巨大なホウルトラック、BeIAZ《ベルエーザット》ー75501は暴走しながら突っ込んでくる。
「虫達よっ! 頼んだわっ!」
「はっ! コックピットを狙うんだな?」
ヤブローの噴出した、虻《アブ》や蟆子《ブユ》らしき、虫は羽根をバタつかせながら飛びさってゆく。
これらの真っ黒い塊は、やがて、黄色い巨体左側をにある操縦席を覆ってしまった。
それにより、ナタンは運転手を混乱させて、事故を誘発させるんだろうと考えた。
二人の思惑通り、物凄い勢いで走っていた、ホウルトラックは蛇行運転を始めた。
「やった、倒したぞ」
「待てよ、ありゃ~~?」
「ゾンビだね、直ぐに撃つわ」
「こんな近くでっ!」
BeIAZ《ベルエーザット》ー75501は、コントロールが効かなくなり、楕円形のBNPビルに突っ込んだ。
ヤブローの虫達がなければ、後もう少しで、鉄条網を踏み潰しながら此方に突撃してきそうだった。
ダンターは敵を撃破できて喜んだが、スタッロは荷台のダンプ部分が起き上がるさまを怪しんだ。
そこから、ワラワラと出てきたのは、数十隊のゾンビ達だった。
「ウガアアァァァァッ!?」
「ガアーーーーー!!」
「うわ、この距離で来るのかよっ!!」
「何かデカイ奴も居るっ!」
大量のゾンビ達に、筋骨隆々なマッチョ・ゾンビも混じり、一斉に突撃してくる。
しかも、連中は鉄条網に引っ掛かった、仲間の上を乗り越えてくる。
さらに、防弾板を殴り飛ばして、津波のように押し寄せてくる。
それにより、白人民兵や連合軍兵士たちは、奴等から逃げようと、散々になって逃げていく。
「ここは、塞ぐっ!!」
「あっ! 待てっ!!」
「ガアアーーーー」
「逃げろっ! ぐゃっ!?」
「撃ちまくるんだっ!」
「グオオォォォォ~~~~!?」
「く、くく来るなっ! ぐぇ…………」
混乱する連合側部隊を、ゾンビ達が背後から群れを成して襲いかかる。
砲郭部分の入口は、内部からアラビ人兵士によって、防弾板で塞がれてしまう。
それを見た、黒人民兵は大慌てで、パロワシアン通りへと走っていく。
同じく、逃げていた白人PMC要員は、背中に飛び乗られて、頸動脈を噛み千切られてしまう。
逃げずに反撃しようと試みた、アシュア系レジスタンス員は、M4A1を連射しまくる。
離れた位置から、AK74を単発連射していた、連合軍兵士は、マッチョ・ゾンビに突進される。
「近づくんじゃないっての?」
「不味い、味方側が殺られているわっ!」
「後ろ側から来る奴等だけでも、倒さないと」
「援護しにいくっ!」
「俺もだっ!」
火炎瓶を投げまくり、近寄ってきたゾンビから、グランマッシュは、スリングショットで倒す。
メルヴェは、ベルクマンMG15を窓から機銃掃射しまくる。
ナタンも、AMDカービンで、動く死体達を何度も撃ちまくる。
そんな中、窮地に陥った味方を救いに向かうべく、スタッロがベランダから飛び出していった。
ダンターも、ショートソードを片手に握ると、勇猛果敢に特攻していく。
「うらああああーーーー!? こっちだっ!」
「うおおっ!!」
雑魚ゾンビは、銃や火炎に倒されていくが、マッチョ・ゾンビだけは、未だに動き回っている。
連中を片付けるため、スタッロは両手に握るウォーハンマーを振り回した。
ショートソードで、敵の脚や腕を斬っては、ダンターは逃げまくる。
「後は、マッチョ・ゾンビだけだっ!」
「ああ、だが包囲されたな」
「心配いらんさ」
「三人が囲まれたわっ!」
「援護しないと不味いっ!?」
スタッロは、ウォーハンマーを振り回しては、マッチョ・ゾンビの顔を潰していく。
ショートソードを両手に、ダンターは敵の頭を真っ二つにする。
パチンコ玉を放ち、面玉から脳を射ち抜く、グランマッシュ。
そうして、数が減った動く筋肉死体たちだが、いつの間にか、三人を取り囲んでいた。
ナタンとメルヴェ達は、二人を助けようと、銃撃を強める。
しかし、筋骨隆々な奴等は、手足が撃たれただけでは中々射殺できない。
そこに、建物背後のコロニー通りから、トヨタ・テクニカルが猛スピードで回り込んできた。
「援護するよっ! 伏せなっ!」
「射撃開始だわ、やってやる」
荷台の三脚に搭載された、デューシカ38重機関銃から、ナタリーは途切れなく火を吹かせる。
カトリーヌも、デューシカ38歩兵支援用火器に着いた二脚を、トヨタの屋根に載せた。
「うわ、やべーー! 伏せろっ!」
「頭を下げなきゃっ!?」
「ひいぃぃぃぃっ! 味方に殺られちゃうわっ!」
「ガア…………」
「グオオッ! グオオオオ?」
二人の猛烈な火力支援により、スタッロとダンター達は急いで身を伏せた。
そうして、何体ものマッチョ・ゾンビ達は、大口径弾により、粉々に砕けていく。
「終わったな、もう大丈夫ですよっ!」
「後は、バリケードを作り直さないとね」
「これで、決着したのかしら?」
運転手らしき、男性兵士が降りて来ると、地面に頃がった死体を蹴飛ばす。
服装は、白に近いベージュ色と濃い茶色を中心に、薄い・灰・鼠・黄緑からなる迷彩服が目立つ。
茶色い坊主に近い短髪の彼は、プーニハットをポケットから取り出して被る。
ナタリーとカトリーヌ達も、武器弾薬をトヨタ・テクニカルから下ろし始めた。
「助かったのね?」
「また、帝国軍の攻撃が停止したな」
「だが、油断はできん」
グランマッシュは立ち上がると、近くの防弾板を動かして、立て直し始める。
ウォーハンマーで、ピクピク動めく、マッチョ・ゾンビの頭を、スタッロは思いっきり叩き割る。
ダンターは、背中からタバティエール銃を取り出して、ホウルトラックの方に向けた。
「はぁ…………? 終わったのか?」
「取り敢えずね、疲れたわ」
ナタンは、壁に背中を預けつつ肩から力を抜いて、緊張を解いた。
メルヴェも、しゃがみこんで、額から幾つか汗を床に落とした。
「パトリシアは? 死んでいる…………」
「機銃弾に殺られたんだわ」
ナタンは、パトリシアの声が聞こえない事を不自然に思い、彼女が居た場所に目を向けた。
しかし、既に事切れた死体と化していたのを、メルヴェは確認した。
どうやら、死因は複数の機銃弾が体を貫いた事で、後ろに倒れたと思われる。
幸い、顔だけは綺麗なまま目を閉じており、まるで眠っているかのようだ。
「残念だ、優秀な狙撃手だった」
「…………本当ね、悲しいわ」
「援軍を呼んできたわっ! って、パトリシア?」
ナタンとメルヴェ達は、パトリシアの前で、静かに十字を切った。
そして、左腕に包帯を巻いた、フランシーヌがPMC部隊とともに現れる。
「ダメだ、死んでいる、担架の用意を」
PMCのマミーが、パトリシアを見て、すでに死亡していると、判断すると部下たちを呼ぶ。
「フランシーヌ、見えないと思ったら援軍を呼びに行ってたのか?」
「ああ、ヤバそうだから、こっちに何人か回して貰いにね…………だが、遅かったようだわ」
「いいえ、貴女は頑張っただけよ、ただ彼女は天に行ってしまったわ」
ナタンは、フランシーヌに質問すると、彼女は残念そうな表情で詳細を語る。
それを聞いて、メルヴェも悲しげな顔をしながら立ち尽くす。
「装甲ブルドーザーは、まだか?」
「それより、死体を片付けないとっ!」
「路上の武器は屋内に入れろ」
「敵の的になるからな、急がんと」
インディオ系PMC要員が、軽迫撃砲を抱えながら外を走る。
死体に、火炎魔法を掛けては、ヒンド系レジスタンス員が動かなくなった、ゾンビ達を焼き付くす。
連合軍兵士とイズライル軍兵士は、手作り式ガトリングを屋内に運び込む。
こうして、連合軍側は、帝国軍による第二次攻勢を何とか食い止めたが、その被害は甚大だった。
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