敵襲を撃退した、ナタンとメルヴェ達だったが、今度は後方から敵部隊が追撃してきた。
「不味い、このまま突っ切るぞ」
「後ろから来てるからね…………」
ナタンは起き上がると同時に走りだし、メルヴェも後に続いて、駆け出していく。
その直後、背後から大型散弾銃が発射される音が聞こえた。
幸い、それは土壁に当たってしまい、土煙を少しだけ舞い上げる。
だが、次いで短機関銃による短い連射音が地下道内に木霊した。
「居たぞっ! 追えーー!」
二人が走り去る後ろ姿を捉えた、追撃部隊の隊長は、拳銃を発砲してくる。
そんな中、ナタンとメルヴェ達は、罠や伏兵を気にしている暇なく、真っ直ぐ突き進む。
「しつこい連中だ、メルヴェ、援護するっ!」
「分かったわ、先に行ってるわ」
ナタンは、一度立ち止まると後ろに振り返り、AKMを滅茶苦茶に乱射しまくる。
その間に、メルヴェは先に走っていき、そこで膝だちで、敵を待ち構える。
「ぐああっ! ぐ、あ」
「ぐううぅぅ~~」
「ごばあっ!!」
ナタンの銃撃は、追いかけてきた部隊で、先頭を走る三人を殺害する。
そして、すぐに彼は走りだし、先に待つメルヴェの元へと向かう。
「今だ、撃ち殺せっ!」
「背中を見せたなっ!」
帝国側部隊は、無防備なナタンの背後を狙って、自動小銃などを構える。
帝国軍兵士はAK12を乱射しまくり、警察隊員はMP7を連射する。
「させないわっ! お前らこそ、くたばりなさいっ!」
「ぐふっ! がっ!」
「う、うっ! ご?」
メルヴェは、単発連射で敵兵士たちに牽制を仕掛けつつ、確実に仕留めていく。
そんな中、ナタンは振り向きざまに、火炎瓶と煙幕弾を投げつけ、敵の視界と進路を遮断する。
「くっ! 炎と煙幕かっ! 撃ちまくれっ!」
「敵を逃がすなーー!!」
「今だっ! メルヴェ、走るぞっ!」
「分かってるわ、先に走るわねっ!」
いきなり、妨害された帝国側部隊は、追いかける事を止めた代わりに、銃撃の勢いを強める。
ナタンが叫ぶと、メルヴェも一気に駆け出し、奥へ向かって逃走していく。
こうして、戦場から離れた彼等は、暫くはジグザグな地下道を彼方此方へと進んで行った。
それから、行き止まりまで来ると、力を合わせて瓦礫の山を動かした。
この茶色い岩は、落石した物ではなく、巧妙に偽装されたドアだった。
そして、二人は入口を閉めた後に、天井にある四角い蓋を開いて、何処かの地下室に出た。
「蓋は隠蔽して置かないとね」
「分かっている、木箱を置くぞ」
メルヴェは、地下室内を鋭い目付きで警戒しながら、AKMを構えて呟く。
ナタンは、その間に木箱を動かしながら今着た道と蓋を塞いでしまう。
「この中に、AKMも閉まって置こう」
「その方がいいわね、外では不要だし」
ナタンとメルヴェ達は、AKMとAK47Sを木箱の中に隠すと、階段から一階へと上がっていく。
その間に、ナタンとメルヴェ達は、コートを脱いで、リュックに容れる。
ナタンは、赤いツナギを着ており、メルヴェは茶色い作業服を着てた。
そして、ドアを開けると、何処かの住宅らしき場所だと分かった。
「屋根ばかり…………どうやら、ここはエレジー通りのようだ、帝国軍兵士は疎らだ」
「なら、外に出ても、私達は怪しまれないでしょうね」
ナタンは、窓から通りを観察するが、そこには住宅街と自動車が何台か止まっていた。
元は、家屋の屋根は赤色だったが、今は帝国による規制で青く染められている。
メルヴェは、気を緩めつつ、普通の市民に化けるべく肩から力を抜いた。
今から、二人は通りを出て、帝国軍や帝国警察が巡回する街中を歩くのだ。
「外の巡回も少ない、行こう」
「行くなら今ね、ナタン」
こうして、ナタンとメルヴェ達は、危険を犯しつつも、アジトに戻るために路上へと出るのだった。
「まさか、逃走経路の土壁のに敵兵が潜んでいたとはな…………」
「向こうも、奇襲を仕掛けるまで、潜伏している積もりだったのよ」
ナタンとメルヴェ達は、話ながら何気なく歩道を歩いていく。
二人は、まさか逆に伏兵攻撃を受けるとは思ってなかったが、運良く敵から逃走できた。
それで、安堵しながら並んで進む。
エレジー通りは、何事もなかったかのように、静かだった。
流石に近くで、爆破テロ戦闘が発生したからか、路上に人の姿はない。
「みんな、戦闘に巻き込まれたくなくて、隠れているんだな」
「じゃなきゃ、もっと人が居てもいいはずよ」
ナタンとメルヴェ達は、十字路を真っ直ぐ進み、アルフレッド・デュボア通りに向かう。
本来は、週末なので、いつもなら様々な人々が出歩いているはずだ。
流石に戦闘が近くであったとは言え、かなり離れてきたから誰かと出会うだろう。
そう思っていた、二人だったが、曲がり角を左に行くと、人々を見かけない理由が分かった。
「ぐぉ…………ゲボァッ!」
「フシューー! フシューー!」
道端に、警察隊員が転がっており、口から血を大量に吐いている。
路上では、帝国軍兵士が表情は変わらないが、苦しそうに息を吸っている。
連中の周りには、レジスタンス員だった骸が彼方此方に転がっている。
おそらく、ここでも熾烈な奇襲戦が繰り広げられた事が伺えた。
「そこの民間人、負傷者を運ぶのを手伝え、奴を歩道まで寄せるんだ」
帝国軍部隊の隊長らしき人物が、負傷兵を救助するべく、二人に声をかけた。
「は、はい、ただいまっ!」
「直ぐに行いますからっ!」
「ぐぶ?」
ナタンとメルヴェ達は、怪しまれないように、すぐさま重傷を負った警察隊員を引き摺る。
そうやって、右側の歩道に重傷者を運ぶと、黒いトラックが前方から走ってきた。
装甲救急車リンザだ。
「負傷兵を、こちらに運べっ! 中で、衛生兵が待機している」
後部ハッチを開けた、帝国軍兵士が叫ぶと、二人は、負傷者を引き摺りながら歩いていく。
「よし、もう少しだぞ」
「頑張るのよ、救急車は直ぐそこだから」
「ぐあ…………」
「よし、後は任せろ」
ナタンとメルヴェ達は、負傷兵に声をかけながら、装甲救急車リンザまで向かった。
それから、後部ハッチ下の階段を降りてきた、帝国軍兵士は、二人へと近づいてくる。
「今、治療してやるからな」
そう言って、負傷兵を受け取った帝国軍兵士は、車内へと入っていく。
「他の兵士達は? もう、駄目みたいだな…………」
「連中、既に動かなくなっているわ…………」
ナタンとメルヴェ達は、後ろを振り向いて、他にも負傷者が居ないかと辺りを見渡す。
しかし、レジスタンスの亡骸と同じく、重傷を追っていた帝国兵たちは、もう動かなくなっていた。
どうやら、さっき助けた重傷兵だけが運良く助かったようだ。
今、周りで動いているのは、次なる襲撃を警戒している帝国兵と警察隊員だけである。
「ゴフッ?」
「まだ、息があるとは…………そこの民間人、コイツも連れてけ」
「は、はい、ただいま」
「分かりました」
だが、運良く、いや運悪く生き残ってしまった、白人レジスタンス員が居た。
彼は、帝国軍部隊の隊長により、ナタンとメルヴェ達に装甲救急車リンザまで運ばれていく。
帝国軍&帝国警察の捕虜になる事は、死ぬ事よりも恐ろしい。
それは洗脳されて、帝国のために働く冷酷無比な兵士に改造されるからだ。
「グホッ! ガハッ!」
「済まない、本当に済まない…………」
「申し訳ないけど、連れてくわね」
白人レジスタンス員を、ナタンとメルヴェ達は、両脇から抱えて、装甲救急車まで運んでゆく。
「お前ら、戦場で何をしていたんだ? さきほど、戦闘があったのに、民間人が出歩いているのは妙なんだが…………」
それから、帝国軍部隊の隊長は、ナタンとメルヴェ達に、身分と目的を問いかける。
「あ、済みません…………僕達も戦闘が発生したんで、恐る恐る警戒しながら帰路に着いてたんです」
「さきほど、イポカンプ通りで装甲車が爆発するのが見えたので怖くなって、逃げてきたんですよ」
ナタンとメルヴェ達は、戦闘とは無関係な民間人を装い、偽造された身分証を提示する。
「電気会社の検査要員と技術者か? 何の用で外出しているんだ」
「はい、帝国軍の電波施設に隣接された変電所に、異常が無いか点検しに行った帰りなんです」
「本社からの命令で、私達は機械を弄ってました」
帝国軍部隊の隊長は、さらに質問を、ナタンとメルヴェ達に続ける。
それに対して、二人は嘘を言って、この場を上手く誤魔化そうと試みる。
「ふむ、分かった…………もう、行っていい」
「はい、では、我々は会社に戻ります」
「それでは、任務を頑張って下さい」
帝国軍部隊の隊長を、何とか騙せた、ナタンとメルヴェ達は別れを告げながら戦場から離れていく。
二人は、T字路を左に曲がり、メロペ通りを並んで歩いていく。
次に、十字路から右に曲がって、オッスゲム通りへと向かっていった。
ここは、疎らだが何人か民間人と帝国軍の兵士たちが見えた。
現在、テロ対策と称した帝国による戒厳令が発令されている。
だが、技術者や工事関係者など、帝国政府の行政に関連する民間人などは、通行が許可されている。
二人も、それに混じり、街中を歩いていくのだった。
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