「中尉、敵は幻影だったんですか?」
「コイツが、その元凶…………」
「そうだ……それよりも? ミア、シモーネ……君たちも軽傷を負ったようだ、後で軍医に見てもらえ」
ミアも、死体と化した連合軍兵士たちを見て、数が足りないと思う。
敵ソーサラーの遺体を蹴って、まだ息があるか確める、シモーネ。
二人の疑問に答えつつ、フロスト中尉は彼女らが負った負傷を気にして命令する。
その後、彼は散乱する爆散した、敵シュヴァルツ・リッターを調査する。
「了解しました、中尉っ! しかし、今はまだ護衛に着きますね」
「敗残兵や、暗殺目的の兵士…………それらが潜伏しているかも知れないですから」
「分かった、だが無理はするなよ」
ミアとベーリット達は、フロスト中尉の左右に立ち、ゆっくりと歩く。
二人が言うように、指揮官を狙った狙撃や敗残兵による自爆攻撃は、敵がよく使う手だからだ。
「ん? 誰か来るわ」
「アレ…………は、レギナね」
窓側を警戒していた、ベーリットとネージュ準
尉たち。
二人は、向かい側のビルから、レギナが歩いてくる姿を目にした。
「よっ! 隊長、敵は殲滅しました」
「アンタのそれ、便利ね」
ミネットは窓際に蔦《ツタ》を巻き付け、一気に近寄ってきた。
それから、遅れて到着した、レギナが何気なく呟いた。
「そうか、向こうは殲滅したか? ひょっとして、あのRPGも君たちが……」
「その通りです、私は側面から、ヴラウリオやイェスパー達と一緒に、敵を撃ってました」
「私は、ミネット達が敵の注意を惹いている間に、敵を狙って……」
フロスト中尉は、戦闘中に跳んできたRPGー7の事を二人に質問する。
そして、ミネットとレギナ達が向かい側のビル内で行われた激闘を報告し始めた。
「クソッ! 敵が多すぎんぞっ!」
「だが、やるしかないっ!!」
「このまま、火力で押しきる!! 敵はたった二人だっ!!」
「撃て、奴らが隠れる壁ごと破壊してやるんだっ!」
何発ものAKから放たれる銃弾が、入口から左右に隠れる、ヴラウリオとイェスパー達を狙う。
その中心には、PK機関銃を装備する緑色をした、オーガーが居る。
また、先程のビル屋上から攻撃していた、三人組も二人を狙って自動小銃を撃ちまくる
連合軍部隊も、ビル内でロッカーを倒したり、事務机などを集めて、バリケードを作っていた。
ここから、身を隠しつつ連中は休む事なく、二人を攻め続けていた。
「二人とも、大変そうね~~? んじゃ、援護してあげるわぁ~~」
隣の部屋から、小型拳銃ル・フランセ・ミリタリーを構えつつ発砲する、ミネット。
彼女の持つ拳銃は、小型で威力が低く、また弾倉内に入っている弾数も少ない。
しかし、いきなり横から奇襲を受けた連合軍部隊は浮き足立つ。
「お~~ぃ? こっち、こっち、私を狙うのは簡単でしょっ!」
「奴も狙えっ! たった、一人だけだっ!」
「所詮は、少人数だっ!!」
当然、敵の神経を逆撫でした、ミネットに対して激しい集中砲火が跳んでくる。
だが、彼女は体を引っ込めて、敵からの攻撃を難なく回避してしまった。
「あんな、女は俺の細菌でっ!」
「やっちまえ」
「援護してやると!!」
バクテリエラー・ゾルダートは、一人奥に身を潜めた、ミネットを狙う。
奴は、AKMー63ライフルを連射していたが、急に撃つのを止めた。
他の兵士も、PK機関銃やAK47Sを撃って、彼女が反撃できぬように牽制する。
「その前に、細菌で死ぬのは貴方たちよ…………」
ボソリと呟いた、ミネットは三人の背後に向かって、透明な粘液を吐いた。
それと同時に、二回も、コンパウンド・ボウから矢を放った。
次いで、右手に握る、WIST《ヴィス》ー94Lピストルを撃ちまくる。
「ぐああああ~~!?」
「げふぅっ!?」
「ぐぼおぉっ!!」
バクテリエラー・ゾルダートと、お供の二人は粘液から発せられる細菌により苦しみながら死ぬ。
それにより、三人とも口から吐血しながら前のめりに倒れてしまった。
次に、矢を当てられた兵士達も、死にはしないが重傷を追い、突然の攻撃に慌てる。
WIST《ヴィス》ー94Lによる銃弾も、殺害こそできないが、敵を錯乱させる事に成功する。
「背後から来たかっ! 包囲する積もりかっ!」
「撃て、撃てっ!」
AK47から放たれた弾丸が、レギナを目掛けて真っ直ぐ跳んでくる。
しかし、彼女も直ぐさま遮蔽物へと飛び込んで、身を隠した。
「撃たれるかっての…………」
身を隠した、レギナは直ぐさま、WIST《ヴィス》ー94Lの弾倉を入れ換える。
「今だっ! 反撃開始だぜっ!」
「よっし、やってやる」
イェスパーは、Mg M/07軽機関銃を乱射しまくって自身を目立たせる。
こうして、注意を惹きつつ敵の銃撃を惹きうけようと言う算段だ。
ワーウルフである彼は、多少の銃弾を喰らっても兵器であり、それ故に派手に撃ちまくる訳だ。
その隙を突いて、ヴラウリオはセトメ・モデロLで、敵を狙い撃ちしていく。
「ぐあ…………」
「うだだだだっ!」
「あががっ!!」
「く、調子に乗るなよ」
二人の反撃で、次々と殺られていく連合軍兵士たちだが。
その中でも、オーガーだけは仁王立ちでPKM汎用機関銃を撃つことを止めない。
また、未だ残っている連合軍兵士たちも弾倉が空になるまで銃撃を続ける。
「アンタの目は見えなくするわねっ!!」
再び、オーガーを中心とした連合軍部隊による集中攻撃に、二人が窮地に陥っている。
この状況を打破するべく、ミネットは勢いよく蔦《ツタ》を伸ばして、連合軍兵士を掴んだ。
「うわああああーーーー!?」
「ぎゃあっ!!」
「ぐわ…………な、何をしやがったっ!?」
「うわあ~~とか、ぎゃあっ! じゃないのっ!」
蔦《ツタ》で掴まれた兵士は、そのまま首を絞められてしまい混乱する。
さらに、別な兵士が素早く伸びた蔦《ツタ》に鞭《むち》のように叩かれてしまった。
そうして、叩かれた兵士は吹き飛び、オーガーの体に勢いよく右から衝突してしまう。
ミネットの策は、大した衝撃を与えなかったが、それでも隙はできた。
「よし、後はグルグルグル…………」
「うぐ、目隠しかぁ? ふざけやがって」
一瞬だけ怯んだ、オーガーの目を中心に、全身を蔦《ツタ》が絡まってゆく。
「後は、雑魚だけよっ! 今のうちに撃ち殺すっ!」
「うぐっ! がっ!」
「ぎゃっ! ぐわっ? ぐっ!」
そう言う言葉とともに、レギナはWIST《ヴィス》ー94Lを何発も撃つ。
これにより、連合軍兵士たちを、二人も仕留めることができた。
「よし、彼女に続けっ!」
「後は掃討するだけだっ!」
「雑魚だけなら何とかなるわ~~」
イェスパーは、正面から敵に対して、制圧射撃を加える。
Mg M/07軽機関銃から放たれた弾丸は、次々と敵を倒してゆく。
ヴラウリオも、セトメ・モデロLのセミオート射撃で敵を仕留めてゆく。
二人に呼応して、ミネットも蔦《ツタ》を出し続け、オーガーの頭をグルグル巻きにした。
「これで、全員か……?」
「やったな、制圧したぞ」
「それよか、私の力を全て出しきってしまったわ~~」
「ふん、コイツが一番厄介だったけど、ここまでされたら身動きが取れないでしょ」
「ぐ、くそっ! 囲まれたか、ぐ…………」
イェスパーとヴラウリオ達は、敵を全て倒した事で、死んだ振りをする伏兵に気をつけながら歩く。
一方、ミネットは両腕から蔦を出しすぎた事で、その場にへたり込んでしまった。
そして、レギナが床に倒れて、蔦を引きちぎらんと、もがくオーガの頭を蹴った。
すると、奴は一言発すると物言わぬ躯と化した。
奴は、四人に囲まれた事で不利を悟り、捕らえられる事=洗脳されると思い、直ぐに自害したのだ。
「奥歯に仕込んだ毒物による自害ね……」
「敵とは言え、見事な死に様だ」
「それより、こっちは終わったが、向こうは終わってないぞ」
レギナとイェスパー達は、動かなくなった、オーガーを見下ろしながら呟く。
そして、反対側で行われている戦闘に、ヴラウリオが気づく。
「こっから行くより、アレを使いましょう」
レギナが床に粘液を吐いて、倒した三人の内、AK47Sを撃っていた兵士が居た。
ソイツは、大型リュックとRPGー7を床に置いていた。
「私の腕なら外さないわ……」
レギナは、ミネットほど優秀なスナイパーではないが、マークスマンとしてなら中々の腕を持つ。
そんな彼女は、窓に近寄っていき、仲間と充分な距離を取る。
これは、RPGー7の後方から吹き出る発射煙で、仲間たちを焼かせないために行ったわけだ。
「撃つわっ!」
レギナは、向かい側にあるビル内に、敵の姿を視認すると、窓際でRPGー7を構えて発射した。
プシュゥーーと勢いよく、擲弾発射器からロケット弾は跳んでいき、向かい側のビル内で爆発する。
「……と、それから私達は報告しに、こちらまで来た訳です」
「私の方は、回復剤で一気に体力を取り戻して、こっちに来ました」
「まあ、分かった…………僕たちには任務として、付近に潜む、敵敗残兵の狩りが残っている」
レギナとミネット達の話を聞いて、フロスト中尉は次に行う任務を伝える。
「悪いが……ネージュ、ベーリット、レギナ、ミネット、ヴラウリオ、イェスパー…………君たちには、まだまだ仕事をして貰うからな?」
軽傷を負った、ミアとシモーネを除く、第三小隊の隊員たちだが。
彼等には、フロスト中尉から更なる指示が下されるのだった。
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