【暗黒騎士団VS反逆のレジスタンス】 吸血鬼アンデッド軍団と最後の人類は、たった一人でも戦う

レジスタンスは今日も戦う
デブにゃーちゃん
デブにゃーちゃん

第116話 復讐を果たした乙女の一人は今は何を思う?

公開日時: 2024年7月10日(水) 10:14
更新日時: 2024年7月22日(月) 15:42
文字数:3,020


 ナタンとイルメラ達は、邸宅内のベッドで、白いシーツにくるまっていた。


 彼女は、憂いを帯びた雰囲気を出しながら、何処か遠くを見つめていた。



「私は? いえ、私達は復讐を果たしたわ…………それからも私は休まずに帝国の警察官として働いたわ…………」


 ナタンの前から退いた、イルメラは悲し気な表情をしたまま、右側に寝そべり、過去を語り続ける。



「そして、出世を重ね、この地位にまで来たわ? けど結局は帝国も同じだわ…………権力者が下の者を踏みつける、それでも腐ったハンザに比べれば多少はマシかしら?」


「それよりも、どうして、僕を助けたのですか?」


 天井の幻想的な青光を、眩しくない程度に放つ、シャンデリア。


 それを、悲し気な瞳で、ボンヤリと眺めながら呟く、イルメラ。



 彼女の美しい横顔を見つめながら、ナタンは自分を助けた理由を問い質した。



「それは…………貴方はスパイね?」


「はっ!?」


 イルメラは、ナタンへと、その悲し気な眼差しを向けながら、一言呟いたが。


 その言葉に、ナタンは正体を見破られてしまったかと身構える。



「こっち側のよ? その身に流れる赤い血液は紛い物よね、分かっているわよ…………だって前に貴方は私の事を助けてくれたんですもの…………」


 イルメラは、大分前に起きた、レジスタンスによる襲撃時に起きたことを回想する。



「我々は退散する、警察署に帰るぞ」


 レジスタンス側との激しい戦闘が行われた、公営住宅街は、帝国警察が制圧した。


 そこから、部下を引き連れて退散しようと、建物の入り口から出てきた、イルメラ大尉。



「今だっ!! 仲間の仇だっ!」


「くたばりやがれっ!?」


 いきなり、近くにあった、マンホールの鉄蓋を開いて顔を出した、白人レジスタンス員。


 同じく、ゴミバケツの蓋を退かして現れた、黒人レジスタンス員。



 彼等は、イルメラ大尉の体を貫かんと銃を向けたが。



「うわっ!」


「があっ?」


 突如、奇襲攻撃を仕掛け、イルメラ大尉・暗殺を狙った、レジスタンス達の残党だったが。


 しかし、連中の意図は駆けつけた、レジスタンス員によって防がれてしまう。



 彼が、銀色の拳銃を撃ったからだ。



「帝国警察の潜入工作員です、レジスタンス側は貴方の暗殺を企てておりました、では私はこれにて…………」


「あぁ? 有り難う…………」


 潜入工作員を名乗る男は、顔をアラビ人のように巻いた、白い布で隠していた。


 彼は、イルメラが返事を返す前に風のように、颯爽と何処かへと走って行ったのだ。



「あの時から貴方の事が気になっていたのよっ!」


『…………僕にそんな記憶はない…………誰かと勘違いしているのか? しかし彼女の勘違いは都合が良い…………』


 顔を真っ赤に染めた、イルメラは恥ずかしげに視線を剃らす。


 その様子を見て、ナタンは勘違いだろうが、好都合だと考えた。



 このまま演技を続け、彼は帝国側が用意した、潜入工作員に成り済ます。


 そして、隙を見て彼女から逃れようと思い付いたのだ。



「そんな事より、やっぱり初めてを獣《けだもの》に奪われた傷物は嫌なのかしら?」


「そんな事はっ!?」


 再び、憂いを帯びた、悲し気な表情を浮かべる、イルメラ。


 そんな彼女の顔を見て、どうしたら良いかと、困惑するナタンだったが。



 いきなり、彼の唇に、彼女は口を重ねた。



「はぁ~~♡ 貴方が嫌でも私は嫌じゃないわ?」


「どの道、貴女からは逃れられはしないでしょうね…………」


 うっとりした表情を浮かべて、目をトロんとさせる、イルメラ。


 彼女は、驚いたまま固まる、ナタンの紅く染まった頬を両手で撫でる。



 そして、退路がない事を悟った彼は、潔《いさぎよ》く自ら彼女の体を抱き寄せる。



 すると、ゆっくりと唇を重ね合うのであった。



「はぁ~~? 楽しかったわ♡」


「そりゃどうも」


 ベッドの上で、ぐったりと、うつ伏せに寝そべる、イルメラ。


 彼女は、ナタンに顔を向けていたが、その顔は満足そうであり、瞳は閉じられていた。


 ベッドに座る彼は、長く続いた行為の後、直ぐにシャワールームで体を洗う。



「ふぅ…………」


 それから後、シャワールームから、ナタンは出てくると、近くにあった電話台の引き出しに向かう。


 そこに、入れてあった、自らが変装用に着用していた、制服のズボンを履いていた。



「さあて、私も体を洗い流した後は着替えるから待っててね?」


「分かっていますよ、イルメラ」


 イルメラが、ベッドから起き上がり、シャワールームに向かう。


 すると、ナタンは彼女の方を向かず、ドアを見ながら答える。



「ふんふん、ふふ~~♪」


 イルメラが、熱々のシャワーを浴びる音と鼻歌を唄《うた》うが聞こえた。


 きっと、彼女は上機嫌で、肌に貼り付いた、汗を洗い流しているのであろう。



「ふぅ~~サッパリしたなぁ」


 その後、脱衣徐から出てきた、イルメラは体にバスタオルを巻いていた。


 彼女は、部屋の隅に置いてあった、小さな白い冷蔵庫を開く。



 その中から、ワインを一本、そして皿に載せられた、チーズを取り出してきた。


 また、彼女はベッドの脇に立てかけてある物を取り出す。



 折り畳み式キャスター付きの白い細長机だ。



 さらに彼女は、電話台に手を伸ばして、二段目の引き出しから、ワイングラスを二卓出した。



「我が故郷ドイツェルが生んだ、名産ワイン、ベッカー・シュペートブルグンダー…………それからフランシュの名産チーズ、エポワスよ?」


「頂きます…………」


 ベッドに腰掛けた、イルメラは細長い机の上にワインボトル置く。


 そして、ワイングラスを二卓、チーズの載せられた皿を二つ並べた。



 次いで、彼女は電話台の引き出しからスプーンを二つ取り出して、ナタンに一本渡す。



 そして、彼女は、ベッカー・シュペートブルグンダーの瓶を握る。


 その中身を、そっと、ワイングラスに注いで、ナタンに渡す。



 それを、彼は一口飲んでみる。



 喉を潤す酸味を、彼は味わい、疲れた体と精神を癒す。


 少量だけ飲んだ、ワインだが、酔いよりも目が覚めるような美味だと、彼は感じた。



「エポワスは表面の匂いは少しアレだけど、味は美味しいわ」


「香りはキツいですが、確かに味は良いですね?」


 そう語る、イルメラから眩しいほどの笑顔で見つめられた、ナタン。


 彼は、スプーンで切ってから掬った、エポワスを口へと運んだ。



『…………うぅん? 匂いは我慢すれば、味は本当に美味いな? ワインも上等な物だし? …………』


 ナタンが最初に感じたのは、イルメラが話した通り、キツい臭みであった。


 だが、直ぐに、エポワスの内側に凝縮された美味しさが、口内に広がり始める。



「ウフフ♡ でしょう?」


「そうですね…………」


 イルメラと朝の軽食を楽しむ、ナタンであったが、しかし彼には任務がある。


 直ぐに食べ終えた、彼は制服姿に着替える。



「あの、そろそろ任務に戻らなければ成りませんので?」


「分かっているわっ! 私も出勤時間だしね…………だから一緒に行こう? それに、渡したい物があるからさ」


 早く仲間達が待つ、アジトへと戻りたいと願う、ナタンの言葉を聞いて、イルメラは急ぐ。


 彼女は、急いで制服姿に着替え始めたので、彼も遅れまいと衣類を身に付けていく。



「あの? 渡したい物とは」


「プレゼント、見てのお楽しみよ…………」


 ナタンとイルメラ達は、会話しながら素早く着替え終える。


 こうして、制帽を被った彼等は、二人一緒にドアの方へと急ぐ。



「見てのお楽しみ…………ですか?」


「そう、そうよ♡」


 ナタンはドアを先に開き、イルメラ大尉を、エスコートする。


 そうして、二人は並びながら廊下を歩いて行ったのだった。

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