戦場では、レーダーに探知されない低空を、帝国軍と連合軍のドローンが飛翔している。
そして、双方の部隊や兵器を見つけると、大型爆弾や手榴弾を投下しては、破壊を繰り返している。
「ぐぅぅ? 爆撃か?」
「ナタン? 私達は、中世部隊と一緒に居ろってさ」
弾薬箱の山に座るナタンに、メルヴェが近づいてきた。
「スパイ容疑は晴れてないし、信用しろってのは無理だもんな」
「オマケに、みんな気が立っているわ…………」
ナタンは、立ち上がりながら背伸びをして、欠伸《あくび》をする。
メルヴェは、張り詰めた重たい空気が支配する中、顔を暗くさせた。
「まあ、な? 帝国軍の進撃が再び始まったら、スパイどころじゃないからな」
「味方も、だいぶ来ているわね」
何気ない会話をしながら、ナタンとメルヴェ達は、歩きながら室内を見渡す。
砲撃で開かれた穴は、ドラム缶や土嚢が置かれた上に、防弾板で完全に塞がれている。
また、ドローン軽戦車が出ていき易いように、防弾板を重ねただけの防壁もあった。
「カトリーヌ、設置完了したよ」
「ナタリー、こっちも砲弾を配置したわ」
赤ベレーと黒髪ショートのウッドランド迷彩服を着た、黒人女性が何かを置いたらしい。
良く見ると、彼女は黄緑に染色された軽量プレートに、深緑色の細菌保存装置を着けている
顔も下半分を覆っている事から、デバッグ・ソルジャーだと分かる。
背中には、SKSカービンを背負い、腰の茶色い皮ホルスターには、MAC50拳銃を容れている。
もう一人は、黄緑色の弾帯付き防弾ベストに、ウッドランド迷彩服を着ている。
しかし、チリチリのロングヘアをポニーテールにしているが、猫耳がピクピクと動いていた。
正面から背後で、尻尾が動く様子が見えるが、彼女は、MASー38短機関銃を両手で握っていた。
どうやら、先に話した方がナタリーで、後者はカトリーヌと言うらしい。
二人は、来るべき帝国軍の侵攻に備えて、ミラン対戦車ミサイルを配置したようだ。
「武器が揃ってきたようだね?」
「それだけ、敵の攻撃が近いのよ」
ナタンは周囲に集められた、迫撃砲や対空機銃を目にすると、不意に呟いた。
メルヴェも、次々と色んな兵士たちが運んでくる武器弾薬を見て、決戦が始まると気を引き締める。
アラビ人兵士が何本も、RPGー7を床に強いたブルーシートに並べる。
M45クアッドマウント対空機関砲を搭載した、白い三菱デリカトラック。
無数のドローンに、手榴弾を取り付けている連合軍工兵。
お手製のパイプを束ねた、手回し式ガトリングを民兵は三脚に載せる。
「凄い武器だ、と言うか連中は何処に行った?」
「あそこね? ホラ、あっち」
ナタンとメルヴェ達は、建物の南西に向かって歩いていく。
その道中にも、アラビ人部隊を中心とした様々な兵士たちと、すれ違う。
中世風のコスプレに身を包んだ、四人組を探していた、二人は彼等を発見した。
どうやら、建物の端で樽に座って、飲み会を催《もよお》しているようだ。
「あんた達の援護しろってさ?」
「こっちに増援しに行けとよ」
「おおっ! そうか、なら歓迎するぜっ!」
メルヴェが話しかけると、ナタンもAMDカービンの銃身を下げながら呟く。
すると、スタッロは空になったビール瓶を掲げながら快く迎えてくれた。
「飲まなきゃ、やっとられんら~~?」
「二人とも、飲み過ぎだ」
ヤブローも、へべれけに酔っぱらって、顔を真っ赤にしながら、右手の大ジョッキを上げた。
ダンターは、酔い過ぎた二人を嗜《たしな》めながら、自身は水筒に紙ストローを差し込みながら水を吸う。
「まあ、あんたら? 武器も砲弾とか、そう言ったのは全部、運び終わっているから適当に座りなよ」
「分かったわ、それより貴女は何処で何をしていたの?」
「そう言や、姿が見えなかったね」
グランマッシュに誘われた、ナタンとメルヴェ達は、二人して一個の木箱に腰掛けた。
「私は、大聖堂方面に行ってたのよ、そこでゾンビを前に、このスリングショットと格闘で対応してたの」
「なるほど、それで姿が見えなかったのね?」
「そう言う訳だったのか」
グランマッシュの言葉を聞いて、ナタンとメルヴェ達は、答えに納得した。
「てか、アンタ等の名前は?」
「俺は、ナタンッ! ああ、君達の名前は知っているから言わなくていいよ、こっちは…………」
「メルヴェよ、宜しく」
グランマッシュを含め、四人とも一緒に戦っていた、二人の名前を知らない。
だから、ナタンとメルヴェ達は、彼等に自分らの名前を教えた。
「そうかい? アンタらは何処の所属?」
「我々は、傭兵だったが、今は民兵所属だっ!」
「うぅ? 前はレジスタンスだったが、PMCになってから更に、無所属の民兵かな」
「なら、うちらと同じフリーランスねっ!」
グランマッシュは、ナタンとメルヴェ達のことを、質問してきた。
結果、同じような存在だと思った、ヤブローは笑顔を向ける。
そんな中、アシュア系PMC要因たちが、ショッピングカートに武器弾薬を載せて運んで来る。
「錫堃《シークン》、爆弾は設置した? いざと言う時の退路を確保しないと」
大柄で体格が良い、格闘家アスリート見たいな美女が歩く。
とは言え、前髪パッツンにした黒髪ストレートに、白い肌、切れ長の茶色い瞳。
これらを持つ、唇の大きな彼女は、凄く綺麗だ。
服装は、黄緑の野戦服と、大きな弾帯が四個付いた防弾ベストなどを着ている。
ショッピングカートには、弾薬箱と砲弾を幾つも積んでいる。
また、Mk14、EBRマークスマンライフル&75式班用機槍も金網に容れていた。
「あーー? 薫愛《アリシア》、それは既に終わっている、もう次の場所に行くだけだ」
男性の方は、ウッドランド迷彩服に、緑色に染色された中量級ベストに、様々な弾帯を着けている
そして、首からスリングベルトで、74式汎用機槍を下げている。
短髪で痩身の彼は、背は低いが、日に焼けた肌から察するに、特殊部隊員であると伺えた。
「なんだい? アイツら…………」
「弾薬運搬手だろうか?」
「別に気にするこたあ~~ねえぜっての」
「ほぉ~~! ほぉ~~? それより、飲むほうりゃだいじら」
「飲みすぎだよ…………」
「酔っぱらい過ぎて、戦えるのかしら?」
グランマッシュとダンター達は、二人組を怪しむが、スタッロはビール飲むのに夢中だ。
呂律が回らないほど、酔っぱらっている、ヤブローに、ナタンとメルヴェ達は呆れてしまう。
「迫撃砲を、屋上近くに隠して置こう?」
「そうだな、敵が攻めてきたら撃ってやろうか」
白人PMC要員と黒人レジスタンス員は、武器の用意に関して話し合っていた。
二人は軽迫撃砲を運ぼうとして、持ち上げた途端、いきなり爆発が起こった。
「な、なんだっ!?」
「敵の襲撃かっ! 全員、武器を取れっ!」
「ぐわっ!?」
「うわあーーーー!!」
連続して、武器弾薬が爆破すると、白人民兵は、大慌てで身を伏せる。
奇襲部隊が侵攻を開始したと思った、アラビ人は銃を構える。
敵に反撃するべく、RPGー7を取りに行った黒人PMC要員は、突然爆風で吹き飛ぶ。
それに巻き込まれる形で、東南アジア系レジスタンス員も業火に包まれる。
「誘爆してるわあっ!?」
「さっきの二人だっ! アイツら、潜入工作部隊だったんだっ!」
「そんな事より、くるぞっ!」
「全く、瓶が全部ダメになってしまっらら~~? ら? ら?」
グランマッシュは、大きな木製スリングショットを手に取ると、壁から少し離れた位置に移動する。
タバティエール銃を手にした、ダンターは壁に出来た小穴から敵を狙う。
スタッロも、防弾板を少しだけ退かして、ビッグ・クロスボウを構えた。
しかし、ヤブローだけは、コップ付きのスナイダー銃を持ちながら体を、ふらつかせるだけだった。
「ヤバイわ、戦車隊が来ているわっ! ナタン、どうするっ!」
「RPGー兵を支援しようっ! それしか、僕たちにできる事はないっ!」
メルヴェは、イエローボーイを片手に急いで壁際近くに向かう。
ナタンも、走り出すと同時にAMDカービンを持ちながら、スタッロの側まで行った。
こうして、帝国軍による三度目の奇襲攻撃が始まった。
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