ジャン・デュブリュック通りに向かって、ナタンとメルヴェ達は、並んで歩いていく。
今の二人は、帝国兵に変装しているため、彼等が敵だと誰も思わない。
「戦車が走っていく」
「でも、もう私達を狙っては来ないでしょう」
ナタンとメルヴェ達は、Tー80U戦車が動き出したので、そちらに注目する。
きっと、レジスタンス部隊を蹴散らした事で、移動していくのだろうと、二人は思った。
だが、いきなり戦車の近くで、コンクリート片が大爆発を起こす。
次いで、矢継ぎ早に、RPGー弾が四方八方から発射される。
「うわあっ!?」
「があああたーー」
帝国軍兵士たちも、砲撃や偽装爆弾を喰らって、黒煙と爆炎で、アチコチへと弾き飛ばされる。
赤い乗用車やコンクリートを破壊しながら、RPGー弾は、道路に降り注ぐ。
「うわ、レジスタンス側の奇襲だっ!」
「これは、不味いわっ! こっちよっ!」
ナタンとメルヴェ達は、二人とも急いで、隣の白い両ドアを開いた。
だが、そこに味方であるはずの帝国軍兵士たちが、何故かAKMを撃ちながら走ってきた。
そして、中に入ろうとする寸前の彼等を射殺せんと、小銃弾を浴びせてきた。
しかし、運良く弾は当たらず、何とか彼等は屋内に逃げ込むことが出来た。
「レジスタンスが変装しているぞっ!」
「クソ、誰が敵なんだっ!」
「BTRーが、二両とも破壊されたぞっ!?」
「帝国軍部隊は、動揺しているな…………よしっ! すぐに、次の行動に移れ」
帝国軍兵士は、AK74を乱射しながら、敵と思われる味方に変装している者を撃つ。
機関銃手も、周辺で怪しい動きをしている者を、MG3で機銃掃射していく。
そんな中、RPGー弾か、コンクリート片に偽装された爆弾か、分からないが装甲車も破壊された。
帝国側が、突然の奇襲攻撃に慌てる中、ジスタンス・リーダーは、状況を冷静に分析していた。
「BTRーの応援が来たのか? RPGー部隊は下がらせて、梱包爆薬で対処しろっ!」
「分かりましたっ!!」
レジスタンス・リーダーは、二人が隠れた、建物の隣にある、ビル屋上から地上を観察する。
双眼鏡を、右手に握る彼は、冷静に背後に控える部下たちへと指示を出す。
そして、敵の動きを封じるために作戦を練った、彼から命令が下ると、レジスタンス達は動いた。
部下の一人が、信号拳銃を撃つと、真っ赤な煙が空へと上がってゆく。
「RPGーの攻撃が止んだぞ?」
「敵は、撤退したのか?」
「いや、まだだ…………気を抜くな」
「そうだ、まだ敵の変装部隊は逃げてないからなっ!」
スコープ付きAKMを持っている、帝国側の選抜射手は、いきなり砲撃が収まって、気が緩む。
RPKー74を両手に構えていた、分隊支援火器手も、銃口を下げてしまった。
しかし、そこに再びレジスタンス達が、帝国兵に化けて、襲撃を仕掛けてきた。
略帽のレジスタンス員は、突然AKMを乱射しまくり、敵を何人も射殺する。
野戦帽のレジスタンス員は、ミニミ分隊支援火器を連射しまくり、敵を混乱させる。
「リーダー、敵の援軍ですっ! 装甲車が走って来ましたっ!」
「分かったっ! あのBTRを撃破しろっ! その隙を突いて、撤退するっ! 全員、準備を整えろっ!」
「はっ! 了解です」
一人の黒人レジスタンス員が走って来ると、新たな敵が出現したと報告する。
そして、リーダーの下した命令に従い、部下たちは機敏に行動を開始した。
再び信号拳銃を持った、レジスタンス員が、弾丸を上空に放ち、今度は緑の煙を噴出させる。
これは、撤退開始の合図であり、それを見た各員は敵を攻撃しつつ、何処かへと消えていく。
「不味いな? 戦闘が激しくなっている」
「これじゃあ、外には出られないわね?」
ナタンとメルヴェ達は、レジスタンス側の攻撃により、迂闊に路上へと出られなくなってしまった。
機銃弾が飛び交う中、レジスタンス員たちは巧みな機動で敵を翻弄しては、次々と襲いかかった。
ジュビレ通りから現れた、BTRー90装甲車に対しては、素早い肉薄攻撃が開始される。
その砲塔へと、帝国兵に変装している、レジスタンス員が、梱包爆薬を投げつけた。
「やったぞっ!」
「離れるんだ」
敵味方が分からないBTRー90は、30ミリ機関砲を撃てないで、走行していた。
そんな中、車体上部にある砲塔が爆破されて、車両による脅威を排除された。
これを行った、レジスタンス部隊は、直ぐに建物の中へと逃げてゆく。
ウシャンカ帽のレジスタンス員は、H&K、G3を乱射しつつ走る。
フリッツ・ヘルメットのレジスタンス員は、ベカス散弾銃を、何度も撃っては逃走する。
「はあ…………戦いが終わりそうだな」
「これで、私達も安全にっ!?」
「帝国兵っ! 撃ち殺すっ!」
「クソ、こうなったら殺るだけだっ!!」
白いドアに付けられた窓から、外を眺めていた、ナタンは頭を下げてから呟く。
メルヴェも、床に腰を下ろして、事態が収まるまで、じっと動かずに待とうとした。
そう呑気に構えていた、二人だったが、そこに変装している、レジスタンス部隊が現れた。
制帽を被るレジスタンス員は、グロック19を連射しまくってきた。
青ベレー帽のレジスタンス員は、AK74を左右に振って、乱れ撃ちしてくる。
「うわわっ! 喰らえっ!」
「不味いわ、反撃しないとっ!」
「うげえっ!?」
「ぐあっ! ぐ…………」
咄嗟の反撃で、ナタンはM4カービンを撃って、制帽を被る、レジスタンス員の胸に風穴を開ける。
メルヴェも同じく、青ベレーを被るレジスタンス員の腹に、何発も銃撃を加えた。
これにより、遭遇戦となったが、無事に敵を撃退する事ができた。
しかし、変装していた、レジスタンス達は、本来ならば味方のはずである。
「まさか、二回も味方に殺られそうになるとわな」
「ここも、安全じゃなさそうだわ? 奥に行きましょう」
そう言って、ナタンとメルヴェ達は、入口から離れて、奥へと立ち去ろうとする。
その背後からは、銃声と爆発音が木霊しつつ、双方が悲鳴と怒号を上げていた。
帝国軍部隊も、レジスタンス側の猛攻を前に苦戦しつつ、徐々に撤退を余儀なくされていた。
レジスタンス・リーダーは、勝利の兆しを感じたが、同時に敵の反撃や増援が来ることを考慮した。
「味方は全員退散したようだな? 我々も撤退だ、時期を見誤れば、殺られてしまう」
レジスタンス・リーダーは部下たちに撤退を促したあと、自らも屋上から素早く去ろうとする。
こうして、彼等も最後まで、味方部隊が戦場を駆け巡るのを見届けた。
「ここまで来れば、どちら側にも出くわさないだろう」
「だと良いけど…………いえ、そうじゃないと、安心できないわよ」
ナタンとメルヴェ達は、建物の奥で密かに潜伏して、一休みしようと考えた。
「はっ! 帝国兵っ! 知らん顔だ、味方じゃないなっ! 撃ち殺せっ!!」
「了解しましたっ!!」
「さっさと、射殺しろっ!?」
「うげっ! レジスタンスが来たわっ!」
「不味いなっ!!」
レジスタンス・リーダーは、ウージー短機関銃を撃ちまくってきた。
その背後から、赤ベレーを被る白人レジスタンス員は、AK47を滅茶苦茶に撃ちまくる。
黄緑色の野戦帽を被る、黒人レジスタンス員も、M16A1を横凪に連射してきた。
それに、慌てて反応した、メルヴェは外に向かって、ひたすら走ってゆく。
ナタンも銃撃を回避せんと、道路を目指して飛び出していった。
「逃がすかっ! 撃ち殺してやるっ!」
「待ちやがれっ!!」
「放置しろっ! 俺達は、逃げねばならんっ!」
「こっちこそ、逃がさないわよっ!」
「殺られるかってんだっ!!」
赤ベレーを被る白人レジスタンス員は、AK47が、弾切れになるまで撃ちまくった。
黄緑色の野戦帽を被る、黒人レジスタンス員も、M16A1を左右に振るいながら連射する。
レジスタンス・リーダーだけは、二人と違って、何処かへと退散していく。
メルヴェは、路上に出ると踵を返して、M4カービンを撃ち返した。
ナタンも、反撃のために彼女と同じく、外から中に向かって、銃を乱れ撃ちしまくる。
「ぐああっ!」
「ぎゃあっ!」
赤ベレーを被る白人レジスタンス員は、AK47を床に落としながら、フラりと前のめりに倒れた。
黄緑色の野戦帽を被る、黒人レジスタンス員も、力なく真後ろに転んだ。
「はあ? 終わったか?」
「見たいね…………」
「動くなっ! お前ら、レジスタンスの変装部隊だろうっ!」
ナタンとメルヴェ達に、いきなり野戦帽の兵士が、AK12を向けてきた。
「中を見ろ、レジスタンスが死んでるぞ」
「私達は、味方よ」
「…………本当か?」
「ソイツらの言っている事は、本当だっ! ここに死体がある」
ナタンとメルヴェ達を、未だに信用しない野戦帽の兵士だったが。
ブルータイガー迷彩服を着ている兵士が、三人の背後から声をかけた。
「どうやら、本当に味方のようだな?」
「そう言ってるでしょ」
「じゃなきゃ、とっくに引き金に指をかけてるぞ」
野戦帽の兵士に対して、メルヴェとナタン達は愚痴を溢した。
「済まなかった…………俺は周辺を調べてくる」
「分かったわ」
「じゃあ、俺達は付近を捜索するからな」
そう言って、野戦帽の兵士は気まずそうな顔をしながら、立ち去ろうとする。
彼の背中を見ながら、メルヴェは早く行けと言う顔を向け、ナタンも肩から力を抜いて立ち尽くす。
「もう、戦闘は勘弁だぜ…………」
「同感よ、もう今日は疲れたわ」
ナタンとメルヴェ達は、緊張が解けて、どっと溜まっていた疲れを全身から感じた。
だが、戦闘を終えた今、二人は帝国兵に混じりながら、無事に目的地へと向かえるのだった。
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