【暗黒騎士団VS反逆のレジスタンス】 吸血鬼アンデッド軍団と最後の人類は、たった一人でも戦う

レジスタンスは今日も戦う
デブにゃーちゃん
デブにゃーちゃん

第172話 大規模な連続テロ作戦の前夜

公開日時: 2024年7月11日(木) 17:56
更新日時: 2024年7月14日(日) 08:59
文字数:3,290


「これで、簡易的な回復はできた? しかし、念のため、後で痛むようなら医務官の待機室に行くんだ」


「分かったよ、有り難う…………つつ、いつつ」


「有り難う…………やっぱ、消毒液が染みるわぁ」


 猛土の側で、ヨルギオスが迅速に治療を終えると、ナタンとメルヴェは消毒液に苦しむ。


 怪我を受けた部位に、消毒綿の液が染み渡ると、暫くはジンジンと痛みが続くからた。



「お前ら、ここはデカイ基地だが、今は大勢の人員と負傷者で溢れかえっている……まあ、そう言う訳だから、悪いが向こうのロビーで待機してて貰おう」


「私は、他の者の治療を手伝いに行く」


「分かったよ、治療して貰って風雨がしのげるだけでも充分だよ」


「そう、…………このご時世で贅沢は言ってられないわ」


 申し訳なさそうに、ワンガリは語ると指差した、ロビーの方に歩いて行った。


 まだまだ、負傷者は多数苦痛に悶えていると思う、ヨルギオスも同じ方向に向かっていく。



 手当てされ、右肩の怪我は治ったが、ナタンは未だ全身に痛みを感じながら答えた。


 左側の脇腹に手を当て、メルヴェも苦痛を耐えながら呟いた。



 治療自体は、完璧だったが、それでも疲労感や苦痛などが、完璧に消える訳ではない。



 それほど、二人には銃弾や弓矢などの掠り傷が全身にあった。


 緊張感が解れた今、それらがドッと、一気に襲ってきたのだ。



「行ってしまったね? 僕らの指名手配の情報は届いてないようだ…………」


「無実とは言え、他の組織には出回っているはずよ、ここは違うみたいだけど」


 知っての通り、ナタンとメルヴェ達は、味方陣営から潜入工作員だと言う容疑がかけられている。


 潜入工作員として暗躍していた人物は何と、サビナ&リュファス達だった。



「しかし、あの二人が犯人だったとは…………」


「まさかのまさかだったわね?」


 サビナは、既に殺害されたが、リュファスの死は二人しか知らない。


 ゆえに、疑惑は晴れておらず、また元居た組織に戻ったところで未だ容疑がかかったままだろう。



 そう、ナタンとメルヴェ達は考えた。



「はぁ~~? しかし、まだ俺は諦めないよ、レジスタンスが闘うなら死ぬまでやるさ」


「死ぬまではダメよ、帝国に捕まるのなら話は別だけど…………」


 飽くまで、そして自身の命が灯として燃え尽きるまで戦う所存である、ナタン。


 そんな無鉄砲な彼を、諌《いさ》める役割を果たしているのは、いつもメルヴェだ。



 二人は、周囲を見渡すと、ここには大量の車両が存在することが分かる。


 殆どは、トヨタ・テクニカルだが、中には猛土やハンヴィーの姿も見えた。



「凄いね? M2キャリバーだけじゃなく、ZUまである」


「それだけじゃないわね…………地帯地ミサイル、重迫撃砲、野砲まで搭載しているわ」


 ナタンが言う、M2キャリバーとは貫通力が高い、大型弾を使用する重機関銃だ。


 ZUとは、正式名称ZUー23ー2と言われる旧式の二連装・機関砲だ。



 メルヴェが見た物は、荷台に載せられた対戦車用に使える沢山の兵器類だ。


 SPGー9無反動砲、56式160ミリ重迫撃砲、9M14マリュートカ。



 駐車場の白線内に、ズラりと並んで停車しているトヨタ・テクニカルには、これ等が搭載してある。



 二人は、それ等を見ながら疲れた表情になる。



「戦闘は正念場だ…………明日か、明後日か? きっと大規模な戦いになる」


「ここも、相当な市街戦になるのは間違いないわ…………スターリングラード戦を越えるような…………ね」


 ナタンの予測した通り、これから始まる戦いは今まで行ってきたゲリラ戦ではない。


 メルヴェが恐れるとおり、第二次世界大戦時の市街地を廃墟に変えたような戦闘が開始される。



 スターリングラード、現ヴォルゴグラードを巡る攻防は、凄まじかったと現代では語られている。


 ドイツェル軍VSソブィエト軍により行われた、かなり大規模な戦闘で都市全体が荒廃した。



 明日、明後日で同じような瓦礫の山と化した街を見る。


 二人は、そう考えて、これから始まる戦いに恐怖感を感じた。



「行こう…………ここは寒いし、いつまでも居られないよ?」


「そうね、向こうのロビーで休みましょ…………」


 先ほど、ワンガリが指差した、ロビーへと、ナタンは歩いていく。


 明るく黄色い光りを目指して、メルヴェもゆっくりと進みだした。



「ここも、負傷者で溢れているね?」


「そうね、回復魔法でも治せ切れない重傷者だらけだわ」


 ロビーには、空港のラウンジみたいに椅子が何個も並んでいるが、どこも負傷者が寝ていた。


 しかも、衛生兵や僧侶みたいな医療部隊員も付きっきりで看病している。



 ナタンは重傷者の呻き声や、走る軍医が出す足音を聞いて不安そうな顔になる。


 大勢の負傷した人間たちや椅子から垂れる血にに、メルヴェは冷や汗を流してしまう。



「取り敢えず、そこの一番端にある椅子に座ろう……負傷兵が来たら退いてあげる事にして」


「そうしましょう…………ふぅ、これで何とか休めるわね」


 ナタンは背凭《せもた》れに背中を預け、両腕を組んで一回だけ天上を向いた。


 メルヴェも椅子に座ると、脱力しながら眼を瞑《つむ》ってしまった。



「今日は、このまま眠たいわ……」

 

「そうだね、ここはPMCの連中が居るし、眠っても大丈夫だろう」


 疲れ切った様子のメルヴェを気遣い、ナタンは声をかけた。



「……そうさせて、貰いましょう…………いや、まだ何か興奮して眠れないわ」


「アレだけ、過酷な戦いになるとは思わなかったからな」


 激戦が何度も起こり、遭遇戦や奇襲と言った、帝国側による執拗な追撃を振り切った。


 その疲れと興奮からか、メルヴェは眼を瞑ろうとも中々睡眠できない。



 戦車を避け、バイク部隊を振り切り、カボチャの馬車やドラゴンと戦った。


 最後には、マサイの戦士とワーウルフらが一騎討ち。



 ナタンは、こう言った一日の激闘を思い出し呟いた。



「ああ、そう言えばさ…………子供の頃……帝国に捕まりそうになった時だけど」


「…………あの時は、帝国兵が貴方を発見した、けど直ぐにベルギュー軍が助けてくれたのよ」


 帝国軍が襲撃をしかけてきた、あの日、ナタンは瓦礫に身を包まれて隠れていた。


 メルヴェが、身動きが取れない彼を置いていく代わりに、隠れられるようにしたからだ。



 しかし、当時、そこを怪しんだ帝国軍兵士が近づいていた。



「おいっ! 子供が居るぞ、負傷してっ!」



 ナタンの意識が、完全に闇に沈む前、帝国軍士官が叫ぶ声が聞こえてきた。


 だが、彼は眠るように意識を手放してしまい、何も聞こえ無くなってしまった。



「ナタン? 不味いわ」


「射撃しろっ!」


「了解だっ!!」


 ナタンを見つけた帝国軍士官だったが、ベルギュー州軍部隊が拉致するのを阻止する。


 彼等は、一斉射撃を浴びせ、帝国軍部隊を一掃することに成功した。



「敵兵っ! てっ敵兵ーー!!」


「まだ、残存部隊が居たか」


「しまった、まだ向こうにも帝国がっ!」


「子供を避難させるため、盾になるぞっ!」


 しかし、奥から他の帝国兵が現れて、反撃せんと銃を撃ってきた。


 それに対して、ナタンの体を避けつつ、ベルギュー州軍部隊は、前進しながら銃撃する。



 撃ちあっている間に、一人の兵士が瓦礫から取り出した、彼を引き摺る。



 そこに、メルヴェは駆け寄っていく。



「ナタン、ナタン、確りしてっ!」


「君に彼は任せた、俺は任務に戻るっ!」


 メルヴェが心配しながら叫ぶ中、ベルギュー州軍兵士は仲間たちが戦闘を続ける方へと走ってゆく。



「め、メルヴェ?」


「ナタン…………よかった」


 メルヴェは何度も名前を叫んだ、ナタンが眼を覚ましたことを喜んだ。



「…………と言う感じで? 帝国兵たちに、ベルギュー軍の部隊が銃を撃って、その間に私達は逃げたの? そして、レジスタンスや避難民と合流したわ」


「ーーでなければ、今ここには居ないもんね? レオ、ミア、カルミーネ…………みんな向こう側に着いてしまったし」


 メルヴェは眼を閉じながら、当時を思い出しつつ、懐かしそうに語る。


 ナタンは確認するように呟き、かつての仲間たちを思う。



「あとは、僕らとキーラン、レギナ…………? メルヴェは眠ってしまったか、無理もない」


「すぅすぅ」


 ナタンは隣で静かな寝息を立てるメルヴェを見たあと、自らも眼を閉じた。

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