地下道を密かに歩く、ナタンとメルヴェ達だったが、しばらくは敵に出会わなかった。
「ん? 後ろから足音がするっ! 地下道は、不味いな…………今までは」
「不味いわね? さっきの連中かしら? 取り敢えず、さっさと行かないとね」
どうやら、帝国側部隊が真後ろの地下道を通って来ているらしく、ナタンは床を蹴る音を耳にした。
複数人の敵が迫っていることは、メルヴェも察知して、ここから逃げる事を提案した。
「きっと? 襲撃の影響で、地下道の方に探索部隊が派遣されたんだ」
「なら、地下から地上に出ましょうっ!」
ナタンとメルヴェ達は、帝国側の探索や巡回に、引っ掛かってしまう危険性を考えた。
そして、彼等は地上に出てしまえば、むしろ帝国側の警戒網から逃れられるかも知れないと思った。
こうして、帝国側の追跡部隊から逃れるべく、二人は必死で、ある場所まで走っていった。
それから、二人は秘密の出入り口である赤字で、工事中と書かれた、黄色い看板を発見した。
「ここだ、右から取り外す」
「じゃあ、私は左側からね」
両側から看板を取り外した、ナタンとメルヴェ達は、中に入ったあと、すぐに元の位置に戻した。
二人が入った空間には、工事用具が所狭しと置かれている。
そして、工事現場で使う、赤いコーンが四つも置かれた場所に向かう。
これらを退かして、そこにあった、円形の出入口から下に続く、梯子《はしご》を降りていく。
「行くぞ」
「ええ」
もちろん、ナタンとメルヴェ達は、上に赤いコーンの位置を戻して、蓋を閉めた。
また、二人が降りた場所は黄土色の壁が続く、洞窟みたいな空間が広がっていた。
「上に行こう、ここは確か地下倉庫内に出るはずだ」
「先に行って、後ろは私が見張っているから」
洞窟内の巧妙に偽装された、入口である岩壁を退かして、二人は地上に出ようとした。
そこには、何処かへと続く坂道があり、彼等は臆することなく、進んでいった。
ナタンは、坂を登って、小さな地下倉庫の中に出たが、当然周囲を警戒する。
メルヴェも、後から上に来たが、周りに敵が存在しないかと、アチコチに目を配る。
「ここには、敵は居ないな?」
「ええ、防弾ベストと銃は置いておきましょう」
「誰か居るのか?」
ナタンとメルヴェ達は、武器を下ろして、防弾ベストを脱いだ瞬間、階段から誰か降りてきた。
「おや? その武器は…………? レジスタンスの皆さんですか? 私は民間協力者のフェネックです…………さあ、上に行きましょう」
「協力者か、ありがたい」
「早速だけど、外の様子を教えて下さるかしら?」
フェネックと、暗号名を名乗る、老人の後を追って、ナタンは階段を上がっていく。
メルヴェは、街では帝国側が厳しい監視を行ってないか、彼に質問した。
「このヴァン・マルデ通り近辺には、部隊は存在してません…………しかし、巡回や監視カメラなど、それらには充分に注意して下さい」
「分かった、あと敵の装備を奪ったんだが、上手く隠してくれ? それと、助かった」
「私達は、アジトに帰るわ? 貴方も、レジスタンスに協力している事が、バレないように気をつけてね」
フェネックから忠告された、ナタンとメルヴェ達は、彼の家を歩いていく。
「礼は要りません、それよりも、くれぐれも気をつけて」
「大丈夫だ、心配は要らない、それじゃあな」
「私達なら、きちんと逃げられるわ? さようなら」
家から事務所の中らしき場所を通って、フェネックは二人を外へと案内する。
ナタンとメルヴェ達は、彼に別れの挨拶を告げると、ドアから外に出た。
そこには、茶色や白に塗装された、煉瓦壁の建物が並んでいる。
背後に振り返った、彼等は反対側も、茶色い建造物が建ち並んでいるのを目にした。
「ここは、自動車の整備工場だったのか?」
「…………のようね?」
ナタンとメルヴェ達は、周囲の建物を身ながら、ヴァン・マルデ通りを南に歩いていく。
相変わらず、人通りは少ないが、何人か民間人や警察隊員たちが見える。
それに、左右両側には、大量の様々な自動車が、たくさん並んでいる。
他にも、街中に張られた、広告ポスターやモニターが帝国を讃えるプロパガンダ情報を流している。
ここは、他の区域よりも、帝国軍や帝国警察などが用意した、青いサブリミナル洗脳装置が多い。
「帝国の青色の宣伝が、ウザいほど、あるな?」
「ここの住民は、きっと戦いに巻き込まれたくない人間が多いのよ」
ノルデンシュヴァイク帝国の宣伝工作は、地元民に対する洗脳広告として、巧妙に構築されていた。
軍旗や垂れ幕などには、帝国の栄光や絶対的な力を讃える、スローガンが堂々と掲げられている。
これにより、帝国軍人や帝国警察隊員の誇りを掻き立てていた。
また、こう言った、工作用の宣伝は、住民たちが反乱を起こさないように設置されている。
さらに、この大量配置された、工作物などを見て、ナタンは呟く。
それを、メルヴェは民間人が帝国政府に忠誠を誓っていると報せるため、自ら用意したと考えた。
「ふぅ? まあ、現状だと帝国に逆らうのは自殺行為だからな」
「しかし、いつ見ても、青色と白い空は萎えるわね?」
フェネックのような協力者や、レジスタンス員などを除き、一般市民は嫌々ながらも従う他ない。
それは、帝国による苛烈な報復や、人権を無視した洗脳兵士に改造される事を恐れているからだ。
ナタンとメルヴェ達は、そんな街中を何気なく、歩いていく。
しかし、帝国は完全洗脳するほどのプロパガンダは、何故か流していなかった。
「帝国は、俺達を追い詰めようとしている…………だが、窮鼠猫をかむって、言葉があるように、ただでは殺られないぞ」
「連中の戦力は、圧倒的だけど? それでも、私達を倒しきれない…………しかし、帝国は優秀な兵士を集めるために、こっちを殲滅しないように手加減しているって、話だけどね?」
一説によると、抑圧的な統治と宣伝工作に負けないほどの反乱分子を、敢えて煽っているらしい。
それは、帝国軍や帝国警察などが、優れた戦士を選別するために行っているとも言われている。
「うわっ! また、爆発だっ! くっ!?」
「大変だわっ! また、別の組織が暴れたのねっ!」
「きゃああああっ! 戦闘よっ! 逃げなきゃっ!!」
「不味いっ! 急いで、避難しなくてはっ!?」
「急げ、敵の奇襲攻撃だっ! 我々も応援に向かわなくてはっ!」
「テロリストめっ! 今日は、やけに襲撃が多いなっ!」
何処か遠くで、爆発音が鳴り響くと、ナタンは直ぐに反応して、背を丸めた。
メルヴェも、背後に振り返り、黒煙が空に登っていく様子を見た。
また、二人だけでなく、町を歩いていた、メイド服の女性も逃げ出す。
それから、工事関係者らしき男性も、真っ青な表情で、とにかく走っていく。
MP5短機関銃を両手に握る、野戦帽を被った、警察隊員は、走り出して事件現場へと向かう。
PPKー20短機関銃を持つ、略帽を被った方も、早々と味方部隊を助けに駆けていく。
「不味いぞっ!! このまま戦闘に巻き込まれたらっ!?」
「撃たれてしまうか? 敵に捕まえられるわっ!」
ナタンとメルヴェ達は、帝国軍&帝国警察の追手から逃れるために、必死に逃げていた。
彼等は、レジスタンスの一員であり、帝国に捕まることは、死や洗脳されることを意味していた。
黒く塗装された、パトリアAMV装輪装甲車が、二人の前方から走ってくる。
しかし、いきなり車体前部が、爆風で吹き飛んでしまい、ひっくり返された。
「帝国警察を発見っ! 撃て、撃てっ!」
「RPGーを喰らえっ!」
「ぐわっ! このっ! がは…………」
「反撃してやるっ!!」
三階建ての建物屋上から、黒人レジスタンス員がAK47を何発か撃ちまくる。
その左側からは、路上を狙って、白人レジスタンス員が、RPGー7を路上に向けて放った。
銃弾を喰らい、さらに上から発射された、弾頭を受けて、野戦帽の警察隊員は爆炎に包まれた。
しかし、パパーハ帽を被る警察隊員は、白いワゴン車両の陰に隠れて、PPKー20を撃ってきた。
「ぐわっ! しまっ! うわーーーー!?」
「この野郎、お返しだっ!」
「やったかっ? よし…………」
RPGーの筒を落としながら、地上へと落下していく、白人レジスタンス員。
黒人レジスタンス員は、両手に握るAK47だけを下に向けて、とにかく乱射しまくる。
当然だが、その銃撃は、ワゴン車に身を隠している略帽を被った、警察隊員には当たらない。
「あっちだっ! 左側の柵を飛び越えるぞっ! ぐっ!!」
「あっ! 待って、装甲車よっ!? うわっ! こっちに行きましょう」
「怪しい連中だ、撃ち殺せっ!」
「敵を発見した、これより攻撃する」
「帝国軍だっ! 煙幕を投げろっ!」
「あいよっ! その前に、グレネードを喰らえっ!」
ナタンは、緑色の網が張られた柵に、急いで向かうが、そこに何発も弾丸が飛んできた。
メルヴェも、彼を追っていたが、正面から並走してきた、黒いBTRー80装甲車に驚く。
彼等は、灰色の乗用車を楯にしようと、車体左側に身を隠した。
その間にも、帝国軍部隊とレジスタンス部隊で、激しい市街戦が展開される。
帝国軍兵士は、右側の建物屋上からAK15を、二人が隠れる場所に向かって、何発か連射する。
もう一人は、ライフルグレネードを、SKSの銃身から飛ばしてきた。
アラビ人レジスタンス員は、窓を破って、煙幕弾を投げつつ建物から出てくる。
二階の窓からは、黒人レジスタンス員が、AK74を派手に乱射しまくる。
双方による戦闘は激しく、辺りを白と灰色の煙で包んでしまった。
面白かったら、ブックマークとポイントを、お願いします。
あと、生活費に直結するので、頼みます。
(^∧^)
読み終わったら、ポイントを付けましょう!