地下道に鳴り響く、足音。
その音を発する人数は、五人であり、帝国軍・帝国警察に属する者たちであった。
「うわぁーー? 辺り一面、血の海だぜぇ」
「血の海どころか? コレ殺戮地獄だよ?」
「うるさいぞ、ガキどもがっ! これは、俺の戦果だ」
レオとカルミーネ達が話す中、ザミョール中尉は、暗い地下道を歩きつつ回想する。
つい、三十分前のレジスタンスとの戦闘を、彼は思いだす。
それは遡る事、ほんの一時間ほど前だが。
ブリュッツェン市内を、帝国警察のパトカーが二台も走っている。
「暇だぜ、かつてのロシャ連邦時代は楽しかったぜ」
「また、その話ですか?」
青いパトランプと、青と黒で塗装された車体が街中を通り抜けていく。
それに乗っている警察隊員は、指揮官であるザミョール中尉と、運転手役のガリーナ二等兵だ。
「ああっ! 悪いかよ? こう暇だと詰まんな過ぎて、愚痴の一つや昔話が出るのも仕方がねぇんだよ」
悪態を吐きながら、ザミョール中尉は、煙草に火を着ける。
彼が握った、紙箱には水色の空を背景に、飛行機が描かれていた。
「はぁ~~~~」
鼻孔と口内に充満する、濃厚な香りを、深く味わうザミョール中尉。
彼は昔、とある連邦国家で、警察官だった頃に、良く吸っていた、煙草の銘柄を思い出す。
『…………このブルガリー製の…………いや? ここではブルガリャ製か? Tuー134に紙が砂糖黍の味がして甘かったKaribe…………』
彼が、思い出した煙草の銘柄は、全てが故国に、当時輸入された者であった。
『…………国内産じゃKOSMOSが割りとマシな味と品質だったな…………あ~~? 思い出したら吸いたくなって来たぜぇ…………あの黒いパッケージと宇宙ロケットのイラストがまた見たくなったな…………』
煙草の味を思い出す、ザミョール中尉が、懐かしい思い出に浸っていると、隣から無線機が鳴った。
『潜入中の工作員からの要請で、テロリストの拠点にて戦闘中との事だ、付近をパトロール中の警官は至急応援に向かえ』
「了解、これより指定されたポイントに向かう」
無線機に答えた、ザミョール中尉の隣では、ガリーナ二等兵が、カーナビ・パネルを眺める。
そこに写された、指定ポイントの位置を、彼女が確かめていた。
「急いで向かおう、工作員の命が心配だからな」
「どうやら、地下からビーコンは発信されている様ですね」
「近くの地下防空壕入口から侵入できる見たいですが、敵拠点の正統な入口の位置は不明ですよ」
ザミョール中尉が、今も戦っているであろう工作員を心配して呟く。
また、運転席の後ろから、ギルシュ二等兵が詳しい位置を、ノートPCを操作して確める。
「アレ? また予備のウォッカを忘れてきちゃった」
「またかっ? 外回りに煙草とウォッカは必需品だろうが、カピトリーナッ!」
その隣席には、カピトリーナと呼ばれた女性隊員が座る。
彼女は、空になった、ウォッカの瓶を足元に転がさないように、ゆっくりと置く。
また、膝の上に載せた、バックを漁り、他にまだ封を開けていない瓶がないか探っていた。
彼女は、レモンカラー・ロングテール髪に、ヴァイオレットの瞳、唇はスカイブルーなど。
わりと大人しめの印象を受ける、可愛らしい見た目をしていた。
服装は、黒いウシャンカ帽を被り、帝国警察の黒い制服を着ている。
下には、黒いロングスカートと、青いタイツを履いていた。
「あーー!! ストリチナヤ、モスコフスカヤ、ストロワヤ、スタルカ、ペルツォフカ~~!?」
「うるさいですよ、任務に集中して下さい」
バック内から出てくる物は、様々な種類のウォッカが容れてあった、空瓶ばかりである。
そして、まるで子供のように騒ぐ、カピトリーナ二等兵を、ギルシュ二等兵が叱った。
彼等が、今乗っているの車両であるが。
それは、高級スポーツカーである、黒い塗装のポルシェ・カレラGTだった。
その後ろを、追尾して走る黒いパトカーは、フェラーリSP12ECである。
これ等のパトカーだが。
民間から、強引に徴用して入手した物、反体制派から、押収・滷獲した物。
などと言った手段で確保した車を、警察車両に改修して、使用しているのだった。
市内を走る二台のパトカー。
その車列は、立ち並ぶ黒いビル群を抜け、地下防空壕入口付近にまで来ていた。
広大な公園の一角。
そこに、第二次世界大戦中に構築された、古い防空壕。
そのコンクリート製である、入口には、人だかりが出来ていた。
古びた、公衆トイレのような外観をした、防空壕だが。
この入口付近から、周辺を取り囲むように布陣する、黒服を着ている一団。
それは、帝国軍部隊の姿だった。
パトカーの社内から、ザミョール部隊は、遠目に彼等が展開している姿を眺める。
装甲車が、三台も並び、大勢の帝国軍兵士たちが、周囲を警戒していた。
トーテン・シェーデル・ゾルダートが、二十人も警備に立っている。
また、グールが四人、オーガーとシュヴァルツ・リッター達は、一人ずつ存在している。
と言った感じで、小隊規模の部隊が、辺りを封鎖していた。
防空壕入口は、彼等の存在により封じられ、看板と鎖が付いた棒を立てられていた。
「クソが、先を越されたか?」
「彼等も工作員を助けに?」
ザミョール中尉とガリーナ二等兵たちは車内から、帝国軍部隊を観察する。
「知るか、それより俺達も中に入れるか交渉して来るからな」
ザミョール中尉は、口から煙草を放すと、胸ポケットから取り出した、携帯灰皿に押し付ける。
「ガリーナ、お前だけ来い」
「了解ですっ!」
ドアを開いて車外へ出た、ザミョール中尉の後を追って、ガリーナ二等兵も車外へと出る。
「指揮官は何処だ?」
「彼方に居りますっ」
パトカーである、ポルシェ・カレラGTから離れた、ザミョール中尉。
彼は、防空壕入口の前に立つ、三人の帝国軍兵士達に指揮官はと声を掛けた。
すると、三人の帝国軍兵士で、真ん中に立っている兵士は、ローマ式敬礼をして答えた。
「どうも、御苦労さん」
その兵士から離れた、ザミョール中尉は、彼が手を向けた方向へと直ぐさま向かう。
そこには、三列に並んだ装甲車がある。
また、右側にある車両二台の間に、帝国軍指揮官らしき、女性将校が存在した。
彼女は、非常に目立つ、ラベンダーグレイ色のウシャンカ帽を被る。
服には、襟元が白色の模様が入った、黒いロングコートを着ていた。
足には、黒い乗馬用ズボンと、黒いロングブーツを履いていた。
容姿は、ペール・ホワイト・リリーとミルク・ホワイト色の髪を、マッシュボブヘアにしている。
ゼニスブルー色に光る丸い瞳に、クラウドブルー色のアイシャドウを塗っている。
唇は、プルンと膨らんだ、アクア・マリン色だ。
と、見た目はかなり、大人の色気たっぷりの女性だった。
その右手には、演奏指揮者が使う、指揮棒《タクト》を持つ。
その後ろには、もう一人、フードを深く被って、足元まで黒いマントを着た兵士が存在した。
それと、護衛役を務める、二人の帝国兵が控えていた。
「何だ貴様は?」
ノートPCを弄くる、帝国軍・女性将校は、かなり機嫌が悪そうだ。
彼女は、ザミョール中尉の姿を見るなり、顔に凄く面倒臭そうな表情を浮かべる。
それと同時、如何にも邪魔者が来たと、敵意も剥き出しにした。
「帝国警察、第二小隊のザミョール中尉です」
「帝国軍・野戦憲兵隊、指揮官のフォイルスニェーク大尉だ」
直ぐさま、ローマ式敬礼を取る、ザミョール中尉だったが。
彼に対して、フォイルスニェーク大尉は邪魔だと、あから様な態度を取り続ける。
「単刀直入に申し上げます、我々も中に入れて貰えませんか?」
「それは無理な相談だな、我々が先に封鎖して内部に突入したのだ」
ザミョール中尉の申し出だが、もちろん、フォイルシニェーク大尉は許可しない。
彼の頼みを聞いても尚、一向に地下防空壕へと立ち入ることを、許可しない理由だが。
それは、帝国警察部隊と帝国地上軍の仲が悪いからだ。
「仕方が有りませんな、ん?」
「どうした?」
そんな時に、突然ザミョールは懐に入れていた、タブレットを取りだして、内容を読んだ。
「付近で、テロリスト連中と帝国警察部隊が、交戦中との事です」
フォイルスニェーク大尉の前で、タブレットの内容を伝える、ザミョール大尉。
「と言う事で、我々は至急向かわねば成りませぬので」
「ふんっ! 知るか…………さっさと、立ち去れっ!」
別の場所に行くと告げる、ザミョール中尉に対して、フォイルスニェーク大尉は短く答えた。
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