「こっちだ、この向こうに…………」
「気は抜けないわね」
ナタンが、両手にMASー1935を確りと握り、曲がり角から飛び出る。
次いで、メルヴェが右手に、サルマスシズK10を持ち奥の階段に銃口を合わせた。
階段に誰も居ない事を確認した、二人は階下に向かって降りてゆく。
「ビリーとアーニャ達が殺られたっ!」
「仕方ない、バイクは置いて行くっ!」
二人が、階段を降りてから、すぐに連合側の声が聞こえてきた。
だが、油断は出来ないので、近くにあった段ボール箱へと、彼等は身を隠した。
すると、どうやら連合側の兵士たちは、逃走を開始するようだ。
「しかし、お前らは何処に隠れてたんだ? 俺たちは地下に居たが?」
「同じレジスタンスの死体の中さ…………んっ! 誰か居るっ!」
「急げ、早く出すんだっ!?」
「俺が、奴らを牽制するっ! 今のうちに出せっ!」
レジスタンスや連合兵たちは、逃走用に用意していた、プジョーP4で逃げていく。
その際に、ナタンとメルヴェ達の気配に気づいた彼等は、銃を撃ってきた。
短機関銃や自動小銃を、連合側部隊は撃ってくる。
「ちょ…………待てっ!」
「味方よっ!?」
ナタンとメルヴェ達は、身を低くして弾丸を回避しようと試みた。
そんな二人が隠れる段ボール箱に穴が開きまくり、端っこが吹き飛ぶ。
頭上の数センチ先を、9ミリ弾や5、45ミリ弾が何発も飛ぶ中、彼等は焦る。
しかし、連合側は逃げてしまったらしく、もう弾丸は飛んで来なくなった。
「ヤバかったな…………殺されるところだった」
「本当に焦ったわ…………」
「あっちで、銃声がしたぞっ!!」
ゆっくりと、頭を上げて外の道路を、ナタンとメルヴェ達は見た。
だが、そこには路上に積もった雪に轍《わだち》があるだけだった。
しかも、運悪く付近にまだ残っていた、帝国側部隊に見つかってしまった。
「不味い、僕らも逃げないとっ!」
「アレよ、アレに乗るのよっ!」
ナタンが焦って騒ぐ中、メルヴェは冷静にある物を見つけて指を指す。
連合側部隊は、どうやら六人で逃げる積もりだったらしいが。
仲間二人が殺されたので、仕方なくプジョーだけで逃げた。
そのおかげで、バイクが二台だけ残っていた。
帝国軍用バイクに偽装された、ブリティン製バイク、トライアンフTR6トロフィー。
アルメア製の大型バイク、短機関銃用ホルスター付き、ハーレーダビットソン・39年型。
「これ…………映画好きなレオだったら分かるな?」
「は? 良いから行くわよっ!!」
帝国側から離れるために、二人は、バイクに乗って逃走を開始する。
ナタンは、TR6トロフィーに跨がると同時に発進させる。
メルヴェも、前方右側にある茶色いホルスターにFADを入れると、エンジンを噴かす。
「メルヴェッ! 何処に行こう? 行く宛がないよっ!」
「とにかく、今は追跡部隊を振り切るしかないわっ!」
雪積もる道路を並んで走る、バイクに跨がりながら、ナタンとメルヴェ達は話し合う。
それでも、行き先は決まらず目的もなく、ただ帝国側の部隊から二人は逃げようとする。
バイクの速度を上げる二人だったが、後ろ姿は帝国側部隊に見られていた。
「居たぞっ! 撃てっ!」
「了解、狙いはバイクに…………」
「あのバイクだな」
帝国警察の士官らしき兵士が叫びながら、銀色に塗装された、ワルサーP38を撃ちまくる。
それに合わせて、周囲の兵士たちも、H&K、G36Gを連射する。
しかし、それらの弾丸は二人に当たる事なく、四方発砲に飛んでいくだけだった。
ただ、帝国側も馬鹿ではない。
直ぐさま、追ってを二人に差し向けて来た。
「うわ、追って来ているっ! 絶対に逃げないとっ!」
「前だけを見て、後ろなんて撃てないわよっ!」
後ろをチラ見した、ナタンは自分たちを追跡してくるバイク部隊を視認する。
メルヴェは、強い風を受けながらも後ろに躊躇せず、ひたすらバイクを走らせる。
そんな彼等を狙って、MVー750サイドカーが二台も追ってきた。
さらに、その後方からは、TIZーAMー600バイクが、七台も蒙スピードで走ってくる。
「射撃開始っ!」
「奴等を撃ち殺せっ!」
MVー750サイドカーには、側車にPK機関銃が搭載されている。
TIZーAMー600にも、旧式のディグチャレフ機関銃が備え付けられている。
当然ながら、それらによる猛烈な連続射撃が、帝国側部隊により、二人の背中に浴びせられる。
「撃ってきやがったか? なら、あそこで曲がろうっ!!」
「分かったわ、行くわよーーーー!!」
街中をバイクで疾走する、ナタンとメルヴェ達だが、流石に何丁もの機関銃には勝てない。
そう考えた、二人は即座にバイクを十字路の右側へと向かわせて走らせ続ける。
しかし、ここで思わぬ敵が登場する。
装甲車ヴォドニクだ。
「うわっ!? 前から装甲車だっ!」
「気をつけて、撃ってくるわよっ!」
ナタンとメルヴェが叫んだ瞬間、ヴォドニク上部の銃塔からは14、5ミリ機関銃が撃たれる。
対戦車用ライフルよりも、威力のある機銃弾が二人に真っ向から浴びせられた。
だが、いきなり現れた二つの目標を捉えられるはずもなく、機銃掃射は全てはずれた。
さらに、装甲車の左右を、二人が乗った、バイクはすり抜けてゆく。
「何とかなったな?」
「でも、まだ後ろからくるわっ!」
すり抜けに成功した、ナタンは呟いている間に、メルヴェは叫ぶ。
ヴォドニクが、銃塔から銃撃しつつ、二人を追うべく旋回しようとする。
しかし、おかげで追撃部隊のサイドカー&バイク部隊が足留めをくらってしまった。
だが、装甲車の両側をTIZーAMー600が、三台も、すり抜けてしまった。
連中は、執拗《しつよう》に追跡を止めない。
「しつこい連中だぜ、何か使える物はないのか…………」
「無いわよ、後ろに向かって撃つくらいしか出来ないわっ!」
ナタンは、必死で手榴弾や罠などを探すが、バイクにも周囲の道路にもソレらしき物はない。
そして、メルヴェは背後に振り向きもせず、適当にサルマスシズK10を撃つ。
乾いた音を何回も鳴らして、反撃する彼女だが肝心の攻撃は当たらない。
そうこうしている内に、敵の後方から増援が現れた。
「また、新手だっ!!」
「ええっ!? こうなったら…………」
十字路を左に曲がりながら、チラリと横目で追跡部隊をナタンは見た。
すると、TIZーAMー600とは別に、何台かの黒いバイクが追いかけてくる姿を捉えた。
それは、帝国警察・交通機動隊に配備されているロシャ製の電動バイク、IGパルサーだ。
メルヴェは、二種類のバイクに跨がる追跡部隊に対して反撃に移る。
右側の茶色いホルスターから、FADを取り出して、後ろに向かって滅茶苦茶に撃ちまくる。
「ぐわあぁぁっ!!!!」
「どわあーーーー!!」
「うわああああぁぁっ!!」
メルヴェの撃った弾は、何発かが前方を走っていた、バイク部隊に当たる。
搭乗する帝国軍兵士や車体に当たった事で、転倒して、後続の追撃部隊を巻き込んでしまう。
これにより、TIZーAMー600が二台、IGパルサーは一台破壊された。
「この距離なら射程内だっ!」
「反撃を開始するっ!」
「我々警察隊も、撃つぞっ!!」
「射撃開始ぃーー!!」
TIZーAMー600は、車載された、ディグチャレフ軽機関銃を撃ちまくる。
後続部隊のIGパルサー部隊も、各隊員それぞれが、片手で撃てる銃で発砲してした。
これにより、機銃掃射に混じり、マカロフPM拳銃やトゥーラ二連散弾銃が撃たれる。
追跡部隊による激しい射撃は、ナタンとメルヴェ達を窮地に追い込む。
何回も撃たれる拳銃弾と散弾は、機銃弾よりも正確であり、下手すれば命中しかねない。
「うわっ! 頬をかすったぞっ! これじゃ大脱走よりひでぇ~~!!」
「映画じゃないんだから騒いでても、誰も助けてくれないわよっ!」
逃げる、ナタンとメルヴェ達はバイクのスピードを、さらに上げる事で敵と距離を取る。
こうする事で、激しい銃撃から逃れようと必死で、バイクを走らせるのだが。
「居たぞ、連絡にあった通りだっ!」
「射撃開始だ、撃ちまくれっ!」
「RPG、配置完了…………GP配置完了」
「今だ、発射するっ!!」
ナタンとメルヴェ達を止めるべく、帝国側部隊がボクサー装甲車の車体を横にして道を塞いでいた。
しかも、周囲の建物からは不意を突いた、AK74による一斉射撃が開始された。
それに続いて、RPGー7の弾頭やAKに備えられたGP30グレネードも発射された。
雨のように大量発射された、5、45ミリ弾による射撃。
RPG弾とGPグレネード弾なども、道路を破壊して灰煙を上げる。
「ああああっ!! くっ! こうなったら…………」
「ヤバイわね、いったん止まりましょうっ!」
無数発生した灰煙が、道路を完全に包みこんでしまう。
すると、そこに居るはずである、ナタンとメルヴェ達の姿が忽然と消えてしまった。
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