服に、背中には、大きなバックパックを背負っている。
「メルヴェ、バイクに乗るんだっ! もう、僕らも逃げよう」
「そうしましょうっ! 私達は、やるだけ、やったわっ!」
ナタンは、トライアンフTR6トロフィーに素早く乗り込む。
メルヴェも、ハーレーダビットソン・39年型に、サッと飛び乗る。
「援護するっ! 早く、穴から抜け出ろっ! ぐっ!」
「さっさと、行ってくれえっ!!」
「有り難う、遠慮なく行かせて貰うっ!」
「貴方達も、早く逃げるのよっ!」
ラージーとカリーマ達は、ナタンとメルヴェ達の跨がるバイクが、穴から飛び出るまで援護する。
「敵発見っ! 撃てっ!」
「了解しましたっ!」
「逃がさない…………」
「逃がしはしないぞっ!」
サスーリカ中尉は、道路に出た、二人を発見するなり、右側からトカレフを発砲しまくる。
野戦帽を被った、グールであるサムイル準尉も、UMP45を乱射する。
ユライ二等兵も、ブレン自動小銃を逃げる彼等に向かって連射しまくる。
さらに、その右から、AKー104を構えて、ムサバイエフ一等兵が、単発連射する。
「撃ってきたかっ!?」
「気にしている暇は無いわよっ!」
横から銃撃を受けようと、ナタンとメルヴェ達は、真っ直ぐバイクを走らせるのだった。
「奴等、行ったか? なら、俺達は…………」
「地下から逃げるぞっ!」
「んっ! あそこから、テロリストが逃げるわっ!」
ラージーとカリーマ達は、近くにあった、マンホールの蓋を開いて、地下へと逃げ込む。
それを見て、サスーリカ中尉は、次に彼等を標的に、トカレフを撃ちまくる。
「くっ! 地下に逃げたのねっ! 追うわよっ!」
サスーリカ中尉は、何発かトカレフ弾を、マンホール内に撃ち込んだあと、手榴弾を投げ込んだ。
それから、彼女が真っ先に下水道へと、一気に突入していった。
「行こう? もう少し走らせたら休める場所を見つけよう」
「そうしましょう…………もう戦いは御免だわ」
あれから、ナタンとメルヴェ達は、誰も居なくなった道路をバイクで進んだ。
街中を走る二人の目には、焼け焦げたビルや破壊された店舗、半壊したアパートなどが移る。
「ここも、戦場と化したのか」
「どうやら、そのようね」
バイクを走らせ続ける、二人が眺める街の光景は荒廃していた。
所々に、未だ火が燃えており、黒煙を舞い上げているさまをナタンは目にした。
緑色や黒色の軍服を身につけた、無惨な死骸が、アチコチに倒れている。
それを哀れに思いながら、メルヴェは険しい表情をする。
「この様子…………また、近いかな」
「たぶんね」
道端に転がる死体と、舞い上がる炎と煙に、ナタンとメルヴェ達は戦場に近づいていると確信する。
「戻ろうか、このまま進んでも厄介だし」
「そうした方が良さそうだわ…………っと?」
戦闘音こそ聞こえないが、この先では連合側と帝国側が戦っている。
そう考えて、ナタンは今来た道を戻るべく、バイクのブレーキを踏んだ。
彼の意見に同意して、メルヴェもバイクを駐車させたが、背後を振り向いた瞬間、それが見えた。
「戦車が居るわよ…………」
「えっ? あ、本当だ」
メルヴェは遠くに、紺色と鼠色のデジタル迷彩が塗装された戦車を発見した。
鋼鉄の巨体を視認した、ナタンも驚いて、小さな声で呟いてしまった。
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