イェスパーは倒れている、レオとカルミーネたちの体を肩に担ぎながら、後方へと走っている。
ヴラウリオは、自動小銃セトメ・モデロLを構えつつ、周囲に気を配りながら後退していく。
こうして、二人は味方が銃を撃っている方向へと、ビル内から去っていく。
「どうやら、追っては来ないようだ…………追撃がないとは妙だな?」
「銃撃は止んだ、つまり連中は撤退したんだろう」
ビル内を通過しつつ、後ろから敵が来ないかと聞き耳を立てる、イェスパー。
そんな彼に対して、周囲へと気を配りつつ、ヴラウリオは冷静に状況を分析する。
暫く、ビル内を走っていた二人は、建物の外に出ると、左右を見て伏兵が居ないかと確認した。
しかし、それは取り越し苦労だったらしく、彼等は安堵しながら溜め息を吐いた。
今、四人が出た場所は、ビルの間にある路地だ。
「レオ、カルミーネ、壁際に下ろすぞ」
「す、済まない、イェスパー」
「助かったよ…………」
「回復魔法と、止血帯で治療する…………これで後方まで行け」
『ないってのっ!』
イェスパーが負傷している二人を、ゆっくりと壁に下ろして、背中のMg /07軽機関銃を取り出す。
レオとカルミーネ達は、礼を言いながら背中を壁に預けて座る。
その間に、ヴラウリオが回復魔法を掛けようと、壁際に座らされた、二人に右手を向けたが。
突然、真上から誰かの声が聞こえ、ビル壁に反響する。
「気を抜いてたな? プッ!」
「不味いっ! バクテリエラー・ゾルダートだっ!」
ヴラウリオは、急いで、セトメ・モデロLを構えたが時既に遅く、頭上から粘液が落下してくる。
「不味い、殺ら…………?」
「な、何が?」
敵のバクテリエラー・ゾルダートが口から放った粘液は、揮発性が高い細菌類を含んでいる。
それを喰らって、運悪く四人とも死ぬと思った、レオとヴラウリオ達だが。
「ふぅ~~なんとか間に合ったわっ!」
彼等の頭上から、放電された広範囲雷撃魔法により、電撃で粘液は弾け跳んだ。
この魔法を放った人物は、偶然窮地に駆けつけたシモーネだ。
「ちっ! なら、これでも喰らえっ!」
「オラ、オラ、オラ」
「死ねえぇぇぇぇーー!」
敵のバクテリエラー・ゾルダートは、自身による細菌攻撃が失敗しても、まだ諦めていない。
奴が、無数の手榴弾を、ビル屋上から連続で投下してきた。
さらに、他にも兵士らが到着したらしく、RPGー7の弾頭やPK機関銃から機銃掃射が放たれる。
「不味い、お前らを拾ってる暇は無いから投げてやるっ!」
「は?」
「いや、ちょっ!」
「俺はビル内に走るっ!!」
イェスパーは、全身ズタボロのレオとカルミーネ達を、喋りながら道路に向かって投げる。
お陰で、レオは顎《アゴ》と胸を路上で強打し、カルミーネも腹を思いっきり地面に当ててしまう。
その間に、イェスパー自身は、ヴラウリオとともに、ビル内に入って行った。
「うわっ! 爆発が連続でっ!!」
「機銃弾も凄い…………」
撤退したかに思われた連合軍部隊だったが、連中も同じく、迂回しながら密かに行動していたのだ。
ゆっくりと振り向いた、レオは直前まで自分たちが居た場所から、爆風が何度も吹くのを感じる。
RPGー7から発射された弾頭がコンクリートを吹き飛ばし、手榴弾が何回も土埃を吹き上げる。
カルミーネも体勢を変えて後ろを見ると、機銃弾が、雨のように振り袖ぐさまが目に映る。
それと、途切れなく放たれ続ける弾の発射音と、空薬莢が輩出されつつ屋上から落下しまくる音。
これら、二種類の金属音が、彼が頭から生やす犬耳に響く。
「ぐわっ! 何だ?」
「何だじゃない、レオ、下がるわよっ!!」
「えっ! 何々っ! って、うっ?」
「カルミーネ、全く世話が焼けるわ…………」
レオは、いきなり真後ろから襟首を、ミアに捕まれてしまい、驚いてしまう。
カルミーネも同様に、ミネットから首根っこを、力強く掴まれたまま引き摺られてゆく。
「連中は逃げたぞっ! 追撃してやるっ!」
バクテリエラー・ゾルダートは、路上で負傷者を引き摺る警察隊員たちを狙う。
奴は、屋上から路上を狙って、単発連射でAKMー63ライフルを連射しつつ叫ぶ。
もう一人の連合軍兵士も、PK機関銃を急いで振り回し、斜め下に向かって撃ちまくる。
さらに、RPGー7を持った連合軍兵士も、弾頭を再装填し始めた。
「ぐへっ!? これ以上は死ぬぞ」
「ち…………」
引き摺られているレオの腹を、敵が放った、7、62ミリ弾が貫き、風穴を開ける。
そして、ミネットの頬も同じく、弾丸が掠めて跳んでいく。
「装填完了、撃ってやるっ!」
「四人とも、早く建物に走ってってばっ!!」
背中から、RPGー7の弾頭を取り出しつつ、装填した、連合軍兵士は直ぐに下を見た。
だが、それを牽制するべく、ベーリットがAーG3バトルライフルを、ドンドン撃ちまくる。
「うわっ! く、しまった」
ベーリットの援護射撃により、驚いてしまった連合軍兵士はRPGー7を撃った。
そして、煙を噴出しながら発射された弾頭は、爆発したが、命中した場所は向かいのビル壁だった。
砕け散るコンクリートや窓ガラスが、ド派手に周囲に飛散する中、ベーリットは動き出す
「これでも喰らえっ!! ぶはぁ~~~~!!」
いきなり中腰になった、ベーリットは真上に向かって、口から青紫色の毒ガスを噴射する。
それを、左右横凪に振り回しながら海獣の火炎放射みたいに出し続ける。
「しまった、これじゃあっ! 下の連中が見えないっ!」
「とにかく、撃ちまくれっ!」
大量に吐き出された毒ガスは、屋上から、こちらを覗く、連合軍兵士たちに届かない。
しかし、毒による科学攻撃が効かぬとも煙幕としては効果を発揮する。
視界を奪われた、連合軍兵士たちは闇雲に銃を乱射しまくる。
だが、効果が無いと分かった連中は報復を恐れて、引き下がり始めた。
「後退だっ! 体制を立て直すっ!」
バクテリエラー・ゾルダートが、そう言うと同時に他の二人も直ぐに踵を返した。
「ぐぇっ! やっ! 矢だと?」
だが、PK機関銃を背負った連合軍兵士は、背中を矢に貫かれてしまう。
それでも、奴は死に至らず、何処から跳んできたか確認する間もなく走り去ってゆく。
「連中、撤退していく…………いえ、後退するだけね?」
AーG3ライフルを下ろした、ベーリットは溜め息を吐いた後、直ぐに背後のビルに走る。
そこには、先に避難している四人が居たが、カルミーネとレオ達は、戦闘不能な状態だった。
ミアとシモーネ達は、壁に背を預けて、外の様子を伺いつつ、敵による襲撃に備える。
「ミア、シモーネ? ヴラウリオ以外に衛生兵は居ないの?」
「残念ながら………ね、彼は向こう側に逃げたし」
「援軍が到着するか、二人をさらに後方へと運ぶしかないわ」
ベーリットの質問に、ミアは困ったように首を振りながら答えた。
援軍を期待するか、彼等を搬送するかと、シモーネは言いながら両手を出す。
そうして、レオとカルミーネ達の手足や傷口に、氷結魔法を掛けて、包帯を巻く代わりに止血する。
「その援軍だっ! 負傷者を運ぶっ!」
「頼む、退いてくれっ!?」
「担架が無いから背負ってやるっ!」
いきなり、五人の帝国軍兵士たちが現れて、レオやカルミーネ達を救うべく近寄る。
彼等は、全員が制帽を被った、ヴァンパイアらしく、精鋭部隊である事が伺えた。
「や、く、お前ら…………」
重傷により身動きが取れない、カルミーネは何かを呟こうとする。
その時、突然どこからか機銃掃射が始まり、凄まじい銃声がビル内に響き渡った。
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