「中尉っ! 緊急出動要請ですっ!?」
第三小隊オフィスのドア前まで来た、フロスト中尉とネージュ準尉たちだったが。
二人の頭上から、いきなり、サイレンの音がジリリリリッと鳴り響く。
彼等の元に、野戦帽を被っていない、ベーリットが現れると、緊急出動を告げた。
彼女は、両手にAGー3ライフルを構えており、その表情には、焦る気持ちが伺えた。
「クソッ! テロリストめ…………身体が襤褸ボロだけど応援に行かない訳には行かないし」
「フロスト中尉、待って下さい…………私が指揮を代行しますので貴方は休んで居て下さい」
己の肉体に溜まった渦負荷と、精神的な疲弊による疲れで、フロスト中尉はヘトヘトだ。
しかし、それでも現場へと、応援に駆けつけ無ければと、彼は悩む。
だが、彼の身を心配する、ネージュ準尉は、自信満々に自分が指揮を代行すると進言した。
「しかし…………」
「任せて下さい」
彼女に任せても、大丈夫だろうかと、フロスト中尉は困惑する。
そんな彼に対して、ネージュ準尉は優しく微笑む。
「じゃあ任せるよ、だけどくれぐれも無理はしないでね」
「はい、了解しましたっ! ベーリット今すぐに出動よっ!」
眠たげな隈《くま》の出来た、重たそうな両目を細めて頼む、フロスト中尉。
そんな彼から命令が下ると、ネージュ準尉は、満面の微笑みを浮かべた。
こうして、彼女は張り切って現場に向かおうとする。
「ベーリット、他の皆は?」
「もう準備出来ていますっ!」
くるんと身体を回して、ベーリットに向き直った、ネージュ準尉。
彼女は、部下達の準備が整ったかと、様子を問う。
「後は私達だけですよ、さあっ! 早くっ!」
「分かったわ、貴女は先に行って」
部隊員の出撃体勢は整えてあると、報告する、ベーリット。
ベーリットに答えた、ネージュ準尉はドアを開いた、フロスト中尉に続き、急いで室内に入る。
「すぐに行かなきゃっ!?」
そんな彼女に、返事を返す暇も無かった、ベーリット。
彼女は、AGー3ライフルのスリングベイルを背中にかけ直すと、急いで仲間達の元へと走った。
「じゃあ、お休み?」
「お休みなさい」
フロスト中尉は、ブルーグリーン色のソファーに腰掛けて眠った。
その様子を急いでいる、ネージュ準尉は一瞬だけ見届けると、隣の部屋に入るため、ドアを開く。
「急がなきゃっ!!」
ロッカールームに入ると、ネージュ準尉は、次に自分のロッカーを開く。
彼女は、横に細長い弾帯が、左右一個ずつついた、軽量防弾ベストを着込む。
正面に、左右三個ずつついた弾帯と、背中側に大きなホルスターが付いた、帯を身体に巻き付ける。
それが終わると、彼女は直ぐに中から、斜めに立て掛けられた、二丁の銃を手に取る。
それは、ストックとスライド部分が茶色く、銃身から機関部にかけて艶がない漆黒色の散弾銃。
ブローニングBPS、ライフルド・ディアハンターであった。
さらに、彼女は、もう一丁ある自動小銃のように貫通力が高い武器を手に取る。
それは、短機関銃のように、コンパクトな武器である個人携帯火器《PDW》だ。
漆黒色で、独特な形状をした灰色がかった、半透明な総弾数が、50発と言う弾数を誇る銃。
これは、P90と呼ばれる高性能銃だ。
「よしっ!!」
ネージュ準尉は、P90を背中側の腰に巻いた、ベルトから下げた、ホルスターに差し込む。
次いで、ライフルド・ディアハンターを彼女は両手に構える。
「これで良しっ!」
一人呟くと、ネージュ準尉は素早く身を翻して、車両保管庫まで向けて、飛び出して行った。
蛍光灯の白い光に照らされた、灰白い壁と深青い床が、どこまでも続く廊下。
そこを、超人的な速度で跳躍しつつ、彼女は疾走する。
彼女は、応援を待って、苦戦する現場部隊と、出動を待つ、準備万端な部下達へと向かってゆく。
警察署内部に存在する、暗く無機質な鼠色の特殊車両保管庫。
そこには、軍に配備されるような重装備の装甲車が並んでいた。
数台の黒と青色に、塗装された、青いパトランプが付いたパトカーも、数台停車していた。
他にも、同色である軽装甲車両の上部にcord《コード》重機関銃を搭載した物がある。
警戒用に、シュバルツ・リッター達を乗せた、LAPVエノクが四台。
ラインメタル MR.20 Rh202を武装として備える、装甲兵員輸送車型コンドルが、二台。
各種の通信機器を備えた、指揮車型コンドルが一台と、さまざまな車両が、そこにはあった。
「早く乗らなきゃっ!」
青色の両ドアを開いた、ネージュ準尉は跳躍しながら走ってゆく。
そして、指揮車型コンドルの開いたままの後部扉を目指す。
その中には、背中側に、ヴィーガー941を下げた、レイミアが立っている。
また、両手に、AGー3を構えた、ベーリットも待ち構えていた。
「よっとっ!」
「もぉ~~遅いですよ、準尉っ!」
「敵は一秒も待ってくれませんよ」
飛び込んで、指揮車型コンドルの車内に乗り込んできた、ネージュ準尉。
彼女の両肩を着かんで、レイミアとベーリット達が迎え入れる。
「分かっているわよ、ちょっと準備に手間取っただけ、さぁそれじゃ早速緊急出動よ」
指揮車型コンドルが発進すると、他の車両も続々と発進して、車列を整える。
四台のLAPVエノクは、前部と後部を挟むように並走する。
「はやく行かないとね?」
その間を、装甲兵員輸送車型コンドルが走行し、さらに、中心は指揮車型コンドルが走る。
ネージュ準尉は、P90の安全装置が掛かっている確かめながら車内で呟く。
「で、向かう先はテロリストの地下アジトね」
「下水道から地下深く掘られた場所に作られた基地らしく、恐らくは十数名のテロリストが居ると思われます」
「先に潜入していた諜報員、スコル、リュカオン達からの情報によると敵のアジトには大量の武器・弾薬が有るそうです」
指揮官用の椅子に座り両腕と足を組む、ネージュ準尉。
その場から少し離れた、車内両脇に備えられた椅子に控える、レイミアとベーリット達。
彼女達は、上司である彼女に諜報員たちの状況を説明する。
「更に現在、ザミョール中尉が率いる第二小隊が応援に駆け付け、交戦中との事ですっ!」
「テロリスト側はアジトに隠匿していた重火器を使用して、激しい抵抗を行っており、巡回中に応援に駆けつけた小数の第二小隊とスコル、リュカオン達だけでは…………」
テロリストの拠点と、戦況の詳細を語る、レイミアとベーリット達。
二人の報告を聞いた、ネージュ準尉は。
「第二小隊と、スコル、リュカオンね? もう暫くテロリスト側に潜入しているマーナガルム、アセナ達からは連絡が無いわね」
「彼等も無事だと嬉しいのですが」
「テロリストに正体がバレてなければ良いですけど」
「だわねぇ~~?」
彼女たちが話している間も、コンドルを中心とした車両部隊は走り続ける。
それ等は、目的地である、テロリストのアジトまで向かう。
車列は、やがて警察署左脇にある地下車両庫の開いた、シャッターから坂を上って外に出る。
警察署の外観は、鼠色コンクリートに覆われた要塞みたいな形をしていた。
五階建てで、屋上中央には、四角いトーチカが存在する。
そこには、監視カメラが四方に備えられていた。
壁面には、中世の城塞に備わる銃眼みたいな縦長で黒色をした窓が、一階に付き、二十個もある。
一番下の中央には、二本柱に支えられた、屋根付き、玄関口があった。
どんよりと曇る空の元、灰・黒・青などに彩られた、オフィス街を車列は走る。
艶の無い、黒色に塗装された、警察部隊の車両は、ひたすらにビル郡を通り抜けていく。
それ等は、青白い雪の積もった道路を、雪を跳ね飛ばしながら進む。
轍《わだち》を作りつつ、目的地の地下豪内より、さらに地下深くに掘られた、アジトに部隊は向かう。
そして、第二小隊は、工業地区を通る。
巨大なタンクを幾つも備えた、大規模な武器工場の建物。
ビルのように、天高く聳え立つ煙突の三つ付いた、医薬品開発研究施設。
等々と言った、ビルの間を彼女等は抜けて行った。
面白かったら、ブックマークとポイントを、お願いします。
あと、生活費に直結するので、頼みます。
(^∧^)
読み終わったら、ポイントを付けましょう!