ラ・ローズ・ブロンシュへと、二人は向かっていくが、ここには、レストラン等が幾つもある。
「あんまり、高級すぎても気が引けると思って、ラ・ローズ・ブロンシュにしたんだけど? グランメゾンが良かったかな?」
「いえ、奢って頂けるだけでも有難いです…………」
赤茶色に塗装された、コの字型に、ベンチが設置された場所を過ぎる。
奥にも、コの字型ベンチが設置されているが、こちらは灰色で、しかも花が飾られている。
また、緑や白と言った色の屋根もあり、四角いテーブルが内側と外側にも置いてある。
フロストとフィーン達は、そこを通りすぎて、ラ・ローズ・ブロンシュの入口まできた。
「では、姫様…………お先に」
「もう、フロスト先生ったら…………」
上に開かれた入口には木製ドアが見えており、また三段ある灰色の階段も見えた。
レディーファーストのため、フロスト先生は、フィーン先生を先に店内へと進ませる。
だが、ここでも彼は騎士や従者のように振る舞い、彼女を少しだけ困惑させてしまう。
『…………ちょっと、恥ずかしいけど、悪くはないわね♡ …………』
まあ、フィーン先生も、彼の突飛な行動に困りつつ、喜びながら頬を緩ませていた。
そうして、入店した、二人はウェイターに近づいていく。
「予約していた、フロストなんだが?」
「はい、お待ちしていました、席まで案内いたします」
フロストは、ウェイターに話しかけると、予約していた、二階の席に案内される。
「ご注文が、決まりましたら、お呼びして下さい」
ウェイターが用意した席は、巨大広場グランプラスが一望できる場所だった。
「とても綺麗だわ、街並みが輝いているわ」
「ふむ、人々も楽しそうだし、とても不景気とは思えないな? みんな幸せな時間を共有している…………」
二階からは、グランプラスに建ち並ぶ、中世風の建築物が見える。
高い尖塔や、彫刻と装飾が施された窓、そして市庁舎を含めて、どの建物も宮殿みたいに思える。
「さて、僕達も、景色を見ながら楽しい時間を共有するとしようか? フィーン先生、注文は先に決めていいですよ、僕は待ちますから」
「それは~~? まあ、フロスト先生が、そう言うなら先に決めますね? えーーと、どれどれ?」
ここでも、レディーファーストを行って、格好をつける、フロスト。
そんな彼の好意を素直に受け取り、フィーンは悩みながら、メニュー表を眺めた。
『…………ええ? あんまり、待たせるのも悪いし? ここは~~んと? ミートボールのトマト煮込み、ムール貝のスープ、フリットに? いや、ここは? …………』
真剣に、両手で掴んだ、メニュー表に料理の写真を見続ける、フィーン。
「決まりましたわ? フロスト先生は何にいたします?」
「そうか、僕はたまに来ているから、もう頼む物は決まっているんだ」
フィーンの言葉に、フロストは不適な笑みを浮かべながら答える。
「済みませんが、注文が決まりました」
「畏《かしこ》まりました」
フロストは右手を上げて、ウェイターを奥から呼んだ。
「僕は、ムール貝のマリネ、ベルギューソーセージ、飲み物はマレッツトリペルを頼もうか? フィーン先生は何にする? 」
「牛肉のビール煮込み、それから、オニオンスープ、飲み物はデリリウム・トレメンスにしますわ」
「少々、お待ち下さい…………」
フロストとフィーン達から、注文を聞いて、ウェイターは厨房まで、ゆったりと歩いていった。
そうして、二人が待っている間、店内には、スピィン風の音楽が流れていた。
「ふぅ? フィーン先生は、地元の人間ですか? なんか、街に慣れている感じがしましたので」
「ええ、ここブリュッシェル南側の生まれですね、そう言うフロスト先生は?」
料理を待つ間、退屈な時間を紛らわせるため、フロストは、フィーンに質問してきた。
「僕は、エルザスロートリンゲン…………いや、アルザス地方ですね?」
「そう…………つまり、フロスト先生はドイツェル人とフランシュ人のハーフかしら?」
フロストは、ドイツェル語の地名を言おうとしたが、フランシュ語で呼ばれる方に言い直した。
フィーン先生も、ワザワザ彼が言葉を変えた理由を何となく察する。
エルザスロートリンゲン&アルザス地方は、過去に、ドイツェルとフランシュで取り合った地域だ。
鉱石が取れる上に、工業化までしたので、両国が戦争で奪取しようとしていた。
また、どちらの国にも接している事から、混血した人々は多い。
「そんな感じですね? まあ、祖国が二つあるから…………しかし、今やハンザは一つに纏まり、ドイツェル&フランシュも、一州に過ぎなくなりましたね」
フロストは、歴史の話を語ろうとしたが、ずくに口を閉じてしまう。
「それよりも、これからは先生をつけないで、お互いを呼び合いましょう」
「ええ、そうしましょう、フロストせ? いや、フロスト」
話をする前に、フロストは互いに敬称をつけて、呼ぶのは止めようと、フィーンに提案した。
「それで、フロストはどちら側に近いのかしら?」
「いや、僕の家系はどちらとも混血しまくっているから、どちらとも言えないですね」
フィーン先生の質問に、フロストは両腕を組みわ困ったような表情を見せる。
ドイツェル・フランシュは、いつも戦争をしていた訳ではない。
昔は、ドイツェル人にも、かなり、マルセルと言う名前の人間が存在した。
また、フランシュ側にも、アドルフと言った人物名もあった。
このように、両国でさえ、移住・混血した人間が多い。
だから、双方の人間が移住した、アルザス地方は、混血児もまた多数存在するわけだ。
さらに、現代は国境を廃して、州境だけを残した結果、双方の人間が往き来するようになった。
それ故、ハンザでは互いに相手側どころか、様々な地域の人間が混在するようになっている。
また、旧植民地から移民や難民を受け入れているので、白人以外にも実に多様な人種が暮らす。
「フィーンは、僕の事をどう思っている? あ、いや? いきなり、そう言った恋愛的な質問じゃなくて、例えば雰囲気とか?」
「クスッ! まあ…………そうね? フロストは、かなり謎に包まれた、ミステリアスな人物ね?」
フロストは少し言葉を間違えたと思い、慌てて訂正したが、フィーンは面白がる。
「私から見た場合、一見すると裕福で、生まれた地域や家系も複雑…………失礼な話だけど? 生徒たちも、先生は宇宙人や吸血鬼とか、言っちゃうくらいだし?」
「まあ、そう言ってる生徒も多いだろうね? しかし、まだ僕は赴任したばかりだ…………だから、彼等も僕のことを知らず、興味を持っているだけに過ぎないのさ」
「ご注文の品を届けに参りました」
フィーンは、フロストの事を首を傾げて、冷静に分析しながら答えた。
そこに、ウェイターが料理を持って現れて、二人のテーブルに、注文された品を丁寧に置いていく。
「さあ、料理も来たし、冷めない内に食べてしまおう」
「そうですね? 暖かい方が美味しいですからねっ!」
運ばれてきた、料理を前に、フロストとフィーン達は、肉やスープを口にする。
「ふ~~? スープを飲むと、体が暖まるわあ」
『…………体がか? 彼女は暖かい色や物が好きなんだな、外見も赤い髪だし? それに、優しいしな…………』
スープを啜った後、フィーンが言った一言を聞いて、フロストは内心色々と考える。
彼は、チューリップ型グラスを揺らして、修道院ビールである琥珀色のマレッツトリペルを飲む。
「くーー! 仕事あとの一杯は、喉に染み渡るわあ~~!」
フィーンも、注文していた、デリリウム・トレメンスのグラスを右手に持ち、それを唇へと運ぶ。
ゴールデンエールと言われる淡い金色のビールは、じんわりと口内に広がる。
その味は、まろやかだが、同時にくっきりとした味わいだった。
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