八人の警察隊員は、二階で、車が走ってくる音を聞いた。
「おっ? 隊長が到着したぞっ!」
「あっ! 本当だわ」
レオとメルヴェ達は、廊下の窓から敷地内に車両が走ってくる姿を見た。
黒いメルセデス1913、37/95偵察車&青い水陸両用車トリッペルSG6だ。
「送って貰って、悪かったね? 車の整備を理由に少しは休んでいきなよ? あと、渡したい物もあるし」
「中尉、整備兵を呼んできますっ!」
フロスト中尉が到着すると、メルセデス1913、37/95偵察車の後部座席から降りる。
ネージュ準尉も、後部座席の右側から出てくると、直ぐに走って行った。
「はっ! 有りがたき、言葉ですが…………」
「私達は、先を急いでまして」
「あーー? そちらの隊長は、かなり煙草が好きだったろう? 高級な物が入手できたから、今後の付き合いを考えて、贈答品として、プレゼントしたいんだ」
二人とも、黒いシュタールヘルム1918年型を被り、第一次世界大戦時の簡素な軍服を着ている。
そして、両足に履いた茶色いブーツは、灰色のゲートルが巻かれていた。
仮面を着けているのか、真っ白な骸骨顔をした警察隊員は、申し出を遠慮する。
かなり崩れた、ゾンビ顔の警察隊員も同じく、休む暇はないと断る。
しかし、フロスト中尉は何とか止めようとする。
「まあ、かなりの量だから運ぶのに、少し時間がかかる? それに、連合側からの応酬品なんだが、こっちの兵士に運ばせるから」
「どうする? ヘルマン」
「ルドルフ、せっかくだから受け取ろう」
フロスト中尉による説得に、二名の警察隊員たちも納得したらしい。
ゾンビ顔は、ルドルフと言うらしく、茶色いベルトを身に付け、弾帯を左右二個ずつ装着している。
その背中には、G98小銃を背負っていた。
スケルトン顔は、ヘルマンと言うようで、首の両側から布袋を下げている。
両手には、MP18短機関銃を持っている。
「君たちも休んでいたまえ?」
「了解です」
フロスト中尉は、水陸両用車トリッペルSG6を警備する警察隊員にも声を掛ける。
彼は、黒いシュタールヘルムM42を被り、武装親衛隊の制服を着ている。
両手には、ドライゼMG13汎用機関銃を持っていた。
「それじゃあ、煙草を運ぶように伝えてくる」
フロスト中尉が、城内に向かう時、周りの警察隊員たちを、チラリと見た。
降下猟兵用シュタールヘルムを被る警察隊員は、フィールドブルーの軍服を着用している。
背中には、ラインメタルFG42自動小銃、後期型を背負っていた。
黒い野戦帽の警察隊員は、軍服コートを羽織っており、MP38短機関銃を持っている。
略帽を被る金髪ピクシーヘアの女性警察隊員は、黒い軍服を着て、紺色スカートを履いていた。
両手には、マウザー・シュネルフォイヤーを握っていた。
「連中、第一次世界大戦と第二次世界大戦の兵士みたいだな?」
「帝国は、それだけ多世界を支配下に置いてるのよ?」
疑問に思うカルミーネに、ミアは両腕を組みながら答える。
その時、輸送ヘリ、Kaー60カサートカが轟音を立てて、敷地内に着陸した。
「ラヴィーネ大佐だ、何の用だろうか?」
「フロスト中尉に会いに来たとか?」
ナタンとメルヴェ達は、Kaー60カサートカを眺めて呟く。
すると、中から二名の護衛を連れて、ラヴィーネ大佐が降りてきた。
その時、彼女は窓に映る、二人を睨んでいた。
「どうしたんだ?」
「緊急の用事かしら?」
キーランとベーリット達は、いきなり姿を現れた、ラヴィーネ大佐が何のために来たか考える。
「貴様らが、私の可愛い部下たちを殺害したようだな? よくも小飼にしていた、サビナとリュファスを殺したものだ、大した奴らだっ!! キャーーハッハッハッ!!」
八人が、廊下で窓を眺めていると、右側から護衛を連れた、ラヴィーネ大佐が怒鳴りながら現れた。
彼女は、狂気的な笑みを浮かべつつ、ライヒスレボルバーを撃つべく腰に手を伸ばす。
「大佐、お待ち下さい、そちらの潜入工作員が私の部下を嵌めようとしました…………しかし、彼らは自身らの脇の甘さにより、レジスタンスと二人に倒されたのです」
だが、そこに背後から現れた、フロスト中尉が止めに入る。
「つまり、私の部下は貴様の部下よりも、雑魚だったと…………」
ラヴィーネ大佐は、自身の部下たちを殺した、ナタンとメルヴェ達を未だに処刑しようとする。
「はい…………しかし、彼らは帝国を裏切りっていました、幾つかの情報がレジスタンス側に漏れてましたし」
「ふん、それは私自身が連中を信用させるため、わざと流させた情報だ」
フロスト中尉の言い訳に対して、反論するラヴィーネ大佐。
「ですが、それにより、こちらの工作員も身が危険に曝されました…………彼らは二人の正体をレジスタンス側に教えようとしましたし…………」
ナタンとメルヴェ達を、助けようと何とか説得を続ける、フロスト中尉。
「また、サビナに関しては、ただ単に工作員であるとバレてしまいました…………リュファスに関してはナタンとの死闘の末に殺害されました」
「ああ、要するに私の部下達が間抜けだったと言いたい訳か?」
フロスト中尉による必死の説得を聞いても、ラヴィーネ大佐は怒りを沈める事はない。
「では、フロスト、貴様が責任を取って死ぬがいいっ!」
ラヴィーネ大佐は、怒りの矛先を今度はフロスト中尉に向ける。
そうして、彼女が、ライヒスレボルバーを彼の眉間に突きつけた。
しかし、チャキッと音を出すだけで、弾丸は発射されなかった。
「…………と、思ったが? ふむ、今度は貴様の勇気と、優秀な部下達に免じて赦してやろう」
「ありがとう御座います」
何とか、ラヴィーネ大佐の怒りは収まり、フロスト中尉は感謝する。
「だが、次はない? それから、お前達のような優秀な工作員が欲しいものだ」
「はっ! 肝に命じておきますっ! それから、工作員が欲しければ何時でも言って下さい」
ライヒスレボルバーに弾丸を込めると、ラヴィーネ大佐は歩き出す。
そうして、再び右側から、フロスト中尉に銃口を向けた。
「その時は、ナタンとメルヴェを死んだ連中の変わりに補填して貰おう? まあ、邪魔したな」
それだけ言うと、ラヴィーネ大佐は護衛を引き連れて帰って行った。
「ふぅ~~終わったね? さあて、僕を送ってくれた部隊も見上を積んだようだし、別れの挨拶を告げてくるよ? その後、午後から地下室で説明会を開くから待っててくれ」
「中尉、ありがとう御座いますっ!」
「助かりましたぁ…………」
フロスト中尉に、ナタンとメルヴェ達は直ぐさま感謝して礼を言った。
二人は、蛇に睨まれた蛙《カエル》の如く、ラヴィーネ大佐には、ビビって全く動けなかった。
「礼は良いさ、それより、きちんと説明会には参加するんだよ、遅刻は厳禁だからね」
それだけ言うと、フロスト中尉も外の部隊に別れを告げるため、歩いて行った。
「午後から説明会か? いったい、何を話すのだろうか?」
「きっと、いよいよ、異世界への侵攻作戦でも始めるから、その説明じゃない?」
カルミーネとレギナ達は、説明会の議題は何だろうかと話し合う。
そうこうしている内に、あっという間に時間が過ぎてしまった。
地下防空壕の広大な空間に集まった、第二小隊・隊員たちは、四隊に別れて整列している。
「やあ、みんな? よく集まってくれたね? この世界も後僅かな領域にしか、もう連合側は存在しないっ! 南アフレアの南端、一部ニューギニア地域、南アルメア最南端…………帝国は、この星をほぼ手中に納めたと言っていいだろう」
フロスト中尉は、スクリーンに星が映し出されると、壇上で演説を始めた。
「さて、ここで、説明する世界の名前は、地球《アース》っ! 我々が侵攻した時、ヴァースは難民危機に見舞われていた」
次に、全く同じ星が映像に登場すると、フロスト中尉は大きな声で説明を続ける。
「しかし、アースは更に酷い場所だっ! なぜなら、ロシアとウクライナは戦争中だし、中国と台湾は戦争間近だっ! さらに、日本・韓国・北朝鮮も戦争には巻き込まれるだろう」
様々な媒体で流されている映像を、フロスト中尉は警察隊員たちに見せながら語り続ける。
「中東情勢も中々だ、イスラエルはハマスと交戦しながら、アラブ諸国に包囲されつつあり、難民問題は未だに解決していないっ! さらに、あらゆる組織は腐敗して、テロリストと癒着しているっ! アフリカ諸国や南米も混乱と紛争で滅茶苦茶だっ! さらに、環境破壊も酷いっ!」
腕を勢いよく振るい、フロスト中尉は怒鳴るように語りかける。
会場の警察隊員たちは、黙って彼による演説に耳を傾けている。
「こんな脆い世界は、今まで見た事がないっ! 我々は一ヶ月後、この世界に侵攻する」
フロスト中尉の演説は、拍手喝采を浴びながら終わった。
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